夢うらら   作:さくい

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3話

 百足女を犬夜叉が殺した翌日の朝、囲炉裏で鍋をかき混ぜながら楓おばあちゃんは言った。

 

 

「かごめ、お前は桔梗お姉様の生まれ変わりなのかもしれん。姿形や神通力だけではない、その身に四魂の玉を持っていたのが何よりの証。かごめ、お前が四魂の玉を守らねばなんぞ」

 

 

 いえ違います、私はお姉ちゃんの生まれ変わりじゃないです。そう言いたい自分を必死に抑えてマジで!?っていうように反応を返した。四魂の玉を持ってた理由は知らんし、神通力なんて見せたっけ?

 

 桔梗お姉様の生まれ変わり?なわけあるかい、戦国時代に生きた桔梗は今平成の世に生きる私の愛しのお姉ちゃんである。

 

 きゃーお姉ちゃん素敵ー!!

 

 

「んで、なんであんたが此処に居るの?」

 

「玉を寄越せ」

 

 

 楓ばあちゃんの家にずかずかと入り込み私に背を向けて寝転がっていた犬夜叉は、顔だけ私に向けてそう言った後顔を元に戻した。

 

 昨夜のあの勢いはどこに行ったのかと思わざるを得ないほどに今の犬夜叉は大人しい。神妙な顔で言霊の念珠がよほど堪えたんだと言っている楓ばあちゃんに同感。

 

 

「ていうかさ、なんであんたは四魂の玉を欲しがってんの?今でも十分強いじゃない」

 

「犬夜叉は半妖じゃからなぁ、だから力を求めるーー」

 

 

 楓おばあちゃんがそう言った瞬間に犬夜叉が身を翻して床に拳を叩きつけた。おお、見事に穴が空いてるね…で、これちゃんと直すんだよね?

 

 50年振りの挨拶らしきことをしている犬夜叉と楓おばあちゃん、楓おばあちゃんには見られないようにして思いっきり睨んだら頬っぺた引き攣らせて逃げて行った。ふっ、勝った。

 

 

 

 

 

 

 さて、今私は楓おばあちゃんに暇だから外行ってくるって告げて村を歩き回ってるんだけど、村人の悉くが私を桔梗様の生まれ変わりだのなんだのと言って拝んでる。

 

 調子に乗って腰の悪いご老人にヒーリングして腰を治したら更に拝まれて野菜やら果物やらをたくさんくれた。やったね。

 

 貰ったものを荷車で引きながら犬夜叉を探す。さっき睨んだのはちょっとやり過ぎたかなと反省して、一緒に貰ったものを食べて仲直りしよっかなあって思って探してるんだけどなかなか見つからない。

 

 

 草むらの中や田んぼの中、地中に掘ってある小さい穴とかに向けて犬夜叉〜って呼んでるんだけど出てくる気配がない。まったく、何処いったのさ。

 

 

「犬夜叉いないの〜?」

 

「さっきから何処見て人のこと呼んでんだ」

 

「ん?」

 

 

 私が地面に向かって呼んでいた場所から丁度真正面にある木、その木の上から生意気な声が聞こえてきた。上を見てみれば案の定犬夜叉が太い枝の上でおすわりしてた。っていうかその変なものを見る目はなんですか、失礼な。

 

 

「村の人から色々貰ったから一緒に食べようよー!今なら骨もあるよー!!」

 

「犬扱いすんな!!」

 

「そんな小さいこと気にしないでさー!ほら見てこの烏!!活きが良くて美味しそうじゃない!?」

 

 

 そう言って右手に持っているのを高々とあげると其処にあるのは元気に動く眼が3つある烏、そこら辺で飛んでたのを霊力を糸状にした“霊糸”で捕まえた。そんな私は必殺仕事人、瞬きの間に獲物を捕まえるのさ!

 

 犬夜叉に自慢しようと思って見せたらギョッとした表情をして、すぐに飛び降りてきて私から烏を取り上げやがった。横取りすんなー!

 

 

「て、てめぇ!これ妖怪じゃねぇか!何食おうとしてんだ!!馬鹿か!?」

 

「おお、ナイスツッコミ。よし、それじゃあさっさとその烏片して食べようよ!」

 

「…ちっ、しゃぁねぇなぁ。今回だけだぞ」

 

 

 烏を握り潰してからどかっとその場に座る犬夜叉、まったく素直じゃないなぁ。食べたかったら最初から言えばいいのに。自分で言ってうざいなと思いつつ、一番美味しそうなトマトを渡す。私は甘そうな梨型の果物を食べる。

 

 おお、実は硬いけど濃厚でジューシーな甘みがある。味はマンゴーみたいな感じ?現代にこんな果物あったっけ。

 

 

「お、うめぇ」

 

 

 思わずっていう感じで呟いた犬夜叉の声を聞いて見られないようにドヤ顔をした私。ふふん、私の観察眼は中々のものだね。

 

 

「んで?あんたは私のこと嫌ってんの?」

 

「すんげぇ!むかつく〜!!」

 

「…ふーん、そんなこと言っていいんだ?」

 

 

 目に影が出来るように俯いて、口を三日月みたいに思いっきり吊り上げた今の私は口裂け女。ワタシキレイ?

 

 こほんっ…ん?犬夜叉がなんか大人しいような…っと思って犬夜叉の方を見たら5歩くらい距離をとってあからさまに警戒していた。

 

 

「そんな距離とってどうしたの?」

 

「お、お前…いや、なんでもねぇ」

 

「あ、そう。とりあえずそんな所にいないで隣においでよ。何もしないからさ」

 

 

 ぽんぽんと隣を叩いて座るように促す。犬夜叉は若干警戒しつつじりじりと近づいて来てたっぷり時間を使って隣に座った。

 

 この一連の間に、わっ!っていう感じで驚かしたいのを我慢した私、流石に打ち解けてない今の状態でやったら完全に逃げられそうだしね。

 

 

「にしても四魂の玉ねぇ、なんか簡単に割れそう」

 

「へっ、そんな簡単に割れるかっつぅの」

 

 

 うーん、割れないのかな。ちょっとやってみよう、こう…霊力を四魂の玉にがっつり込めてこの世から消えろー!!って念じて…あれ?なんかヒビが入っちゃったんですけど、しかもそのヒビが広がってるんですけど…。

 

 

「ねえねえ犬夜叉」

 

「んだよ」

 

「ヒビ、入っちゃった」

 

「…はあ!?」

 

 

 犬夜叉が振り向くのとほぼ同時、ヒビが四魂の玉全体に広がって眩い光を放ち始めて思わず上に放り投げた瞬間、四魂の玉は砕け散り流星のようにあっちこっちに飛んで行った。

 

 おお綺麗、なんて幻想的なの。ちなみに、2粒程私の所に飛んで来たからどさくさに紛れて回収している。

 

 

「あら〜、四魂の玉砕けて飛んでっちゃったね」

 

「飛んでっちゃったね、じゃねぇよ!!どうすんだこれ!!どう責任取るんだてめぇ!!」

 

「どう責任取るって…そんなの回収しに行くしかないでしょ。あ、私の護衛お願いね」

 

「はあ!?なんで俺がそんなことしなきゃなんねぇんだ!!…けっ、付き合ってらんねぇぜ」

 

 

 見事にご立腹な様子で此処から去って行く犬夜叉に手を振って、私が出てきた井戸…骨食いの井戸へと向かう。

 

 早く帰ってお姉ちゃんに抱き付きたい、切実に…今の私はお姉ちゃんの体温が恋しいんだー!

 

 

 ということで到着しました骨食いの井戸。村人から貰った果物よーし、野菜よーし、死にたての鶏よーし。よしっ、さらば戦国時代!私は現代へと帰る!

 

 四魂の欠片は気が向いた時に集めるからよろしくね!

 

 

 

 

 

 

 

 かごめが井戸の中に消えてから1晩が経った。私やお祖父様、お母さんは結局眠ることなく古井戸で祈りを捧げ、草太も頑として家に戻ろうとせず毛布に包まって隅で寝ている。

 

 

「おじいちゃん、かごめは…帰ってきますよね?」

 

「帰ってくるっ…!帰ってくるに決まっておる!儂等が、儂等がかごめの帰りを信じるんじゃ…儂等が信じずに誰が信じる!絶対に帰ってくるっ!!」

 

「…はい、そう…ですね…。私、かごめが帰ってきた時にお腹空かせてるかもしれませんから、ご飯の用意…してきますね」

 

「うむっ」

 

 かごめは絶対に帰ってくる、それを信じての行動か。はたまた、かごめが帰ってこないかもしれないという恐怖からの逃げの行動か。その真意はお母さんにしかわからないが、少なくとも…その顔に不安や恐怖はあっても諦めはなかった。

 

 お母さんを見送り、お祖父様が札を焼き投げ神酒を撒き、数珠を両の手で持ち祈りを捧げる。私もその隣で井戸の中に向けて破魔の矢を射つ。

 

 

 この井戸は、戦国時代に私が生きてた頃に骨食いの井戸と呼ばれた何かしらの力が働いている井戸。何らかのエネルギーの力場か空間の捩れ目かは定かではない、しかしある種で言えば力のある井戸。

 

 エネルギーの力場ならば、強い霊力というエネルギーをぶつけた拍子でかごめが連れて行かれた場所に繋がるかもしれない。

 

 不確定で極めて危険性の高い…いっそ無謀と言えるような賭け、普段の私ならば絶対と言える程に取らない手段だが…今の私には、それを考える余裕は微塵もない。

 

 

 もう一度破魔の矢を打ち込もう。そう思い弓を井戸に向けて構えて射った瞬間、力の流動が井戸で起きた気配がしてーー

 

 

「ただいま現世ー!って危な!?現代に帰ってきての第一の出来事はお姉ちゃんの破魔矢!?お姉ちゃんの想いがでっかいぜ!!」

 

 

 井戸の底から感じるのはたった1晩しか離れていないのに酷く懐かしく感じる暖かで包み込むような強大な霊力、そして聞こえたのは元気であっけらかんとした愛しい妹の声。

 

 お祖父様が札を焼こうとした姿勢で固まり、草太はかごめの声が聞こえた瞬間に飛び起きて…そして私は井戸に飛びついて、戦国時代から今迄で1番声を張り上げたと言える程の大きさで妹の名前を呼んだ。

 

 

「かごめ!!」

 

「あ、お姉ちゃんただいまー!!見て見てお土産いっぱい持ってきたよ!!梯子かなんか掛けてくれると嬉しいな!!」

 

 

 こちらの今迄の心配など知らんとばかりに笑顔全開で腕を振って言うかごめの言葉を聞き、直ぐに梯子を掛けてかごめが来るのを待つ。

 

 その間に我に帰ったお祖父様は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにし、草太は大急ぎでお母さんを呼びに行った。

 

 

 かごめか梯子を登り終え、しっかりと地面に足をつけた瞬間に私はかごめに抱き着いた。強く強く、自分の腕の中にかごめがいることが現実だと実感したくて。

 

 

「かごめ、かごめ…」

 

「んー?んふふー、お姉ちゃんから抱き着いて来るなんて珍しいねぇ。私は嬉しくて今にも戦国時代に戻って四魂の玉を速攻で完成させる勢いだよ〜」

 

 

 戦国時代、四魂の玉…少なからず私と因果関係がある2つの単語。だが今はどうでもいい、今はかごめの体温を、匂いを声を、霊力を、直接感じていたい。

 

 

 そうして気が付けば周りにお祖父様、お母さん、草太、ブヨが居て私達を…特にかごめを涙で濡らした瞳で見つめている。

 

 ブヨが泣いて喜んでるのは意外…というか泣いてるのに驚いたが、なんだかんだで一番懐いてるのはかごめだから無理もないと思う。

 

 

 もっと抱きしめていたいが、お母さん達もかごめに触れたいと思っている。だからもっと触れていたいのをグッと堪えてお母さんと場所を交代した。

 

 お母さん、草太、お祖父様、ブヨの順でかごめに抱き付きかごめが此処に居るのを確かめ、全員が心にゆとりを持ったところでかごめが今迄何処にいたのかの話になった。

 

 

「んーとね、まず井戸に引き摺られた原因が百足上臈の仕業で、その時に井戸の中じゃなくて変な空間にいたんだよね。それで、百足上臈を追い返して井戸に戻ったと思って出たら外に居たの。どうしようか迷ってたらこの家の御神木見つけてやったぁって思って向かったら犬耳で腰を超える位ある銀髪の少年が左胸に矢を射抜かれた状態で封印されてたの。それで村人に拉致られて仲良くなって百足上臈にまた襲われて犬耳少年の封印を解いて百足上臈倒したんだ。その時に身体から四魂の玉が出て来て、50年前にいた巫女様の生まれ変わりだとか言われて崇められて間違って四魂の玉を砕いちゃって色んな所に飛んでって、んで帰って来た!」

 

 

 ほとんど一息で言い切って笑顔を浮かべるかごめ。家族は、そんなことがあったんだぁ怪我はしてない?ていう何とも軽い感じの反応。

 

 さっき迄の重い空気は何処に行ったんだというようなものだが、今の私にはそれを気に掛ける事が出来ない程の衝撃が襲ってきている。

 

 

 タイムスリップや犬夜叉、四魂の玉などどうでもいい…いや、四魂の玉はどうでもよくはないが、最も重要な事はかごめが私の生まれ変わりだと向こうで崇められているという事だ。

 

 50年経っても未だに覚えられてるのは意外だが、何よりもかごめの事だ。何でも、私の生まれ変わりという扱いで色々と優遇されて過ごせたらしい。

 

 昔の私の行いが良かったからなのかは分からないが、とりあえず昔の私良くやった。

 

 

 

 かごめの話によると少ししたら、また向こうに行って四魂の玉を元に戻しに行くらしい。四魂の玉はそれ単体で強力な力を持っている、それは砕けて欠片になっても変わらないのはかごめが持ってきていた欠片を見れば嫌でもわかる。

 

 かごめに四魂の玉が宿っていた。それは恐らく前世に私が四魂の玉と共にこの世を去ったのが原因だと思う。だから、私も行こうと決意したが行く事は叶わなかった。

 

 

 私は戦国時代に行けない。だが、私の霊力を込めた物は向こうに持っていく事が出来た。尚且つ私とかごめがそれぞれ霊力を札に込めて、私がかごめの霊力の宿った札を、かごめが私の霊力の宿った札を持つ事で会話が何時でも出来るようになった。

 

 そして、式神に持てる霊力のほとんどを込めて私と同じ姿にすれば、もう一人の私とまでにはならなくとも比較的近い存在になる。

 

 それをかごめも作り式神を交換して、お互いが離れている間の慰めにするということで私とかごめの意見は合致した。

 

 

 なるべく早く四魂の玉を完成させてゆっくりと暮らしたいからとのことで、明日の朝には向こうに行くらしい。

 

 だからか、かごめのスキンシップが何時もより激しかったが私もそれ以上と言って良いほどにかごめを感じていたかったから願ったり叶ったりだった。

 

 

「それじゃあ行ってきまーす!!」

 

 

 その言葉と同時に井戸に飛び降りたかごめを見送って、かごめの霊力が完全に現代からなくなるのを感じてから蔵を出る。

 

 雲一つ無い燦々とした太陽を見て願うことはただ1つ、かごめが無事に帰ってくるように。

 

 さあ、私も日常に戻るとしようか。かごめが側に居ない事で酷い違和感と言い様の無い不安が私を襲うが、それをグッと堪えて歩き出す。

 

 

 かごめは自分から歩き出している。私もこのかごめに抱いている依存を如何にかして前に進もう。目先の目標は私も向こうに行って、犬夜叉に拳骨することかな。


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