巫女の朝のお勤めと霊力の訓練を終わらせてご飯を食べ、今日も私はお姉ちゃんの手を握って学校に向かうわけだけど、今日は何時もと違うことがあった。
草太が古井戸のある蔵をおろおろしながら覗き込んでいて、私たちを見つけると情けない声で飼い猫であるブヨが中に入っちゃったと言ってきた。
「まったく、男の子なんだからもっとシャキっとしなさいよ。そんなんで彼女できても愛想尽かされるよ?」
「僕まだ小学生だからそんなこと言われても…」
「仕方ない、今回は私がやるから今度から草太がしなさいね」
そう言って古井戸へと続く階段を降りていく途中でピリッとした空気が流れた。あれ、もしかして今日が戦国時代に行く日?
なんて予想しながら古井戸の近くにいたブヨを抱き上げて古井戸に背を向けた瞬間、古井戸を覆っていた蓋が吹き飛び青白い手が私を捉えて古井戸へと引き摺ってきた。
あっと思った瞬間にはすでに井戸の中っていうか変な空間の中。お姉ちゃんと草太が私のことを呼んだ気がしたけど、すぐに意識は私を掴んでる手が一杯生えた女に意識が向いた。
「ああ、嬉しや、力が漲ってくる。妾の体が戻っていく…お前持っているな、持っているのだなぁ!」
「うわ、きもっ」
私に顔を近ずけて長い舌を伸ばす妖怪に思わず口から出た言葉、一瞬妖怪が硬直して憤怒に顔を染めた。あ、現代の言葉の略がわかるのね、何て事を考えつつこの妖怪を私が持つ攻撃系の18ある技の内どれを使って滅しようか迷う。
「貴様、私がきもいだと?醜いだと!?」
「十分醜いですー!腕何本生えてるんですかなんで下半身が百足なんですか!私に触れるな気持ち悪い!!」
いい加減鳥肌が止まらなくなってきたから、両腕に破魔の霊力を刃の形に纏わせXを描くように切り裂いた。これぞ私の持つ18ある技の一つ、クロス・エッジ!!ロックマンでそんな技があった気がするけどそれは気にしない。
「ぐあああああぁぁ!!ぐっ、諦めぬ、諦めぬぞ!四魂の玉ぁ!!」
「へっ、おととい来やがれクソ妖怪!!」
っていうか出来た!つい最近まで刃を形成するのに時間掛かってたのに一瞬で出来た!これぞ火事場の馬鹿力ですか!?
なんて風に私の技がまた一つレベルアップしたことで喜んでたら何時の間にか井戸の底にいた。上を見上げて見える景色は暗い蔵の中ではなく、清々しいほどの青空。
ああ来ちゃったのね戦国時代、確か御神木に犬夜叉が封印されている筈。とりあえずは観光気分で犬夜叉の犬耳を触ってから家に帰るかな。
なんて楽観的な考えで御神木に封印されている犬夜叉を見つけて、犬耳をモミモミしたりお姉ちゃんが死に際に放った破魔の矢を見て感動したりしてたら何時の間にか手足を縛られて村人に拉致されてた。
「いーやー!!はーなーしーてー!!痴漢!レイプ魔!強姦魔!女を人と思わない外道ー!!」
「う、うるさい妖の女め!大人しくしろ!」
「きゃーー!!見ないで触らないで解放しろー!!」
っていう感じで抵抗してたら村道に敷かれているゴザに降ろされた。そしてすぐに腰の曲がった老巫女が来て私に塩を巻きやがった。
「ちょっ何すんのよこのクソババァ!!」
「犬夜叉の森に居たというから妖や物の怪の類かと思うたが…」
「妖怪なわけないでしょうが!見てわかんないの!?あんたも巫女の1人なら妖怪と人間の区別くらいできるようにしろー!!」
私のことをジロジロと見るこの老巫女は犬夜叉の物語で重要人物の楓ばあさんだけど、今は違う。私からしたら妖怪と人間の違いがわからないクソババァだ。
毎日毎日必死にトリートメントやら何やらして、癖があるけどサラッとして柔らかい髪が台無しになったらどうしてくれんのさこのヤロー!!
「んん?お主顔をよくお見せ、もっと、賢そうな顔をしてごらん!」
んのクソババァ…洗顔剤や化粧水や乳液を厳選してもちもち天使な肌を保っている私の顔をぞんざいに扱いおってからに、覚えてろよババア。
「似ている…桔梗お姉様に」
はんっ、当然でしょうが。お姉ちゃんと私は一卵性の双子だぜ?周りからはきりっとしてクールな桔梗、ホワッとして元気なかごめ…本当に一卵性の双子?なんて言われてるけどな!
とかなんとかで気付けば夜になってました。今日の所、というかこの村にいる間はクソバ…楓おばあちゃんの家に滞在する事になったんだけど、私としてはさっさと家に帰りたい。
楓おばあちゃんに私がどうやって此処に来たのかやその証拠となる物を見せて、楓おばあちゃんが私が未来から来た事を信じてくれた後にもぐもぐとご飯食べてたら外が騒がしくなった。
うん、妖怪を感じるのはまだまだみたい。要訓練かな。
「物の怪だぁ!!」
そう叫んだ男の人の言った通りに、私が井戸の中で切り裂いた百足女が家を壊したり馬を放り投げたり、回転して周囲に見境なく体当たりし始めた。
弓矢とかで村の人が攻撃しても意に返さず、四魂の玉四魂の玉騒ぎながら私に標的を絞って激突してきた。
「四魂の玉を寄越せぇ!!」
「はんっ、誰が渡すもんですか!あんたは惨めたらしくこの世から消え去ればいいのよ!!」
「また私を馬鹿にしおってっ…もう許さん!!」
そう叫んで私を殺そうとして来た百足女を見て妙案が浮かんだ。これ、犬夜叉の封印解いて百足女にぶつけてから私が犬夜叉の手綱を持ったら面白くない?ってこと。
それに、犬夜叉の封印を解いたら殺生丸が来るだろうし物語通りに進めば可愛いりんちゃんや、弥勒と珊瑚のニヤニヤな純愛模様を見れるんじゃね?
私は弥勒と珊瑚のイジイジした恋愛を見たいんだー!!ということで作戦決行。
丁度楓おばあちゃんが枯れ井戸の話をしてるからそれに便乗して、私が枯れ井戸に落とす役割を強制的に認めさせた。
「さあ来い百足女!お前が欲しがっている四魂の玉はここにあるぞ!!」
「小娘めっ、さっさと寄越せぇ!!」
おおう、思ったより百足女のスピードが速い。だが残念、私はその上をいく!伊達に色んな武術やフリーラン、パルクール、森の中でのフットワーク練習をしていないわ!!
はーはっはっは!!さっさと来やがれ百足女!私はまだまだ余裕だぞ!!
そう高笑いしながら百足女を、引き離して犬夜叉の元へ到着。どうやって封印解こうかと思ってたらなんか目を覚ましてた。
「おい桔梗、何百足上臈みたいな雑魚相手に逃げてんだ。一発で片付けろよ桔梗、俺をやった時みてぇによぉ。ん?なぁに呆けた面してやがんだ桔梗、もうヤキが回ったのか桔梗さんよぉ」
「へぇ、中々に失礼な奴…まあいいわ。私の顔をよく見てその鼻でよく認識しなさい、誰が桔梗よ」
「ん?…桔梗の匂いじゃ、ねえ」
「やっとわかったの?私はかごめよ、か・ご・め。その矮小な頭によく焼き付けなさい」
「んの女ぁ…確かに桔梗はもっと賢そうだし、美人だ」
その言葉にイラっとしたけど今はそうも言ってられない。何故ならすぐそこまでに百足女が来てるから。
「四魂の玉を寄越せぇ!!」
「はん、いい加減にしつこいわね醜女!!さっさと諦めて死になさい!!」
「小娘がぁ!!」
四魂の玉と小娘しか言えないのかと思いながら、体内に何故かある四魂の玉を追い出そうと試みる。口から出てきたのに驚いて咳き込んだけど結果オーライ、これで百足女に脇腹を噛みつかれずに済む。
「というわけで、そこの犬耳少年!君に決めた!!」
その言葉と共に百足女に四魂の玉を投げつけ、四魂の玉を取り込んで変化したのを見届けてからお姉ちゃんが放った矢を引き抜く。
この一連の間に犬夜叉から馬鹿野郎とか、いつの間にか来ていた村の人達のざわめきが聞こえたけど無視。
「取引してあげる。あの百足女を殺しなさい、そして四魂の玉を取れるものなら取ってみなさい。その時はあんたに四魂の玉を譲ってあげる」
「言ったな女、その言葉忘れんじゃねぇぞ!」
そうして百足女を散魂鉄爪なんていう無駄にかっこいい名前の爪の切り裂き攻撃で、あっという間に百足女を肉片に変えた。
おお、バラバラになってるのに動いてる。流石四魂の玉だね!無駄に力あるよ。
どうでもいい感想を抱きながら肉片の中にあった四魂の玉を取り出すと、一瞬のうちに骨だけになった。おお、これぞビフォーアフター?匠の技で肉片から骨だけに?
「おい女、約束通り百足上臈を倒したぜ。さっさと四魂の玉を寄越せ」
ドヤ顔で宣った犬夜叉には悪いけど、誰も百足女を殺したらあげるとは言ってない。取れるものなら取ってみなさいって言っただけだ。
「はぁ?あんた馬鹿?私言ったじゃない。百足女を殺しなさい、そして四魂の玉を取れるなら取ってみなさいって。誰もあげるなんて言ってないわ」
「んのっ…舐めた真似しやがってっ…、ならお望み通り殺してやる!」
言うと同時に飛び出して来た犬夜叉の首の周りに突然光が飛び込んできて、光が収まったら数珠みたいなのがそこに存在していた。おお、魔法を見た気分!なんかかっこいい!!
「かごめっ、魂鎮めの言霊を!」
「はーい!おすわり!!」
「ふぎゃっ!!」
おお、なんか面白い。ふぎゃっ!!だってふぎゃっ!!この間抜けな姿をお姉ちゃんに見せたいな。多分犬夜叉のプライドズタズタになるんじゃね?
「おすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりおすわりー!!」
容赦のないおすわりの連呼、言いすぎてゲシュタルト崩壊したけどそこはまあ別にどうでもいい。おすわりって言う度にふぎゃふぎゃ言うのが堪らなくおもしろい。
犬夜叉の反応が面白くてバンバン言ってたらいつの間にか微動だにしなくなった。どうやら気絶したらしい、耐久力ないなぁなんて思いながら私を見て冷や汗を流している楓おばあちゃんと周りにいる村人達を促して村に戻った。
明日の朝になったら家に帰ろっと。
「かごめっ!!」
「かごめお姉ちゃん!!」
ほんの微かな妖気を感じた瞬間、古井戸の蓋を破った複数の手がかごめを井戸に引き落とした。急いで井戸の中を見るもそこには何もなかった。かごめの姿も、僅かな妖気でさえも。
かごめがいなくなった。それは覆しようがない事実で、破魔の矢を井戸に打ち込もうが何をしようがかごめの帰ってくる気配は欠片もなかった。
それからの記憶はあまりない。気づいたら、お祖父様が神酒を井戸に投げつけて只管に言霊を紡いでいた。
そのお祖父様の姿は痛ましく見ていられないほどに悲しかった。お母さんがお祖父様の隣で不安と恐怖に彩られた表情で必死に祈っている。草太が、あの時にかごめお姉ちゃんを行かせた自分が悪いと叫び泣いている。
私が今生に生を受けてから一時も離れずに近くに居てくれたかごめ、常に笑顔で周りを和ませてくれたかごめ。
気が付けば私の隣にいることが自然となり、私にとって大事な拠り所となっていた。それは家族全員がそう言えることで、だからこそかごめのが居なくなった此処は虚無以外の何物でもない。
生まれた時から太陽のように暖かく私達を照らしてくれていたかごめがいない。それは決して容認されることではなく、受け入れられるものでもない。
私にできることはかごめが無事に戻って来てくれるように願うことだけ。だから、早く帰ってこい。じゃないと、私は…家族は、如何にかなってしまいそうだ…。