原作キャラが勝手に模擬戦するようです   作:チビメガネ

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今回の戦闘員

生駒 達人
 関西弁のセンス、ユーモアのセンス、カメラワークのセンス。どのセンスもない作者の力量のなさにより、今後このSSで出番が減ると考えられるある意味不遇な攻撃手。何度読んでもヒュース戦はずるい。そして、マリオはかわいい。

水上 敏志
 いずれ出るだろうと思っていた嘘つき射手。イケメンかはさておき、こういう方が、「もっさり」感があると個人的に思っている。上手く表現できないが、3人目っぽい雰囲気がある。だから、マリオはかわいい。

南沢 海
 感覚派というよりノリだろと思ったら、実際カバー裏でノリと言われていた男子。村上と空閑の再戦を何度も妄想し、実際にあの水中戦をログで見てみたいという作者の願望も知らずに2万回見たと発言したことで、作者が嫉妬で狂いそうになったのは言うまでもない。隠岐が嘘と指摘しなければ、きっとこのSSでひどい扱いを受けていた。しかし、マリオはかわいい。

隠岐 孝二
 友達が千佳の足を取った隠岐は許さないと言っていたので、イケメンでも許されることと許されないことがあるのだと学習させてくれたイケメン。生駒隊好感度向上担当。きっと好きな人の前でしかボケない。要するに、マリオはかわいい。

嵐山 准
イケメンであるのにも関わらず、弟、妹を溺愛しているというポイント高めの性質を持ち合わせることで非の打ちどころがないイケメンと化した。嵐山を支えているのは実は佐鳥というコメントを見たら、佐鳥仕事しろとコメントすれば100%収まる。

時枝 充
 フォローの達人。図書委員タイプの女子に好かれているように見せかけて、大体の女子は落としており、倍率の高そうな隠れたイケメン。時枝がハーレム系の主人公でも、批判はできないくらいさらっとフォローしてくる。

木虎 藍
 初登場の作者のイメージとは違い、意外と先輩しており、いい子である。彼女が結構人を見ていてフォローもできると判明したことにより、オペレーターを含め嵐山隊4名は全員モテ属性を持っていることが明らかとなった。とりまるファンクラブ1号。

佐鳥 賢
 やっていることは凄いはずなのに、全く凄く見えないかわいそうなやつ。お魚避けゲームや壁抜きが凄いと思うのに、アクロバットツインスナイプがよくよく考えないと変態じみていると思えないのは、ひとえに佐鳥だからである。

※ご指摘を受けて
影浦→生駒の呼び方を、生駒→イコさんに変更しました



嵐山隊 vs 影浦隊 vs 生駒隊

 

 生駒隊室

 

「この前、久しぶりにコンビニのスイーツ買ったんやけど……」

 手元にある記録(ログ)を見ながら、生駒が話を振る。

 

「何あれ、ウマすぎない? ヤバない? 」

「ワンコインでしかもお釣りきますもんね、あれ」

「な。ヤバいよな、あれ。物によっては500円で2個買えるって、ふざけすぎやろ」

 時枝と嵐山が敵を落としている様子を見ながら、水上が返事をする。

 

「分かります! 毎食コンビニデザート食べてます」

「ウソつけ。さっき食堂の方がウマい言ってただろ」

 南沢の適当な返事を流す隠岐は、水上の隣に座っており、細井の注いでくれたお茶を飲んでいる。

 

「んで、最近ハマってるんやけど、毎日スイーツだけ買うのは忍びないやん? コンビニのバイトの子もカワイイし」

「毎回それだけってなんかあれっすよね。気持ち分からなくもないです」

「そうそう。だから雑誌も一緒に買うことにしたわけよ」

 棚から雑誌を取るしぐさをしながら話を続ける生駒。もう何度も見たからか手元に持っていた記録(ログ)は机の上に置かれている。

 

「その雑誌見て知ったんやけど、今年の高校サッカーの応援マネージャーって嵐山隊のオペレーターの子らしいで」

「綾辻さんですか? 」

「そうその子。あの子めっちゃカワイイよな。根付さん分かっとるわ」

 左手には菓子を右手にはお茶を持ちながら、会話を続ける生駒と隠岐。

 

「ほら綾辻さん、高嶺の花っぽさあるやん? 全国優勝して告白できる感あるやろ」

「青春っすね」

「部活休憩のときに渡されるのがポカリとかアクエリじゃなくて、おしることかコンポタでも喜んでもらう自信があるわ」

 机の上に置いてある菓子に互いに手を伸ばす生駒と、その言葉に同調しながらお茶を飲む水上。そして……

 

「分かります。運動した後は、甘いもの欲しいっすよね! 」

「いや喉がカラカラのときはキツイだろ、そういうの」

「あれー? 」

 それに何となくの雰囲気で答える南沢と南沢の言葉を流す隠岐。

 

 隠岐の視線の先には、腕を組みながら今の会話に耳を傾けている生駒隊 オペレーター細井 真織の姿。そしてその細井の視線の先には、先程から会話の中心になっている生駒隊 隊長生駒 達人の姿。それを見た隠岐が一言。

 

「マリオが、他の隊のオペレーター褒めてるんで拗ねてますよ」

「……はぁ!? 」

 このような素っ頓狂な声を出したのは、急に話を振られてからではない。それならば顔を少し赤面させたりなどしない。その回答はただ一つである。そう、図星だっただけだ。

 

 それを受けて、目を見開いて後、間を開けずに3名が口を開く。

 

「なんでや。マリオちゃんもカワイイやろ! 」

「マリオ……かわいいとこあるやん」

「マリオ先輩、カワイイっす! 」

 3名が同時に細井を褒めちぎる。

 

 それを受けての細井の反応は決まっている。

 

「あーもー、きっも!! ほんっっと、きっっっも!! 」

 顔を先程より赤らめながら大声を出す細井。

 

 生駒隊は今日も平和である。

 

 同時刻 嵐山隊

 

「……以上が、ここ数戦の生駒隊、影浦隊のランク戦のまとめです」

  記録(ログ)を机の上に置き映し続けながら、綾辻は生駒隊、影浦隊の情報を他の4名と共有する。

 

「合流を優先はしてるけど、誰かが落ちたら落ちたで生駒の間合いが変わるだけか。隠岐が移動しやすい分、狙撃の援護は必ずつくと考えるべきだけど」

「生駒さんには旋空がありますからね……影浦先輩と向かい合ってるときに、遠くから撃たれるのがうちとして避けるべきですね」

 嵐山と時枝が記録(ログ)を見ながら、綾辻の資料も参考にしていく。画面を手に取り正面から生駒を観察しているからか、嵐山と生駒の視線が重なり合う形となる。

 

「影浦隊は……相変わらず影浦中心って感じだな。絵馬、北添はどの位置にいようと影浦がやりやすいように動いてる」

「影浦先輩を軸に動かした方が実際やりやすいですよね。影浦先輩自体、奇襲なんて効果ないですし」

 嵐山と木虎が見ている記録(ログ)には、崩れる瓦礫の中、影浦が急接近し敵の首を落とす様子が映し出されている。

 

「そうだな。そうなると、隠岐も影浦隊よりも俺たちを重点的に狙ってくる可能性もなくはないか。当然、絵馬も生駒隊だけでなく俺たちを狙うとすると……綾辻」

「はい。大きな狙撃ポイントの洗い出しをしておきます」

「ありがとう」

 木虎の意見を受け、嵐山が今回のMAP、市街地Aの高い建物等の狙撃手が行きやすい箇所の把握を予め綾辻に指示をしておく。

 

「実際どうなの? 」

「木虎が言うように影浦先輩は、無理っしょ。俺はできないけど、それこそ壁抜きとかしても上手く当たるって確証もないし。かといってユズルもユズルで隠れるの上手いし。隠岐さんは何か逃げていくし」

 隣に座っている時枝に話を振られた佐鳥が、腕を組んで首を縦に振りながら、影浦のことと狙撃手の話をする。

 

 それを聞いた木虎が、佐鳥を睨みながら一言。

 

「やる気あるんですか? 佐鳥先輩」

「ちょっと、木虎さん。俺にだけ当たり強くないですかね!? 」

 その言葉を受け、泣き真似をしながら、「みつるー」と言って隣の時枝に抱きついていく。

 

「とはいっても、うちが有利を取るには当然狙撃が働いた方がいいですよね? 」

「そうだな。影浦を狙わないとしても佐鳥の力は必要になるのは明らかだな」

 時枝の言葉に反応して答えた嵐山の笑顔を見て、まるで仏を見るかのような眼差しを嵐山に向け、「嵐山さん!! 」と呟く佐鳥。

 

 苦笑いを浮かべながらも少しは微笑ましく見ている綾辻と、あくまで佐鳥への視線の意味を変えない木虎。

 

「……私たちとしては影浦先輩をどうするかを考えるのが先決かな」

「一番いいのは、生駒隊と影浦隊を戦わせることですかね」

 綾辻の質問に対して、佐鳥が離れたことにより手を動かせるようになった時枝が、お茶に手を伸ばしながら答える。

 

「転送位置にもよるけど、上手く生駒隊と影浦隊を合わせられれば、嵐山隊としてはその場を狙うだけだからな。作戦としては悪くない」

「そうなると、そのために引きつけるための囮要員を誰にするかですね」

「そうだな。まずその案を固めてみて、その上で違う案も考えていこう」

 時枝の一案に対し嵐山と木虎が乗っかったことにより、方針を決めていく嵐山隊。

 

 嵐山隊の作戦会議は、まだ続いていく。

 

 同時刻 影浦隊

 

「よっし、おめーら。次の模擬戦の話するぞ」

 机を勢いよく叩き、長椅子に座っている3名の隊員をビシッという効果音でも聞こえるかのように指差す影浦隊 オペレーター仁礼。

 

「じゃあ、今回の戦いの意気込みを1人ずつ言え! まずは、カゲ」

 空気が引き締まったと根拠もなく感じた仁礼は、みかんの皮を向きながら影浦に話を振っていく。

 

「俺は、イコさんとやれりゃどうでもいい」

「よっし! 次、ゾエ」

 そのみかんを頬張り携帯をいじりなら、影浦は適当に返事をする。

 

「嵐山隊と戦うのって久しぶりだよね」

「そうだな! 遥ちゃんに後でおいしいもの渡さないとな。最後、ユズル」

 北添も同じくみかんを頬張りながら、仁礼の方を見て答える。

 

「別にいつもとそんなに変わらないでしょ……」

 絵馬もみかんを口に運びながら、一応仁礼の方を見て言う。

 

 その絵馬の返答に不満を持ったのか、みかんの皮を剥くのをやめて、仁礼は絵馬の方を向く。

 

「おい、ユズル。そんなんじゃダメだろ。嵐山隊だぞ」

「……何言ってるか分かんないんだけど」

 絵馬はミカンを手に取りながら、コイツ分かってねーなとも言いたげにため息をつく仁礼の方を見る。

 

 ため息を終えニヤリとする仁礼は、ドヤ顔で絵馬に追い込みをかける……その追い込みが正しいかどうかは別にして。

 

「ゾエ情報だけど、玉狛がスパイダーを使ったのは木虎が教えたらしいぞ! 」

「スパイダーを使うと聞いて、すぐ思いつくのが木虎だったからって理由だけなんだけどね」

 決まったという雰囲気を醸し出す仁礼とその情報の補足をする北添。

 

「……だからなんなの? 」

 その言葉を聞き、良く分かっていない表情を浮かべる絵馬に対して、やれやれだぜと言うかのように肩をすくめ、再び呆れたようにため息をつく仁礼。

 

「ユズル、記録(ログ)見てねーのか。スパイダー使っているのは、三雲なんだよ」

「……だからなんなの」

 未だに要領を得てないようで、少し顔を歪める絵馬に対して、チッチッチと舌は鳴らさないものの、人差し指を横に動かしていく仁礼。

 

「いいか、ユズル。三雲は千佳ちゃんと仲良いんだよ……これはカゲ情報な。つまり木虎は、三雲の身内。ユズルの恋敵の身内ってことなんだぞ! 」

「ああ、そういうこと……だから雨取さんはそういうんじゃないから」

 再度決まったという顔をする仁礼に対し、言いたいことを漸く理解した絵馬は、呆れたようにため息をつく。

 

「え? ユズル恋してんの? ゾエさん初耳」

「だから違うから」

「ははは、照れんな、ユズル。アタシに任せとけって! 」

 仁礼の発言に驚いた表情をする北添を余所に、仁礼は絵馬に近づいて頭をクシャクシャしながら胸を張る。

 

「でも気があるのは事実だろ、ユズル」

「はぁ……もうそれでいいよ」

 高笑いしながら悪ノリしてくる影浦の姿を見て諦めがついたのか、仁礼に頭をクシャクシャされているなか大きなため息をついて、絵馬は独り言のように呟く。

 

「よっし、おいカゲ! あの孤月ヤローもいいけど、きちんと狙うんだぞ……」

 絵馬へのスキンシップに満足した仁礼は、影浦の方を向いて言葉を繋いでいく。

 

 それと時を同じくして、生駒隊では生駒が応援マネージャーの今後の話の結論を言い、嵐山隊では時枝が先程の方針の結論を言う。

 

「後輩で、告白したとしても無残に散るかもしれない子が数年後応援マネージャーになると思う……ここまでええな? ほらそういう奴、嵐山隊におるやん? そう……」

「得点源である方が生駒隊を誘いやすいってことですね。そうなると……」

 仁礼と同様溜める生駒に対して、彼女の方へ視線を送ることで言葉を促していく時枝。

 

「木虎の首もな! 」

「木虎」

「私ですね」

 図らずも結論のみが一致する影浦隊、生駒隊、嵐山隊の3隊。

 

 この模擬戦が始まる3日前の話である。

 

『さて始まりました、ボーダー特別ランク戦。実況を務めるわたくし武富桜子! 』

 上層部にランク戦が休みの時期だからこそ、A級とB級上位を戦わせそれをボーダー隊員に見せることがボーダーの力の向上に役立つのだと、自らの本音を伏せた上で説いた少女武富が解説席に座っている。

 

 そして、その隣に座っているのが……

 

『そして解説席には、王子隊の王子先輩と草壁隊の緑川くんにお越し頂いています! 』

『よろしくお願いします』

『どもっす』

 頭を下げる王子と軽く挨拶を済ませる緑川。

 

『さて、今回A級5位の嵐山隊とB級2位、3位の影浦隊、生駒隊の模擬戦になるわけですが、ポイントはどんなところでしょうか? 』

『分かりやすい点から言うと、生駒隊と嵐山隊は4人編成だから、数の優位を活かして合流を目指して敵を叩くのか、戦力を分散させるのかで大きく変わってくるね。嵐山隊は特にコンビネーションがしっかりしてるしね』

『なるほど……そうなると3名しかいない影浦隊が不利ということでしょうか? 』

 王子の説明に首肯した武富は、影浦隊に対するコメントを求める。

 

『それはないんじゃない? カゲ先輩は狙撃も効かないし、影浦隊から見れば1人相手にしなくていいようなもんでしょ』

『影浦隊長は奇襲もできないからね。普段通り影浦隊長を好きに動かすことができるかが影浦隊として重要なカギだと思うよ』

 その振りに対して、緑川が答えたことに関する補足をする王子。そしてそれを聞き、内心手配した甲斐があったと喜んでいる変態オペレーターが口を開く。

 

『なるほど……さて、全部隊転送準備が整ったようです。嵐山隊、影浦隊、生駒隊転送開始です! 』

 画面に映る市街地AのMAPの上空から、光の線が落ちていく。

 

 

「パックワームで消えてるのは、隠岐と絵馬と……」

「おそらく北添先輩だと思います。生駒隊の標的をうちに絞らせるつもりですね」

「なるほど。賢は誰か視認できたか? 」

 市街地A北東部。嵐山は転送された2階建ての民家を飛び降り、走りながら敵の位置の把握を始める。

 

『おー、ゾエさん。開幕メテオラしない』

『北添隊員のメテオラは、大体は自分で落とすための攻撃ではないからね。他の隊から見たら、どちらかというと場荒らしの方が近い』

『他2名で崩して、影浦隊長が点を取るという戦法ですね』

 MAP南西の位置に転送された北添が身を隠すように移動を開始したことに、少し驚く緑川と北添に対する印象を述べる王子。

 

 影浦隊の基本的な戦術は、影浦を点取り屋とする影浦を軸にしたものである。これを受けて、北添は、擲弾銃(グレネードガン)でメテオラを放つことで、ある時は射線を通し、ある時は敵の体勢を崩し、隊長である影浦の攻撃のフォローをする。また自らが囮となり、影浦をフリーにするように動く。

 敵2部隊共に4人編成であり、近距離の攻撃に対して対応可能な部隊である以上、北添が落ちるということは、絵馬、北添が揃っているとき以上に影浦を含めた乱戦に持ち込まれた際の支配権を譲る可能性が高くなる。そうであるならば、北添にせよ絵馬にせよ攻撃を控え、戦況が影浦隊にとって良い状態に入ったときに攻撃をするのが良いということになる。

 

『……それに影浦隊長しか見えてないなら、生駒隊は嵐山隊を狙うしかなくなる。影浦隊長とやってるところを嵐山隊に狙われる形になるというのが一番防ぎたい状況だろうしね。影浦隊長の正確な位置は分からないけど、影浦隊長に見つかる前に嵐山隊を削れるのは大きいんじゃないかな』

『嵐山さんがどこにいるか分かんないのは、生駒隊としては痛いけどねー』

 画面にはMAP中央より少し南側の位置で移動している生駒と水上が映っている。

 

「あれやわ。うちが良いように転がされてる気しかしない」

「嵐山さんがバックワームで見えないのがイタイっすよね。海が時枝(とっきー)を、隠岐が木虎ちゃんを確認できたのはデカイですけど」

嵐山(あいつ)、ほんまに性格悪いわ。こんなんどっちかにあいつがいるに決まってるやん」

 MAP中央で走り続ける生駒は、バックワームで消えている嵐山に対して毒を吐き始める。

 

「あいつ妹と弟のこと気持ち悪いくらい溺愛してるし、それに頭良いから戦術もできて、オールラウンダーで強くて、爽やかイケメンとか……ヤバない? 」

「途中から単なる嫉妬じゃないっすか。で、どうするんです? 」

 嵐山に対する毒を吐き終えると、水上に今後の方針を聞かれたため、自隊のオペレーターである細井に話しかける。

 

「かわいいかわいいマリオちゃん? ゾエの場所ってやっぱり予測できひん? あいつの策略にそのまま乗るの癪やし」

「今場所分かってるやつからカゲさんの場所予測しかできないわ」

「ありがとう、マリオちゃん。愛してるで」

「……ほんと、後で覚えとき」

 可能性は低いことは分かってはいるが、まだ一度も攻撃を仕掛けていない北添の場所を生駒は確認する。

 

 当然のことではあるが、北添の位置は分からない。生駒隊が現時点で場所を把握した敵は、

 南沢が発見した時枝とスコープ越しに隠岐が発見した木虎。そしてバックワームを着ていないことから視認はしていないが、消去法で把握できる影浦のみ。時枝か木虎のいる場所に嵐山が隠れている可能性が高い。

 南沢と合流し南下をして、現時点で近い位置にいる時枝を狙うか、北上して木虎を狙うか。

 それとも嵐山の奇襲のことを考えた上で、挟み撃ちにならないように時枝か木虎の牽制に水上か南沢を置いておいて合流を防ぎ、時枝か木虎を落とすか、そして可能であれば嵐山も落とすか。それともいっそのこと影浦のことを待って、乱戦にしてしまってから嵐山隊対影浦の構図にするように動くか。

 

「……メンドイな」

「隊長が何言ってるんですか」

 ドヤ顔で言う生駒に対して、スコープで木虎の位置を再び確認していた隠岐に諭される。

 

「そしたら、とっきーにオレが突っ込みますよ。あっちにバレてないっぽいんで」

「それが一番ないわ。お前がとっきー見つけた場所思い出せ」

「マンションのベランダっす」

 内部通話を通して伝えられた水上の提案に対して、水上がその提案を取り下げるために口を開く。

 

「水上の言う通りや。お前がバックワーム着てるにせよ、とっきーが気づかず進んでるとかあるわけないやろ。隠れながらの移動するなら、ベランダみたいないかにも隠れながら移動してる最中に見つかった感じじゃなくて普通にバックワーム使うわ」

「なるほど! 確かにそうっすね」

  隊長である生駒の意見も聞き、納得した南沢は元気よく答える。

 

「俺も釣りだと思います。木虎ちゃんの周りも見ましたけど、嵐山さんいるようにも思えませんし」

 生駒と水上の意見を補強するように、スコープを覗きながら隠岐が通オペレーターを通して、生駒隊全員に伝える。

 

「これでそっちに嵐山いたら、戦犯は隠岐やな」

「それはちょっとひどくないですか」

 北西側にいる隠岐は、生駒の発言を笑って流す。

 

『生駒隊長が北上! 木虎隊員狙いか』

『カゲ先輩も来ちゃって嵐山隊も揃うのが一番避けたいよね』

 南沢と合流せず、距離を置いた位置に置き、生駒は北上を開始する。

 

『水上隊員も生駒隊長と少し距離を置いた! 』

『緑川が言ったように、影浦隊長も来た上で、嵐山隊が揃う。特に時枝隊員、嵐山隊長、影浦隊長のいる挟み撃ちみたいな感じになるのが現状一番最悪って考えだと思います。そう考えると、水上は両方フォローできる位置にいた方がいいってことでしょう』

『木虎ちゃんの方なら隠岐先輩のフォローもあるしね』

 MAP中央に生駒、その後方に水上、南沢、生駒の北方向に木虎、南東方向には影浦のアイコンが画面に映っている。

 

『生駒隊長が間合いに入ったか! 木虎隊員の背後を狙う』

 両手で孤月を持ち、頭上から孤月を振り下ろす。

 

 生駒の腕の動きに合致するように振り下ろされた斬撃は、コンクリートに亀裂を入れていく。その切っ先は、木虎の右腕を背後から刈り取りにかかる。

 木虎は右腕に持った小刀で、その切っ先をずらし、横に踏み込んで避ける。その結果、生駒の真正面には、敵がいない瞬間が作られる。

 

『木虎隊員、どうにかこの攻撃を往なした! 』

 解説席と生駒の目線が合う。

 

 

『生駒隊長、再び旋空孤月! 木虎隊員は接近戦に持ち込めない』

 生駒の右の一振りが半月状の斬撃となって、木虎に襲い掛かる。

 

 自身の腹に伸びていく斬撃に対して、木虎は大きく後退をすることで避けながら、銃口を生駒に向ける。

 右肩に向けて放たれた弾丸を左に数歩動くことで避けながら、生駒は刀身を後ろに下げていく。木虎の接近に対しては、後方に配置をした水上のハウンドを上空から降り注がせることで防いでいく。

 

『時枝隊員の方に嵐山隊長がいる可能性が高いと考えたとしても、南沢隊員だけじゃなく生駒隊長もフォローできる間合いに水上隊員がいるのは、生駒隊としては心強いね』

 自身を追尾していく弾を後退と盾で避けていく木虎。その銃口は変わらずに生駒に向いている。

 

『木虎先輩は近寄られたら厄介だし、今の時点でイコさんの孤月の間合いが守れてるなら、そのまま片付けちゃった方がいいよね』

 MAP北西の端から放たれる隠岐のイーグレットによる狙撃により、木虎は踏み込みを断念する。

 

「狙撃のときの光が木虎に見えてたとしても、今のはやれたと思ったんやけど。これ、射線バレてるわ」

「遥ちゃん、やっぱり大きい狙撃ポイントは抑えとるみたい。よっぽど不意つかない限り無理かもしれん」

「あの子もまめやね。そしたらもうちょい寄って手数で攻めてみるわ」

 もう一度スコープで木虎の無傷を確認した後、隠岐は建物を飛び降りて、移動を開始する。

 

「佐鳥も絵馬もどこおるか分かってないし、気つけや」

「了解」

 細井の忠告を心に留め、隠岐は南下を開始する。

 

『孤月が煙を切り裂いていく! 木虎隊員の肩に掠った! 』

 水上はメテオラが地面に着弾させ煙を生じさせることで、視界を防ぐ。その瞬間を狙った斬撃は木虎の喉を刈り取りにかかる。

 

 木虎は左の小刀で、その軌道をずらす。斬撃の威力が大きく相殺できるわけもなく、肩に当たってしまう。しかし、木虎もただ敵の攻撃を受けるだけで終わっていなかった。あらかじめ生駒の位置を確認しておき、煙が生じた瞬間、すなわち生駒が孤月を振り切るであろう瞬間に右手持っている拳銃の引き金を引いていた。

 

「カッコ良く決めようとしたときに、敵の攻撃受けるとかカッコ悪いわ」

「そういうことに拘ってもらえると、いずれ倒せると思うので、私としては拘ってもらいたいですね」

 同じく右肩からトリオンが漏出している生駒の自虐を、生駒に銃口を向けたまま鼻で笑う木虎。

 

「ほう……いってくれるやんけ」

「事実でしょ」

 木虎が接近するために左足で踏み込んでいく。生駒はその動きに合わせて後退する、それを見て木虎は、もう3歩程接近しようとする。

 

「アステロイド」

 その接近を防ぐために、水上は8分割した立方体を木虎の正面に飛ばす。

 

 木虎はその弾道を見て、普段よりも手前の位置に盾を生成し、4本の弾道を遮り、盾の横を通り過ぎ尚も襲い掛かる弾に対しては、新たに盾を生成し防ぐ。

 

「流石に無理かー」

『シールドを避けて回り込むハウンドを冷静に捌く! 横に回った生駒隊長の斬撃も避けきった! 』

 水上の独り言に応えるように、武富の解説がブースに響く。

 

『水上先輩で隙を作って、旋空を当てるってのは木虎先輩にバレてるだろうし、ハウンドで浮かすってのは無理だろうね』

『2対1である以上木虎隊員が毎回完璧に防ぐってことはないだろうけど、少しずつ削るってことにはなるかもね』

 一定の距離を保ちながら、木虎が引き金を引く瞬間、もしくは足が止まった瞬間を狙い、斬撃を飛ばしていく生駒。それに対して、勢いを完全に殺すことはできないものの、その軌道をずらしながら直撃を避ける。

 

『それに隠岐隊員も本格的に加わるから、3対1ならかなり厳しいですね……』

 グラスホッパーを使い、MAP中央よりに寄り終えた隠岐の構えた姿が画面に映る。

 

『本当に3対1ならね』

 生駒隊2名の頭上にアステロイドが降り注ぐ。その攻撃を防ぎながら上を見上げて、民家の屋根に右手に突撃銃(アサルトライフル)を持った嵐山の姿を確認する生駒と水上。

 

「やっぱ戦犯は、隠岐やな」

「ですね」

 水上と内部通話でやり取りをしながら、嵐山から放たれる追撃を後退して躱していく。

 

 生駒隊後退を受けて距離を縮めようとする木虎の足元を狙い、西の方角から数発の弾が飛んでくる。木虎は、前の踏み込みを諦め、後ろに飛びながら、生駒に銃口を向けて引き金を引く。右から襲い掛かる嵐山のアステロイドの処理をしている生駒は反応が遅れ、腹に木虎の弾丸が掠る。

 水上が嵐山に対して、アステロイドを放ったことを横目で確認しながら、刀を横に素早く振ることによって、生駒は木虎への反撃を行う。生駒の横に回り込んだ木虎に伸びていく斬撃は、軌道を逸らされるものの、木虎の右脇腹に当たる。それを確認した生駒は、追撃の一振りを繰り出そうとする。しかしこれは、背後を狙うアステロイドにその2撃目を阻止される。

 木虎が再び生駒の後ろに回り込もうと動き出し、嵐山が援護射撃をするために水上と生駒を狙う。嵐山の攻撃を防ぐことで攻撃ができない水上と生駒を、隠岐はライトニングで援護していく。その弾は、嵐山の右足と左肩に掠る。

 互いにそのようなやり取りを繰り返す中で、生駒の後方に水上、木虎の後方に嵐山という状況になる。

 

「カゲの方にとっきーだけ置くとは思わなかったわ」

「俺らがとっきーに騙されただけじゃないっすか。海も戦闘に巻き込まれたみたいですし」

「……まあ、とっきーだしな。仕方ない(しゃーない)

 水上から自身の発言に対する指摘を内部通話で受けるものの、それを軽く流しながら生駒は嵐山に話を振る。

 

「充の方には賢もいるからな。影浦には効かなくても、南沢の足止めには協力できるだろ」

「やっぱ、お前性格悪いわ」

 嵐山から時枝だけ置いた理由を聞いた生駒は、笑いながら左手を柄に添える。

 

「悪いな、生駒。充の合流の前に人数減らさせてもらうぞ」

「そう簡単にやられるわけないやろ、アホ」

 生駒が両手で振り下ろすと同時に、南の方角から建物が崩壊する音が響く。

 

『影浦隊長が、時枝隊員を視認。こちらでも戦いの火蓋が切られる! 』

 MAP中央から南方向に行ったある位置では、南沢も巻き込んだ上で、時枝と影浦が戦闘を開始する。

 

 

「ちっ」

 自分の間合いの外で放たれる弾丸を防いだ上で、頭上を飛び回っている南沢の攻撃を影浦は捌いていく。

 

 背後から左肩を斬り落としにくる南沢の攻撃に対して左腕を振り切り、影浦は前を向いたまま防ぐ。その視線の先には、銃口をこちらに向けている時枝の姿。その銃から放たれる弾を右に飛んで避けようとする影浦。しかし、影浦の動きに合わせて、時枝が右に飛んだことにより、影浦は盾の生成を余儀なくされる。

 そして影浦が攻撃を止めた瞬間に、右から回り込み背後を取った南沢は、影浦の首を狙う。

 

『影浦隊長、間一髪か! 絵馬隊員の狙撃で攻撃を阻止! 』

 背後を取られた際に南沢を狙い放たれた弾は、絵馬の狙い通り腹に貫通することはなかったが、左手首に当たり左手を落とすことに成功する。

 

「狙撃気つけろって言う(ゆう)たやろ」

「行ける思ったんですよ」

 グラスホッパーで逃げたことで、落ちることは防いだ南沢は細井に怒られる。

 

 南側における建物の崩壊は、北添のメテオラによるものである。これにより狙撃ポイントは、今絵馬が狙撃を行った南西方向に加え、南東方向と北の方向からの狙撃が通りやすくなる。その結果、南東のマンションを移動していた佐鳥が攻撃を仕掛けることが容易となる。そこで佐鳥は、南西方向での光を見てスコープを覗き絵馬を確認し、狙撃。

 

「流石にユズル反応早いなー」

 スコープ越しに、佐鳥は自身の弾丸が防がれていることを確認すると、絵馬がこちらに銃口を既に向けていることも確認する。その反応を見て、マンションを飛び降りる佐鳥。

 

 数秒の後、佐鳥に窓が割れる音が届く。次の瞬間に曲線状に放射された弾は、佐鳥が飛び降りたマンションを含む建物を数軒吹き飛ばす。

 

「やっべ」

 佐鳥に瓦礫の雨が降り注ぐ。佐鳥は、その瓦礫により自身の身動きが取れなくなる前に走り出す。

 

「北添先輩の位置を補足しました。これから動くと思いますが、情報送ります」

 佐鳥の苦労を知らずに、バックワームを脱いだ北添の位置を嵐山隊員全員に送る綾辻。

 

 自隊オペレーターの言葉を受け、佐鳥は瓦礫から逃げ切った後にドヤ顔で嵐山全員に伝える。

 

「ゾエさんの把握ができたのは、俺のおかげですね」

「佐鳥先輩、そんなこといいですから仕事してください」

 脳内に聞こえてくる後輩の声に佐鳥が文句を垂れるなか、南側の攻防は未だに続いている。

 

『水上隊員、南側にも援護射撃! 時枝隊員の背中を狙う』

 上空からから襲い掛かるハウンドに対して、時枝は移動をしても振り切れない弾のみシールドで防ぐ。

 

『影浦隊は3人いる形になってるし、生駒隊もMAP中央のことにも見なくちゃいけないにせよ2名いるって考えていいから、時枝先輩は誰か落とすつもりなら厳しいよね。狙撃もさっきみたいにやられる可能性高いし』

 南沢がグラスホッパーを踏み、大きく後退をした瞬間に影浦は、数メートル先にいる時枝に鞭を伸ばしていく。

 

 それを左に飛んで避ける時枝を追いかけるように、影浦は再度右手を素早く振り切り、時枝の首を刈り取りにかかる。それをシールドで防いだ上で、アステロイドを影浦の手元に放射し、次の一手を防ぐ時枝。

 

『生駒隊は気がついてはいるだろうけど、嵐山隊の目的は、自分達で囲みながらの影浦を揃えた乱戦の完成だと思う。だから時枝は、落ちない程度に今のメンバーを中央に寄せることに専念すればいい』

『それなら、時枝隊員に狙いを定めるのも手ではないでしょうか? 』

 時枝の攻撃により影浦の攻撃が一瞬止まったことに加え、絵馬の狙撃の光が見えたため、南沢が板を2枚作り、影浦の背後から時枝の背後に急接近する。

 

 2枚目の板を踏んだ瞬間に、時枝の首を貫通する軌道がシールドで防がれることを南沢は確認する。そして背後に回り込んで、弾とシールドが衝突したことで生じる金属音が響くと同時に時枝の頭上に孤月を振り下ろす。

 

『まあ……王子先輩が言うように自分が落ちないようにっていうだけなら、こういう状況で時枝先輩を落とすってのは、難しいよね』

 南沢が背後を取った瞬間に、時枝の背中から刃が伸びていき、南沢の心臓を狙う。

 

「げっ」

 急いでグラスホッパーを生成し踏み込むことで、南沢は逃げていく。しかしその先は、影浦のマンティスの間合いである。

 

『影浦隊長の間合いだ! 右肩から結構な量トリオンが漏れたぞ! 』

 影浦と南沢、そして時枝のアイコンは先程より多少北側に移動……つまりMAP中央に移動している。

 

 南沢が再度細井怒られていることを尻目に、時枝が影浦に弾を放ち、影浦が時枝の攻撃を避けながらスコーピオンで時枝の心臓を狙う。そして、その場の支配権を取るために放たれる水上のアステロイドと、絵馬の狙撃。各々の攻撃は、影浦の腕と足に数発、時枝の腹と足に数発掠る。

 影浦が右に回り込む動きをすれば、時枝は左に動き背後を取られないように移動する。影浦が右腕を力強く振り切ろうとすれば、横に移動した南沢が孤月を振り、正面の時枝がアステロイドを放射する。それを受けて後退をするために北上する影浦。時枝が影浦にアステロイドを放射し北へ移動させようとすれば、水上が影浦と時枝双方にアステロイドを放射する。

 

『水上隊員、ハウンドを選択! 木虎隊員の接近を防いだ』

 一方北側には、生駒の命を受けて、木虎と生駒の間にハウンドを放射。木虎は、嵐山の援護射撃により生駒の隙ができたことにより接近を試みていたが、ハウンドが上空から襲い掛かることを受けて、木虎は後退する。

 

 結果として、距離を開けることになる。生駒はこの隙に腰を捻りながら、刀身を自身の体に引いていく。それを見た嵐山は、銃口を上生駒に向け、メテオラを放つ。その射撃による爆発に対して、生駒は、数歩後退しながらも嵐山の方へ体を向けて、孤月を素早く左から右へ振り切る。

 煙幕を切り裂いた斬撃は、そのまま嵐山に襲い掛かる。

 

『生駒旋空、再び! 嵐山隊長の左腕に当たった! 』

 煙幕が消失していくなかで、生駒は左斜め前を見ていたため、当然のことながら解説席の3名と視線が合う。

 

 

「水上、こっちにも頼むわ」

「了解……ってだいぶ近いな。ヤバない? 」

「まあ、この際合流しても仕方ないわ。そんときも頼むわ」

 細井の指示を受け、水上は南側にもハウンドを飛ばしていく。

 

 水上のハウンドは、時枝と影浦が戦闘を行なっている上空から2人を狙うように降下していく。時枝と影浦はともに頭上にシールドを発生させることで、それを防ぐ。絵馬は時枝のシールドがない箇所を狙い、狙撃を行う。もう一つのシールドを発生させ、その弾を阻止する。時枝の横はがら空きである。

 

『さっきのが効いてるよね。あんなことされたら嫌でもカゲさんの間合いも考えるし、シールド使ってたら釣りだって思うでしょ……実際佐鳥先輩構えてるし』

 しかし、時枝は射撃をマンティスが届く範囲で行っていたため、南沢が攻めることはなく、一定の距離を保っている。

 

 当然のことであるが、南沢だけでなく時枝にもマンティスは届く。そのため、影浦はハウンドを防ぎ終えた瞬間に、時枝目がけてスコーピオンを伸ばしていく。時枝もハウンドを防ぎ終えた瞬間に、射撃を再開する。しかし時枝の銃は、視線の先にいる影浦ではなく、距離を取る南沢に向いている。

 伸びていくスコーピオンと右斜め前に飛んでいくメテオラ。

 

『南沢隊員がメテオラを避ける! そのまま影浦隊員に近づいていく』

 3回の移動を経て、南沢は影浦の背後を取りにかかる。

 

 影浦は、その左前腕からスコーピオンを短く伸ばして南沢の攻撃を捌きながら、正面から飛んでくるアステロイドをシールドで防ぐ。

 絵馬は、数メートル後方に飛ばされる南沢を狙い、引き金を引く。南沢は、その狙撃に当たらないように上空に移動する。

 

『3人揃ってる影浦隊にとって、北添のメテオラは敵の攪乱っていう意味ももちろんあるだろうけど』

 南沢を下へ撃ち落とすように放たれたメテオラは、南沢の撃ち落としに成功する。

 

『絵馬の射線を通しやすくなるって意味もある。ただ……』

 崩壊する数軒の民家の瓦礫が、3名の頭上を襲う中、絵馬は時枝の背後を狙う。

 

 時枝はその射撃を防いで、メテオラは放ち影浦の周辺に着弾する。北添の流れ弾も含めて着弾するメテオラは時枝までも隠れるほどの煙幕が生じる。その煙幕の中に落下していく南沢を落とさないために、水上はハウンドを放とうとする。

 

『わりと適当だからね。ここまで生駒隊長側と影浦隊長側が近くなれば、他の隊の狙撃手も恩恵を受けられる』

 水上がキューブを作った瞬間に頭上を狙った佐鳥の狙撃は、シールドで防がれる。しかし……

 

『ここで佐鳥隊員のツインスナイプ! 水上隊員に貫通! そして南側で落とされたのは……南沢隊員だ! 』

 トリガーを2つ選択した瞬間を射貫いく佐鳥の攻撃が水上に当たり、南側では影浦に南沢が落とされる。

 

「人数減らすって俺でしたね」

「な? あいつ性格悪いやろ」

 落ちた水上と会話をする生駒。

 

 生駒の状況はというと、嵐山のメテオラにより周辺に煙幕を作られ視界が悪い状況となっている。そのような中で、正面からの嵐山のアステロイドを防ぎながら、生駒は木虎に背後を取られないように後ろに目をやる。すると、アステロイドが煙を切り裂きながら、数発飛んでくることを確認できた。その弾を避けながら、孤月を斜めに振り切る。

 

 煙幕を確認した隠岐はトリガーをライトニングからイーグレットに変更しながら、姿を現した影響で北添のメテオラの餌食になり、建物とともに逆さまに落下していく佐鳥に狙いを定める。スコープから注視してみると、逆さになりながらも銃口を2方向に向けていることが確認できる。

 

「あいつ何でツインスナイプに拘ってるのか良く分からんわ」

 独り言を呟きながら、佐鳥が綺麗に着地するときを狙って撃ち抜く。

 

 佐鳥は単純にツインスナイプに拘っているだけの可能性もあるが、嵐山隊としては違う狙いがある。

 

「隠岐、後ろ! 」

 細井の叫びを聞いて後ろを振り返ると、バックワームを脱ぎ終えた木虎の姿。

 

 木虎はアステロイドを放ち逃げる隙を与えず、隠岐がシールドを生成し防いだ瞬間に回り込んでスコーピオンを振り上げていく。その攻撃を躱すことができず左肩から、左腕諸共落とされる。それにより隠岐は、トリオンの漏出過多による緊急脱出(ベイルアウト)……とはならず最後の足搔きとして、木虎が踏み込んだ足元にグラスホッパーを生成。木虎はグラスホッパーを踏んだことにより、上に飛び上がっていく。

 

『上空に舞ったところを絵馬隊員の狙撃! 盾ごと腹に貫通した! 』

『北添隊員もいるとはいえ、あの状況でアイビスを使うと、佐鳥隊員への対応が遅れる可能性は十分にあったからね。トリガーの変更だって時間掛かるしね』

 木虎と隠岐の光が上空に上がっていく。

 

 現在の隊員の配置は、MAP中央では、嵐山と時枝と影浦と生駒、MAP南端に絵馬、南西方向に北添となっている。

 嵐山隊2名は、佐鳥と木虎が落ちたこと、北添の位置予測は終えていること、最後の佐鳥の狙撃により北添の足が削れたと佐鳥から報告を受けたこと、影浦が生駒に狙っていることを受けて、2名で北添に狙いを定める安全策を取り、移動していく。

 

「綾辻。正確じゃなくてもいいけど、絵馬の位置情報も分かれば教えてくれ」

「了解しました」

 生駒との戦線を離脱していく嵐山と時枝。これにより、生駒が向かい合う敵は、影浦隊隊長 影浦 雅人だだ1人。

 

「……カゲと俺とか絶対向かい合ったらあかんやろ。小さい子泣くで」

 彼を知らない人が見たら、不気味としか感じないであろう笑みを浮かべていることを確認する。そして、左手を柄に添える。

 

「よぉ……やろうぜ」

 小声で呟くと同時に、斬撃が彼の右半身と左半身を綺麗に分割する軌道で伸びていく。その軌道を左の短刀で防ぎながら、急接近していき、右の剣で攻撃を仕掛ける。

 

『攻撃手の最終対決は、影浦隊長と生駒隊長だ! 』

 ちなみに仁礼は北添に対して、「ユズル当たってねーのに何してんだ」と佐鳥の攻撃を受けたことを非難し、嵐山と時枝が北添に狙いを定めていることが分かったときには「できる限り遠くまで逃げろ、粘って落ちろ! 」とコメントし、影浦と絵馬に対しては「孤月ヤローを落とせよ、絶対だぞ! 」と励ましている。

 

 

『影浦隊長が生駒隊長の懐に入り込んだ! 』

 右の剣で孤月を受け、左の剣を突き刺して心臓を貫きにかかる。

 

 生駒はその攻撃を盾で防いだ上で、右足を軸に身体の向きを変更。突き刺しによる踏み込みによる身体の勢いは止められず、影浦は一歩分前に進んでしまう。その結果、背後を取った生駒は、影浦が向き直る前に、影浦の首を斜めに斬る。しかし影浦は向き直らずに、素早く右腕を後ろに振っていき、右前腕から出る刃で孤月を防ぐ。その勢いを殺しきれないと判断した生駒は、重心を後ろに移動させ、身を委ねる形にして飛ばされることを選択する。影浦が腕を振り終えると同時に、単に勢いで飛ばされる以上に後退した後、道路に足がつく。影浦はまだこちらに向き直っていない。

 

「思ったより近かったわ」

 影浦が踏み込む前に左斜め下から振り上げた孤月は、影浦に伸びていくものの、生駒の想定よりも近い位置で影浦に届く。

 

 孤月専用オプション『旋空』

 孤月をメイントリガーに入れていれば、メイントリガーに、サブトリガーに入れていればサブトリガーに入れることができるこのオプションは、孤月の攻撃範囲であるリーチを伸ばすことができるものである。伸ばされた孤月は、切っ先に近いほど速度と威力が増加していく。

 そのため、近い間合いで受けきれば、耐久力さえあれば傷を負わずに済むことができないわけではない。しかし、それは一部の例外である。まして、攻撃手トリガーの中でも耐久力が低いスコーピオン。刃毀(はこぼ)れさせるには十分である。そして、相手は木虎のようにスコーピオンが壊れたとしても、拳銃(ハンドガン)での攻撃があるわけではなく、両手ともに選択肢はスコーピオン。1対1ならばスコーピオンを壊しせば、一瞬隙ができる。

 

『生駒隊長が斬りかかった! 影浦隊長に反撃の隙を与えないつもりか! 』

 想定以上に近かった間合いが、幸いにも次の一手を早めることに成功する。

 

 左のスコーピオンが破壊されたことを受け、影浦は1撃目を右の片刃スコーピオンで受ける。2撃目は生駒が右に回り込んだことにより、横から影浦の首を刈り取るように振り抜かれる。影浦は体重を後ろにかけて首の位置を移動させて、その切っ先を避けた上で、左手に新たに作ったスコーピオンで生駒の喉を突き刺そうとする。その攻撃に合わせて大きく後退した生駒の3撃目は、刀を水平からから少し下げた位置から振り上げて、影浦の左手首諸共左手のスコーピオンを下に落としにかかる。しかし、そのことを感じ取った影浦が右足で後ろに蹴り上げ数歩分下がる。それ対して、生駒も左足で後ろに蹴り上げ数歩分下がりながら、4撃目で旋空を繰り出す。

 先程右に回り込んだことにより、左右に林立していた民家は、3階建ての民家が影浦の後ろに存在している。4撃目では、その建物が斜めに斬り落とされる。斜めに斬られた建物は、生駒と影浦の上に落下。落下していく瓦礫を影浦は左へ、生駒は右へ移動し避けていく。

 

『確かに影浦隊長はスコーピオンだけではあるけど、生駒隊長程ではないにせよマンティスもある』

 距離を取り体勢を整えた影浦が、生駒より先に右腕を素早く振り切る。

 

 鞭は、瓦礫を避けるように波打ちながら生駒に伸びていく。生駒は峰に左手を添えて、影浦の攻撃を避ける。少し横に飛ばされるものの、鞭が一瞬緩んだ瞬間に両手で柄を持ち、振り下ろす生駒。短刀により直撃は避けられるが、影浦の右肩に傷を与えることに成功する。

 

『それに、絵馬隊員もまだ残ってる』

 絵馬の狙撃が、生駒の左の二の腕に掠る。

 

 絵馬の狙撃が掠ると同時に、鞭が振り上げられる。生駒は刀を水平にすることで、首への直撃を避ける。身体に鞭を掠らせながら、上空に飛ばされる。身体が浮き、上手く身動きが取れないと判断したためか、絵馬に再び狙われる。その狙撃をシールドで防いだ上で、半円を描きながら伸びてくるスコーピオンに対して、孤月で軌道をずらす。

 生駒が道路に足をつき構える前に、影浦は鞭を再び伸ばしていく。しかし、孤月を左斜め上から振り下ろされることで、攻撃が往なされる。背後からの援護射撃を受け、生駒が孤月を振る時間を奪う。それにより、2撃、3撃、4撃と影浦が連撃を繰り返す。

 しかし、狙撃だけで生駒の時間を全て奪うことはできない。腰を捻り刀身を後ろに回した後、腰を戻していく。そうすることで三日月状の斬撃が影浦の腰から下と腰から上を2等分するように伸びていく。

 その攻撃を左に避けながら、影浦は左腕を素早く振りながら、鞭を伸ばしていく。

 

『影浦隊長と生駒隊長がともに深い傷を負った! 』

 腹を真っ二つにされることは防いだものの、互いに右脇腹からトリオンが漏出する影浦と生駒。

 

 生駒が5発目の旋空に対して、1発目の旋空と同様に左の短刀で防ぎながら、急接近。そして、右の剣で攻撃。但し先程と違い、影浦の背後を狙う銃口が1つ。

 

『絵馬隊員の狙撃が生駒隊長に当たった! 』

 背後から狙いを生駒より早く感じ取った影浦が右へ飛び、その狙撃を避ける。しかし正面に影浦がいたため反応が遅れた生駒は、左脇腹に弾丸を掠らせてしまう。

 

「ああいうのズルない? サイドエフェクト使ったら敵チームに1点とかあったほうがええんちゃう? 」

「ズルくないわ、あほ……一応射線通らん位置情報送ったやろ。とりあえずゾエさんのメテオラもないんやから移動し」

 影浦の攻撃を右へ捌き、絵馬の狙撃をシールドで防ぎながら、細井と会話をする生駒。

 

 影浦が左腕を振り上げてくることを受け、生駒はその攻撃を盾で防ぐ。そして、左足だけ後ろに下げながら孤月を振り下ろし、相手の左肩から斜めに斬り下ろす。

 影浦は、生駒の攻撃を右の短刀で往なしながら後退。次の瞬間、生駒の右腕を刺すように撃たれる射撃の音が響く。

 生駒は小さい円を腕の前に作り狙撃を防いだ上で、心臓を一突き。それに対して、左の刀で孤月を上から押さえつけ横に往なされることを予測していたため、相手の押さえつける力を利用して円を描くように、手首を返して刀を回していく。そして、正面に刀が戻った瞬間に刀を振り下ろす。この攻撃を右の短刀で防がれるものの、スコーピオンを破壊することに成功する。その瞬間に再び、上空に斬撃を伸ばしていく。

 建物の崩壊を見届けながら、急いで右の路地に入っていく生駒。数秒出遅れたものの、追いかけていく影浦。数秒の遅れにより路地に入ったときには、それなりの距離が置かれてしまう。

 

『生駒隊長の攻撃が届く! しかし影浦隊長はその攻撃を気にせず突き進む』

 左目に切っ先が当たるも、笑みを浮かべながら生駒の首を取るために、影浦は急接近する。

 

 大きく踏み込みながら影浦は、右の刀で首を斜めに斬りつける。その攻撃が防がれると感じた瞬間に、左の刀で敵を斬りつける。左の刀が横に往なされれば、右の刀で腕を斬り下ろしにかかる。

 当然相手は自分の攻撃を捌くだけではない。

 相手が踏み込み、自分の腕を落としにかかることが分かれば、斜め前に踏み込んで避けながら、右腕で相手の喉を狙う。相手がそれを避け、再び向い合うと同時に斬りかかってくることを左の刀で防ぎながら、右の刀で横から斬りつける。

 左から腹を狙ったスコーピオンをシールドで防ぎながら、今回の戦闘で一番素早く振り抜いていく。その攻撃に一瞬防ぎ遅れた影浦は、右のスコーピオンで防ぎながらも、数メートル以上ふき飛ばされる。

 影浦の眼前には、左手を柄に添え、刀身を水平よりも多少角度を付けて後ろに回している生駒の姿。

 

「この前はそっちが勝って、カツ丼奢ったんやから、次はそっちが奢れよ……」

 そして、素早く左から右に振っていく生駒。

 

「コンビニスイーツ」

 影浦の腹に孤月の切っ先が届くと同時に、北添のメテオラが届き、生駒の周辺の民家が一掃される。

 

 それゆえに届く、絵馬の狙撃。

 

『生駒隊長にアイビスが貫通! 影浦隊長の仇を取る形となった』

 シールドが壊れ、アイビスが貫通してもなお、緊急脱出(ベイルアウト)する瞬間までカメラ目線を忘れない男生駒 達人。

 

『嵐山隊2名は、絵馬の位置を考えて移動していたみたいだね。このまま絵馬が残ったら、絵馬もやられる可能性は高い。点差を広げないための緊急脱出(ベイルアウト)は悪くない判断だと思うよ』

 北添、影浦、生駒が落ちた後、絵馬の光を見ながら、王子はコメントをする。

 

『最終スコア4対3対2! 嵐山隊の勝利です! 』

 武富の声がブースに響く。

 

 

 

 嵐山隊 得点2点(北添と隠岐) + 生存点2点

 影浦隊 得点3点(南沢と木虎と生駒)

 生駒隊 得点2点(佐鳥と影浦)

 

 

 




久しぶりに書いたので間違えているとこあるかもしれないです。
なんかあったら教えて下さい。
次は何か書くか考え中です。
香取ちゃんを書きたいんだけど……誰を相手にするか
香取ちゃん相手を含め希望あればよろしくお願いします。

結構ストレスなく書けて個人的に楽しかったです。
プロットに
「南沢を活躍させる!! 」
って書いてあるのにどうしてこうなった……今度活躍させよう

ではでは

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