原作キャラが勝手に模擬戦するようです   作:チビメガネ

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待ってた方がいるならすいません。
ニノさんと奴が上手く書けず、色々頑張ってたらをしてたらこんなにも時間が経ってしまって、すいません。

というわけで……
佐鳥さん_成長しない@期待を裏切らないの登場です。
こないな、ワートリSS界に新しい波は。


(仮定)
ワープ距離は、トリオンに応じて変わるという感じで。
後、冬島さんの頭の良さがイマイチ分からないので、口出しさせないことにしました。




変態狙撃手 vs 二宮隊+α

 

 変態という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。

 最初に思い浮かべるであろう意味はここでは無視するとして、『もとの姿・形を変えることまたその姿・形』と国語辞典にはある。その続きとして書いてある昆虫が孵化後、成虫になる過程で形態を変えることを指しているのだろう。

 このように書いたが、私達の普段の生活の中で、この意味で『変態』と使うことはまずない。ではどう意味で使うか。それは、『転じて』と書いてある次の意味だと考えられる。

 

『異常な状態』

 

 異常とは正常ではないこと。私達は正常でない、常識的に考えてあり得ないことであれば異常な状態と見なす。そして、それは状態とはいうものの、それを引き起こしたあるいはその行為をした人物に対して、日常生活では私達は『変態』と呼んでしまうのである。

 ここ、ボーダーにも『変態』が数多く存在している……いや、数多く存在していると言うと語弊があるかもしれない。ボーダーの上位ランカーはもれなく『変態』と考えていい。言い換えれば、上位陣は変態の巣窟であると断言してもよく、一般人など存在しないということだ。

 

 敵のフルパワーのブレードによる攻撃を避けきり、崩れ落ちる瓦礫に足を置き、敵の首を獲る変態。

 それでも倒しきれなかった敵を、圧倒的な攻撃の速さで敵の防御スピードを上回り刈り取る変態。

 ありえない程の速射性と火力の敵に対して誘い込み数名の犠牲で通常倒しきれない敵を味方を統制し、倒す変態。

 

 この間の大規模侵攻で行った変態達の所業は言うまでもなく、まだ語りつくせてと言ってもいい。大規模侵攻の被害がこの程度で済んだのも彼ら『変態』のおかげであると言っても過言ではないだろう。

 さて、そのような『変態』の集いである上位陣のなかで、より『変態』の人口密度が高い戦闘員集団はどこであるのか。これは難しい問題である。変態度合いというのは数字で決められるものではなく、データが取れるものではない。しかし、素人目で見て近接距離で敵を仕留める攻撃手(アタッカー)や中距離でやり方によっては派手に仕留めることができ、攻撃手(アタッカー)の支援をしていることが分かりやすい銃手(ガンナー)や射手(シューター)に比較すると地味に見える狙撃手(スナイパー)こそ、より『変態』に見える集団なのではないだろうか。

 実際、ボーダーの狙撃手(スナイパー)というのは控えめに言っても『変態』である……むしろ彼らを『変態』と言わずして誰を『変態』というのかという集団だ。

 

 射線が通らないMAPを眺めながら、敵の扱いを全部投げられた或る者は言う。

「そういう仕事は、全然振ってくれていいぞ」

 ……と。

 

 敵の弾が邪魔をしており、射線が通りにくい敵に銃口を向けながら或る者は言う。

「当然だ。あの程度では防御のうちに入らない」

 ……と。

 

 訓練の後、星形に狙撃した技術を褒められた或る者は言う。

「別に……こんなのただの遊びだし……」

 ……と。

 

 そして、或る者は撃ち終えた後に必ず近寄って言う。

「俺のツインスナイプ見た? 」

   ……と。

 これはとある技術を身に付けたある男が、その技術を伝承しようと奮闘する物語である。

 

  嵐山隊 作戦室

 

「……と思うんだよ。お前もそう思うだろ、木虎」

「……」

 嵐山隊他4名が新入隊の書類をパソコンで処理している中、1人その机から離れ背を向けて語る佐鳥。

 

「嵐山先輩。終わったので確認お願いします」

「分かった」

 カタカタと聞こえるキーボード音が作戦室に響くなか、パソコンを持ち上げて前に座っている嵐山の方に向ける木虎。えっとと言い見始める嵐山を確認しながら、木虎は一作業を終えたからか一息吐いてお茶を飲む。

 

「藍ちゃん。これもお願い」

「はい、分かりました」

 隣に座っている綾辻から紙を受け取った木虎は、右手で持っていた湯呑を机に置きその資料に目を通していく。

 

「嵐山さん。お茶です」

「悪いな、充」

「いえ」

 パソコンを見たまま、右手で湯呑を受け取り、そのまま口に運んでいく。

 

「2人もお茶」

「ありがと」

「ありがとうございます」

 木虎と綾辻の前に湯呑を置き、自分はもう一度嵐山の隣に座りキーボードを叩いていく。

 

「……仕事しよ」

 未だに背中を向けていた佐鳥は、向き直り自分の椅子に戻っていく……だたその心にはある意志が宿っていた。

 

 佐鳥が自分の事務仕事の最中に、年下の女子に睨まれ、挙句無視されながらも語っていたこと。それは自分が扱っているツインスナイプを広めようという話であった。

 ツインスナイプとは、その名の通り、2丁の銃を両手に持ち狙撃を行う独特の技術である。普通の狙撃の場合、当然のことであるが一度に一回の狙撃しかできない。しかしこのツインスナイプの場合、一度に二回の狙撃をすることができる。こうすることで、一度しかできないことによる火力差を埋めることができるかもしれない。しかも選んでいる銃は、イーグレットだ。速射性や弾速を考えるならば、ライトニングでも短い時間で次弾が撃てないとうことはないが、それに火力も考慮するとイーグレットが一番だ……しかし、普通はこのようなことはしない。

 というのも狙撃手(スナイパー)の仕事を考えれば、ツインスナイプの発想自体が出てこないはずなのだ。狙撃手(スナイパー)の仕事は、隠れて撃つというのが基本だ。従って2丁ではなく、バックワーム標準装備にするのが基本だ。まあ、彼もそのことについては、理解しているだろうが、それよりもロマン(佐鳥談)を取るような男だ。きっと……

 

「本物の殺し屋とは、見つからず敵を銃殺するんじゃない。分かってても避けられない攻撃。それがロマン……だってすごいじゃん、2丁拳銃とかかっこいいじゃん!! そしたらツインスナイプもかっこいいってことになるの!! 」

 とか思っていそうな男が佐鳥という男だ。

 

 そう思っていそうな男だからこそ、無視される数分前にたとえ年下の女子に睨まれてもとも言ったのだ。

 

「ツインスナイプが流行らないのは、狙撃手(スナイパー)の仕事に合わないからじゃない。皆がこのかっこよさを、そして素晴らしさを理解していないことにある。断じて俺のせいではない!! だから狙撃手(スナイパー)が活躍する合同訓練を所望する」

「その心は」

 熱く語る佐鳥に対して、時枝が振り返りもせずに続きを促す。

 

 佐鳥はクルッと振り返り4名の方を向き、できる限り顔を凛々しくして言った。

「俺も茜ちゃんみたいな弟子が欲しいです」

「……変態」

 木虎が吐き捨てたのを皮切りに、この仕事中の佐鳥の無視が嵐山隊の中で決まったのである。

 

 

 

『東さんの計らいで始まった、狙撃手(スナイパー)の特殊合同訓練。解説をすることになった、玉狛の宇佐美と陽介と太刀川さんです』

『どもども』

『どうぞよろしく』

 

 またまたブースを貸し切り始まった模擬戦。今回は佐鳥の相談を受けた東が設定した狙撃手(スナイパー)の任意参加の特殊合同訓練という形となっている。

 ルールは、簡単。狙撃手(スナイパー)集団が、東によって集められた部隊を倒せれば狙撃手(スナイパー)軍団の勝ち。10人近くいる狙撃手(スナイパー)を全員仕留められたら敵の勝ちというもの。そして今回はこのルールの性質上、狙撃手(スナイパー)は他の攻撃用トリガーを使ってはならないため、荒船の孤月抜刀等が見ることができないことになる。それでは近寄られて狙撃手(スナイパー)は不利ではないかと思うかもしれないが、1回だけワープを使用可能であり、それを行っている冬島は狙ってはいけないというルールや今回のMAPが狙撃手(スナイパー)有利の市街地Cであるという面を考えるとだいぶ狙撃手(スナイパー)有利に見えるが、東さんに集められた中心メンバーというのが……

 

『今回この訓練に参加してくれたのはB級1位二宮隊を中心とした部隊です』

『後は、北添と村上と諏訪だな』

『そうですね』

 宇佐美の言葉の補足をする太刀川は、右手に宇佐美から受け取ったと思われるぼんち揚げを持って音を立てながら食べている。

 

『……おかしい』

 3人で呑気にぼんち揚げを食べて転送を待っているなか、まだ転送されていない佐鳥の通信が解説席に入る。

 

『そうか、佐鳥。今回討伐側はバックワーム着ちゃダメなんだろ。しかもワープできるとかだいぶ東さんも譲歩したと思うぞ』

『それに市街地Cじゃん。頑張れよ』

 その呟きにぼんち揚げを口に含めながら答える太刀川と米屋。

 

『だって二宮さんとかガチじゃん!! もっと戦力を互角にしようよ。せめてレイジさんをください。怖いです』

 その2人の軽薄な態度に対して涙声で訴える佐鳥。ここからでは分からないが、立ち上がったまま腕を上下に振りまわり抗議している姿が目に浮かぶ。

 

『俺に言われても困るな……それに影浦いないんだからまだいいだろ』

『うちの筋肉は高くつくぜ』

『うちの隊長と加古さんいないんだから甘えちゃだめだな』

 その抗議もぼんち揚げを同じタイミングで口に入れた3人の前に無残に消えていく……と思われた。

 

 しかし、ここで太刀川が一言。

『まあ、そうだな佐鳥……』

 その溜めに対して、え……という言葉と小さい音ではあるものの、唾を飲む音が通信で聞こえてくる。

 

 佐鳥も太刀川も数秒固まる。聞こえるのは、ぼんち揚げの袋に手を突っ込む音だけ。そのビニールが擦れる音はすぐに消え、口でぼんち揚げを食べる音に変わっていく。

 

『弟子は無理だろうけど、頑張れや』

『ひどいっ!! 』

  ……転送が開始される。

 

 舞台は市街地C。坂道と高低差があるMAPである。加えて、高い位置取りのために行くためのルートも少ないという点や高い位置にも民家が十分にある点を考えると、狙撃手(スナイパー)が撃ちやすいというだけでなく、一度上を取られた場合狙撃手(スナイパー)の有利を崩すのが難しいMAPであると言ってよいだろう。狙撃手(スナイパー)軍団11名に対する討伐隊6名もランダムに転送されていく。

 

 一番方向が低い南側に転送されたのは二宮、別役、古寺、北添、辻の5名。二宮が一番西に転送され、そのまま階段を上がっていく。他のメンバーは、二宮の位置からから順に等間隔で東へ転送される。狙撃手(スナイパー)2名は、バックワームを着てそのまま近くの階段から上へ行き、辻と北添はひとまず合流の動きをする。

 階段を上がった先の二階層目には、ほぼ全員が転送されたようである。一番西に佐鳥、その近くに半崎と絵馬、そして、穂刈。中央には村上、奈良坂、そして中央から三階層目に上がるルートを抑えるように荒船が転送される。そして一番東の場所に雨取、日浦、諏訪の3名が送られる。

 半崎は、絵馬に追随するように共に上の段へ急ぎ、穂刈は、中央の援護へ。奈良坂はというと、東の方向に銃口を向けて構える。

 

『奈良坂くんが狙撃するも、ゾエさんには当たらない』

『辻ちゃんナイスフォロー』

 しかし、この狙撃は合流した辻の盾によって防がれる。

 

 距離にして700mは控えめに見ても超えており、スコープを覗いていたとしても普通は狙えるものではないため北添が注意を向けられないのも無理はない。しかし、このことに関しては二宮が事前に伝えてあったため、盾で防御されたとはいえ、辻に後ろから睨まれることになってしまう。

 

「……二宮さんが伝えてたと思うんですが」

「聞いてたけどね。この距離から撃てるってやっぱり思わないじゃん? 」

 北添は、呆れ顔の辻に対して苦笑いを浮かべて弁解をする。それを聞いた辻は溜息をついた後に続けて言う。

 

「奈良坂、イーグレットなら1km狙撃できるらしいですよ」

「……ボーダーの皆さんはヘンタイですね、はは」

 顔だけ後ろに向けて階段を上がっていた北添は、顔を引きつらせたまま顔を前に戻して、残り数段の階段を登るために左足を上げるのであった。

 

『ゾエさんと辻君は、東の方から一番上から上がらずに中央の方に向かうんだね』

 北添と辻が、階段を登り終え二階層目に移るとそのまま上に行かず、奈良坂がいる中央の方に向かうのがアイコンから確認できる。

 

『まあ辻ちゃんだし……な』

 二層目の東方向で、諏訪が雨取と日浦を追いかけて弾を散らせている映像を見て、ぼんち揚げを食べながら米屋が宇佐美の言葉に答える。

 

『うん。合ってるんだけど、そういうことじゃないでしょ陽介……ね、太刀川さん』

『ん? ああそうだな』

 星を出しながらポリポリ食べている従弟に溜息をついて、宇佐美は隣に座っている太刀川に返答を求める。

 

『まずあれだ。今回は狙撃手(スナイパー)対それ以外って構図なわけだ』

『なるほど』

 北添と辻の映像がそのまま映り、次は西方向からの絵馬からの狙撃の防御をする辻。

 

『しかも市街地C。となると狙撃を防ぐことが最優先にしなきゃいけないわけだ』

『防御してできる限り近づいてから、攻撃手(アタッカー)の火力で仕留めるってことですか? 』

 荒船の射撃をレイガストの盾で防いで、村上は射線の通らずらい路地を選択して奈良坂との距離を詰めていく。

 その頃、数10メートル手前では辻たちが、別役と古寺を視認し奈良坂のいる地点までに仕留めようしてか、北添がその方向にグレネードランチャーを向ける。

 

『いや、近づいたところで一回はワープ使えるんだ。わざわざ攻撃手(アタッカー)が建物に乗り込んだところで無駄足になる可能性も高い……まあ今回の場合、人数的に手遅れの可能性が高いんだったら近くにワープすることもあり得る。だから別に攻撃手(アタッカー)が攻撃を全くしないということはないだろうけど』

 グレネードランチャーから放たれた爆弾は2方向に適当に各数発、建物の屋上に着弾していく。しかし、建物に着弾する前に辻、古寺の両名はその位置から離れるようにワープする。

 

 別役は、辻の攻撃範囲内の建物に移動。それに対して、古寺は崩れ落ちる建物より西に20数メートル移動する。それをすぐに確認し北添は、古寺の方に届くように道を何本か通り過ぎ、もう一度2方向に銃口を向ける。

 

『そういう可能性が高い以上、近接距離の攻撃手(アタッカー)の火力に頼るよりは、射程がある銃手(ガンナー)の攻撃を主体に組んだ方がいいって考えだろ』

『ここまでの人数だと、誰から狙われてるか分かんないしな』

 その攻撃を受け、崩れ落ちる建物から落下する別役を辻は落として、すぐにそこから背中を向け北添のいる場所にもう一度合流するため動き出す。

 

『それに建物に侵入したところで、雨取の大砲一発で閉め出されて狙撃されて終わるのは目に見えてる。』

『あの大砲は怖いよな、隠れようにも意味ねーしな』

 横2人のその言葉を聞いて、宇佐美は無言で眼鏡をクイッと上げる。

 

『それに、とりあえず今討伐隊が避けるべきことは』

 一番高い位置である第三階層の東で、アイビスの銃口をとある民家の上から崩れかけている民家と爆発による煙幕も気にせずに構えているのはNo.1狙撃手(スナイパー) 当真 勇。

 

『一番高いところにいる当真による緊急脱出(ベイルアウト)と上位狙撃手(スナイパー)陣の高い位置の支配だろ』

 そのアイビスの弾は、孤月をオフにして作り上げた2枚の盾によって防がれる。げっとした表情をするも、シールドを見て安堵した表情になる北添。そして、数メートル手前の路地からそれを確認する辻。しかし、2つのシールドの発生により両手が塞がった辻の右足を奈良坂のイーグレットが射貫いた後、飛来してくるメテオラも避けながら引き続き村上から逃げ続ける。

 

『それに後少ししか持たないだろうが、諏訪とが雨取を抑えてるから大砲の心配もない……そのおかげで奈良坂が上に行くのを村上1人でどうにかできるし、降りてきた犬飼も加われば、まあ問題ないだろう』

 絵馬たちは仕方ないとして、佐鳥も行くのは避けないとだなと太刀川は続けていく。

 

『短時間しか耐えられないのに任せても平気なんでしょうか』

 宇佐美は改めて太刀川の方を見て、疑問を投げかける。

 

『それに、ワープが使えるならすぐに上を全員で抑えてしまってもいいと思うんですが』

 宇佐美は西の方のアイコンに目をやりながら、太刀川への言葉を続けていく。

 

『短時間でも問題ないのは、すぐに均衡を変えられるから。ワープを使えないのは、本当に逃げる時のために使いたくないから……二宮が今回戦場にいるってのが答えだろ』

 二宮が二階層目への最後の一段を登り終え、二階層を歩き始める。

 

 

「アステロイド」

 先程階段を上がっていく際に、崩れ落ちる建物を確認していた二宮は二階層目に辿りついた瞬間に四角錐状のアステロイドを6つ生成して、ワープ後に北添のメテオラによって落下した古寺に2発放つ。

 

『辻ちゃんの片足のための囮になんかなりやがって……お前の犠牲は忘れないぜ、章平』

『章平君……我々メガネ族の誇りだぜ』

『いいやつだった……』

 今回のルールは、討伐側はバックワームを着ないかわりにオペレーター有りの補助が付き、反対に狙撃手(スナイパー)側は全てレーダーで処理しなければならない。

 

 従って、討伐側は視認さえすれば誰がどこにいるということが把握できることになる。バックワームは、レーダーに映らないだけでオペレーターによるタグ付けをすれば位置把握ができる。例えどんな腕の狙撃手(スナイパー)であっても、その能力と位置の把握さえ正確に間違えなければ、急所を狙われることを避けられる可能性は高い……そう考えると、やはりバックワームを着ずに行うツインスナイプはやはり狙撃手(スナイパー)としては成立しないのかもしれない。

 

「辻はまだ動けるか」

「機動力は落ちましたが、まだ大丈夫です」

 上空に緊急脱出(ベイルアウト)の光が上がるなか、二宮は通信を入れる。

 

「佐鳥の場所は今確認した。俺と北添で佐鳥を仕留める。お前は、村上の方に合流して奈良坂を仕留めるための援護をしろ」

「俺もこのまま村上の援護でいいんですか」

「ああ。犬飼、辻で奈良坂を仕留めろ。あいつは今俺の射程圏外にいる。俺が佐鳥の相手をしている間に、一番上へのワープができる距離からワープして一番上に行かれたら厄介だ。ワープは最悪されても仕方ないが、上に行かせることだけは気を付けろ」

「辻、了解」

「犬飼、了解」

 佐鳥がいる屋上に向かって、二宮は残り4発のアステロイドを放射する。しかし、これは佐鳥が道路に自ら落下することで無傷で終わったことは想像できる。

 

「諏訪も大砲は、ひとまず放置でいい。奈良坂を仕留めろ」

「了解」

 二宮の命令で放たれたメテオラが道路に足をついた佐鳥の周辺に着弾していく。しかしこれはまともな傷を受けずにいた。

 

「荒船と穂刈は、佐鳥を追う上で狙えるだろうが、絵馬と半崎の位置が把握できない。気をつけろ」

 全員の返事ともう一度北添に命令以外は、防御に徹することの念を押して、全員動き始める。

 

『佐鳥は、一番上に向かうみたいだな……まあここにいてもあれか』

『逃げるのもそうだけど、狙撃手(スナイパー)としても有利になるほうを選ぶのが普通だよね』

 画面に映るアイコンを見て米屋と宇佐美は呟く。

 

『中央の方で、4名で急いで奈良坂を仕留めて二宮達に合流って感じか……位置把握はしてる日浦と雨取は無視ってところだな』

『残りの狙撃手(スナイパー)全員一番上のエリアに追いやって、二宮さんとゾエさんの2人で仕留めるということですかね』

『だろうな。位置がバレてないにせよ、自分のいるとこにいるなら半崎も絵馬も二宮のこと気にしなくちゃいけないしな』

 中央のことに触れた太刀川に対して、三階層目の補足をする宇佐美。

 

『でも当真さんは、気にしなくていいんですかね? ユズル君と半崎先輩は逃げないとだから二宮さんも奈良坂君の方も狙うってことは無理だと思うんですけど』

『当真は二宮と北添しか狙わないだろ』

 ぼんち揚げを食べながら軽く言う太刀川は断言する。

 

 そして、米屋が続けて言う。

『二宮さんとか狙えなさそうじゃん。後さっきゾエさん仕留められなかったでしょ』

『そうだね』

 3人ともに遠い目をしていた。

 

『さて、とりあえず奈良坂君の方を見てみましょう』

 当真の話を終え、中央付近の映像に移っていく。

 

「で……どうするよ」

 村上、辻、犬飼への通信をオンにしたうえで、奈良坂を追いかけている諏訪。

 

 目線の先には、奈良坂がいる。諏訪から届かない距離にいるが、奈良坂への攻撃は犬飼が後ろに発生させている盾で防がれているものの撃ち続けているのが現状である。

 

「どうするって、別にすぐ終わるからワープにだけ気をつければいいじゃないですか。雨取ちゃんは今逃げてんだし、攻撃手(アタッカー)も気にせず行けるでしょ」

「日浦とか狙った方が良くね? 一応奈良坂の弟子なんだろ」

「さっきまで、女子中学生を追い回してた大人は言うこと違ういますね」

「……そういうじゃねーだろ」

 屋根からの飛び降りの着地点を挟み込むために移動を開始している。

 

 村上は着地点に向けて坂を上っていく。奈良坂の着地点と考えられる場所への道に出るにはこの坂を上った先の道ではなく、その道を挟んだ違う坂を上る必要がある。

 

『ここで、荒船隊隊長荒船さんの一撃』

 村上が1つめの坂を上り終え、道へ出ようとしようとしたところで荒船が射撃。小さな光を見た村上はそれを躱すために、道に出ずに一呼吸置いてから進み始める。

 

 背後の一番上へと上がる階段付近で、おそらく日浦や雨取の三階層目への移動を遅らせるための数発と荒船隊2名の注意を向けるための数発のメテオラが炸裂する一方、辻は機動力の低下で遅れながらも奈良坂の着地点に向けて階段を下がっていく。

 

『荒船隊2名は、引き続き援護射撃をしようと試みるも建物を破壊していく二宮さんの前に断念することになってしまう』

 辻に照準を合わせようとしていた穂刈と再び村上を狙おうと構えていたものの、階段を上がっていく佐鳥を追っかけて、同様に第三層に突入し始める二宮を前にとりあえず逃げる選択肢を取る。

 

 そのうちに下っていく辻と諏訪が共に、犬飼を視認できる距離と場所に下りていき奈良坂に対する攻撃態勢を整えていく。

 最初にその位置に辿りついた犬飼が、奈良坂が着地したところに弾を放つ。

 奈良坂は、自分の横に盾を張り、左に顔を向けて新たに敵が来た方向にライトニングを向ける。

 

「ビンゴ」

 自分の眼前で鳴る金属音を聞いて、諏訪は不敵に笑いながら右手の銃の引き金を引いていく。しかしその攻撃は、奈良坂が地面に手を付けたことで避けられることとなる。

 

「諏訪さん。後ろ」

「ちっ……ワープか」

 奈良坂は、銃手(ガンナー)であれば射程圏内の場所にワープし、再び構える。諏訪はそれを受け、両手に銃を持って、両攻撃(フルアタック)で後ろを振り返り、弾を散らしていく。

 

『仕事人穂刈篤。緊急脱出(ベイルアウト)前に、諏訪さんに向けての射撃』

 惜しくも辻による盾で防がれるも、自分の位置にアステロイドが届く前に射撃をする穂刈。

 

『隊長がその動きに答える。辻君にイーグレットの弾が貫通』

『辻は、機動力的に見て的になるし、生かしておくのもあれだしな』

 荒船も穂刈の射撃を受け、緊急脱出(ベイルアウト)前に辻を射貫く弾を撃つ。奈良坂による諏訪への1度目の攻撃のための盾も発生させていた成す術なくその弾が直撃する。

 諏訪は、そんなこと気にせず奈良坂のことを撃ち続けている。犬飼も右の銃で奈良坂を捉えて、左手を空けた上で諏訪の援護射撃をする。

 

「先輩、左です」

「了解……ホント良くあの位置から届くな、半崎のやつ」

 緊急脱出(ベイルアウト)直前で叫ぶ辻の声に反応した犬飼は、諏訪の左側に盾を張り三層目からのイーグレット射撃を防ぐ。

 

『2発目のライトニングは、諏訪さんの左腕を落とす』

 諏訪の左腕が消えていくのと同時に、奈良坂が緊急脱出(べイルアウト)して、犬飼と諏訪の2人が三層目への移動を先程と比較すると楽に開始し始める。

 

『このまま奈良坂1人ここらへんで逃げ続けてもいいんだろうけど、荒船たち2人がなくなる手前、時間も稼げないからな。ここで辻を落とした方がいいって考えだろう』

『防御要因は、減らしたいのもあるだろうしな』

『討伐隊としても無傷の村上の方が扱いやすいってのも事実だろ。村上1人でもうそろそろ一番上のエリア突入するようだし。機動力落ちた辻を餌にしても問題ないってことだろ』

『そうっすね』

 奈良坂が落ちたのを見て、太刀川と米屋が解説を続けていく。

 

『餌とか囮として機能するのは、残してたらヤバいって考えが頭に浮かぶのが1つとしてあるって章平が言ってた』

『流石だね』

『だろ』

 2人で今は亡き古寺を偲んだ後、米屋が続けていく。

 

『……というか、今回佐鳥が隊長ってことでいいんだよな』

『そうだね』

 画面を見たまま宇佐美は頷く。

 

『……』

『……』

 米屋がぼんち揚げをもう一個口に入れている一方、映像は一番上の三階層目の東側、村上のいるエリアに移っていく。

 

『先程イーグレットの位置も把握し、ユズル君以外の場所は分かっているようだ』

 村上は視線を一瞬先程の弾道をなぞるように動かし、半崎の位置を確認する。一番上の第三層目の中央から西側では二宮が戦闘をしており、そこにワープで飛ぶのはまずないという考えだろう。だからといって、確定事項ではないため指標ではあるが、東側内だけの移動だけならば、方向の想像はできないわけではない。

 

『千佳ちゃん、茜ちゃんは先程のメテオラの妨害であまり奥まで進めていないが、鋼さんの狙いはとりあえず半崎義人ただ1人』

 村上のアイコンが右奥に向かっていき、半崎の後を形となる。半崎は引きつけるためか、ワープは使わずに奥へと進み続ける。

 

 西側では、二宮のアステロイドが屋上を壊していく、平均すると2、3回に1度に中央付近にいる北添のメテオラで、西方向、東方向の建物を崩していく。

 

『茜ちゃん、少し離れて千佳ちゃんと2人でこの逃走の援護をする形になっている。鋼さんも迂闊には手はだせないか』

『3人いるにせよ、ワープの使いどころと北添のメテオラを警戒してるってのはあるんだろうな。半崎がワープしたら村上は狙えるだろうが、半崎はもう逃げるしかない。日浦もアイビス使えばレイガストの盾は壊せるだろうが、村上も誘ってると考えると日浦のとこにメテオラが降ってくる可能性も捨てられない』

 村上は、依然として足で道路を逃走している半崎を追いかけるだけで、距離を保っている。日浦も追いつかれるのもまずいからか、射程圏内から外れないように追いかけるだけで撃ちもせず射程圏内の距離を保持している。

 

『絵馬とかどうなんっすかね。あいついれば3人の援護できそうなんですけど』

『できるだろうが、二宮も今までの動きでどこらへんの方角にいるかは、分かってるんだろ。今位置まで分かったら、そろそろ着く諏訪と犬飼に追われるだけ。村上への牽制もなくなる』

『なるほど』

 2人して、残り少ないぼんち揚げを食べながら、映像を見ていると、諏訪と犬飼が階段を上がり三階層目へ全員が集合しつつあった。

 

 

 そのときだった。ランク戦ではお馴染みとなりつつあるアイビスの轟音を伴った砲弾とも言える銃弾がが中央付近へ放たれていく。

 

『ここで、千佳ちゃんの大砲だ』

 テンションを上げて今までで一番大きい声を出す宇佐美に、反応して米屋は何故か、おーと声を出しながら右拳を天井へ突き上げる。

 

 その轟音に嫌なことを思い出したのか諏訪は顔を歪めて、視線をそちらに向け三階層目に突入する。それに引き続き犬飼も三階層目に突入

 

『佐鳥がワープを使って、建物の屋上に移動したな』

『ここで放つは二丁構える男……オペレーター的に言うと狙撃手(スナイパー)の隠れる場所を考えなくていい男の名は』

 北添付近の建物が正しく大砲が着弾したかの如く、煙幕付きで破壊されていく。

 

「アルティメットー」

 建物の屋上から飛び降り、第三階層で一番低い位置に右の銃を向け、引き金を引く。その弾道は、一直線に諏訪の眼前の盾に着弾する。左の銃口は犬飼を向いたものの、こちらも冷静に盾を張られ躱される。

 

 北添は、おーと言う顔をして何を悟ったのか村上の方へメテオラを放射する。

 

「アクロバティック……」

 数メートル落ちながら一回転。そのうちに左の銃を下方に向けて、北添の頭を上から貫くはずであったが、着弾する前に煙幕によって、二宮から位置がばれないと考えたのだろう絵馬の弾が心臓を貫いており、それによって先に落とされていた……しかし本人は回っているので気づいていない。

 そして右の銃は、絵馬の位置を把握して半崎に距離を詰めた村上の下へ。しかしこれはレイガストで防がれ、孤月で半崎を落とす。

 

「佐鳥・ファイナル」

 もう数メートル下の空中でひねりを加えながら、絵馬の方へ方向を変えた犬飼の首を目標に狙撃。ひねり後に諏訪の心臓に再び狙撃。しかしこれは2つとも走りながらの盾で防がれる。

 

 村上の方では、日浦のものと思われる光の筋が上空に上がっていく。

 

「ツインスナイプ」

 その狙撃後、正面を向いたところで同じタイミングで同じように狙うように銃を構える。こうなるだろうと思っていたのか、絵馬はアイビスを諏訪に発砲。盾をもう1つしか発生できない諏訪は、この攻撃を防ぎきれず被弾してしまう。

 

『……この男の名は、佐鳥賢』

 イーグレットを持ったまま、体操選手のように手をYの字に向けて無事着地『は』する……隣に顔を向けると、そこにはNo1射手(シューター)二宮 匡貴の姿が。

 

「……そうだと思ってたましたよ、ニノさん」

 良い笑顔を浮かべ、体勢はそのまま顔だけそちらに向けている佐鳥。

 

『……まあ、活躍できなかったからな。こうなるよな』

『……雨取はいいやつだった』

『うん。千佳ちゃんはいい子だよ』

 緊急脱出(ベイルアウト)の証が東の方向で出たとき、解説席はその言葉だけが交わされていた。

 

 二宮の周りは、煙幕が未だに消えかけていないものの、二宮の前方には、メテオラと先程の砲弾の影響で更地のような風景が広がっている。そして真正面には、佐鳥。

 

「アステロイド」

 左手をポケットから出しながら、4つのアステロイドを佐鳥の上空に発生させる。

 

 落下していくアステロイドは、佐鳥に降り注いでいく。その着弾しするかしないかのタイミングで二宮の後ろの建物を通り抜けてアイビスの弾が左肩を貫くような弾道で飛んでくる。

 

「……ワープしたと思ったが、そっちで合ってたか」

 左に発生した一枚の集中シールドでは防ぎきれなかったが、左肩に穴を開けトリオンが漏れる程度で済む。

 

『華麗に背を向ける二宮隊長。鋼さんも合流してユズル君を仕留めるのも時間の問題か』

『だろうな。もう戦力差的にも無理あるだろう』

 ポケットに手を入れ直し、スーツを靡かせ佐鳥の光も確認せずに後方に向かっていく二宮隊長。

 

 彼の覇道は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 





で、次回について

風迅 vs ランク戦第四戦メンバーズ(玉狛以外)かなと迅のほうに誰か加えるかもしれませんが(誰か希望があれば言ってください)

他の進捗状況
くま vs 笹森→諏訪隊としては動かせるけど笹森単体無理そうという個人的な理由で、
くまvs 緑川に

犬飼 vs 諏訪→忘れてました。今脳内戦闘中です

迅 vs 太刀川→もうちょい頑張る。皆さんも脳内戦闘やってみてください。面白いです、ニヤニヤしかできないです……文章にできるか不安です。

ランク戦第四戦裏側も書くんですけど。
那須隊 vs 鈴鳴 vs 香取隊
に順位的に(すぐ描写くるだろ的な意味でも)問題ないのかなと思うんでこれでいこうかなと……違いますかね?
というわけで次のランク戦は、本誌を読んで研究します。

ランク戦初戦の諏訪隊のは、
諏訪隊 vs 鈴鳴 vs 柿崎隊
で行こうと思います。


ちょっと長文でしたが、その他見たい戦いがあれば、もしくはアドバイスもあれば受け付けているので気軽に感想とか活動報告のところに書いてください。

2月中にまたここで何か書くと思うので、よろしくお願いします。

ではでは

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