長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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三章 私と作戦
page25 私と開戦


やぁ、諸君。長門だ。天龍達が上位深海棲艦を発見して、大本営は第二次北方海域奪還作戦を発令した。そう。再び大きな戦いが始まったのだ。上位深海棲艦は水鬼と名付けられた。

 

「・・・。」

 

「淋しいですねー」

 

大湊はその機能を北海道の千歳に移し水雷戦隊と決戦艦隊をつれてついさっき行ってしまった。更に全国から艦娘が集結しているらしい。

 

「天龍さん・・・如月ちゃん・・・卯月ちゃん・・・悲しいです、今まで戦ってきた、仲間なのに・・・うっ、うっ・・・」

 

天龍から不規則な海流を突破し、四体の上位深海棲艦を発見、敵が攻勢に移ったという報告が来たのは昨日。それからあっという間に北方海域が敵で溢れた。

 

「大淀!いつまで泣いてるのよ!しっかりしなさいよ!」

 

「五十鈴ちゃん・・・でも、みんないい子だったのに、天龍さんも、怖かったけど、いい人だったのに・・・!」

 

「絶対、許さないっぽい・・・!てんりゅーも、如月も卯月も沈めたやつ、絶対許さない・・・!」

 

「如月ちゃん・・・ぅぅぅぅぅあああああぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「お姉ちゃん・・・泣かないで・・・私、仇を取るから・・・!」

 

良かったな天龍。名取には怖がられてるぞ。大湊に残ったのは大淀、五十鈴、名取、睦月、弥生、夕立だ。他は大型建造を見ておく明石と、食堂の間宮。艤装をしまわれちゃった私が残っている。

 

「おやつだぞ。最中を作ってみた。」

 

「長門さん・・・!!」

 

「・・・そうよね、長門さんは何度も沈むのを見てきたから今さら誰が沈もうが関係ないわよね!!!」

 

「五十鈴ちゃんっ!!」

 

「ごめんなさい、長門さん・・・」

 

「・・・構わん。おやつ食べて落ち着け。」

 

皆の前に最中とあついお茶を置く。私もゆっくりと御茶の渋みで口を満たし、最中のストレートなあんこの甘味を味わう。

 

「さて、大淀。我々は提督に留守を任された。何をするべきかは聞いているな?」

 

「・・・はい。」

 

「わかった。それならばまず、私からのお願いを聞いてくれるか?」

 

「・・・お願い?何でしょうか。」

 

「入渠ドックを準備するんだ。明石にはもう言ってある。秘書艦の指示待ちだ。頼む。」

 

「入渠ドックぅ?長門さん、何する気なの?ダメよ!勝手に出撃させないように金剛さんから言われてるんだから!」

 

「あの、私も、陸奥さんから・・・」

 

「違う。恐らく今日の夜中か、明日。天龍が帰ってくる。その為だ。」

 

「・・・え。えええぇぇぇぇぇえ!?」

 

「長門さん、わかるの・・・?」

 

「ああ。天龍がついていながら誰かが沈むなどありえん。恐らく深海棲艦の無線妨害か、無線の限界だろう。今ごろ太平洋を南下して遠回りして帰ってきてる筈だ。」

 

「そ、そういえば雪風が編成されてたみたいですし!そうですよね!きっと生きてますよね!」

 

「天龍のは幸運ではない。確実に生き残り、帰投出来るルートを瞬時に選ぶ能力が高いのだ。頭に海図と無限に近い移動ルートが叩き込まれている。それに、偵察任務で戦闘は極力回避している筈だ。生存している可能性は高い。」

 

「・・・冗談でしょう?」

 

「こんな時に不謹慎な冗談言えるわけないだろう。」

 

「お、大淀ちゃん!入渠ドック!入渠ドックの準備しよう!」

 

「わ、わっかりましたぁ!大淀いってきます!もぐっ!」

 

大淀は最中をひとくちで詰め込み、食堂を飛び出していった。

 

「長門さん、随分天龍さんのこと信用してるんですねぇ!」

 

「あいつは私の命の恩人だ。私を救うことが出来るのだから他の艦娘を救うくらいどうってことないだろう。」

 

「長門さん・・・すごい・・・!」

 

「ママはほんと規格外ね。」

 

「夕立もほんと口が達者になったなぁ。」

 

「ぽいぃ?」

 

夕立をわしゃわしゃと撫でると嬉しそうに体を反らす。うーん可愛いな。カメラ持ってくればよかった。

 

「五十鈴、名取は対空装備、大丈夫か?」

 

「任せといて!」

 

「大丈夫です!提督が機銃と噴進砲を置いていってくれました!」

 

「うむ。すまんな、私が戦えればいいのだが・・・」

 

「そういえば、なんでそんなに長門さんを戦わせたくないのかしらね。」

 

「戦艦がいれば三式弾や徹甲弾が使えて防衛もかなり楽になると思うのにね・・・」

 

「長門さん・・・実は見えないとこで怪我・・・してる?」

 

「そんなのは聞いたことないなぁ・・・」

 

「後になって腰がぁぁぁとか大変にゃしぃ・・・」

 

「ママの分も夕立が戦うから平気!!素敵なパーティーの準備はばっちりなんだから!」

 

「夕立ちゃんの素敵なパーティーは洒落にならないにゃしぃ・・・」

 

「演習で・・・加減してほしいな。」

 

「手加減したら意味無いっぽい。」

 

食堂で談笑していると大淀が戻ってきた。明石も一緒なようでおやつをもうひとつ持ってこよう。

 

「入渠ドック準備しましたよぉ!」

 

「敵海域で音信不通・・・普通に考えたら・・・生きて帰ってくるなんて考えられませんね。」

 

「お疲れ様。明石もおやつ食べるといい。間宮が作ってくれた。」

 

「あぁー最中ぁー糖分補給ぅー」

 

「とりあえず今日することは留守を守ることです。出撃準備で待機していてくださいね。」

 

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ーー

 

 

その日は特に警報もなく、穏やかな1日をすごした。執務室では私と大淀が千歳から送られてくる北方の戦況を纏めていた。あまり戦況は良くないようだ・・・今日だけで8の重巡、10の軽巡、7の駆逐艦が沈んだらしい。これで幌筵の艦隊は壊滅だという。1530に横須賀と舞鶴から連合艦隊が到着し、北方に向かったとあった。

 

「夜には警戒だけして出撃は無し・・・と。長門さん、これで終わりですね。」

 

「あまり、戦況はよろしくないようだ・・・悔しいな。私がいればもっと・・・」

 

「長門さん、私はまだ若輩者ですけど・・・一人に戦争を変えられる力なんて無いと思います・・・」

 

「・・・そう、だな。思えば周りにすごいのいっぱいいるな。鳳翔とかビスマルクとか。」

 

「みんなで力を合わせて戦うから長門さんも強くなるんだと思いますよ!」

 

「まさか大淀に一本取られるとはな。」

 

「ひぇっ!?すすすすみませんでした!」

 

「・・・ん?これは、戦力名簿か。提督に頼んでいたの忘れていた。」

 

「艦娘の名簿ですけど、何か気になることでも?」

 

「あぁちょっとな。」

 

単冠湾を抜き出してみる。・・・先月にはあった戦艦の欄は、ない。

 

「・・・。」

 

「お知り合いでも、いたんですか・・・?」

 

「あぁ・・・良き友に、なれると思ったんだが・・・」

 

「作戦前に・・・すみません・・・」

 

「いや、どうって・・・・」

 

作業中に電話がなった。こう、夜の電話って結構びっくりする。大淀もびっくりしていたが、すぐに我に帰って受話器を取る。

 

「こちら大湊警備府・・・はい・・・はい!!本当ですか!?はい!!!・・・軽巡3駆逐艦3ですね。わかりました!こちらで誘導の準備をします!!はい!本当にありがとうございます!!!」

 

「どうした!」

 

「三沢基地からでした!艦娘を六人保護したとのことです!天龍さん達に間違いない、ないでじゅ!!い"ま"、輸送機でごぢら"に"!む"か"って"まじゅー!うわあぁぁぁん!よ"か"った"ぁぁぁぁ!!」

 

「そうか!!帰ってきたか!!!大淀!!!みんな起こせー!!!入渠の用意だ!!!」

 

それからしばらくして大型ヘリが到着し。中破状態の六人を入渠ドックに放り込んだ。睦月と弥生は入渠ドックの中で如月と卯月に付きっきりだ。夕立と五十鈴達は他鎮守府の艦娘の様子を見ている。天龍は報告の為に高速修復材を使って執務室まで来てもらった。

 

「天龍さん!まずはよく戻ってきてくれました!偵察任務、ご苦労様でした!」

 

「あぁ。まったく死ぬかと思ったぜ。しかし、もう連合艦隊が来てるのか。はえーな。」

 

「千里眼から不死身の天龍と改めたらどうだ?」

 

「やなこった!二つ名なんて恥ずかしいだけだぜ・・・あ、そういや提督に二つ名のことしゃべっただろ!?勘弁してくれよなー!」

 

「すまんな。」

 

「反省してねーだろ!」

 

「ま、まぁまぁ・・・それより、偵察結果を報告してください。」

 

「あぁ、提督は千歳だっけか?通信は?」

 

「できます。」

 

大淀は数字のボタンの無い通信機を押すとすぐさま提督からの返事がきた。

 

『こちら渡部。大淀、何かあったのか?』

 

「はい!天龍さんが帰投しました!」

 

『な、なに!?大淀変わってくれ!!』

 

「よぉ、提督。死に損なったぜ。」

 

『バカ野郎!心配かけさせやがって・・・まったく!』

 

「とりあえず提督、偵察結果だ。高速出撃艦艇から射出後、敵上位深海棲艦を四体確認。戦艦型、空母型、基地型が二体、ここまではいいな?」

 

『ああ。戦艦型と空母型はすでに連合艦隊が交戦している。それぞれ戦艦水鬼、空母水鬼と呼称している。』

 

「そうか。基地型はまだ交戦してないんだな?一体はキス島に、もう一体はアリューシャン列島の北方棲姫だ!やつら、この北方棲姫を守ろうとしてる。」

 

『北方棲姫・・・!!わかった!』

 

「だが俺たちは北方棲姫の防衛艦隊に見つかってる。その後、追撃を避けながら太平洋を南下して三沢基地に保護してもらって帰ってきた。六隻全員無事だ。北方棲姫の防衛は相当硬いはずだ。注意してくれ。」

 

『よくやった。天龍。本当に、本当に生きていてよかった。』

 

「じゃ、俺も修理と補給が終わったらそっちに行く。待ってろよ。」

 

『・・・すまん、ほんとはゆっくり休ませてやりたいが・・・戦況はよくな・・・どうした。な、嘘だろ!?高速修復材を使え!すぐにだ!ドック開放急げ!』

 

「ギリギリだな・・・急いで行く。」

 

『偵察艦隊六隻全員、修理と補給が終わり次第、緊急千歳基地に向かえ。すまない、頼む!』

 

「あぁ。じゃあな。」

 

天龍が受話器を置くと顔を、ばしばしと叩き気合いを入れたようだった。天龍は出撃前にいつもこうしているのを見ていた。

 

「というわけだ。長門、大淀。留守は頼むぜ。」

 

「頑張ってこいよ。もしかしたら、龍田に会えるかもな。」

 

「他所の龍田には他所の天龍がいるだろ?いーんだよ気い使うな!」

 

「わかった。じゃあくたばれ天龍。」

 

「このやろう!!」

 

「「はっはっはっはっ!!!」」

 

「え、えぇこのノリはなに・・・?」

 

だが心配だ。私より大分後に建造されたとは言え天龍も私と同じく長い間稼働してる。ビスマルクも、鳳翔もだ。もうあまり無茶は出来ないはずだ。この戦い、きちんと勝利したいものだな。

 


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