GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
楠リッカは、アナグラ随一の腕前を誇る神機整備士である。極東支部の神機使い達の命運は彼女が握っていると言っても過言では無く、従って全ての神機使いから敬意と触れぬ神的な扱いを受けている。つまり、様々な意味で女神様なのだ。
そんなリッカも、年は16歳。
仕事は大好きだが、1人の女の子としても複雑な年頃である。
“女の子としてオイルまみれってどうなんだろう……”
“女の子としてつなぎとタンクトップ姿っていかがなものか”
積もる不安は底を知らず。
だが、仕事をおろそかにする訳にもいかないので、ほんの少し、本当にほんっっっの少しだけ、女の子の矜恃を犠牲にして今日も神機整備に汗を流す。
「じゃあ、頑張りますか!」
彼女が整備士として心がけていることが1つある。
曰く“神機の声を聞いてあげること”。
無論、本人とて本当にその声が聞こえるとは思っていないが、そうするかしないかで結構神機整備の調子が変わるのだ。そして、その心がけは彼女にとって唯一の今亡き父からの直伝でもある。
彼女の父も、極東支部の神機整備士であった。腕前はフェンリル本部から引き抜きを狙われるほどのもので、整備士としてだけではなく技術者としても超一流だった。
その父が、毎度口にしていたことが、
「神機の声を聞かねぇで整備してると、向こうが不機嫌になって整備が滞っちまう」
「整備士の責任として、自分が整備した神機が実戦でどう使われているのかを見届けなけりゃあならん」
の2つであった。
そして、彼はついに戦場でアラガミに殺された。
それ以来、整備士を始めとした非戦闘員は許可が出ていない限り戦場に出てはならない、と厳しく義務づけられた。
ちなみに、彼が死んでからしばらくの間、神機の稼働率や調子が低下していたと言われている。
「みんな、今日もよろしくね」
保管庫の中で、整然と並ぶ神機達にむかってそう言うと彼女はいつも通りの順番で点検を始めた。
神機は、使用者個人が勝手につけたパーソナルネームをもっている機体がほとんどだ。
エクスマキナだったりコクシムソーだったりノコギリだったり、その人その人の個性趣向に溢れた個性的な名前ばかりだ。
そして、リッカはその全ての名前を覚えている。
その中で、彼女は1つ気がかりな名前の神機がいた。
“ミナシゴ”
(……不憫な名前だなぁ)
リッカは、噂程度にだがその神機の素性を知っている。かつて極東支部にいた幻の部隊、その隊長が死ぬまで愛用していた神機。主の血の味を知ってしまった、悲しき神機。
呪われた神機だからこそ他の適合者も現れず、ずっと独りぼっちでホコリを被り続けていた。前の持ち主の素性も分からず、今でさえ誰にも取られない、見捨てられた神機。故に“ミナシゴ”。
(今はちゃんとご主人がいるんだから、素敵な名前をもらえると良いね)
そう思いながら、優しい目でミナシゴを見つめる。
雄々しくそびえ立つ、重厚な刀身。波紋が浮かんでいない、艶めかしい輝きの刃。浅く沿った刀身は、切っ先の諸刃を持って美しく完結されている。
唐突に、リッカはその姿の中に、背中を向けてうずくまる少女の姿をイメージした。
「え?」
余りにも突然で、そしてリアルすぎるそれに戸惑いを覚える。彼女の目には、神機以外何も映っていない。少女も、やはりいない。
それでも、ふと浮かんだイメージは余りにも明確だった。
淡い黄色を帯びた長い白髪の毛。ほっそりと柔らかみのある、女性的な肩のライン。病的なイメージを抱かせる白いワンピース。
(何だったんだろう……)
ほんの一瞬浮かんだイメージは、忘れることは出来なかったが、もう見えることもなかった。
(この神機は………イリヤ、君のだったよね)
その神機の使用者の顔を思い出す。
思い出して、思い出して、思い出していく内にだんだんと負けた気分になってしまった。自分の中で、何が彼に負けている気分にさせているのか。
(向こうの方がよっぽど美人だ)
神機の使用者の顔を思い出して、ぐぬぬと悔しいそうに唸る。彼女も、イリヤが男性であることは十分理解しているし、そもそも男の子に向かって美人という評価がどれだけ微量なものなのかも分かってはいる。
それでも、負けた気分になるのだ。
(いや、胸の大きさなら……)
相手は男だ。
(でも、あのヒトになら絶対勝ってる……!!)
どこかのスワロウが背中を狙っていそうだ。
結局、誰にも勝つことを許されず自滅してしまった。
(もう少し女の子のプライドを持たなきゃいけないのかな)
ズーンと言う効果音が似合いそうな姿勢で、そんなことを考える。
(あぁ、でも神機のお世話もしたい! でも、女の子らしいこともしたい、と言うかしなきゃ女じゃなくなる)
彼女も、必要最低限の女の子の嗜みは押さえている。
むだ毛の処理、肌の手入れ、髪の手入れ。少なくとも、女じゃないとは言わせないレベルだ。
でも、性別的に女の子のとして認識されても、女性として見られるかどうかで言えばかなり危うい。
だって、油汚れが目立つのだ。
お風呂を欠かしたことは一度もない。しかし、最低限のケアをするだけであって、高みを目指そうとは一切考えていなかったのだ。それよりも、神機の整備の方が大好きだったから。
そして、ふと正気になって周りを見ると。
(イリヤ君にまで負けてるって、どうなんだろう)
そう、彼の髪の毛はかなり綺麗なのだ。それはもう、リッカだけでなく大半の女性が羨むほどに。ただし、羨む女性のほとんどがイリヤが男性であることに気付いていないにだが。しかし、そうなってしまうくらいにイリヤは女の子以上に女の子しているのだ。本人は無自覚だが。
(もう少し、肌の手入れを念入りにするか)
敗北感を拭いきれないまま、彼女は自分アップを固く誓うのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イリヤは、待機要員指定を受けてアナグラに残っていた。
待機要員指定、と言うのは他の主力部隊が出払っているときにアナグラの守備を任される隊員のことで、各部隊から1名ずつ出される。
そうとは言っても、彼は大半の人間から避けられるか嫌われている。
ついこの間仲良くなれたコウタは、第1部隊要員として既に出撃している。
他に残っているのは、第2部隊からブレンダン・バーテル。第3部隊から、ジーナ・ディキンソン。第4、第5、第6部隊から1人ずつ。
待機要員は、その身に課せられた任務から普段のように自分で任務を受注することを許されていない。そして、アナグラ周囲のアラガミは、現在確認されておらず、結論として待機要員は暇な時間を送ることになる。
イリヤ本人は、暇な時間を送るのがいかに無意義なことなのかを理解しているから、流れに身を任せるつもりもなかった。
いつ出撃が出ても良いように、ポーチや簡易バックパックの中身を点検する。
回復錠やホールドトラップ、スタングレネード、信号弾や各種火薬類や簡易工具類、携帯食料、飲料、ビーコン、携帯通信機。
「まぁ、無くなるわけねぇよな」
準備して、したまま世話になっていないのだ。
無くなるわけが無い。
「新しい弾作りに行くか……」
彼は自室を出て、射撃訓練場へと向かった。
射場には既に2名の先客がいた。
1人はイリヤと同じくスナイパータイプの使用者で、もう1人がアサルトタイプの使用者。
どちらも女性。
外見的な違い。
1人は、銀髪外人で背が高く乳が無い。胸ははだけている。もう片方は、ネコをイメージしたデザインのパーカーを着ていて、乳がある。
心の中の評価を態度にはおくびにも出さない。
「?」
「……」
共通事項。どちらも、少なくとも自分のことを快く迎えるつもりは無いらしい。とは言え、拒まれなかっただけまだマシとも言える。
彼は神機を簡易の固定台に載せて、別室にこもってバレットの制作に入った。
彼が神機使いになってから、新しく増えた趣味がバレットエディットである。
実用性のかけらも無いふざけた弾を作る日もあれば、実用性のみを追求した弾を作る日もあり、制作した弾の種類は今のところ23作品。その内の18作品はふざけた使用だ。
(さて、今回はどうやって作ろうかね)
今日の彼は、比較的まともな弾を作るつもりでいた。
構想としては、対象を短時間物理的にその場に拘束できる弾。
(レーザーをメインにして……次は……)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数時間かけて、彼はやっと形にすることが出来た。
出来上がった弾は、彼の予想であれば高密度のオラクル凝縮体を釘状に形成して撃ち出され、目標に命中したあとしばらく形態を維持して、その場に固定させる事が出来る。
オラクルの消費量はやや多めだが、そこは実戦ならどうにでも出来る。第2世代型の強みだ。
欲張った予想を言えば10秒ほど消滅せずに対象を固定させるはずだが、恐らく保って5秒と言ったところだ。アラガミの肉を貫通する時点でかなりのエネルギーを消費すると予想した計算の結果だ。
(まぁ、とりあえず撃ってみるか)
彼は立ち上がって、神機へと足を運んだ。
まだ射場には2人とも残っていた。
銃声がけたたましい。
少し2人の射撃の様子を観察していると、2人ともかなりの腕前であることが分かった。
どちらも移動標的を狙っているのだが、どちらも見る限りでは1発も外していない。
(すげぇな)
そんなことを思いながら射座につく。
神機をガンフォームに変形させて、射撃の姿勢を取る。
的は、静止。
____撃つ
「うおぉぉおおおお!?」
砲撃音と言って過言で無い発射音と、予想を遙かに上回っていた反動に、イリヤは吹き飛ばされた。
ゴロゴロと後ろへ転がり続け、壁に叩きつけられてようやく止まった。
射場は静になっていた。
「いってぇぇ」
ぶつけた後頭部をさすりながら、自分が撃ったはずの的を探す。
何も、無かった。
「んん?」
そして、明らかに不自然な状態になっている所を見つけた。そこは、削り取られたかのように床がへこんでおり、その周囲では、パリパリと稲妻が走っている。
(これは……やべぇもん作ったか)
本能的に悟る。これは恐らく人の手ではコントロールできねぇほどに危なっかしい代物だ、と。
消費オラクルも、計算よりも大幅に取られていた。
「は、はは……ははは」
流石のイリヤも顔を引きつらせていた。乾いた笑い声と共に。
この後、ツバキ教官に滅茶苦茶怒られたのは別の話である。
どうしよう。
ネコ耳で胸がある子はナナじゃ無いです。
後もう1人の胸が無いひt……()
まぁ、上手い具合にやっていきます