GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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治安維持部門に呼び出されたイリヤ。

真っ先に彼に見舞われたのは、準暴力事件。

しかし、本当に彼を待っていたのは、彼にとって最も嬉しい話だった。


再び 中

治安維持部門のエントランスロビーに足を踏み入れて、真っ先ににイリヤが感じたのは、多くの人間の動きが同じ感じに見える、と言うことだった。

 

イリヤの抱いた印象はあながち間違いでは無い。

 

まず、彼が見かけたことのある全ての神機使いと今彼の周りにいる隊員達を比べると、彼の周りにいる方の隊員達の方が姿勢が良いのだ。

少なくとも、常時猫背の隊員は1人も見受けられず、何よりも上官と擦れ違うときに見せる敬礼の形が格好良く見えるのだ。それも、彼の見える範囲では全員が。

 

「……カラーの違いって奴か」

 

対アラガミ部門の雰囲気と治安維持部門の雰囲気の違いをその一言にまとめきる。

 

彼が見たところ、全員がトンファー型の警棒と拳銃を装備している。即応性を求めた結果なのかどうかは、イリヤの知るところでは無い。

 

実際その通りで、神機使い達はこの世の誰よりも死に対して肉薄するような仕事内容だからせめて平時くらいは堅苦しいのは無しにしよう、と言う暗黙の心得があった。そしてそれは、正規の兵士としての教育を受けていない彼等だからこそすぐに馴染んだとも言える。

 

それに対して、治安維持部門は、この世で誰よりも民間人との距離が近いが故に向こう側が付け入れるような隙を見せてはならない、と言う理念の下で正規の兵士としての教育を受けてきた。だからこそ、上下関係の明確な区別化がなされ、そして隊員達もそれに何の疑問も持たずに従えるのだ。

 

そんな厳しい教育をやり遂げてきた彼等だからこそ、今そこにいるイリヤという人間の態度や服装に対して違和感しか感じられない。

 

「おい、アンタ。ここは治安維持部門の施設内だ。よそ者が何ウロチョロしてんだ」

 

イリヤという“異物”の存在に堪えきれず、1人の隊員がイリヤに近寄り肩を掴んだ。

 

「ん? 俺はおたくらに呼ばれたから来てるんだが」

 

そう言いながら、右腕の腕輪を見せる。

だが、男からすればそれも気に入らなかったらしい。

 

「あぁ、何だその態度は? お前、見たところソッチでも新入りだろ。先輩に対する態度じゃねぇな?」

 

イリヤからすれば「何だコイツ」、である。

そして、その感情と態度を隠すこともしない。

 

相手もそれに気付いたらしい。

 

「なぁ、お前舐めてるだろ? 仕事の内容は違うがな、フェンリルに身を置く者としては俺の方が断然長いんだ。社会の常識って奴を覚えとかないと、潰されるぞ?」

 

そう言って、男はイリヤと向き合った。

 

周囲も、自分と男が醸し出す、怪しい雰囲気に気付いたらしい。距離は置かれているが、周りをそこはかとなく取り囲まれて、半ば見世物状態である。

 

その様子を確かめた後、目の前にいる胸ぐらを掴んで今にも殴ろうとしてきている男に向かって、イリヤは溜息を吐いた。

 

そして___

 

「んじゃあ、アンタは真っ先に潰されるな」

 

男は、その声を自分の背後から聞いた。

 

その直後____

 

____ゴキッ

 

「あっだあぁぁぁぁあぁあああ!!!!」

 

イリヤの足下で男がのたうち回る。

 

「……うるせぇな。アンタが俺達、と言うか俺が嫌いだって事は分かったが。いきなりそんな態度で迫って、あまつさえ相手に攻撃されると勘違いされるような真似をして。肩外されても文句は言えねぇなぁ? 俺のは正当防衛だからな? 逆恨みするなよ?」

 

そう言って、痛みの余り暴れ回っている男を押さえ付けて、やや強引に外した肩を整復する。

 

「まだしばらく痛むと思うが大丈夫だ。まぁ、しばらくの間、そうだな…1週間程度安静にしてれば問題ない。その間は、あんまり激しく動かすな」

 

半泣き状態の男に向かって、むしろ冷静過ぎる口調でそう伝える。

 

そして、イリヤは気付いた。否、思い出した。

 

今自分が立っている場所が、治安維持部門のテリトリーであることを。

 

周囲を見渡す限り、少なくとも15人~20人の人間に取り囲まれている。

 

「……一斉に飛びかかられたら、流石に相手できねぇぞ?

やめろよ? リンチとか痛ぇイベントは嫌いなんだ」

 

ややおどけた態度のまま、その実本心は大まじめに、そう口にする。

 

周りは、何も反応を示さない。

 

(今のところ銃持ってる奴は見当たらないが、その内出てくるか……)

 

そして、彼は気付いた。と言うよりも、これもまた思い出した。

 

(全員拳銃持ってるんじゃねぇか。何で抜かない?)

 

その時だった。

 

「あぁ、アンタだな。うん、アンタで間違いない」

 

人混みをかき分けてイリヤに近付いてくる男性隊員がいた。

 

ある程度短く男性らしいややはねた黒髪。

イリヤよりも少し低いくらいだが、充分に良い体格。

そして、身にまとう戦闘服が全体の雰囲気を引き締めている。

 

「うん、アンタだ。その顔、俺は覚えてる。2軒の建物がアンタ1人で壊された、その事実を理解するのに時間がかかった。まさか、あのときの人が神機使いになってるとは思わなかった」

 

1人で話を始めて、1人で自己完結しようとしている目の前の男。イリヤとしてはまたしても「何だコイツ」である。

 

「あぁ、すまない。俺は相葉と言う者だ。この間アンタを捕まえた部隊の一員で、アンタが壊した建物の屋根にいた1人だ。面と向かって話すのは教が初めてか。内の者が面倒な絡み方をしてすまなかった。そこの男は後でこっちで絞っておくから、アンタは俺に着いてきてくれ」

 

「なぁ、ちょ、おい! どういうことだ、教えろ」

 

「まぁ、着いてきてくれ。話はそれからなんだ」

 

腕を取られて無理矢理引っ張られる様は、ある種パートナーを無理矢理連れて行く恋人のような関係にも見えなくは無い。何せ、2人ともハンサムな類いの男性なのだ。

 

しかも、意外と似合っている。

 

そのての話題は今の世でも残っており、そのての話が大好きで堪らない女性もまだいる。そんな女性達にとっては大喜びなショットなのだ。

 

しかし、2人ともそっちの気は無い。

 

イリヤはただ、よく分からない状況にもまれるだけだった。

 

 

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人気の少ない廊下を歩きながら、唐突に相葉が口を開いた。

 

「少し前に、A08居住区でホームレス達による人質を伴った準テロ事案が発生した。俺達の小隊は、その鎮圧と人質の救出任務が与えられた」

 

「何!? あそこのホームレスが!? チッ、アイツ等俺がいなくなった途端に……」

 

イリヤとしては懸念していたことで、予想していたとは言え驚きを禁じ得なかった。

 

「幸い、被害者は全員無事だ」

 

その一言で、安心したのが、自他共に分かる程度の態度。

 

「それで……13人の子供、じゃないのか。その人質にされたってのは。違うか?」

 

「と言うことは、やはりアンタがイリヤ・アクロワと言う人間で合っている、と」

 

「あぁ、そうだ。俺はイリヤ・アクロワだ。ついこの間ゴッドイーターになったばっかりのな」

「そのことについては驚いてる。まさか、あのときとっ捕まえた奴が神機使いになっていると考えられなかったからな。色んな留置場を検索しても、全然引っかからなかったからな。予想外だった」

 

「俺も驚いてるよ」

 

そして、お互いに話をするような内容も無くなり、足音だけになる。

 

そんな中で、イリヤはただ、子供達が無事でいてくれたことに、嬉しさがこみ上げていた。

 

(……良かった。本当に良かった)

 

油断すれば泣きそうなくらいだが、今は堪える。

 

泣くのならば、あの子達に会ったときで無いと___

 

 

案内されたのは、少し広めの面会室だった。

何でも、結構良い肩書きの人同士のための面会室らしく、確かにテーブルやソファとおいてある物は普通だが、質は断然こちらの方が良いと目で見て分かる程度に差別化されている。

 

「しばし待っててくれ。子供達を連れてくる」

 

「あぁ。それまで少しのんびりしとくさ」

 

ドアが閉まり、部屋はイリヤ1人きりになる。

 

(まぁ、いつも通りの待ち方になる、か)

 

そう思いながら、壁にもたれかかる。

 

(……時間感覚狂ってるんなぁ……長いこと顔会わせてねぇのは分かるのに、その期間がどれくらいなのか分からねぇ)

 

若干の自己嫌悪を覚えて、バカなことを考えた、と思い直し天井を見上げる。

 

(今まで心配させた分、これからもっと大事にすりゃ良い。それ以外で償える……違うな、謝り方、だな。それが無い。誠意はちゃんと態度で示せってな)

 

自身の中に根付く子供達への申し訳なさに対して、これからどう言う心構えで返していくのかを決めたイリヤの目は、しばらく見せていなかった兄として、そして親としての決意と優しさが灯っていた。

 


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