GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
静かな部屋の中。
唐突に開け放たれたドア。
一刻も早くと、急ぐ数多の足音。
数日前____
相葉は不思議に思うのと同時に、ほんの少し焦っていた。何故か? いくら留置場のデータを漁っても、ある人物が見つからないからだ。
探しているのは、イリヤと言う男。
準テロリストとして、特別留置場に入れられている“はず”の人物なのだが、例の留置場のデータはおろか、どこのデータにもその存在が示されていない。
何でそんな、それこそ訳の分からない男を見つけようとしているのか?
この間の暴動事案の時に救出した、13人の子供達が、ここ最近になって口を揃えて言うのだ。
「イリヤ兄ちゃんに会いたい」
フェンリルの孤児保護施設から、『イリヤと言う男性を探してくれ』と依頼があったときは、全員が嫌そうな顔をした。
何故、そんな人間をこっちが探さなければならないのか。そっちで勝手に探せば良いじゃ無いか。
そんな思いと、誰も口にはしないが、若干のトラウマを植え付けた人間であるイリヤと、関わりたくない、と言ういささか情け無い内心が理由だ。
それでも、隊の中で1番子供達とイリヤのことを知っている相葉は知らん顔が出来なかった。
そして、手当も何も付いてこない依頼を引き受けて、今に至る。
「……何でいない?」
獄囚リストを見直して、改めて独り言ちる。
(すでに刑が執行されてるのか……? いや、それならそれでその旨の記載が追加されているはずで、個人の情報が消される訳が無い)
あらゆる留置場のデータファイルを自分の権限が許す限り漁り、イリヤを探す。
そして、探し始めてから2日が経過したときだった。
相葉はふと考えた。
(俺の権限では見れないようなデータファイルに移されたのか……?)
彼の考えは至って単純。
自分の権限が許す限り、最大限の情報を閲覧しているにもかかわらず見つからないと言うことは、更に上位の、しかも秘匿する必要がある情報として取り扱われているのでは?
彼の予想は、あながち間違いでは無かったが、その時点での彼にはそれを立証するだけの術は無かった。
(……自分の力では見つけられませんでした、か)
ここまで来たら、諦めて依頼主側に頭を下げた方が楽ではある。
そして次の日、依頼主と子供達にその旨を伝えようと施設に赴いた。
そこで、彼は見てしまった。
子供達の寂しそうな雰囲気と、自分に縋るような期待の眼差しを。
「お兄ちゃん見つかったの!?」
小さい少女の、明るい声質で発せられた寂しさを滲ませた言葉に、彼は何も言えなくなった。
自分に突き刺さる期待の眼差しを折るという選択肢を、彼は選べなかった。
だから。
「……まだなんだ。もう少し待ってくれ。必ず見つける」
気付けばそう口にしていた。
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さて、そこからは案外アッサリとイリヤの足取りを掴むことに成功した。現実とは、それほどドラマチックな展開を許してくれないもので。
単純すぎる話、彼が最初に放り込まれていた留置場の責任者に直接話を聞きに行ったのだ。
そして、事の経緯を全て理解したとき、相葉は自分の愚かさに自己嫌悪を覚え、心の中でじたばたした。
(……司法取引は予想外だったが、もう少し早く直接話を聞いていたら……)
そこからの話は早かった。
フェンリル職員の登録リストを検索してみると、イリヤ・アクロワの名前は神機使いとして見つけることが出来た。
「マジか……」
見つけた後は、自分のここら数日先の日程を確認して、連絡を入れて、会うだけだ。
そう言った経緯の下、イリヤは治安維持部門から呼び出されることになる。
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「……まだか」
イリヤは、1人のためにはいささか広すぎるのと豪華すぎるのを兼ね備えた面会室で、結構な時間待っていた。
少なくとも、20分以上は待っている。
それでも、自然と苛々することは無かった。
(アイツ等が生きてて良かった。本当に良かった……)
その思いが強すぎて、待ち続けさせられていることに対する苛立ちがすっぽりと抜けていたのだ。
(かなり不安な思いさせちまっただろうなぁ……俺も親失格だな)
そう思い、苦笑が漏れる。
(あぁ、早くアイツ等に会いてぇ……)
いつもよりも強く、早い鼓動の音を自分の中に聞きながら、天井を見上げる。
口元には、色んな感情を混ぜ込んで1つにまとめた笑みが浮かんでいる。
(最初にアイツ等に何て言おうか)
_____その時。
勢いよくドアが開け放たれた。
そして_______
「「「イリヤ兄ちゃん!!!!」」」
1日として忘れなかった、愛する家族の声。
ただひたすらに、抱きしめる。
泣きながら、笑いながら、今まで出来なかった分精一杯に。