世界一可愛い錬金術師がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:スキン集め隊
あとこれ読んでる友人に自分語り多くねって言われたけど、作者の現実友人少なくて寂しいねん…。適当に聞き流して。
真っ暗い部屋の中を真っ白なオバケやカボチャ、蝙蝠のライトが照らし、眼前ではとぐろを巻きつつ鋭い眼光を周囲に撒き散らしながら佇むウロボロス。
そして、その中心で確かダンジョンの中層以下で出現するヴァンパイアのような服装を見に纏い、本物のヴァンパイアの真似をしているのかペロリと指を舌で軽く舐めて僕に流し目を送るカリオストロが、妙な色気を醸し出していた。
しかし、僕はそれを見て顔が赤くはなってはいるだろうが、美少女のそんな表情を見れてラッキーと思うわけではなく、今すぐここから逃げなければと思った。
カリオストロの目は完全に獲物を見るような目で、首筋に嚙みつかれれば血を全て吸い取られそうなそんな錯覚に陥ったからだ。それでも、身体は硬直して逃げなかったのは僕の人間としての本能よりも男としての何かが彼女に吸い取られたいと思ってしまった事は恥ずかしく思いながらも追記しておく。
そんな考えをしているのをたぶん彼女に気づかれて、いつもより艶やかさが増した笑みと紫色の瞳でカリオストロは僕を射抜く。あ…、これ逃げ遅れたかな…。
「唐突だけど…」
カリオストロが顔にかかった髪を慣れた手つきで耳の後ろへとかき分ける。うなじをわざと強調してやったそれは少女らしからぬ妖しさがあった。
「白兎の血ってどんな味がするのかな?」
……喰われるぅぅぅっ!?
「さ、さあ?不味いと思うよ」
「へぇー…でもね、カリオストロの目の前にいるう・さ・ぎ・さ・ん、とーーっても美味しそうなの」
彼女がふふっと軽く笑ったのが何故か怖い。
兎…いやあ、はは…この部屋には兎なんていないんだけどな。アルミラージでも迷い込んだのかな?
「だ・か・ら、見逃して欲しかったらカリオストロにお菓子ちょーだいっ☆」
ほら早く出してみろと言わんばかりにカリオストロが右手を差し出してくる。
ああ、さっきお菓子くれないとイタズラするって言ってたっけ。これもハロウィンの伝統なのかな。
「あれ?兎さんお菓子ないの?じゃあ、カリオストロがイタズラしちゃうねっ!」
顔に陰がかかってとても綺麗な笑みなのに不思議と恐ろしく感じる。僕は生まれたての子鹿のように僅かに体を震わせていた。
ウロボロスもゆっくりと旋回しはじめて、これはもう色々終わったかもしれない。
でもお菓子なんてないーーあ、そういえばシルさんに貰ったチョコが!!ありがとう、シルさん!!いつもはカリオストロと同列なほど警戒対象ですけど今日は助かりました!
僕はポーチに放り込んでいたチョコを取り出し、今日はもう弄られないぞという意味を込めて勢いよく差し出した。
すると、さっきまでの妖しい雰囲気は霧散し、カリオストロの笑顔は徐々に歪んで舌打ちした。えぇ…さっきまであの目と旋回するウロボロスがなければ普通に可愛かったのになんて変わりよう…。いつものことだけど。
「なんで菓子持ってんだよ…、お前の知り合い全員にハロウィンについて話すなって言っといた筈だ」
「だからなんでそんなハロウィンに綿密な準備をするの!?」
「そんなの合法的にいろいろできるからに決まってんだろ」
ふははは、と手を掲げてカリオストロは高笑いをした。
うん、そうだよね。君はそういう人だよね!
「つかこのチョコ嫌に匂うしさっさと食っちまうか」
シルさんには悪いけど、そんな匂うなら捨ててもいいんだけどなぁ。シルさんもどっちかというと防犯?対策みたいなものだと思うし。
「いっただっきまーす☆」
こういう礼儀もちゃんとするし、わざわざこうやって食べるのも僕から貰ったからっていうのもあるんだろうなぁ。本当にいつものアレさえなければ文句なしの善人なんだけーー
「辛ぁっ!?」
えっ。か、辛い?
「〜〜〜〜〜ッ!!」
カリオストロが片手を自分の口の上で振ると、手から光が溢れた。錬金術で治してるのかな。確かにカリオストロが水って叫んで取り乱す姿はあんまり普段からは想像できないし…っていうか焦るとこ自体全然見ないからなぁ。
「中から出てきたドロッとした濃縮辛味ソースも最悪だが、それとチョコの味が混ざった不協和音が…ケホッ」
あ、噎せた。本当にカリオストロがこんな姿は珍しい。目も微妙に涙目だし、いつもこんな風にしてれば…ってそれはもうカリオストロじゃないか。
「おい、ベル。誰だお前にこんなもの渡したのは」
「…僕がそれをわざとカリオストロに渡すために持ってたとは思わないんだね」
「ハッ、そんなのお前にできるわけねえだろ?なんたってーー」
あ、いつものパターンだこれ。
「ヘタレなんだからさ!」
だよね!うん、知ってた。
カリオストロが僕を貶してるわけじゃない。これはカリオストロと僕との信頼の証と受け取っておこう。というか、男としてそう思わなければならない。あと涙目でもドヤ顔しながら言うカリオストロはかなり新鮮で可愛かった。
「えっと、シルさんに貰って」
「シル、だとぉ…?」
急に考えこんだけどどうしたんだろうか。いつもなら普通に殴り込みに行きそうだけど。「あいつの差し金か…?」って何。たまにカリオストロの交友関係が怖い。なんだろう、差し金って…裏の支配者みたいな言い方。
…裏の支配者ってカリオストロにぴったりな気がしてきた。
「ただいまー!!」
あ、神様が帰ってきたみたいだ。神様はいつもの服に色んな飾り付けをしてオバケっぽい感じだけど…まああんまり変わっていない。僕も神様もカリオストロに貧乏癖が直ってないって言われるし、こういうところの出費を無意識に抑えてるんだろうね。僕もまだ教会の入り口入る時なんか萎縮しちゃうし。
「おお、いい雰囲気が出てるじゃないか!あれ?カリオストロ君はどうして涙目なんだい?」
「はぁ?」
神様、近くにいた僕には「っていうか涙出たんだ」って聞こえましたよ。流石にそれは酷いんじゃないかと…。
一方、指摘されたカリオストロはそれに気づいたようでゴシゴシと袖で脱ぐっていた。恥ずかしかったらしく、顔は真っ赤だけど。なんだろうね、口が自然とニヤニヤしてきてつい優しい視線を送ってしまう。それは神様も同様らしく、いかにも女神らしい慈愛に満ちた表情だった。普段弄られているから高圧的な態度だけど、こういうところを見せられたらなぜかそれさえも微笑ましく感じてくる。
「…あー、その………」
しどろもどろになる姿に神様はただニコニコと笑って佇む。
「…ト、トリックオアトリート!」
逃げた。けど何か得した気分。まだなんとなくウロボロスだけ後ろでただじっと優しげにカリオストロを見てる気がするけど…。
神様はさっきまでのニヤニヤとした顔から一気に自信の満ちた表情になり、なにかよく分からないものを取り出した。
「やあやあ、その言葉を待っていたよ僕は!!」
いや、よく分からないものではない。あれを僕は見たことがある…はず。あの茶色い包み紙は、間違いないじゃが丸くんだ!!
けど、いつもの焦げ茶に揚げたものではなく、本当によく分からない色なんですけど神様、これなんなんですか…。
「待て、なんだそれ…」
「えーっとね、幽霊の霊核とヴァンパイアの翅ウェアウルフの肉、かぼちゃクリーム味のじゃが丸くん!!」
カリオストロは頭を抱えた。何というゲテモノ…しかも素材が貴重なものなだけに、余計ショックを受けているのだろう。
「あのな、錬金術っていうのはレア物だけを適当に混ぜ込めばいいっていうもんじゃねえんだぞ。相性っていうもんが…」
「何を言ってるのさ、錬金術じゃなくて料理だよこれは」
「料理は錬金術なんだよ!」
流石ヘスティアファミリアの台所を預かるカリオストロ。言ってることが一味違う。それに僕もはっきり言って神様のは料理って言っていいのか…。
「さあ、召し上がりたまえよ!」
「はい、ウロボロスあーん」
ええ…そこでウロボロスって。
「そこでウロボロスに頼むのもどうかと…」
「大丈夫だ、ウロボロスの捕食は二つあってな。今回のはそのうちの収納の方だ。食ったものをそのまま保存できる。ちなみに味覚は感じない。」
結局ウロボロス食べたけどさ…嫌な顔してたけどね。
「むー、どうして食べてくれないのさ」
「うっせえ、自分で考えろ。あ、これからオレ様はちょっと用事が出来てな。出てくるがあんまり夜更かしすんなよ。じゃあな」
もう完全に言ってることがお母さんだよ、カリオストロ…。うーん、それにしても今日はどっちかというとカリオストロが弄られてたよね。僕も最初の方はされてた気がするけど回避できたし。あれ?もしかして今日ってすごく幸運?
「あ、ベルくん」
「はい、なんですか神様?」
「トリックオアトリート」
……あっ。
カリオストロが弄られる方も書けて満足。
あとまさかの(中)にびっくりした方もいるかもしれませんが、次の(後)はボス会談です。ボスって聞けば分かる人もいると思います。