GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
イリヤにとって、新しい人生の本当の1歩目を踏み出す日が。
旧市街地エリア。通称“贖罪の街”と言う、やや砂漠化が目立つ地域だ。アラガミが出現する前までは、それなりに繁栄していた街らしく、確かにその面影は荒廃した今で尚所々に見受けられる。
建物の隙間を吹き抜ける風が、不気味なうなり声を上げていた。
(酷ぇ有様だな。どんな感じの街だったのかね……)
風化した建物の群れを眺めながら、イリヤはそう思った。
風に吹かれて飛んでくる砂が目に痛い。
彼の手には今、神機“ミナシゴ”が握られている。
いつもの長い髪は、単純にポニーテルにまとめられている。その気になればいくらでもアレンジできるが、実用性と手間を考慮した末だ。
イリヤにとってこの日は、初陣であった。
「おぅ、お前さんが例の新入りか」
突然、背後から聞き慣れない男性の声がした。
振り向くと、そこにはフェンリル士官服を身にまとい、タバコをたしなんでいる黒髪の男性がいた。
「俺は雨宮リンドウ。形式上、お前さんの直属の上司になるが……まぁ、堅苦しいのは無しにしようや」
(この人が雨宮リンドウ、か。戦慣れ…とは違うか。でもやたらと肝が据わった目だな)
イリヤはリンドウの目つきを見て、そんな印象を受けた。
飄飄とした雰囲気に少し気楽そうな口調だが、眼の光は鋭い。そこに、雨宮リンドウについてまわる伝説級の噂話の影響が無いとは言わないが、イリヤの戦士の部分が確かにそう感じたのだ。
この男は確かに強い、と。
(コイツ、随分と目が据わってやがるな……どんな経験してきたらこんな目つきになるんだ)
リンドウも、長年の経験がイリヤに対してそんな気配を感じていた。
少なくとも、リンドウの目から見て今のイリヤには、普段の新人のような、緊張しすぎて失禁寸前、のような怯えは見受けられない。ただ、今まで相手をしたことが無い獲物に緊張している、そんな感じだ。
(緊張をしてないわけじゃねぇみたいだが……まぁ、様子見だな)
「おい新入り」
「はい?」
「俺がお前に出す命令は3つ。
絶対に死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そして隠れろ。運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ。……これじゃあ4つか。まぁ、細かいことは気にするな。とにかく、死なない努力をしろ。そうすればその内勝てる」
「……了解しました」
「よし、んじゃあそろそろ行くか」
(なるほど、大船に乗ったつもりってのはこういうことか)
イリヤは無意識のうちに、雨宮リンドウという人間が醸し出す“この人といればいける”と思わせる雰囲気に安心感を覚えていたことに気付いた。
「にしても、お前の神機。変わった形してんなぁ」
「クセは強いですけど、慣れれば良いヤツです」
2人は、戦場へと足を踏み入れた。
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いざ降りたってイリヤが最初に感じたのは、肌がピリピリと痛むような、張り詰めた空気だった。
今自分がいるフィールドにいるのは、人間と敵では無く獲物と獲物だ。周囲を漂う空気の中に、明確な敵意を見出すことが出来ないイリヤは、そう結論づけた。
ここは、戦場では無く狩り場である。そして、自分は相手を狩り殺す力も持ったエサだ。
(……これが、壁の外の空気…これが神機使いの戦場……)
今まで経験したことが無い、異質の空気にイリヤは表情を強ばらせた。
彼の直感が叫ぶのだ。
ここにいるのは人間よりも理不尽で、人間よりも強力な輩。油断した瞬間、殺される。
神機を握る手の中に、ジットリと汗が滲む。
(やっと新人らしい顔……でもねぇな。場の空気を理解してやがる。どんだけ勘が鋭いんだ)
イリヤの雰囲気を見て、リンドウはそう思っていた。
そんなリンドウの心中を察するほどの余裕も無く、イリヤはただ極限近くまで集中力を研ぎ澄まし、ゆっくりと足音を立てずに歩みを進め続けていた。
(どこだ……)
その時だった。
かすれた口笛のようなすきま風の音の中に、明らかに違う音が混じってきた。
硬質な、それも岩石質の物体を砕いているような音。
「正解だ、新入り。この近くにアラガミがいる」
小さく抑えられたリンドウの声が、イリヤの耳に入る。
「……この教会の中だろうな。行くぞ」
リンドウが先行して、2人は小走りに進み出した。
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「……いたな」
教会の入り口の壁に身を潜めていると、リンドウがそう言った。
確かに、イリヤも先ほど自分が聞いていた音が更に大きく鮮明になっていることに気付いて、やはりこの中にいたか、と改めて思っているところだ。
「もう少し進むぞ」
リンドウがそう言って、小走りで更に先の壁まで駆け寄っていった。イリヤもそれに続く。
リンドウが、壁から少し顔を覗かせて、聖堂の中を確認する。
「……オウガテイルか」
視線の先には、崩れた石壁の破片を捕食している最中のオウガテイルがいた。幸い、こちら側の気配に気付いた様子も無く捕食を続けている。
リンドウはその様子を確認して、イリヤに向き直った。
「新入り。これが、お前の初の討伐になる。すぐそこにオウガテイルがいる。そいつを狩ってこい。なに、拙いと思ったら逃げれば良い。俺も付いてる。思いっきりやっちまえ!」
そう言って、イリヤの肩を叩く。
「分かりました」
一呼吸置いて発したその声は、やはり普通の新人のそれとは別なもの含んでいる。
イリヤは、素早く礼拝堂に躍り出た。
まだ、気付かれていない。
(よし、いける…!)
神機をガンフォームに変形させ、素早く脚の付け根に狙いを定める。
_____1発の銃声。
光弾は尾を引いて、確実にオウガテイルの右脚の付け根に直撃した。
オウガテイルの、耳障りな悲鳴。
ダミーには無かったそのリアクションにも驚きを覚えたが、イリヤはそれどころでは無かった。
「げっ!?」
ダミーなら確実に脚を1本千切れさせていたはずの一撃は。
リアルのアラガミには、ただでかい傷を負わせるだけにすんでいた。
オウガテイルが振り向き、イリヤと対面した。
その瞬間、イリヤは見てしまった。
“アラガミ”の眼を。
(コイツら、敵なんてもんじゃねぇぞ……)
彼の身体が、本能的に竦み上がる。
(天敵だ……)
言いしれぬ絶望感が、彼の身体を更に重たくする。
(やべぇ、さっさとしねぇと俺が喰われる!!!)
迫り来るオウガテイルに、イリヤの頭だけが警鐘を鳴らし、身体はいっこうに動こうとしない。
恐怖に身体が震え、身体の芯から力が抜けていくような錯覚を覚える。
しかし。
「……クソッタレがぁぁあ!!!」
自分を狙って迫ってくるオウガテイルに向かって、撃てる限りの弾を撃ちまくる。
光弾はオウガテイルの顎のや眼を確実に削り取っていくが、オウガテイルは脚を緩めない。
鬼よりも更に恐ろしく醜くなった形相の天敵が、迫る。
そして、15mほど離れた場所からオウガテイルが飛びかかってきた。
(嘘だろ……?)
彼は、もう死んだ、と思いながらそれでも反射的にシールドを構えた。
来る、そう思った瞬間だった。
「上出来だ新入り」
その声と同時に、重量のある物体が何かに叩きつけられるような音が響き、そして地面を揺らした。
少し離れた場所から、アラガミの呻き声が聞こえる。
(……え?)
「お前さん、ダミーとやってるときと同じ感覚で突っ込んでただろ。それじゃあ駄目だ。本物のアラガミは、ダミーよりも硬いし獰猛なんだ。今度からは、それに気を付けろよ……っそらぁ!!!」
また、アラガミの悲鳴が聞こえる。
「ほら、いつまでも亀みたいに盾構えてないで攻撃しろ、攻撃」
その声が聞こえたとき、イリヤは初めて自分がどう言う立場なのかを認識した。
(……そうだよな、俺は。そうだ…!)
「とどめだ、“ゴッドイーター”」
その瞬間、身体が軽くなった。
震えは止まり、天敵に恐怖する感情も静まりかえった。
神機をブレードフォームに変形させる。
そのまま、重力を感じさせない軽やかな足取りで駆け出し、跳び上がった。
「どぉりゃぁぁあっ!!!!!」
_______斬
オウガテイルの首が千切れ飛んだ。
切断面から噴き出した体液が、イリヤを汚す。
「……でやっ!!!」
________突
切断面から突き刺したブレードが、半分以上肉に埋まる。
「……食い散らかせ…!!」
_________喰
そしてアラガミのボディが、内側から削り取られた。
飛び散ったアラガミの肉片が、黒い霧となって流れていく。
静寂が訪れた。
「……勝った…のか…」
ようやく理解が現実に追いついたイリヤは、そう言うやいなやその場にへたり込んだ。
そしてしばらくすると、ピクピクと身体を震わせ出して、唐突に笑い出した。
笑い声がだんだんと大きく、開けっ広げたものに変わっていく。
「やったぁぁ! 勝った! 勝ったぞ俺は!! 勝ったんだ!!!」
生き残れた安心感と、天敵に打ち勝った達成感、そして内からこみ上げてくる嬉しさがごちゃ混ぜになり、笑い声となってあふれ出す。
(やれやれ、肝を冷させやがって……まぁ、生き残ったから良しとするか)
少し壊れたように笑い続けるイリヤを遠目に見ながら、リンドウは優しげに口元を緩めた。
「おい新入り! いつまでも笑ってないで、さっさと帰るぞ!」
「ふひひっ、は、はいぃっ…分かりっ…くくっ、くははははは!!」
「……はぁ」
しばらく、イリヤの笑い声がやむことは無かった。
やっと、ゴッドイーターらいし話が書けました\(^O^)/
イリヤ君が少し情け無いというか動揺していたのは許してあげて下さい。
彼は、ここら成長していくのですから!
続き楽しみにしていて下さい!!
頑張ります!