原作キャラが勝手に模擬戦するようです   作:チビメガネ

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 香取 葉子
 初登場時は、口の悪い女の子というイメージであったのに関わらず、ランク戦終わった瞬間に葉子ちゃんという新たなジャンルを築き上げた将来有望な女の子。作者はあんな感じの成長フラグの立て方に非常に弱い。前回の話は影浦vs香取になるはずだったが、影浦が殺人鬼にしか見えなかったので断念した。

 笹森 日佐人
 風間さんに勝手に死ねと言われた結果、急激に成長した将来有望な男の子。作者はあんな感じの成長フラグの立て方と回収の仕方に非常に弱い。作者は諏訪さんのことが結構好きではある。しかし笹森が隊長になったときに、「あの笹森隊長が、ルーキー時代に隊長を務めていた男」という羨望の眼差しで、諏訪さんが見られることを認めることができない。



香取葉子 vs 笹森日佐人

 

 香取隊 作戦室

「何それ、アタシが悪いわけ? 」

 クッションのようなソファに寄り掛かかった体勢のまま体を動かさず、香取は若村のことを睨む。

 

 たとえ香取隊でなくても、不機嫌さを読み取れるその声のトーンに臆せず、「そんなこと言ってないだろ」と先程より大きな声で言いながら、若村も睨み返す。

 一触即発な雰囲気を悟った三浦は少し慌てながら、香取のそのような態度に慣れているためか染井は冷静に2人の間に入る。

 

「ろっくんが言ってるのは、葉子ちゃんだけが悪いってことじゃなくて、今回の囮作戦の反省点を洗い出そうって話だよ」

「今回のランク戦を次に繋げるための会議で葉子だけの話じゃない。わたし達の話よ」

 若村とは違い声のトーンも変えずに淡々と言いながら、染井は香取に視線を送る。

 

 三浦と染井の言葉に、「何、2人も麓郎の味方なわけ? 」と不機嫌なままそっぽを向くことができなくはない。しかしそのような行動ができる程、今の彼女は図々しくはない。従って彼女がする行動は1つである。

 

「やるんでしょ、反省会……アタシも暇じゃないんだけど」

 若村と口喧嘩が始まったことが原因で、反省会は止まっていたため、まずは香取の言葉により反省会が再開する。

 

 口では面倒くさそうに言いながらも、携帯を取り出し物置の上に置く姿は、傍から見たらやる気があるようには見えない。しかしそれを指摘しないことが、今の香取隊の暗黙のルール。

 

「麓郎悪かったわね」

 ソファに戻った後机の上に置いてあるタブレットを手に取り、前の試合の記録(ログ)に視線を落としながら、香取は若村に謝罪をする。

 

「……まぁ、俺も言い過ぎた」

 その香取の謝罪に対し、若村も香取と視線を合わせずに小声で謝罪する。

 

 そのような2人のやり取りを見て笑うと怒られるため、心の中で笑みを浮かべる三浦を余所に、染井は眼鏡の位置を直して、一呼吸置く。

 

「それじゃ再開していい? 」

 数分前の議題に戻ろうとする染井は、香取の方を見る。

 

 反省会が行われている机を囲うように染井と三浦と若村が立っており、染井の正面には香取がソファに陣取っている。そのため、香取が少しでも顔を上げれば、染井と視線が合うこととなる。

 

「……ん」

 染井の視線の意味を悟った香取は、記録(ログ)の方を見ながらも全員に聞こえる声で頷き、反省会を催促する。

 

「今回の葉子の囮についてだけど……」

 ランク戦の記録(ログ)を多少は見るようになり、香取自身改めて突き付けられたことがある。

 

 それはこの前負けた玉狛に限らず、他の隊も考えて臨み試行錯誤しながら自分の隊の形を作り、ランク戦に挑んでいるということである……それも上位の隊になるにつれて、その精度も増すということだ。

 流石に考えている隊もいることは分かっていたが、彼女にとってそんなめんどくさいことは、東や二宮のような戦術(そういうの)戦術が好きな人がやるものであり、自分のように、そのような工夫や勉強が苦手で嫌いな隊員はするものではないと思っていた節がないと言えば嘘になる。

 工夫や勉強が重要であることは、チームで戦うという面だけでなく、香取本人にも言えることである。若村には今更恥ずかしくて言えないが、上位を走っている隊員に対して、その人との差ばかりに目がいき、工夫をせずに勝手に「上位との壁」と認識してしまったことは甘かったのではないかと多少は思い直すようにはなっていた。

 そこでここ数日ブースに入り浸り、適当に見つけた相手と個人ランク戦をしていた。彼女曰く、「何か最近イラつくから」らしいが、それを鵜呑みにする程攻撃手達も馬鹿ではない。ただそれを初めて聞いた男は、そのことをからかうことはなかった。理由は簡単である。

 

「別に理由はどうでもいいっしょ。ブースにいるんだし、やればよくね? 」

 その男が米屋だから。それ以上でも以下でもない。

 

 ここでもし彼女の言い分をからかったならば、彼女はその日はブースを後にしただろう。その点に考えれば、香取が米屋に初めにあったことは良かったと言えるだろう。しかし、彼女は知らなかったのだ。米屋を中心としてブースに良くいる攻撃手連絡網が張り巡らされていることを。そして連絡先を交換ついでにその連絡網に入れられていることを。だから彼女は後悔したのだ。

 いっそのこと戦いたいと正直に打ち明ければよかったのか。そうすれば反省会の途中に、しかも染井の言葉を受け、若村に謝罪の言葉を言う直前に……

 

「今笹森が戦いたいらしんだけど……暇? 」

 なんていう空気の読めない通知を読まずに済んだのに。

 

「葉子ちゃんも何か意見ある? 」

「別に麓郎は悪くはないでしょ。あんな援護狙撃できんの、東さんだけなんだから……いくら華が言ってたって防ぐのなんて無理よ。いっその事狙撃をなくすのを止めて狙撃あるって形で作戦組むのは無しなわけ? 」

 内心米屋に毒づきながらも、三浦の問いかけに対して答えたことを皮切りに、香取も反省会に再び参加する。

 

 反省会が終わるまでまだ時間があるものの、既にその後の香取の予定が埋まる。

 

『今回も実況を務めさせてもらいます! 海老名隊オペレーター、武富桜子。そして解説は、三輪隊の米屋先輩に呼んで頂いた、このお2人! 』

 本日も変わらず、元気のよい挨拶から始めた武富が挙げた右手の先に座っているのは……

 

『嵐山隊の時枝先輩と太刀川隊の出水先輩です! 』

『どうぞよろしく』

 小さく笑みを浮かべた上で、会釈をする時枝と笑みを浮かべながら右手で武富の方を向く出水である。

 

『さて、本日は個人ランク戦の解説ということになりますが、見どころはどこになるでしょうか』

 明らかに手書きの「個人ランク戦特別実況&解説席」と書かれた腰幕が付けられている長机に座っている武富が、隣に座っている時枝と出水に話を振る。

 

『そうですね。チーム戦であるランク戦と違って、チームの形に落とし込む前の冒険ができるのは個人ランク戦のいいところですから、そういったところも見どころだと思います』

『チーム戦だと完全にサシにならない以上、気兼ねなく戦うってことはできないし。事前準備って言い方が正しいかは分からんけど、色々試せるのが個人ランク戦って感じだよな』

 出水は、武富の質問に答える時枝の解答の補足をする。その2人の意見に対し首肯をした後、武富は再び前を向く。

 

『さて、戦いはどうなるのか。香取隊員 vs 笹森隊員、個人ランク戦2戦勝負! まもなく転送開始です』

 武富の声がC級ブース中に響いていく。

 

 

 1戦目

 

 

『香取隊員は北側に、笹森隊員は南側に転送された。互いに身を隠さず進んでいく』

『さっきも言った通りサシなんだから、わざわざバックワームでトリオン減らす意味もない。それに着たら着たで何か作戦あるなんてバレバレだしな』

 MAP北側から南下し、香取は笹森のいる方角へ直進。

 

 香取の動きに対して、笹森は香取のいる方角である北東へは直接向かわず、そのまま真北への移動を選択する。その動きを受け、香取は笹森の移動に合わせて南下していく。

 笹森が北東の方向へ移動したならば、向かい合うはずであった一軒家だけが立ち並ぶ生活道路ではなく、2本の路地を挟んだ少し広い道路で対面する香取と笹森。この路地にはその生活道路にはないマンションが数棟存在している。

 香取は笹森を視認すると、左手で引き金を引いていく。一発目の弾道は、笹森の盾に防御されるものの、即座に右に回り込んで笹森に当てにかかる。笹森も流石にそのまま食らい続けてはくれないが、そこはまた回り込んで腹に当てにいく。

 

『香取隊員、孤月の間合いよりも外で銃撃を続ける! 笹森隊員は踏み込むこともできない』

『銃での攻撃は、動ければ動ける程攪乱できますからね。広い場所で撃てるならやりやすいです』

 笹森が右に盾を出せば、左に回り込んで引き金を引き、笹森が踏み込もうとすれば、腹に狙い定めて、香取は引き金を引いていく。

 

 旋空を出すこともできず、銃撃を往なすことに集中する笹森であったが、肩から腹までに数発の弾が掠り、トリオンが空中に漏れ出している。何度か試みてはいるものの、銃撃により踏み込むことができず、自身の間合いに持ち込むことはできずにいる。

 笹森が考え得る選択肢は大まかにみて2つ。突撃か撤退。

 突撃の場合、相手の攻撃を捌いた上で急接近して自分の間合いに入り、斬り合いに持ち込むことになる。この場合、急所の攻撃さえ気をつければ、自分の間合いに入れないことはないだろう。しかしこの場合、腕か足を落とす可能性が高い。孤月の重さと香取の強さを考慮すると、身体のどこかを落とした状態での斬り合いは負けると考えて間違いない。チーム戦なら、そこで押さえつけてという方法も有りだが、これはあくまで個人戦。突撃は切り捨てていい。

 そうであるならば取るべき選択肢は撤退である。

 

『笹森隊員、シールドで弾丸を防ぎつつマンションへ移動。しかし香取隊員も逃がさない。笹森隊員を追いかけていく! 』

『攻撃を受け続けている以上、その場に残っても最悪トリオン切れで負けてしまいますから距離を置くのは悪くない判断だと思います。ただ単なる逃げなら当然香取隊員も追いかけてきますから、状況は変わりません』

 背後から笹森を狙う弾丸は、急所には当たらないまでも追加で何発か掠る。そのうちの何発かは笹森を通り過ぎマンションの部屋の扉に傷がつくことも気にせず、香取は銃口を向けた上で笹森を追いかけていく。

 

 盾を背後に生成している笹森を追いかけるようにマンションに入っていく香取は、廊下を直進して逃げる笹森に変わらず引き金を引き続ける。

 笹森は、そのうちの一発を左肩に掠らせながらも、香取に向かい直る。

 

『本当にただ単なる逃げならね』

 笹森の手から離れ外に放たれた軌道は、半円を描くように香取の左腕を狙う。

 

『笹森隊員、ハウンドを選択! 香取隊員、すぐさま銃撃を止めてシールドを生成! 』

 横から襲い掛かるハウンドに対しては、銃撃から防御に切り替えて避け、踏み込んでくる笹森には対しては、スコーピオンを生成し右腕で処理をする。

 

 香取に後退の隙を与えないように、笹森は追撃として再度孤月を振っていく。その攻撃に対し香取は左の刀でそれを往なしながら、右の刀で笹森の首を狙う。

 笹森は後退をしてそれを防ごうとするも、切っ先が頬に掠る。しかし次の左からの攻撃は孤月で往なし、後退しながら、再び外へ向けてハウンドを放射。

 

『王子隊の真似ですね。ハウンドを使って相手に攻撃の隙を与えない』

『普通に向かい合って香取ちゃんとやったら敵わない。なら違うことをしようって考えだな』

 再び横から襲い掛かるハウンドをシールドで防ぎながら、香取は後退を余儀なくされる。香取に当たらず通り過ぎた弾は、扉を破壊していく。

 

『笹森がどこまで考えてたかは分かんねーけど、廊下っていう狭い一本道に誘えたのはやりやすいな』

『というと……どういうことでしょう? 』

 香取の後退を受けて、笹森は再び踏み込んでいく。その際、三度目のハウンドを生成する。

 

 香取は、三度襲い掛かってくるハウンドを後退と盾で避けきった上で、笹森の攻撃を一回、二回、三回と左の刀で捌いていく。

 

『さっきみたいな広い路地みたいな感じだと、角度もつけられるし、銃撃なら攪乱しやすい。それに比べて今いる場所はただでさえ狭い上、相手はハウンドを使って、孤月で接近してくるわけだろ。そりゃ攻撃捨てて、両方シールドってこともできるけど、香取ちゃんの性格考えると隙を見て攻撃したい。そう考えるとスコーピオン持ちでたまにシールドってことになるでしょ』

 笹森の孤月の斬り下ろしに対し再び左のスコーピオンで往なした上で、自身は横に踏み込んで背後に回っていきながら、右のスコーピオンを振り切っていく。

 

 笹森はどうにかシールドを生成し、自身の首を狙ってくるスコーピオンを間一髪で防ぐ。金属音が響くのを余所に、香取の方を振り返り、一突き。

 香取は、大きく後退して孤月の切っ先が届かない位置まで移動。左足が再び廊下に付いた瞬間に廊下を大きく蹴る。そして右の刀で心臓を一突き。その突きは、峰に左手を添えた孤月で辛くも避けられるものの、体勢を崩すことに成功する。

 

『そうなるとスコーピオンは出しっぱなしになるわけだから、孤月とやり合えば、いずれスコーピオンは一瞬壊れる。その瞬間を狙われたら香取ちゃんとしては危ない。逆に言うと笹森はそれ狙いってことになると思う』

『そうですね。香取隊員もそれは分かっていると思うので、これからどうするかが気になるところです』

 武富が出水と時枝の意見に対し首肯するのと同時に、どうにか放つことに成功したハウンドにより、笹森は難を逃れる。

 

「……」

 盾を使ってハウンドを避けきりながら、香取は正面に立っている笹森の方を見る。

 

 トリオンの漏出が止まり、トリオンが空中を漂っている状況ではない。しかし、その身体は生身であれば立っていることが不思議なくらい身体中のあちこちに穴という名の傷が多く存在する。その姿は、生身であれば何故立っていられるのかと恐怖さえ覚える姿になっている。そうであるのにも関わらず、彼が諦めていない。次は何をすれば勝てるのかを考えていることは、目の色を見れば分かる。少し前は今以上に、工夫や努力に嫌気が指していたのだ。従って、そのような姿を察するのは、人並み以上に敏感だ。

 

「ハウンド」

 弾の軌道は半円を描くようにではなく、彼女に直進するように放たれる。

 

 香取はその軌道を察知し、先程のハウンドで壊れた扉から部屋に飛び込んでいく。それを追いかけてきた笹森の一突きを玄関先で右の刀で往なしていく。しかし勢いまでは殺しきれず、おそらくリビングだと考える位置まで飛ばされる。飛ばされる間に、横目で少し刃毀れしている右のスコーピオンを確認する。

 おそらく笹森が次選択するのは、ハウンドによる射撃か踏み込んで孤月での連撃。いや、部屋に入り込んだ時点でハウンドはないと考えていい。彼女から見ても少し使い方が粗い。狭い部屋で当てられると考えはしないだろう。加えて笹森は、トリオン切れに陥るのも時間の問題である。接近戦にしていく際に、わざわざ当てられるか分からないハウンドでトリオンを消費することはない。そうなると孤月でスコーピオンとの斬り合いからの自分の首か。

 そのように直感で思った彼女は、部屋に足が付いた瞬間に右の手の平を天井に向け、小さい光の球から板を生成する。

 

『香取隊員、グラスホッパーで逃げる算段か! 笹森隊員、急いで追いかける! 香取隊員がグラスホッパーを踏む前に仕留めにかかる! 』

 その板の角度から、香取が先程撃ったハウンドの流れ弾により壊れた窓から逃げていくつもりだと笹森は考えた。

 

 香取とグラスホッパーとの差は、3歩分。笹森と香取との差は残り1歩。追い込みには成功した。後は香取を狙うだけ。

 しかし香取の選択は、この戦場からの離脱ではなく笹森が踏み込んだ上で刀を振り上げる瞬間を待つことであった。

 

『香取隊員も踏み込んだ! 笹森隊員の首を狙う』

 笹森の踏み込みに対し、彼の横に足を出すことにより攻撃を避けながら、左の刀で左半身を斬り落とす

 

「……くっそ」

 笹森は多量のトリオン漏出を経て、緊急脱出(ベイルアウト)していく。

 

王子(あっち)の方がもう少しウザい使い方するわよ。バカ」

 踏み込んで振り切ったことで、笹森の背後に移動していた香取は、顔だけ後ろを振り返り笹森の方を振り向き小声で呟く。

 

『1本目、香取隊員の勝利です! 』

 笹森の独り言のアドバイスなのか、それとも単なる嫌味であるのかは彼女だけにしか分からないが、少なくとも不機嫌な顔をしていないことは解説席から読み取ることはできる。

 

 

 2戦目

 

 

『香取隊員と笹森隊員再び相見える! 先程と同様、香取隊員が笹森隊員の間合いの外で銃撃する展開だ! 』

 先程と同様、香取が攻撃手の間合いの外で銃撃を繰り返す。

 

 笹森との誘いに安易に乗り、建物へ侵入した結果、自分優位の戦いのバランスが多少崩れたことは認めざるを得ない。染井にも若村にも言われたことだ。

「何も考えずに突撃はしてはならないということ」

 香取曰く、「華に言われるのはいいけど、麓郎(アンタ)に言われるのはムカつく」らしいが、向かい合う相手の状況や性格を考えずに突撃することが痛い目を見るというのは理解ができていた……はずであった。しかし今回も突撃してしまった。勝てたとはいえ、反省するべき点である。

 

「……ムカつく」

 小さく呟きながら、香取は銃口を笹森に向け続ける。

 

 銃手や射手が本職でもないため、撃ち続けるというのはトリオンが持たない。そのことは流石の彼女も理解できている。しかし、先程の1戦目もこの2戦目も笹森が自分の動きに完璧に追いついていないことは明白である。落ち着いて照準を合わせた上で、手でも足でも落とし近づいて首を刈り取ればいい。

 

『まあ笹森も流石に二度も同じ手に引っかかるなんて思ってないでしょ。誘い込みっていう作戦は変えてくるだろうな』

 笹森がハウンドを生成し8分割。うち4つが右から、残り4つが左から半円を描くように香取の両腕を狙う。

 

 香取はグラスホッパーを踏みこみ急速に後退することで、ハウンドの誘導半径を切っていく。

 笹森はその瞬間を狙っていたかのように自分の間合いに近づいていき、勢いよく刀を振り降ろす。

 

『笹森隊員の旋空孤月! しかし香取隊員は難なく躱していく』

 香取は地面に足が付いた瞬間に横に蹴り上げて、斬撃を躱しながら引き金を引く。

 

 響く金属音を余所に、香取は先程開いた差を埋めようと大きく踏み込みながら一発を当てようと試みる。笹森がハウンドを山なりに放射し接近を阻止してくるため、想定以上に近づけず再び後退。

 

「……」

 迫りくるハウンドに後退しながら、捌き切れない弾は盾を生成し、自分の腕への貫通を阻止する。

 

 2戦目の間合いは1戦目同様、銃撃ができる距離になっている。別に一定の距離は保持していないまでも、攻撃手の間合いではないことは明らか。

 1戦目然り、2戦目も銃撃。ハウンドを初めから選択していない1戦目以上とは言わないまでも、やはり笹森に傷は負わせることに成功はしている。

 ただ気に食わないことはある。

 1戦目のように逃げを選択せず、ある程度戦う意思を見せていることだ……そう、ある程度。使い方は粗いにせよ、ハウンドは1戦目同様彼女の攻撃の間隔を伸ばしていることは事実。認めたくはないが、急所を狙いにくくしていることも事実である。しかし傷は負わせてはいる。だからいずれは腕か足を削れると思った。

 前回のランク戦の総括だか前々回の総括だか忘れたが、誰かが言っていた記憶がある。

「いけると思った奴程やりやすいもんはねーわな」……と

 あの時とは状況は違うかもしれない。しかし身体を撃ち落とした後スコーピオンで狙う方針を曲げず、引き金を引き続け、トリオンを削り過ぎたという間抜けな結果に陥れられる奴だと思われているならば……

 

「……ホントムカつく」

『香取隊員、方針を変えましたね。初めから近距離で落とすつもりみたいです』

 心外である。

 

 どこぞのA級隊員じゃないし、玉狛の白いチビじゃない。速さも鋭さも足りてない……大体ご丁寧に2枚もグラスホッパー入れたりする用意周到なことアタシがするわけない。でも真似事(そんなん)でいいなら、アタシだって……やれる。

 根拠はない。でもやれる。

 心の中で言い聞かせた上で、香取は丸い光の玉を右手の平に発生させる。そして、笹森がハウンドを撃ち終えた瞬間に、香取はグラスホッパーを踏み込み急接近する。

 1枚目を踏み込んだことで、笹森の右斜め後ろに移動し、2枚目を踏み込んだことで左斜めに移動する。背後を取られたことだけ理解をした笹森が顔を後ろに向け、孤月を振ろうとするも、一手遅い。その時にはすでに前に移動し、左の刀を斬り下ろす。笹森も左肩に攻撃を受けたのであれば、流石に孤月を正面に振り下ろそうとするが、それを嘲笑うかのように2回の移動を経て、背後に回り込むと同時に右脇腹に一突き。

 

『やろうとして実際やれるのは流石の一言だけど、あのスピードで自分の思ってたとこに斬りつけるってのは案外難しいと思うぜ』

 心臓を狙った突きが、右脇腹にずれてしまったが後悔をしている時間は流石にない。笹森が反応する前に横を取りにかかる。

 

 翻弄していることには変わりない。ただこのまま調子に乗るとまた手を打たれる可能性もある。香取自身まだ誰がどの程度考えられるのか良く分かってない。だから念には念を入れる。

 また逃げられるのはムカつく……そのような理由から機動力を減らすために足に狙いを定める。

 左横、正面からの右斜め後ろへの移動。正面から後ろに移動しながら左の刀を振っていく。香取として右足の下腿(かたい)全てを斬り落とすつもりであったが、下腿の一部しか落とせない。しかし、体勢を崩すには十分である。従って次の一撃で決めることができる。

 そのように思った香取であったが、笹森もこのまま負けを譲る男ではない。

 右の背後に移動することだけ理解すると、刀を突き立てるように突き刺す。その突きは、香取の身体の一部を刈り取るという結果こそ生まれないものの、香取の最後の一撃を躊躇させることに成功する。

 

『笹森隊員、ハウンドを放射! 香取隊員を遠ざける』

 体勢を崩しながらも放たれるハウンドにより、香取を撤退させる笹森。

 

「ハウンド」

 考えが甘かった自分を反省する暇はない。次近寄られたら終わりであることは明らかである。

 

 バランスが崩れている自分に斬り合いはない。それは1戦目のときも思っていたことだ。もう一度旋空を出すか。これもない。バランスの問題もある。ただそれだけでなく、ハウンドで相手を動かす技術が自分にない以上、先程のようにハウンドを使ったところで斬撃を冷静に捌かれるだけだ。1戦目と同じこと。それは自分が落ちる数秒前と言っても過言ではないこと……それならばすることは一緒だ。

 

『笹森隊員、再びハウンドを放射! 香取隊員は近づけない! 』

 笹森は自分ができる一番多い分割数で弾を放射した後、路地裏に逃げ込む。

 

 幸いにも路地裏に近い位置にいたことにより、香取がハウンドの処理をしている間に1回は道を曲がることができる。そこでその路地を右に曲がる。

 路地裏に入り込むことを確認した香取は、ハウンドの処理を終えてすぐに笹森の後を追うように張り込んでいく。あの機動力ならそこまで遠くまでいっていないはずであると考え、周囲を見渡しながら笹森を探す。

 

『近い距離かつ逃げられる機動力がないと思うからこそ目を使って判断しようとする。だから目で見えないことが効いてくる』

 香取が背を向けた瞬間に孤月を手に取りながら出現する笹森。逃げられないよう、左手を香取の腕にも手を伸ばし、逃げられないようにする。

 

『でも……』

 笹森の手が香取の右腕に触れる。その動きに合わせて、後ろを振り返りながら大きく後退していく香取。

 

『相手がどんな奴かをすぐ忘れる程今の香取ちゃんは甘くない』

 大きく後退しながらも2本の刀を相手の心臓目がけて投げる香取。

 

「自分だけ考えてるって顔やめてくれない? ……ホントムカつく」

 上空に飛んでいく光を見上げながら、香取は独り言を呟く。

 

『2本目も香取隊員の勝利! 』

 アナウンスがブースに響く。

 

 

 

 




 
 少し長いので要点だけまとめると以下のようになります。(読みたいなんていう変な趣味がある方は活動報告をお読みください)
  1.キャラ崩壊じゃこのやろ、チビメガネ、アホという方は言ってください。キャラ崩壊のタグを付けます。
  2.次は、香取隊 vs 荒船隊 vs 那須隊となります。
  3.その他アドバイス、意見、感想ありましたら、言ってください。どのようなものでもありがたいです。

 ではでは


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