やあ諸君。長門だ。上位深海棲艦が跋扈する危険な海域に偵察任務に出ていた天龍が帰ってきた。天龍ならば生存を第一に考えることをわかっていたから不安はなかった・・・が心配はした。如月も卯月も無事に帰ってきてくれて良かった。本当に。
「はい補給完了しました!」
「ありがとうクマ。ほんと死ぬかと思ったクマ。」
「まー天龍の噂は聞いていたから心配はしていなかったニャ。」
「天龍さん、頼もしいですねー・・・最初は連合艦隊にいたなんて嘘かと思ってましたけど・・・」
「大淀、天龍の実力は本物ニャ。多摩が保証するニャ。」
「多摩さんは天龍さんご存じなんですか?」
「一応ニャ。」
工廠に入ると球磨と多摩が補給を受けていたらしい。さて、卯月と如月はどこだろう。
「あ!長門さんニャ!」
「む、単冠湾の球磨と多摩か。もう大丈夫か?」
「大丈夫クマ、世話になったクマ。」
「それより久しぶりニャ。長門さん覚えてるかニャ?」
な・・・に・・・?この球磨と多摩は私のことを知っているようだが・・・私としたことが、全く記憶にない・・・どどどどどうしよう、思い出せ、思い出せ長門!!
「まー覚えてないのも無理も無いニャー。」
「球磨達は琿作戦で連合艦隊回収部隊にいたクマ。球磨型全員で長門さんを連れ帰ったクマー」
「長門さん、ボロボロで動けなかったからニャー・・・多摩達は実戦には出なかったから作戦終了して回収にいった時は恐ろしかったニャー」
「そ、そうだったのか・・・すまない、記憶にないのだ・・・」
「その時天龍と仲良くなったニャー」
「へー!球磨さん多摩さんは琿作戦に参加していたんですね。」
「参加したと言っても傷ついた艦娘を運ぶだけだったクマ。」
こんなところでも私のつながりが・・・というか運ばれていたのか・・・そういえば敵を撃破した後はその場にぶっ倒れた後の記憶がない。そうか、作戦後はそうやって帰ってたのか。てっきり随伴艦達がつれかってるものかと思っていた。
「なんとも、私には命の恩人がたくさんいるようだ。」
「なに言ってるクマ。長門さんに命を救われた人なんて日本中にいるクマ。」
「そんな人の命を救えるなんてこっちも命かけるに値するニャ。」
「なんだか恥ずかしいにゃ」
「長門さん!うつってますよ!」
「いいものみられたニャ。」
「ふっふふーみんなに自慢できるクマ?」
「か、からかわないでくれ・・・!」
ぐぬぬ・・・なんだかしてやられた感じがするな・・・まぁいい。如月達はどこだ?
「大淀、如月達は知らないか?」
「今お風呂の筈ですよ。」
「わかっ」
「ぴょーーーん!!!!」
「ぐはっ!?」
急に背中に衝撃が来たかと思えば・・・卯月、か・・・結構効いたぞ・・・
「長門さんにまだただいまって言ってなかったぴょーん!」
「長門さん、ただいま戻りました。」
「あ、ああ・・・おかえり卯月、如月。」
「大湊の長門さん!初めまして!幌筵の雪風です!」
「おお、よろしく雪風。」
「はぁ、はぁ・・・卯月、速いにゃしい・・・」
「卯月、これから出撃でしょ・・・早く長門さんから降りて・・・」
「ママもお見送りっぽい?」
背中に張り付いた卯月を降ろして大淀に渡す。この偵察任務で練度でも上がったのかなかなか威力のあるタックルだった。
「長門さん・・・ごめんぴょん・・・かんざし、無くしちゃったぴょん・・・」
「私も・・・バレッタを戦闘中に壊してしまって・・・」
「そうか・・・ならばこのバッジは返せないな。」
そうか、無くなったか・・・そこそこ気に入ってたんだがなぁ・・・まぁそんなものまた買えばいいしな。
「いいか、二人とも。お前達はこれから戦いにいく。最前線も最前線、一秒生きるのに全神経を使う戦場だ。」
「ぴょん・・・」
「はい・・・」
「このバッジを返して欲しければ、お前達の命と交換だ。」
「!?」
「な、長門さん・・・?」
「いいな?ここに帰ってきて、その手で私から取り返せ。それがバッジを返す条件だ。だから・・・」
生きて帰ってこい。その言葉を私は飲み込んでしまった。いくら大湊の精鋭水雷戦隊とは言えど、戦場では意味をなさない。精神的に幼かろうが戦士だ。わかってくれるだろう・・・
「わかったぴょん!」
「う、卯月!?」
「うーちゃんが帰って来た暁には!長門さんに五連装魚雷ぶっぱなして!ふん縛ってくすぐってひーひー言わせてバッジ取り上げてみせるぴょん!首を洗ってまってるぴょーん!!!」
「ほう・・・やれるものならやってみろ!大戦艦パワーで水平線の彼方まで投げ飛ばしてくれる!!」
「いや・・・長門さんは手加減して欲しいぴょん・・・」
「ふっ・・・ふふ、あっはっは!」
噴きだした如月から始まり釣られてみんな笑い出してしまう。とても出撃前の雰囲気とは思えない空気だ。
「おーい、そろそろ出撃だぜ・・・って何わらってんだお前ら?」
「ふ・・・天龍、お前の育てた駆逐艦は恐ろしいな。」
「???」
「なんでもないさ。」
「あ、おう。おら!お前ら出撃だ!!!」
ぞろぞろとクレーンに釣られている艤装を体に装着していく。ねじが閉まる音、油圧がきしむ音、缶に火が入りタービンが回る音、弾が装填される音が工廠に響く。
「・・・あ、多摩!」
「なんだニャ?」
「すまない、引き留めてしまって、聞きたいことがあってな。」
「多摩にわかることならなんでも聞いてニャ」
「ありがとう。・・・単冠湾に、長門がいた筈なんだがつい先日の戦力表を見たらいなかった・・・何か知っているか?」
「こっちにいた長門は、怪我をして長期修理するはずだったんだけど・・・いなくなったニャ。出撃表からも名前が消えてて、提督も何も教えてくれなかったニャ。・・・長門さんは何か知ってるのかニャ?」
「すまない・・・私がしっているのは大湊で食事を共にしたことだけだ。千歳に着いたら大湊の朝潮と不知火に聞いて見るといい。そしてその後を私も知りたかったんだ・・・」
「長門-!もういいか?時間が迫ってる。」
「ああ、すまない。ありがとう多摩。」
「多摩は・・・多摩は生きるニャ。長門も帰ってきたら猫パンチしてやるニャ。大侵攻の作戦中に生まれたあの頃の多摩とはちがうニャ。あ、長門さんにも長門をパンチする権利をあげるニャ。ニャア。」
「そうだ・・・生きることが手向けになる。兵器の我々に出来ることは生きて存在を示すことが大切だ。折れるなよ、多摩。」
「わかったニャ・・・ありがとうニャ。」
「おらっ!多摩ー!行くぞー!!」
多摩は私に手を振りながら出撃ドックに向かっていく。・・・皆、無事にとはいかないだろう。何せ姫級に並ぶ深海棲艦が四体も同時にいる。だが、せめて多く生き残って欲しいものだ。