原作キャラが勝手に模擬戦するようです   作:チビメガネ

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 孤月は一刀流にこそロマンがあるという風潮……あると思います。
 それに+メテオラがという戦いもできるというね、もうロマンの塊だよね……まあ、教えたの第二の弾バカこと那須さんだろうけど。
 でもグラスホッパーもロマンレベル高いですよね。

スコーピオンは、人それぞれ性格が出る武器で好きです。
太刀川(スコピ)でやる脳内戦闘は、結構面白いんでおススメです。あの風貌で「モールクロー」とか「ブランチブレード」とか爆笑もんです。
風間さんの旋空は風格あるのというのに、全くこれだからダンカーは……孤月の長さと風間さんの背を比較するのは禁止事項です。たぶん加古さんが微笑ましい笑顔を向けますが禁止事項です。

ファンブック出て、あえて使ってない武器でやってみるのも面白いかもしれないですね……やべえ、ニヤニヤしてきた。

ちょっと前書きが長かったですね。ではどうぞ。
今回も2戦分です。



緑川 駿 vs 熊谷 友子

 

 

「ブース行こ」

 ボーダー本部の廊下にて、緑川は自動販売機で買った水を飲みながら一人で壁に寄りかかっていた。

 

 今日はこれと言って仕事もない。そして学校の友人と遊ぶ約束があるわけでもない。ならば、家で普段の疲れを癒すためにのんびり過ごせばいいではないか思うのが普通の人の考えだろう。しかしこの男子は、紛れもなく中学生……そう思春期であるならば、そうはいかない。思春期男子には、親にも、教師にも、同じクラスの女子にも、そして同士であるはずの同級生の男子にも教えたくない、いや知られてはならない聖域が存在するのだ。

 

「誰かランク戦してくれる人いないかなー」

 そうは言ってもこの男子は緑川 駿。憧れているのは、テレビに映っている可愛いアイドルでも今売れてきている女優でもなく、ボーダー玉狛支部実力派エリート隊員こと迅 悠一。日夜彼に近づこうと努力し、いずれ玉狛支部に兼業することを夢見る中学生。彼女らの誕生日やらスリーサイズやらは覚えず、人の技を見ては覚えて使い、自分流にアレンジしては使いということを繰り返して頑張っている。

 

 自分流に落とし込んで使いという方法で強くなろうとしている以上一番いい方法は、明らかに実践である。頭でイメージトレーニングはできても、実際にどうかを使って判断しないと分からないこともある。それに、緑川の性格を考えると下手に有用性やそのやり方を頭で考えてから使うより、実際に使ってみてから理解をするほうが早いと思われる。しかし実践とは言っても本当の敵が襲ってきたときに、あれやこれやと悩むのは間違いであり、手遅れである。

 そのような意味でもランク戦というシステムは、良いシステムであると考えられる。チームでのランク戦では、チームでの基本戦術を学ぶだけでなく、相手のチームのことを調べて対応する訓練をすることで、実際の戦闘でも多数の敵に自分たちの力を出すことできるようになる。個人(ソロ)のランク戦も、実際の戦闘で自分の技術が最大限出せるよう設けられている。

 そうであるものの、実際の現役隊員でランク戦の意味を堅苦しく捉えて常日頃から臨んでいる者が大多数というわけではない。日常では、ポイントやチーム順位といったものを気にし、自分や自分のチームが強くなるためにはどうしたらいいかを考える者が多いだろう……実際、強くなるためにはどうしたらよいかと考えることや強くなるために努力すること自体にボーダー全体の戦力増強に繋がっていくので問題はないとだろう。

 緑川も近い未来に玉狛支部隊員になる以上、強くなる必要性がある。今は当面の目標である、空閑 遊真からの勝ち越しを目指して色々と頑張っている。ここら辺の意識がたた単にバトりたい米屋とは違う……と言いたいが、緑川自身もバトりたい病を罹患していないと言えないのが悔しいところである。

 

「どうせなら攻撃手(アタッカー)だよね」

 水をゴミ箱に捨て、手を頭の後ろで組みながら歩いていく。

 

 バトろうよと電話したら、たとえ事務作業が残っていたとしてもすぐに駆けつけてくれる米屋は、今日は防衛任務後、堪忍袋の緒が切れた隊長の三輪とオペレーターの月見同伴のもと事務作業をやらされるらしく無理だと昨日連絡があった。

 幼馴染の黒江は、今日は外せない用事があるらしくランク戦しようと誘ったが、無理と連絡があった。

 荒船も狙撃手(スナイパー)の合同訓練後、穂刈曰く、荒船隊3人で今後の狙撃界についての会議をファミレスでするらしく無理らしい。きっと帰り道に喋りながら食事するという意味だろうと緑川は理解した。

 本命だった村上からは、最近お前とやりすぎだから流石に日を空けろと言われ断られた。

 その他自分ですぐに連絡できる人は、一通りし終えたが全員何かしらの用事があり、ランク戦の当てはなかった。では何故ブースに行こうとしているのか。それは少し前、ブースで米屋を見かけたとき三輪とこんなやり取りをしていたのを見ていからだ。

 

「この前、蓮さんも解説の総括で言ってたじゃん? 偏った見方をせずに見識を広げていきましょうみたいなこと。だから緑川に誘われなくても、普段戦わない人ともと戦おうと思ってブースに行こうかな、と」

「……それは今の事務仕事との関連性はあるのか? 」

「……」

 おそらくまた事務仕事を抜け出してきたのだろう。声を荒げず淡々と言ってくる三輪の目を見ずに、米屋は横を向いている。

 

「……行くぞ」

 服を引っ張られてブースから出ていく米屋の後姿がそこにはあった。

 

 ……緑川はこのやり取りを昨日米屋から無理という連絡があった際に思い出し、あえて当てもないのにブースに行き、普段戦わない人と戦うのもいいかなと考えたのだ。しかし、誰がいるか分からない。強い人とならばブースに直行してもいない可能性の方が高いかとブースに向かいながらも思っていると、とあるオペレーターが緑川に話しかけてきた。

 

「緑川君、どうかしたの? 」

   彼女の名は、武富桜子。言わずと知れた解説席の主。今日は仕事があり解説ができないが、彼女は自分の解説でなくても解説とあらば、どんな人の解説でもニヤニヤできる変態である。今だって何も緑川が悩んでいたからという理由のみで声をかけたのではない。

 

 そう……感じたのだ。解説の波動を。新たなコレクションが増えると。幸いC級ブースで用意できる椅子や机には盗ty……自分が仕事をしながらも聞けて、録音できる方法はいくらでもある。緑川の話を聞いている限り、自分の好きなメンバー、しかも珍しい組み合わせの解説が聞けるに違いない。だから武富は思った。

 

 これは……勝ったな、と。

 

「緑川君、私に任せて。今日なら熊谷先輩とか空いてるよ!! 」

「本当? いいじゃん」

「だよね! 後は私に任せて」

「分かった! 」

  攻撃手男子組にも一目置かれ、緑川自身も普段やってない熊谷とやれると分かって嬉しがっていた。

 その裏で、武富がニヤニヤしていたのは本人しか知らないことである。

 

 

『皆さん、こんにちは。今回個人ランク戦の実況をすることになった風間隊の三上。解説は……』

 今回もC級ブースに設けられた臨時解説席。そこに座っているのは、風間隊オペレーターの三上 歌歩。そして……

 

『太刀川隊の出水隊員と熊谷隊員が所属している那須隊の那須隊長です』

『よろしく』

『よろしくお願いします』

  軽く頭を下げる太刀川隊射手(シューター)出水 公平と那須隊隊長那須 玲。

 

『今回の緑川隊員と熊谷隊員の一騎撃ち、どうみますか? 』

『ポイントは緑川の方が上だけど、違う武器だし分からないと思うぞ。スコーピオンだとずっと斬り合ったらボロボロでしょ。それにうちの隊長曰く、くまはランク戦で那須の方気にしてるからポイントがちょっと低く見えるだけらしいぞ。まあそこら辺は同じ部隊に聞いたほうが早いと思うけど』

 熊谷のポイントは孤月で7000前半である一方、緑川のポイントはスコーピオンで9000後半。ポイントだけ考えれば緑川がかなり優勢のように思える。しかし出水の述べる通り、武器にも相性というものがある。

 

『そうですね。くまちゃんはいつも私の援護してくれるから、確かにあの子が誰かをやるってのは少ないと思います。私としても、きちんと対処してくれるからいつも助かってます』

『あー。確かにくまは、捌きとか返しとかそういうの凄いって言ってたわ。太刀川さんが』

『……そう。ありがと』

 孤月は攻撃力の高さだけでなく、耐久性や重さ等も含めて総合的に考えると、他の2つの攻撃手用トリガーの中でも基本性能が高い。しかしその一方で、孤月1つでは変形や拡張といった他2つのトリガーができることができない。そのためこのトリガーを使いこなすための土台として、一定以上の剣の腕が必要であるのは言うまでもない。熊谷もその例に漏れず、ポイント以上にその腕を上位陣に買われている1人である。

 

『そうは言っても、やはり緑川隊員の方が優勢だとは思うのですが……』

『まあ、そうだな。グラスホッパーで移動すりゃ無理に斬り合いしなくてもいいだろうし。色々できるスコーピオンの方が優勢っちゃ、優勢かもな。ただ、緑川と仲良い1人として言うと……』

 それに対して、スコーピオンは、耐久性が低いという欠点があり、しかも刀を伸ばすほど耐久性は低くなる。しかし、今『伸ばす』と述べたように、変形の仕方は数通りに限られておらず、技術さえあればどんな変形もできる武器である。これは影浦の鞭のようなスコーピオンを見れば明らかで、もはや変形の仕方は無限であると言ってもしれない。加えて体のどの部分からでも出せるといった特徴もあり、人によっては戦闘の幅を際限なく増やすことができる武器である。

 

『あいつ……最近は相手のこと見るようにはなったけど、ランク戦だと特に自分のしたいこと優先だろ』

『どういうことでしょうか? 』

『攻撃手じゃないからよく分からないけど、捌きとか返しって相手のこと見てないとできないことでしょ、たぶん。そうだとすると、自分のこと優先の緑川より相手を見てる熊谷の方にもチャンスあるんじゃないかなって話』

『なるほど』

 つまり、緑川のように色んなことをやりたい、見せたい、考えたい!! と言った人物には適している。緑川としても自分の性格を考慮して、この武器を選択したのかもしれない……まあただ単に迅がこれを使用していたという理由だけとも考えられるのが、緑川の良い所でもあり悪い所でもある。

 

『そろそろ、時間となりました。緑川隊員対熊谷隊員の2本勝負、開始となります』

 三上のアナウンスが会場に響くなか、ランク戦が開始する。

 

 

 1戦目

 

『まずは、双方向かい合う』

 緑川と熊谷が、数メートルの間隔を空けて相対する。

 

 緑川は左手に何も持たず、右手でスコーピオンを構える。それに対して熊谷は、右手用の孤月を構える。熊谷の目には、緑川の全身がはっきりと映っている。緑川の視線は、自分の喉元辺りを捉えている。そして右の刀が数度分傾き、右足が数センチ分動いたことが確認できるため、何かしらの大きな動きをすると考えられる。緑川だとすると、グラスホッパーで回り込むか、それとも右に意識を集中させて左半身のどこかから不意の攻撃を繰り出すか……どちらにせよ、相手はマスタークラス。ここまで露骨に右の動きを強調されると、単純な右の攻撃ではしてこないはず。

 熊谷は、緑川が右足を滑るように半歩分前に来るのを受けて、息を整えた上で自分は同じ分滑らせて後ろに下がる。

 緑川は、足を更に踏み込んで、右のスコーピオンを右から左へ素早く動かしていく。先端は尖らせいる一方、そこに向かうまでの形状はどの方向にも自由自在に撓るように、その刀は変形していき、大きな波形を描きながら熊谷の首を取っていく。

 ……というのは、あくまでも緑川の脳内での成功例であり、実際はというと……

 

「あれ、これでもダメか……」

 刃こぼれのように先端まであらゆるところにヒビが入っている長い棒が、辛うじて熊谷の眼前に伸びていくだけである。

 

 この光景に対して、熊谷は安堵の息を漏らしながら、その刀を避けていき一気に近づいて、左肩から縦に斬り落とすために踏み込んでいく。

 緑川は、棒を元の長さのスコーピオンに戻しながら、右足を横に出してこれを躱していった後、後ろに蹴り上げて後退。そして熊谷がこちらに向き直る前に、次は前に蹴って、低い姿勢で近づいて熊谷に襲い掛かる。右手には何も持たず踏み込む。

 

『緑川隊員は、ここでグラスホッパーを選択』

 熊谷の左肩を通り過ぎるように踏み台を設定。それを右足で踏み、加速する。

 

 熊谷の前を通り過ぎる際に、左足の表から刃を出現させる。

 熊谷は、孤月を縦にしてその刃を防ぐ。しかし、伸びてきた刃の先端は、孤月を避けるように伸びていく。その結果、頬にトリオンが漏れる程ではないが掠ってしまう。

 

『通り過ぎた先にあるグラスホッパーで、緑川隊員は戻っていく』

 熊谷の左斜め後ろに、45度程傾けられた四角形を再び右足で踏み込んで、熊谷の首元を狙ってスコーピオンを横に振っていく。

 

『これぐらいの速度なら、くまちゃんも対応できます』

 熊谷は右足を軸にして、後ろに回り込んで来た緑川の方に向き直る。緑川の攻撃は、横に円形の盾を発生させることで防ぎきり、距離を取るためにアスファルトを蹴って、後退していく。

 

 再び相対する2人。先程との違いは緑川がとりあえずスコーピオンを両手で持っている点である。

 まずは緑川が接近していき、左のスコーピオンで攻撃してくる。それと同時に右のスコーピオンでも首元を狙うように動かしていく。

 熊谷は、右からの攻撃を盾で防御し、左からの突きに対しては孤月の左部分で触れた後、手首を回して孤月を左側に持っていく。その動きに合わせて足を斜めに踏み込んでいき、孤月も斜めに振り下ろす。

 緑川は、重心を後ろに向けてその攻撃を避けながら、片足で蹴り続けて、数メートルの間隔を空ける。そして、構え直すために両足を地面につける。

 後退する緑川を見て、追撃のため前進し両足をつけた瞬間を狙って足を前に出していく。その動きを受けて、相手の視線は自分の右手首付近を一瞬だけ捉え、踏み込んで斬りかかってくる。その振り下ろしに対して、熊谷は、手首の捻りによって右拳を下にすることで、自身の剣先を下に向け相手の刀を受け止る。そして即座に返した刀で、頭めがけて振り下ろす。

 その攻撃に対して緑川は、左のスコーピオンを瞬時に動かして頭上に迫ってくる刀を逸らして躱そうとする。しかし完全に逸らすことはできず、自分の右肩に孤月が数センチ食い込んでいく。

 

「先輩……舐めんじゃないわよ」

「へへ……ごめんなさい」

 トリオンを上に向かって漏出させる緑川は、左手の平を上に向け光の球を出現させる。それに応じるように、熊谷も孤月を構え直す。

 

 緑川は熊谷の方へ近づいていき、自分の足元の一歩先に一つの踏み台が発生する。それを左足で勢いよく踏み切ると、熊谷の背後に移動する。その先には、左横に飛ぶように配置されたもう1つの踏み台。それを踏んで横に飛ぶと、そこから2回の踏み台を経由して、熊谷の斜め後方に移動。その移動中に右のスコーピオンで斬りつけようとするが、孤月で往なされてしまう。そしてまた移動。

 

『乱反射(ピンボール)!! 緑川隊員、縦横無尽』

『聞いてはいたけど……凄いですね』

 続いて、右斜め前に向かって加速する。熊谷は緑川が踏み切る前を狙って、孤月を緑川に向けて振る。それに対して、緑川はこの攻撃をより短くした刀の形状にしたスコーピオンで防ぐ。

 

 次の移動を受けて、熊谷は右斜め前に孤月を振る。緑川はこの攻撃も同様にして避けながら、左横に移動。その先にある踏み台の方向は、熊谷の右斜め後ろに回り込むような角度で傾いている。その角度を確認した熊谷は、その方向に移動してからの攻撃にも意識を向ける。

 熊谷の予想通り、緑川は右斜め後ろに移動し、攻撃をしてきたため、シールドを発生させてこれを防ぐ。

 

『熊谷隊員の孤月が綺麗に素早い攻撃を躱していく』

『グラスホッパーは、移動の加速とか戦闘の中での急な方向転換とかできるけど、移動前に移動位置が想像できるのはあれだよな。いくら早くても前と後どこにいくか分かってれば合わせられないこともない。ただまあ、あれだな。あいつもうちょい早くできるはずだから何か狙ってんじゃない? 』

『なるほど』

 左上からの攻撃を繰り出した後、背後を経由して、右上に移動しながら再び攻撃。そしてその位置から熊谷の左斜め前着地。そして姿勢を低くしたまま、すぐに正面に踏み込んでグラスホッパーを配置させる。

 

 その傾きからは、熊谷の顔面を加速した状態で突き上げるように飛び上がる緑川の姿が容易に想像できる。そうすることで体勢を崩させ、急所を狙う算段なのかもしれない。

 そう考えた熊谷は、飛び込んでくるところを捉えようと後退しようとした。しかし、そう思った矢先に熊谷の動きが止まる。

 

『ここで、緑川隊員のモールクロー! 自分の足裏からのブレードで熊谷隊員の足を捉えた』

『おー、やるな』

 緑川は、右手のスコーピオンを斜め下から素早く振り上げていく。

 

「この距離なら、まだ鞭っぽくなる」

 緑川が伸ばしていったスコーピオンは、見た目から分かるような脆さはなく、ごく小さな振幅の波形を作り上げ熊谷の孤月に接触しながらも、伸びていく。

 

『1戦目は、緑川隊員の勝利です』

 そのスコーピオンが、熊谷の心臓を貫く。

 

 

 2戦目

 

『1戦目の前半同様、熊谷隊員の手には孤月1つ。緑川隊員の攻撃を見事に捌いていく』

 緑川が右から斬りかかると、左に踏み込んで上からスコーピオンを抑え込む。左の刀で攻撃をしたときには、刀の右側で受けきり、返す刀でカウンターを仕掛ける。

 

 そのような斬り合いを10回ほど繰り返した後、緑川が動き出す。

 まず右足を踏み込んで攻撃。当然のことながら孤月で剣筋を変えられ、腕を切り落とすことはできない。そこで左の刀で首を狙うように横から斬りにかかる。

 ここで熊谷は、普段であればもう一度孤月で防いで、カウンターを相手に仕掛ける。しかし今は、緑川が右のスコーピオンの刀の付け根の部分から二又のように変形させており、そこの隙間に自分の刀を固定させ上から抑えつけていた。これでは緑川の左の刀が自分の首に届くまでに孤月で防ぐことができない。そう考えた熊谷は、左のスコーピオンをシールドで防いでいく。

 たが、緑川の攻撃はこれでは終わらなかった。シールドが首元で発生したときに、右のスコーピオンを右手から外す。そしてスコーピオンがシールドに触れる音が聞こえた瞬間に、そのシールドの裏を回るように左肘からスコーピオンを伸ばしていく。

 

「くっ」

 すぐに気づいて反応するものの、反応が遅れてしまい、熊谷の首元を掠めトリオンが漏れ出す。

 

 後退していく熊谷に、緑川はここぞとばかりに追撃をしていく。熊谷は、右から、そして左から次々とくる攻撃をシールドも用いて、防いでいく。

 緑川はそれを受けて、グラスホッパーを自分の正面に配置。熊谷の横に飛んでいく。その先のグラスホッパーは、熊谷の足元に着地するような角度で傾いている。

 

『大きく下がっていく熊谷隊員。緑川隊員と距離を空けていく』

『1戦目から着地、もしくは接近してからのグラスホッパーはわりと使ってるからな。警戒してるんだろ。最後だって近づかれてやられてるし』

『なるほど』

 緑川は、下がっていく熊谷を引き続き追いかけて追撃を仕掛けていく。

 

 緑川は続いて、左を先程と同様の形にして孤月を固定して、右の刀で斬り上げようとする

 しかし、先程のように上手くはいかず、熊谷は冷静に剣先を下げて二又から逃げていき、足を滑らせながら斜めに顔面を狙って振り下ろす。その攻撃は、躱されるものの緑川から距離を取ることになる。

 

「やっぱ、グラスホッパーないとあれだよね……」

 熊谷に聞こえない距離まで移動した緑川は、小声で呟く。そして、「よし」とその後すぐ呟くと大きく踏み込んで近づいていく。

 

 まずは、熊谷の肩を斬り落とすようために右のスコーピオンを振り下ろす。もう述べるまでもないことであるが、孤月が止めに入る。それに対して、緑川はもう一度孤月を自分のスコーピオンで処理する。ただ先程の二又状の枝分かれではなく、刀の部分をフックのように曲げていき、孤月を引っ掛けた後輪っか状にして固定……までは上手くいかず、フックを少し延長させた形にして熊谷を前方に引いていく。前傾姿勢になり倒れないために出してきた足を狙って、左足からスコーピオンを伸ばしていく。

 

『枝刃(ブランチブレード)!! 膝から3つに分かれたブレードを右足に向かって伸ばしていく』

『おー、よく避けたな』

 熊谷は足を削ることを察知し、自分の右足を防御するように縦にシールドを張っていく。

 

「ありゃ、ダメか」

 グラスホッパーを使う前に、機動力を弱めようとした緑川の考えは実行できず、次は姿勢を戻した熊谷からの追撃を食らい、そのうちの1振りが脇腹を掠める。

 

 足を削った方が大幅に有利とはいえ、緑川としてはやり方を変えるわけではない。強いて挙げるとするならば、逃げの選択を減らせる位でこれでも十分に仕留める自信は緑川にはあった。だから、左手の平に光の球を発生させる。

 

『再び乱反射!! 先程より鋭い形で高速移動を繰り返す』

『出水君がもう少し早いって言ってたけど、本当なのね』

 右斜め前からすぐに背後に回り込んで斬りつけると、そこの位置からトリオンが漏れ出す。熊谷は、自分の左斜め前と上空に意識を払ってしまったため食らってしまったのである。

 

 そこは単なる経由した道であり、緑川が現在いる位置ではない。次のルートは、背後から左斜め前の上空、そして横に飛んでいき、真上、右斜め後ろを通る。どうにか後方からの攻撃孤月で防ぎきるものの、前方の攻撃を食らってしまい、腕に傷がつく。

 続く移動は、後方、前方を数度繰り返す形となる。その移動の中で、右腕に攻撃が刺さっていく。しかし万が一予測できたとしても一瞬のうちに左に移動され、攻撃を受ける。

 そして何より、厳しいのは集中砲火と見せかけた攻撃である。例えば、位置を遅れながらも予測できたので孤月で往なし、同じ右側の次の攻撃をシールドの配置により防ごうとする。すると……

 

『右から左への高速移動。熊谷隊員、防御が間に合わず』

『2回の攻撃を防ぐために、孤月とシールド使わなきゃならないからな。特にシールドの発生は、2つ分消費しちゃうだろ……そうなると左ががら空きになる』

 トリガーは右手、左手の2つ分しか使用することができない。孤月、シールドを選択したのであればもう余分に使うことはできない。従って、右の攻撃に集中したその防御の結果として、左側は無防備になり攻撃を諸に受けてしまうということだ。

 

 このままではいずれ決定打がなかったとしても削り取られていき、最悪負けてしまうことは明らかである。しかし熊谷にとって、慣れれば、この速さに追いつくことができるというようなものではない。故にこの場所から逃げることがいいだろう。そのため、この場所から抜け出すために熊谷が考えた結論は……

 

『熊谷隊員は、メテオラを放っていく』

 メテオラを分割し、自分の立っている位置から全方位にメテオラを放射していくという方法だった。

 

 1つの爆発が新たな爆発を誘発し、自分の周囲に轟音と煙が発生していく。幸か不幸か緑川の軌道上で緑川に爆発の余波を受け、乱反射の停止に繋がっていく。

 

『緑川隊員に、致命傷ではないものの被弾。煙の中で、着地した緑川隊員を斬りにかかるか』

『グラスホッパーでどう移動するかは分からないですが、周りを回っていることは分かるわけですから、周辺に散りばめれば相手に当たる可能性は高いですね』

『だな。ここまできたなら可能性高いほうに、火力を集中させたほうがいい。それにサシなんだし面白いほうがいいでしょ』

 右には、B級中位の隊長にして、ボーダーの中でも屈指の射手の那須。

 左は、隊長と2人、そしてオペレーターの力でA級『1位』になっている戦闘員の1人であり、言わずと知れたボーダー上位の射手の出水。

 そして、その2人に挟まれる形で座っている三上は、桜子ちゃん、絶対これが聞きたかっただけでしょと悟りながら最後のセリフの準備をする。

 

 解説席で、弾バカ2名がそんなことを述べているなか、煙の中では新たな爆音も聞こえていく。

 2人して煙から出ると、互いにトリオン漏れていることが確認できる。そして、2人して振りかぶる。

 

『緑川隊員のスコーピオンが最後の刃を届かせる』

 後ろに回り込んだ緑川が首を刈り取る。

 

 

 






 解説があんまり補完になってねーと……今後弾バカ2名はやめようと思った作者です。

 結構真面目に那須さんがメテオラを教えたどうなるかを考えた結果、これが一番極端で分かりやすかったので、これにさせてもらいました。
 自分でもちょっとあれかなー、と思ったり思わなかったりです。

 さて、そろそろ14巻&ファンブックが発売されるわけですけど、その前に何か1戦書きたいんですけど、今書けるネタがないというのが正直なところです。
 そこで、誰と誰みたいとか、こんなチーム編成がいいとか言ってくれれば考えますんである人は書いてください。
 なければ休みます。

 後、迅(スコピ) vs 太刀川なんですけど1戦あたり凄い分量になりそうです。この2人は意地でも5戦書き切るんで、待ってください……3分割とかしちゃうかもです。
 犬飼 vs 諏訪はとりあえずファンブック出てからですかね……ガンナー分からん事多くって。
 でもう一つ。
 村上 vs 風間さんもそういや言われてたなと思って書いてみたんですけど、どーも、風間さんのこれじゃない感が強くって出すに出せない。
 もうちょい頑張るんじゃ。

 では、それ以外で何か見たいのあれば、もしくはアドバイス、感想あれば気軽にどうぞ。

 後、久しぶりにこの小説の小説詳細見たら、評価が増えててびっくりでした。
 ありがとうございます。

 1vs1も多vs多も難しいですが、今後も頑張っていくのでよろしくお願いします。

 それでは


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