GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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3回目の戦闘。

初めての防衛任務。初めての他部隊メンバーとの連携。

初めてづくしの中で彼は何を得るのか……


留守番 完

ぼんやりと時間が流れる中。

 

 

 

 

突然、エントランスにアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

アナグラ全体の空気が、先ほどまでと比べものにならないほどにぎちぎちに引き締まる。

 

イリヤもそれを肌で感じ取っていた。

 

(……この空気は)

 

 

          “戦闘だ”

 

 

 

全ての神機使い達が一斉に動き出す。

 

「1~3部隊は俺が指揮を執る! 4~6部隊の指揮はそっちで決めてくれ!!」

 

ブレンダンが落ち着いた声で指示を出していく。経験が豊富なんだな、と場違いに冷静な感想がイリヤの頭に浮かぶ。

 

神機保管庫に着くなり、ブレンダンが更に指示を出していく。

 

「突破されたのはB区画だ。侵入してきたアラガミはオウガテイルが複数、ザイゴートが複数。他のアラガミは確認されていない。俺が前衛を務める。ジーナはバックアップを頼む。お前…」

 

「イリヤです」

 

「イリヤは遊撃だ。出来るか?」

 

「やってみます」

 

それぞれが自身の神機を手に取り、体制が整う。

 

「よし、行くぞ!!」

 

 

 

市街地は悲鳴と破壊音で満ち溢れていた。

その様を一言で表すのなら“混沌”。

 

「……治安部隊!」

 

ハンヴィーが、メインルートの真ん中を拘束で駆け抜ける。治安部隊の誘導のおかげで車両の通行ルートがフリーになっているのだ。

 

「……あの人達がこういう事態のとき、市民の避難誘導をしているのよ」

 

窓の外の光景を見ていると、その声が聞こえた。

 

「ジーナ・ディキンソンよ。よろしくね、新人さん」

 

「俺はブレンダン・バーテル。今回はよろしく頼む」

 

イリヤも、2人のことは話だけなら知っている。

かみ砕いてまとめると、2人とも実戦経験豊富なベテラン神機使いで実績もある、といったところか。

 

「……イリヤです」

 

下手にひねたことは言わずに、名前だけを告げる。

イリヤにとって、2人が自分をどんな目出見ているかなど、もはやどうでも良いのだ。相手のことを勝手に見限っている、と言われればそれまでだが、そもそもイリヤも今はそんなことを考えたくも無かった。

 

相手が自分のことを嫌うのは構わない。避けるのも問題ない。ただ、自分に直接害が無ければ文句は無い。

 

 

目を閉じ1つ深呼吸をして、頭の中にこびりつき始めていた無駄な考えを剥がし落とす。

 

同時に。

 

「着いた。行くぞ!!」

 

ブレンダンの指示で3人は車両から飛び出た。

 

 

 

「……結構いるな、おい」

 

車両から降り立った瞬間、目の前に光景にイリヤは唖然とした様子で呟いた。

 

なるほど、明確な個体数を言わずに複数と言っていた理由がよく分かる。ぱっと見ただけでも、20以上いることくらいは分かる。

 

「敵集団を適度に分散させて、一気にカタをつけに行く。行くぞ!」

 

ブレンダンはそう言うやいなや、敵集団に対して左に回り込むように走り出した。

 

「よし、あのオウガテイルからだ! ジーナ、イリヤ! バックアップを! 俺が突っ込む!!」

 

ブレンダンは崩れた建物や、むき出しになった鉄骨を器用に利用しながら、高速で距離を詰めていく。

 

その間に、イリヤとジーナは敵に向かって、牽制を兼ねた銃撃を浴びせる。

 

「ちぃっ…!」

 

いざ狙いをつけようとすると、意外と遮蔽物が多く思うように狙いがつけられない。

 

そんな中、おもむろに隣から銃声が響く。

 

「……最高ね」

 

更に続けて銃声。

 

「……綺麗な花…」

 

(え、何言ってんだこの人…?)

 

ギリギリ撃つことを忘れずに、隣で撃ち続ける女性の、狂気じみた台詞と、やけに熱っぽい声にゾッとする。

 

「でぇやあぁぁ!!!!」

 

その一瞬を、ブレンダンの気迫に満ちた叫びで打ち消される。

 

「……あの花はもう駄目ね。次よ」

 

(俺に向かって言ってんのか……?)

 

どうとでも解釈が出来そうな言い回しをした後、彼女はその場から移動を始めた。

 

「ブレンダンさん、こっちは場所を移動します!」

 

『分かった! お前はジーナと同行してバックアップしろ! 俺もすぐに追いつく!!』

 

 

 

ジーナの方は既に新しい標的を見つけ、いたぶっていた。

 

「……綺麗な花を見せてちょうだい…!」

 

弾が相手に命中する度に、恍惚的な表情と共に熱情的な声でそう呟く。端から見ている分には、少し近寄りがたいタイプの人、と言った印象だ。イリヤも、そんな印象を抱いた人間の例に漏れず、やっぱり少しヤバい感じの人か、と思わずにはいられなかった。

 

(サディズムじゃねぇが……とりあえず恐ぇな)

 

目の前に少し狂った人がいると、帰って自分が冷静になれる。そして、今回はそれが良い方に働いた。

 

(……ジーナさんの援護だな)

 

周りの状況、周囲と自分の実力差を鑑みて、自分がどう動くべきなのかを冷静に判断していく。

 

ブレンダンが猛威を振るっている場所と、ジーナが滅多打ちにしているヶ所、その隙と死角に視線を巡らせる。

 

誰かの死角に、敵が入り込んでいないか。

 

2人が気付いていない場所に敵がいないか。

 

(………いた)

 

ジーナの右斜め後方から2体のアラガミ___オウガテイルとザイゴートが迫っていた。

 

(まずザイゴートから!)

 

すぐさま神機をガンフォームに変形させて、ザイゴートに狙いをつける。

 

照準線に入った瞬間、3発のレーザーを放つ。

長く伸びる光弾は、そのままザイゴートの上半身と卵状の器官をとらえ、大きな孔を穿った。それで絶命させたとは思っていないが、ザイゴートは確かにダウンさせた。

 

その間に、更に迫っていたオウガテイルにも狙いをつけようとしたが、いささか距離が近すぎることに気付く。

 

「チイッ!」

 

ジーナとオウガテイルの間に自身の身体を割り込ませて、オウガテイルと対峙する。神機はブレードフォームに変形させている。

 

威嚇的な咆哮と共に、オウガテイルが飛びかかってきた。

 

「せぇりゃあぁぁっ!!!」

 

神機を振りかぶって、オウガテイルを迎え撃つ。

 

1歩よりもやや深く踏み込み、前足に全体重をかけて神機を一気に振り下ろす。

 

グシャリ、と装甲と肉を一気に叩き割る感触が柄を通して彼の手のひらに、腕に、全身に伝わっていく。

 

振り下ろし、地面に突き刺さった神機には顔面に刃を食い込ませた状態でもがくオウガテイルがいた。

 

「___ふんっ!」

 

力任せに刃を引き抜いて、更にチャージクラッシュの体制に入る。

 

全身の筋肉に、徐々に力入れて限界点に来るまでため続ける。心拍数が上昇し、身体の中から鼓動が聞こえてくる。内側から溢れてくる熱が限界点に達した瞬間___

 

 

 

「てやりゃあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

ズシン、と全てを力任せに断ち切った感触。

 

アラガミの体液と肉片が飛び散り、砂埃が舞う。

 

(……ザイゴート!)

 

オウガテイルを始末した直後、瞬時に先ほど自分がダメージを負わせたはずのザイゴートの存在に注意を向け直す。

 

それは、すぐに見つけることが出来た。

 

ぽっかりと孔が開いた状態で、低くヨロヨロと飛行しているザイゴートは、戦場の中でもよく目立つ。

 

(とどめだ)

 

神機をガンフォームに変形させて狙いをつけようとした瞬間、自分の頭上を一閃の光が駆け抜けた。

 

その光は自分が狙っていたザイゴートに直撃。

 

ザイゴートの身体が爆ぜた。

 

「綺麗な花が咲いたわ……」

 

後方から、底冷えするような冷たい声色なのに場違いにも官能的な側面を感じてしまうような、ジーナの声。ハァ、と熱情を秘めたような溜息がやけに生々しい。

 

イリヤは振り向かない。振り向けない。本能が叫ぶのだ。自分の後ろにいる女はかなりヤバい、と。頬を伝い下に落ちていく汗がやけに冷たい。背中から吹き出るように滲む汗も、決して戦場の空気に感化されたから、絶対にそれだけの理由では無い。

 

(…恐ぇ……)

 

ブルリと背筋が震える。

 

ふと、後ろを振り返ったとき。

 

イリヤの視界に映っていたのは、瓦礫の上で神機を構えたまま恍惚としているジーナと、その背後から今にも喰い殺さんと大口を開けて飛びかかっているオウガテイルの姿であった。

 

「っジーナさん!!!!!」

 

その時。

イリヤが引き金を引くよりも早く、オウガテイルが横に吹き飛ばされた。

 

「きゃぁっ!?」

 

「!?」

 

イリヤもジーナも、一瞬何が起こったのかが理解できなかった。特にイリヤは。

 

そして、その疑問の答えがすぐに分かった。

 

「ジーナ! アンタ死にたいわけ!?」

 

跳躍とステップを器用に使いこなして、見覚えのある女性が彼女の近くまで駆け寄ってきた。移動中の銃撃も勿論忘れていない。

 

(……ボケッとすんな!)

 

事の理解に時間を要していたイリヤが、ようやく現実に引き戻される。

 

そして、迷うこと無くジーナに襲いかかろうとしていたオウガテイルに向かって飛びかかった。

 

「新入り! ソイツは任せるわよ!!」

 

(言われなくても……!!)

 

鉄骨を蹴ってオウガテイルの真上に跳び上がり、重力に任せてそのまま落下。イリヤと神機の両方の重量を背負ったブレードの切っ先がアラガミの腹に向かって襲いかかる。

 

 

ズンっ、と重たい感触が全身に響く。

 

 

脚に痺れを感じるが、それを無視してオウガテイルを神機ごと持ち上げる。

 

 

「……食べちまえ!!」

 

 

黒い肉塊のようなグロテスクな顎が神機から生えてきたのと同時に、オウガテイルは神機に呑み込まれた。

 

「!」

 

その瞬間、彼は自身の身体の中の異変を感じ取った。

 

(身体が軽い……神機も、いつもより軽い……)

 

ミシミシと全身の筋肉がきしみを上げ、早く暴れたいと言わんばかりに、体中で叫び声を上げる。

 

(これがバースト状態……なのか?)

 

今まで感じたことのない方向性の身体の変化に、若干の不安を覚える。内からあふれ出してくるような、力。

 

五感が冴え渡り、故に、目敏く敏感にアラガミの接近を察知する。

 

「っ!」

 

1つの跳躍でさえ、いつもよりもずっと遠くへ跳べる。

 

(見つけた!)

 

イリヤは少し離れたところから自身に向かってくる3体のアラガミを見つけ、更に速度を上げた。一気に距離が詰まったところで、速度を維持したまま更に跳躍。移動速度と、強化された身体能力が相まって一瞬でオウガテイルの目の前へ。着地するやいなや、スピードを殺すことをせずに、勢いに任せたまま滑り込みオウガテイル達の脚を薙ぎ払う。

 

(軽い!)

 

手応えが薄い、そう感じながら擦り抜け振り返った瞬間彼は、別な思考の部分で唖然とした。

 

手応えが薄かったのでは無い。

 

彼の力が過剰すぎて、オウガテイルの耐久力よりも遙かに上回っていただけだったのだ。

 

だが、戦闘のスイッチが入ったイリヤは、動揺如きでは動きを鈍らせず、更に攻撃するという選択肢を選ぶ。

 

ステップと斬撃を見事に織り交ぜた一撃離脱スタイルのもと、一瞬にして2体のアラガミが屍と化した。

 

 

(最後の1た……い…!?)

 

 

最後のアラガミを始末するべく構え直した瞬間、突然、全身の力が抜けた。同時に、ガクンと視界が揺れる。咄嗟に神機を地面に突き立てて辛うじて片膝立ちに留まるが、身体はピクリとも動こうとしない。

 

まるで、身体の芯が抜け落ちたかのように身体が重たく感じる。

 

(拙い、死ぬ____)

 

目の前には、ザイゴートの口が迫っていた。

 

 

 

音が聞こえなくなり、全てがスローモーションに感じる。

 

 

 

一瞬、ザイゴートの身体が痙攣したかのように見えた。

 

 

次に、ザイゴートの左側で3回小爆発が連続して起きる。

 

時間感覚が元に戻ってくる。

 

鼻の先まで迫っていたザイゴートが、吹き飛んだ。

 

「___え」

 

「新入り、ボケッとしてんじゃ無いよ!!」

「イリヤ! 大丈夫か!?」

 

2つの声が同時に耳に入ってきた。

 

「お前はここジッとしてろ!」

 

目の前まで駆け寄ってきたブレンダンが肩を揺すりながらそう言た後、ザイゴートへと躍りかかった。

 

「新入り! アンタも死にたいわけ!? 何やってんのよ!」

 

更に駆けつけてきた、見覚えのある女性。

 

「アタシは羽黒ミコト。第6部隊の衛生兵で、さっきまでもう片方のチームの指揮をしてた」

 

早口に自己紹介をしながら、イリヤの頭部や要所を簡単に診ていくミコト。

 

「もう片方のって……今は?」

 

「1人が油断して半分ダルマにされたから、もう1人のヤツと護衛に付けて後退させた……見た感じ大丈夫ね。多分、バーストが解放された後のリバウンドだと思う」

 

「リバウンド?」

 

「パンクよパンク。無理矢理身体能力上げてた状態が解除されて、さっきまで身体にかけてた負荷が一気に来てる状態。新人に多い現象よ」

 

「……なるほど」

 

彼女の口ぶりから、その内身体が慣れてくるのだろう、と予測を付けてそれ以上は訊かなかった。

 

「もうそろそろ全て終わるわ……」

 

彼女がそう言った瞬間、通信機が鳴った。

 

『最後のアラガミを排除……綺麗に咲いたわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……終わった、のか…?」

 

らしくないほどに気の抜けた声。

 

「……みたいね」

 

彼女もうなずき、そう返す。

 

しばらくの沈黙の後、イリヤが口を開いた。

 

「なぁ」

 

「……何?」

 

「俺は、アンタ方に何かしたか?」

 

「?」

 

「いや、全員がそうとは言わねぇが、ここの神機使いの大半が俺のこと嫌ってるだろ。俺が何かしたんなら、謝りてぇな、と」

 

「……少なくともアタシは別にどうでも良いわよ。……でも、ほとんどのヤツがアンタを嫌ってるのも事実ね」

 

そう言って、ミコトは立ち上がった。

 

「まぁ、アタシはそこの話には興味無いし。1つアドバイスするなら、別にアンタが何かしたわけじゃないって事ね」

 

なるほど、と彼は何故かすんなり納得出来た。

つまりはた迷惑なやっかみの的になっちまってるのか、そこまで理解した瞬間に、何だか全てがどうでも良くなってしまった。

 

 

 

 




とりあえず、更に新しいキャラクターの出現。
どんな子なんでしょうね? ニヨニヨ

さて、次はどんな話にしましょうか

楽しみにしていて下さい!!

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