長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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こちらの視線シリーズもよろしくお願いします。

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page35 私と初陣

やあみん・・・諸君。長門型戦艦一番艦、長門だ。私が誕生してからあっという間に一週間が過ぎ、私の演習期間が終わった。途中伊勢も参入し共に演習に明け暮れた。

 

「さっそく出撃かぁーちょっと怖いね。」

 

「怖いことなどあるか伊勢。出るのは制圧されている海域だ。下手したら会敵しない可能性もある。」

 

「そーはいってもさー」

 

こいつ戦艦のくせにビビりなのか?いや気ままな転生ライフを送ろうと考えた私が言えることではないか。

 

「ま、深海棲艦をぶちのめすのが仕事だし。いっちょ頑張りますか!」

 

「2人とも。出撃準備は出来た?」

 

「あ、扶桑。うん出来てるよ。」

 

「制圧されている海域とはいえ油断しないように。」

 

「了解した。もとより油断などしない。」

 

遅れて扶桑がドックに現れ、準備の有無を聞いてきた。準備は万端だ。初めての戦場で油断などあるはずもない。口ではデカいこと言っているがこれでも緊張はしている。無事に帰ってきたい。

 

「じゃああとは駆逐艦の子達の準備を待ってちょうだい。」

 

「なに?まだ準備出来ていないのか。」

 

「提督の指示を聞きに行っているのよ。だからちょっと遅れてるの。」

 

「そうか・・・」

 

「私も弾薬のチェックしとこーっと」

 

伊勢が艤装の元へ向かうと頼まれた妖精さん達が騒がしくなる。私は大丈夫だ、事前にダブルチェックした為必要は無い。手間を増やすだけだ。

 

「じゃあ編成の確認よ。」

 

「扶桑を旗艦に私、伊勢、五月雨、漣、電の6人だろう。問題はない。」

 

「装備の確認は?」

 

「41センチ連装砲四基八門。水観も積んでいる。問題無いよ。」

 

「最終確認はこれで終わりね。」

 

「私たちの初陣だからと気負い過ぎではないか?」

 

「準備や確認はやりすぎるくらいがちょうどいいのよ。」

 

元来の性格だろうか。扶桑は入念に準備をしたがる傾向にある。確かに確認しないよりは良いと思うがちょっとやりすぎではないかと思わないけじゃない。

 

「すみません!遅れました。」

 

「ふぃーご主人様ったら話が長いんだから。」

 

「で、でも準備は大切なのです。」

 

「それほど待ってないよ。さぁ行こうか。」

 

「ええ、行きましょう。伊勢を呼んで。」

 

「ああ。」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

鎮守府正面海域。ここ横須賀鎮守府の正面海域は定期的に吹雪達によって掃討されており、敵らしい敵はほとんどいなかった。クルーズ気分とまではいかないが大海原を潮風を浴びながら進むのは心地よい。

 

「水観から報告・・・敵影無し。」

 

「航路にも問題無し・・・と。」

 

「ええー全然敵いないじゃーん。」

 

「この辺りは吹雪ちゃん達と入念に掃討してますから。」

 

「そうは言ってもさーこれじゃあ拍子抜けだよ。」

 

「気を抜かないようにって出撃前に言ったでしょう伊勢。はぐれだっているかもしれないんだから。」

 

「はーい。」

 

ここまで敵影は無し。天気も快晴、波も高くない。伊勢の言い分もわかる。私も初出撃だからと緊張していたが、これでは気も抜けてしまうだろう。私は砲塔の調子を確認しながら進んでいた。ウィンウィンと動かしていたら五月雨に変な顔で見られてしまったがまぁ良い。

 

『・・・こちら司令、正面海域の様子はどうだ。」

 

「こちら扶桑。敵影も無く天気も快晴。航路も問題ありません。」

 

『そうか・・・せっかく戦艦が3人もいるから正面海域の外れまで行ってくれないか。近海の様子も見ておきたい。」

 

「了解、向かいます。」

 

「提督はなんだと?」

 

「正面海域の境界線まで向かって近海の様子を見てきて欲しいですって。近海から侵入してくる深海棲艦も多いから・・・」

 

「なるほど、了解した。」

 

「そっち方面まで行けば敵いるかなぁ。」

 

「もしかしたらいるかもね。」

 

「で、でも敵さんもいない方が助かるのです・・・」

 

「まぁそうだけど・・・」

 

提督の指示は正面海域の境界線まで行き様子を見てこいとのことだったが・・・何か気になる事でもあるのだろうか。まぁ私たちは従う他ないので向かうことにした。

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「ここが境界線か・・・」

 

そこは境界線を示すブイが浮かんでいるだけで静かな海だった。水観で偵察するものの妖精さんからは敵影無しとの報告が入る。

 

「静かなところだね・・・」

 

「ええ・・・でもこの先は深海棲艦の領域よ。変色海域もしばらく行ったら存在するわ。」

 

「変色海域?」

 

伊勢が訪ねるが私も知らなかったので扶桑の声に耳を傾けることにした。

 

「変色海域・・・上位深海棲艦の占める領域で海が赤く染まっているの。」

 

「なにそれ・・・」

 

「詳しいことは分かってないわ・・・でもその海域では生物が存在せず。海流もめちゃくちゃらしいの。私もまだ突入したことは無いわ・・・」

 

「でもいつかは突入して突破しなきゃならないんだよね・・・」

 

「そうね・・・」

 

「扶桑、境界線には到達したがそこからの指示は来てないのか。」

 

「様子を見てこいとしか聞いてないわね。」

 

「そうか、ならば境界線沿いに南下して戻ろう。初陣はそれで終わりだろう。無事に帰れそうで良かっ・・・」

 

言葉を言い終える次の瞬間だった。水観から連絡が入り敵影有りとの報告が入った。

 

「皆さん戦闘準備!」

 

ガチンガチンと砲塔や魚雷発射管を展開する音が響き、敵の襲来に備える。

 

「敵までの距離は!?」

 

「東に20km・・・こちらには気がついてない。」

 

「そう・・・」

 

「どうする?打って出るか?」

 

打って出るとの言葉に艦隊に緊張が走る。私もだ。冷や水を浴びせられた気分だ。

 

「敵の編成は?」

 

「駆逐2軽巡1空母1だ。」

 

「空母がいる・・・会敵は避けた方が良さそうね。」

 

「だな。敵の偵察艦隊だろう。こちらの水観も見つかって無い。」

 

「司令に繋ぎます。」

 

『・・・どうした?』

 

「敵の偵察艦隊と思わしき艦隊を確認。編成は駆逐2軽巡1空母1。こちらはまだ見つかっていません。どうしますか。」

 

『見つかってないなら無理に戦う必要は無い。見過ごそう。』

 

「了解。皆さん戦闘準備解除してください。」

 

戦わないのか・・・まぁそれが指示なら仕方がない。変に敵を刺激する必要は無いだろう。そしてここが正面海域の境界線なのだということが感じられる。先ほどまで会敵する気配も無かったのに境界線まで来るとあっさり偵察艦隊と思わしき艦隊に遭遇する。緊張感がなかなか取れない。

 

「提督は慎重だと言っていたが・・・なるほどな。」

 

独り言を呟き、展開していた砲を元に戻す。慎重派の提督ならば無茶はするまい。

 

「さて・・・このまま警戒を続けましょう。こちらに向かってくる艦隊がいるならば迎え撃つことになるでしょうが・・・それまではこのままです。」

 

扶桑の鶴の一声で再び締め直した我々は境界線沿いに進み、また会敵することなく帰投することになった。

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

私達は帰投した後、風呂に入り寮へと戻っていた。伊勢なんかは敵発見の報告から目に見えて緊張していたがやっとそれも解れたのだろう。缶ビールを片手に部屋の椅子でふんぞり返っている。

 

「やー今日はびっくりしたね。境界線ってあんなとこなんだ・・・」

 

「扶桑も言っていただろう。あの先は深海棲艦の領域だと。」

 

「まぁね。でも戦闘にはならなかったなー」

 

「自慢の砲を披露出来なくて悔しいか?」

 

「それもあるけど・・・本当は戦わなくて良かったかなって思ってる。」

 

「ほお・・・あれほど敵を待ち侘びていたのにか?」

 

「だって空母がいたし、それに緊張したしさー敵がいるってわかっただけであんなんになるのにいざ戦ったらどうなるんだろうって。」

 

「情けない・・・もっと自信を持て。」

 

「だって生まれたばかりだしー」

 

やいのやいのと喋っていると扶桑が戻ってきた。提督への報告が終わったのだろう。これから風呂だろうか。

 

「ふぅ・・・ちょっと私がいないのにもう飲んでるの?」

 

「いいじゃんかー今日は初陣だったんだし。」

 

「もう・・・私がお風呂から上がるまで潰れないでよ?」

 

「そんな飲まないよー」

 

「扶桑、今日の出撃、提督はなんと言っていた?」

 

「うーん、戦闘が無かったから2人の戦力が計れなかったのが痛いとは・・・」

 

「そうか・・・まぁこれから何度も出撃するのだ。戦力を計る機会などいくらでも来るだろう。」

 

「そうよね・・・まぁこれぐらいにして私もお風呂入るわ。」

 

「大浴場に行かないのか?」

 

「疲れちゃって・・・」

 

「そうか・・・私たち2人のお守りご苦労さん。」

 

「ほんとよ・・・」

 

私達2人の戦力を計るなどこれからいくらでも機会がある。まずは初陣が何事も無く終わったことを祝おう。そうして私も缶ビールの蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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