夢うらら   作:さくい

1 / 9
書いている小説に行き詰まり息抜きに書いてます。

更新スピードは作者の気分なので悪しからず。


1話

 戦国御伽草子犬夜叉、それは現代に生きる日暮かごめという少女が家の古井戸に居た時に突然奇怪な女によって井戸へと引き摺られたところから始まる。

 

 家にある御神木とよく似た樹に銀髪で白い犬耳が生えている少年を見つけて、そこから何やかんやで少年を胸に刺さっていた矢の封印から解き放ちその時に襲って来ていた奇怪な女は倒される。

 

 この時に体内から桃色の玉、四魂の玉が出てくるというショッキングな出来事があるわけだが今は割愛。

 

 

 そこから少し時間が経ち鴉の妖怪に四魂の玉を取られたが、かごめの機転によって鴉の妖怪を滅することができた。しかしその結果、四魂の玉は砕け散り各地に欠片として降り注いだ。

 

 そしてその村の老巫女である楓に四魂の玉を元に戻すように言われて犬耳の少年、犬夜叉と共に旅をすることになる。

 

 

 その旅の途中で子狐妖怪の七宝、セクハラ法師の弥勒、妖怪退治屋の珊瑚、珊瑚の相棒の雲母という頼りになる仲間ができるがそれと同時に奈落という最大の敵と出会う。

 

 四魂の玉を巡っての戦い、犬夜叉の兄である殺生丸の精神面と人間関係の成長、かつて奈落の策略により恨み死に別れた桔梗という巫女と犬夜叉とかごめの三角関係、弥勒と珊瑚の純愛等々色々な要素を詰め込んだ物語が戦国御伽草子犬夜叉である。

 

 

 桔梗の最期には本当に泣けたし遣る瀬無い思いでいっぱいだった。桔梗が穏やかに逝ったとしても、犬夜叉と共に生きていくハッピーエンドもあっていいじゃないかと思い二次小説のプロットを考えた社会人3年目のとある日の夜。

 

 次に目が覚めたら日暮かごめという2歳の女の子になっていました。

 

 ショックだった、何故なら日暮かごめになる前は立派に男の子をやっていたんだ。何かの間違いだとか夢だとか思い付く限りの方法で現実逃避してた。だけど折角の2度目の人生、性別は変わったけど楽しまなきゃ損だと割り切り剣術、弓術、拳法と色々やったぜ、死にたくないからな。

 

 

 日暮神社、日暮かごめ、日暮草太、ママ、おじいちゃん、そして蔵に保存されてた叢雲牙。これだけの要素があれば此処は犬夜叉の世界であると断定できる。だから来る日に備えて自身の力を付けるのに戸惑いはなかった。

 

 そして女の子として生きることにも戸惑いはなかったりする。まぁ、女の子になったんだし女の子っぽく生きていきましょっと思ってたら女の子的な行動と思考が自然となりました。

 

 あくまで女の子的であって立派な女の子にはなっていないと思う。

 

 

 ただ一つ戸惑いがあるとすれば私に双子の姉がいるということ。名前は桔梗、容姿は太腿にまで届くほどの濡羽色のストレートでクールな印象を抱かせる黒の瞳、整った小鼻に桜色の唇で肌は白魚の様に綺麗な言葉通りの美人さん。

 

 そう、犬夜叉と恋仲にあり奈落の手によって人生を滅茶苦茶にされ、最期の最期に涙を流して犬夜叉と口付けを交わし空に逝った悲劇のヒロインの桔梗様その人である。ちなみに私はお姉ちゃんって呼んでる。

 

 性格は基本的に優しい、私が間違ってお姉ちゃんのプリンを食べた時は次からは気をつける様にだけ言って許してくれたし、私が唐突にお姉ちゃんの部屋に入って抱き着いても優しく抱きしめ返してくれる。決してセクハラではないので悪しからず、ただの姉妹のスキンシップでございます。

 

 それに、私が家にある道場でアニメでやっていた気を実際に使えるかと試して全身から桃色の光が迸ってテンパった時も私を宥めて使い方を教えてくれたりした。桃色の光はやっぱり霊力らしい、しかもお姉ちゃんと同じ破魔の力を持ってるとか。

 

 

 さっすがヒロイン、中身の人格が変わってもその身に宿す霊力は凄いらしい。お姉ちゃんがちょっと困った風に笑って教えてくれた。ただ、お姉ちゃんの転生体でもないのになんで高い霊力を持っているのかが疑問である。

 

 

 お姉ちゃんは憂いと憎悪を帯びた瞳で夜空を見上げることがあった。多分犬夜叉のことを思い出しているんだろうということは想像に難くない。

 

 そんなお姉ちゃんの表情を見たくなかった私は金魚の糞の如くお姉ちゃんの後をついて周ったり、所構わず抱き着いたりと犬夜叉の事を思い出させない様に無駄な足掻きをしてみた。

 

 

 その結果、私とお姉ちゃんは常に一緒に居るというのが家族や友達の認識になり先生からは日暮姉妹と一纏めで呼ばれる様になったりしている。

 

 

 そんな私が今居るのは家の敷地内に何故かある屋外訓練場、道着を着て霊力のコントロール向上と技の開発をしている。霊力なんていう不思議パワーに目覚めたんだからやらなきゃ損だよね、なんていう考えで色々やってるけどこれが何ともやりごたえがある。

 

 

「自身の腕を刃と思え、その刃は何者をも消滅させる絶対の剣、己は刃であり刃は己、その刃は己の敵にだけ向けられるものである」

 

 

 自分のイメージを明確にするために言葉で補強する、肘から指先50cmの所までにある強固で鋭い刃があると只管に信じる。

 

 瞑っていた目を開けば桃色をした刃がしっかりと出来ていた。それを周りにある木の棒に向かって斬りつける。

 

 左上からの袈裟斬りをしてその勢いのまま回転して木の棒を斬り飛ばし、飛んだ木の枝をそれぞれ2回斬り捨ててから空に向かって破魔の霊力の斬撃波を飛ばした。

 

 カランカランと乾いた音を立てて落ちた木の断面は滑らかで綺麗に切れている。それを見てから腕の霊力を霧散させて少し離れた所で見ていたお姉ちゃんに抱き着いた。

 

 

「できた!できたよお姉ちゃん!まだ刃を形成するのに時間掛かるけど飛ばすことが出来た!!私の夢の一つが叶ったよ!!」

 

「よしよし、少し落ち着け。嬉しいのは分かるけど少しはしたない、もう少し慎みを持て」

 

「はーい!ところでお姉ちゃん、またおっぱいおっきくなった?」

 

「そういうところを直せと言ってるんだがな…まあ、それがかごめか」

 

 

 苦笑を零して抱き着いて胸に顔をぐりぐりしている私の頭を優しく撫でる手が非常に心地いい。できるならずっとこのままがいいけど、それもできない。

 

 何故なら後少しで朝ご飯の時間だからだ、でももう少し…草太が呼びに来るまではこうしてよう。お姉ちゃんが魅力的すぎるのが悪いんだ。

 

 

 その後草太に呼ばれて朝ご飯を食べてから制服に着替えて学校にレッツゴー。歩いている時は抱き付かないようにとお姉ちゃんに言われてるから手を繋いでる。

 

 滑らかでしなやかで暖かいお姉ちゃんの手をにぎにぎしながら鼻歌を歌っている私を、お姉ちゃんが途轍もなく暖かい眼差しで見てるのが非常にこそばゆくて嬉しい。

 

 

 そんなこんなで学校に着きクラスに入る、席は窓側の席の後ろから2番目でお姉ちゃんは私の後ろというパーフェクトポジション。

 

 席に着いて勉強道具を机にしまってから後ろを向いてお姉ちゃんと談笑する。クラスメイトが言うにはこの時に、私とお姉ちゃんの間に白百合の花が咲き乱れるらしい。それなんて褒め言葉?って言ったらそれを聞いていたクラスの全員が苦笑いしていた。

 

 ちなみにお姉ちゃんはその言葉の意味がわからなくて首を傾げていた。可愛すぎるぜお姉ちゃん!

 

 退屈な授業を技の考案と考察で潰し、休み時間はお姉ちゃんにじゃれつくというサイクルで過ごしてお姉ちゃんと一緒に家に帰る。これが私の日常である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦国時代と呼ばれる時間軸、そこで私は1人の巫女として確かに存在していた。

 

 各地を旅して妖怪を退治し、病気や怪我に苦しむ人達を救う。時としてそれが間に合わず死を看取ったり、何故もっと早く来なかったのかと罵詈雑言を吐かれたこともあった。

 

 その時は胸を痛めたし傷ついたりしたが、それも巫女としてまだ未熟だった私が犯した罪。甘んじてそれを受けて次はこうならないようにと胸に誓う。

 

 そうして旅を終えた私は汚れた四魂の玉を清めてほしいという依頼を受け、四魂の玉を妖怪から守る任に就いた。

 

 

 そんなある日に百足上臈に襲われかけた楓を救ってくれた犬夜叉と出会い恋仲にまでなり、犬夜叉が四魂の玉を使って人間に成ると言ってくれたのを私は喜んだ。

 

 四魂の玉は恐らく、犬夜叉が人間に成るために使えば消滅する。そうすれば四魂の玉を守る必要もなくなるし、私はただの女として犬夜叉と生きていける。お互いにそう夢を見て口付けを交わし、笑いあった。

 

 

 だが、その夢はいとも簡単に崩れ去った…他ならぬ犬夜叉の手によって。

 

 私を爪で切り裂き昔に渡してくれた紅を踏み抜いて、私に近づいたのは四魂の玉を手に入れる為だったと言い捨て去って行った。

 

 その場に残された私の心を支配したのは悲しみと絶望、そして憎しみ。犬夜叉を殺すということだけが私を突き動かし、そして、四魂の玉を奪った犬夜叉を射抜いた。この時に殺さずに封印したのは、私の中に情があったからか…。

 

 そして死の間際に楓に私と四魂の玉を火で葬るように伝えて死んだ。

 

 

 気が付けば、私が生きていた時の遥か先の時代に再び生まれていた。最初は意味がわからず混乱して、犬夜叉に対する憎しみを抑えきれず暴れに暴れた。

 

 まだまともに動けない乳飲み子の時でさえ今生の母親にできる限りの抵抗をした。ある程度動けるようになれば手を出して拒絶することもあった。

 

 前世で自分を律し感情を抑制してきていた反動からか、この時の私は感情を制御することはできなかったというのはただの言い訳に過ぎない。

 

 

 そんな私を変えたのが私と一緒に生まれた双子の妹のかごめだった。自我が芽生えて動けるようになると私についてまわり、私のちょっとした反応で喜んだり泣いたりしていた。どんなに突き放して泣かせても数分後には元に戻ってまた私についてまわる。

 

 そのかごめに対して苛立ち、乱暴な扱いをしても私から離れようとはしなかった。何故私について来るのかとかごめに聞くと拙い言葉で言った。

 

 

「だって…おねえちゃんが、かなしそうだから。いぬのみみがあるおとこのひとのせいなの?おとなになったおねえちゃんをうらぎったから?わたしじゃあ、あのおとこのひとのかわりにならないかな?」

 

 

 その言葉を聞いて私はひどく狼狽して…気付けば、何故かごめが犬夜叉のことを知っているのか、どこでそれを知ったのかとかごめの細い首を絞めながら叫ぶように問いただしていた。

 

 首を絞めらても怯えずに私を見るかごめに更に苛立ち、いっそこのまま殺そうかと思ったところでかごめの口が開いた。

 

 

「ゆめをみたから」

 

 

 そう言って私の頬を淡く微笑みながら撫でるかごめに呆然として、気が付けば首を絞めていた手の力は緩んでいた。

 

 

『裏切られたのは悲しいことだけど何時迄もそれに縛られていたら駄目、立ち止まってもいい泣き叫んでもいい。ただ、ずっとそこにいては駄目。いっぱい泣いていっぱい叫んだら…後はゆっくりでもいいから歩いて。そうすれば何時の日にか、これからを生きる為の糧になるから』

 

 そう言いながら私を抱き締めるかごめの手が、声が、心が暖かくて優しくて、憎しみに囚われて凍りついていた心の氷は溶けて…その日、初めて私は声を出して泣いた。泣いて泣いて、そしてかごめの言葉通りに前に進もうとグチャグチャになった心内で誓った。

 

 今まで蔑ろにしていた家族に歩み寄ろう、今まで拒絶していたかごめに歩み寄ろう。私が家族にして来たことは消えるわけじゃないけど…それでもまだ、間に合うと思うから。

 

 

 だから犬夜叉、お前への怨みとはここでお別れだ。そして再び与えられた生を精一杯に生きていこう。

 

 

 そう決別して決意した瞬間、私の心にある何かが外れた。それは憎しみという枷であり、今まで私自身が望んでつけていた鎖。

 

 外れたと認識した私の目に映ったのは憎悪に囚われた薄暗い色ではなく、柔らかに降り注ぐ優しい鮮やかな色。

 

 

 それがひどく眩しくて目を閉じて、気がついたら目の前にかごめの寝顔があった。泣き疲れてそのまま眠っていたらしい、そんな幼子のようなことをした自分に思わず苦笑してこういうのも悪くないと感じ、隣にあるかごめの寝顔を見た。

 

 安心しきったように安らかに眠り、時々おねえちゃんと言いながら笑顔を浮かべるかごめが愛おしく感じる。口元によだれを垂れ流しながらほにゃっと顔を緩めたかごめの口元を拭き胸に抱きしめる。

 

 かごめを見て愛しさが湧き出るのを感じてさっき迄の自分とはえらい違いようだと苦笑いする。今感じてこの先も感じていたい妹の温もりを抱き締めて、私はまた再び眠りについた。

 

 

 後に、あのかごめの言葉がアニメで見て覚えたものだと知った私はかごめの記憶力に感心したのは別の話。

 

 

「おねーちゃーん!!ぎゅー!!」

 

「まったく、かごめは甘えん坊だな」

 

「んふふー、私のこの甘えん坊な面はお姉ちゃんにだけだよ。もっと頭撫でて撫でて!」

 

 

 そう言って私を抱きしめる腕の力を少し強めて全身で甘えてくるかごめの頭を撫でる。少し癖があるけど柔らかいその髪からは私と同じシャンプーの香りがして、かごめの体温と共に私を包み込む。

 

 それが酷く心地よくてかごめの頭を撫でていた手を背に回して抱きしめ返せば、嬉しそうに目を細めるかごめの顔が見える。

 

 

 中学3年生のとある休日の日、風が優しく吹き花弁が舞い踊る場所で私とかごめは抱き合いながら笑い合う。願わくばこの日が永遠に続くように、そう願いながら安らぎに身を任せる。

 

 私の名は日暮桔梗、かつて戦国の世に生きた1人の巫女であり、そして現在愛しい妹を持つ1人の巫女である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。