原作キャラが勝手に模擬戦するようです   作:チビメガネ

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米屋陽介 vs 生駒達人

 

 

「最近考えてることあるんやけど、質問いい? 」

「ほう……なんっすか? 」

 時間は昼過ぎの土曜日。場所はボーダー食堂。

 

 米屋の趣味は、個人ランク戦である。普段は学校という米屋曰く「最大にして最強の敵」があるためランク戦に勤しむ時間が削られる。しかし土曜日、日曜日は学校がない。従って彼がすることは決まっている。平日中に約束を取り付けた結果午前中に戦うとなれば、早起きをして彼なりにコンディションを整える。平日中に約束を取り付けられなかった場合でも、元気よく起床し午前中からブースに入り浸り暇そうな隊員を探しランク戦をする。

 彼の母親は呆れながら言う。

「陽介……平日は布団剥がないのになんで休日だけそんな元気なの」

 ……と。

 

「男にとって重要な問題やと思うんやけど……」

 本日は約束を取り付けられなかった日。ブースにてたまたま見つけた生駒と昼食を取り、この後ランク戦をすることになっている。

 

 この食堂は、当然ボーダー内にある。もし同じ部隊ならば、次のランク戦の話をしながら食事をするだろう。もし同じ学校に行っているならば、宿題の話や学校行事について話をしながら食事をするだろう。ではA級、B級で違う部隊であり、高校生と大学生という学年も違う2人は何を話すのか。

 立場も学年も違うが、男が2人。話すことなど決まっている。

 

「米屋、お前って人生で一度は言ってみたい台詞ってある? 」

「ほう」

 男のロマンの話である。

 

「俺、この前洋画っていうの? 海外の戦争ものの映画見たんやけどあれや。『俺帰ったらさ、こいつと結婚するんだ』っていうのシビレたわけよ。ああいうのってええよな」

 生駒は自由に注いでいい麦茶を飲みながら、米屋の方を向く。

 

「ベタっすね。でも分かるわ。それで親友とか庇って『あいつのこと頼むぜ』っとかなったら完璧」

「……なるほど。結婚する女子と親友含めて幼馴染設定な、完璧やん。それなんて題名のやつ、見たいわ」

 チーズカレーのルーだけをスプーンで掬いながら、目を見開き米屋の方に身を乗り出す。

 

「これこれ。戦争ものじゃないんですけど、荒船さんが『アクションがヤベー』って教えてくれたやつなんですよ」

「ほう、荒船のおススメか。アクション方面でも楽しめるとか……いいな」

「何か爆発とかもヤバいです」

 生駒の視線の先には、米屋の携帯画面。生駒はその題名を頭の中にインプットした上で、次はチーズとルーと白米を一片に口に入れる。

 

「……でも、そうか。幼馴染設定とかもそうやけど、さっきのやつは環境とか状況が関係してくるパターンで出てくる台詞なわけじゃん。例えば俺が、マリオちゃんに『俺、この防衛任務終わったら、マグロカツ丼食うんだ』って言ってもダメなわけやろ」

「『勝手に食ってろ! 』って言うだろうな、確実に」

「そうそう。となるとやっぱり状況関係なく言えるやつじゃないといけないわけだろ。ムズイな……」

 麦茶を飲んだ後に、スプーンで米屋が食べているマグロカツ丼を指した上で、溜息を吐く。

 

「状況関係なくできそう言ったら、あれじゃないですか。『釣りはいらねー』的なやつ。あれなら金出すときなら絶対できますよ」

「ああ、あれか。あれは本当に多めに払ってるのがポイント高い。金のことなんか気にしてない感がええな」

 天井を見上げ悩んでいる生駒に対して、米屋はマグロカツ丼を口に運びながら、自分が思うカッコイイ台詞を上げる。

 

「……でも、それ言ったことあるんよ。レジのおばちゃんに多めにお金払って」

「マジか……で反応はどうだったんですか」

 テーブルに肘をつき、両手の指を交互に絡ませた上で渋い顔をした上で、生駒は2週間前のことを思い出す。

 

 この食堂は食券で管理しているものと、管理していないものがある。うどんやそばなどの麺類のトッピングや天ぷらについては自己申告でもらい、後払いになっている。

 そこで生駒は挑戦した。エビ天とかぼちゃ天を頼み、1000円をレジの人に叩きつけ、「お釣りはいらない、懐にでも入れときな」とドヤ顔で言い切ったのだ。

 しかしレジの人がその言葉に驚いたのは本当に一瞬だった。大笑いをした後にお釣りを置いてこちらもドヤ顔で言い切った。

 

「そんな達人ちゃんには、かき揚げも奢りだよ! 」

「……おばちゃん、ありがとな」

 そう言って互いに親指を立てて笑い合う生駒とレジのおばちゃん。

 

「……と、まあおばちゃんの方がイケメンだったわ」

「一本取られたな」

「せやな……ここのかき揚げめっちゃウマいし、やられたわ」

 米屋も生駒も互いに仕方がないと言うかのように、首を縦に振り麦茶を飲む。

 

 生駒は皿を少し傾け、スプーンに最後の一滴まで掬ったルーとチーズを絡ませた白米を口に入れた後、麦茶をもう一口飲む。

 米屋は最後まで一口も食べていなかったマグロカツ一切れと醬油も染み込ませた白米とともに流し込み、麦茶を一口飲む。

 

「ふう……イケメンってなんやろうな」

「京介が言ってたんですけど、時枝(とっきー)見てる限り『気配り』らしいっすよ」

「モテるやつってどんなやつだと思うか嵐山に聞いたら、キラキラ笑顔で同じ事言ってたわ」

「やっぱ、そこか……」

 手を合わせて一息ついた後に独り言のように放たれる生駒の言葉に、米屋はもう一口麦茶を含んで反応する。

 

「チーズカレー、手伸ばしにくかったんやけどウマかったわ……全く関係ないけど」

「マグロカツ丼もイコさんが押すだけありました。ウマかった」

「せやろ。俺の中で電撃が走ったからな、マグロカツ丼」

 互いに立ち上がり、トレイを持ち流しに向かっていく。

 

「じゃあ今日の夕飯ってことでええな? 」

「了解。定食がタダとか……食費が浮くのはデカイ」

「何言ってるん? お前がマグロカツ丼奢るんやで」

 睨みあう2人。

 

 学生の大切なお小遣いを賭けた勝負が今始まろうとしていた。

 

『本日の個人ランク戦特別解説。実況担当は風間隊の三上。解説は……』

 ブースに置かれる長机と手書きの解説席の垂れ幕。今回座っているのは解説席の主こと武富桜子ではなく、風間隊のオペレーター三上歌歩である。そして三上の隣に

 

『適当メテオラ……だから当たらない、こと北添先輩です』

『……三上ちゃん、説明ひどすぎない? ゾエさん初っ端から泣きそうなんだけど』

 泣き真似をする北添に対して、三上は生駒から受け取った原稿を見せる。

 

「そしてゾエは言う……」

『あの人、これを三上ちゃんに言わせるためだけにゾエさんのこと呼んだの? 真剣な口調で呼んどいてくだらなすぎでしょ、何それ……』

「……と」

 生駒が雑な字で書いた『ゾエの紹介文』を見た北添は、呆れた表情を浮かべた後に、その紙を自身の正面に置く。

 

「本当にそんなこと言ってるんっすか」

「一言一句合ってないだろうけど、まあ合ってるやろ。確かに……」

 槍を肩に乗っけたまま正面にいる米屋は生駒に問う。

 

「オモロないことは認めるわ、5秒で考えたし。くだらない以前の問題や自分でも思うわ」

 左腰に下げてある鞘に手を当てて孤月を出現させながら、生駒は米屋の問いに答えていく。

 

「でも……お前()うたやん? 後で武富ちゃんに解説聞かせてもらえるわけやろ」

 生駒は、出現した柄を右手で持ち鞘から抜いていく。それを見た米屋は、槍を正面に構えて切っ先を生駒に向ける。

 

「国近ちゃんも武富ちゃんも聞いた……でも三上ちゃんは聞いてないねん。そう、ゾエはフェイクとして置いただけ」

 右手だけでなく左手も添えて振り上げる生駒に対して、米屋は右足だけつま先を上げて円を描くように動かしストレッチのようなことをし始める。

 

『生駒隊長、向かい合った瞬間に旋空孤月を繰り出した! 』

 コンクリートに削りながら、斬撃が米屋の身体を二等分するように伸びていく。

 

 攻撃手としては異常な間合いであるその斬撃は、米屋の間合いに入る前に放たれる。しかしその一振りは横に振られたわけではなく、あくまで縦に振り切られたものである以上、軌道は直線状である。

 

『イコさんの旋空は確かに凄いけど、米屋くんなら隙を突かれたわけでもないならそうそう当たらないよね』

 従って、1対1ならばタイミングさえ掴めれば避けられない攻撃ではない。

 

「だからこそ、三上ちゃんに旋空褒めてもらわなあかんわけ」

「褒めてもらえるわけないでしょ。俺がイコさん倒すんっすから」

 自分で放ったとはいえ、生駒も流石に米屋がこの攻撃で負傷するとは思っていない。

 

 斬撃を避けて急接近してくる米屋に対して、生駒は米屋の突きを峰で切っ先を抑えた上で後退していく。そして米屋が幻踊をしないと分かった瞬間に、切っ先を振り払い踏み込んで喉を狙い、孤月を横に振り切っていく。

 左足で後ろに蹴り上げて、米屋はその攻撃を回避する。

 

「でもあれですね。旋空で褒められんのは俺かもしれないですよ」

「……嘘こけ。お前が好きなんは幻踊(曲がる方)やろ」

 距離を取る米屋と生駒の表情は、互いに不敵な笑みを浮かべている。

 

「……最近は違うんだな、これが」

 先に動いたのは、米屋。

 

 右足で踏み込み右腕を使って放たれる勢いのある突きは、生駒の首を刈り取りにかかる。生駒は切っ先を視界に入れた上で、右横に飛んで回避する。生駒の予想通り、槍の(きっさき)は生駒を追跡するかの如く曲がっていく。

 その切っ先が自身の首に当たることを防ぐために、生駒は小さめの丸い盾を首元に生成する。

 

『イコさんにも言えることは、米屋くんにも言えるよね。互いにどう戦うかは分かってる者同士だし』

 市街地に響き渡る金属音。

 

「米屋……嵐山が言ってたんやけど、噓つきは女の子にモテへんらしいで」

「俺はやっぱ、強い方がモテると思いますけどね」

 米屋の方を向き毒を吐く生駒に対して、米屋は不敵な笑みのまま構え直す。

 

「……それもそうか。んじゃ勝った方がモテ男の称号と……」

 米屋のその表情を見てわざとらしく笑った後、生駒は構え直す。

 

「夕飯の代金を渡すってことで……」

 生駒が構えている姿を確認し、米屋も一歩後退し構え直す。

 

「恨みっこなしや! 」

「恨みっこなしだ」

 そして一息吐いた後に、互いに踏み込んでいく。

 

『個人ランク戦、特別解説戦。1本勝負! 米屋隊員vs生駒隊員、開幕です! 』

 刀の刃と槍の穂が火花を散らす。

 

 

『三度睨みあって以降、生駒隊員の猛攻が続いている! 米屋隊員は攻めあぐねている様子』

『攻撃手じゃないからよく分からない部分もあるけど、攻撃手として考えたら槍はどっちかというと外の方の間合いだろうし、詰めたら刀の方がやりやすそうだよね』

 穂を振り払った後、生駒は一気に踏み込み孤月の間合いに入っていく。

 

 深く踏み込み足元から斬り上げてくる生駒に対して、米屋は大きく後退した上で槍を振り上げて捌く。生駒の孤月の切っ先と同様、米屋の槍の(きっさき)も上空に向いている。後退した結果、一瞬槍の間合いになる。勢いよく振り下ろされる槍が右肩に触れ、そのまま右腕が地面に落ちる……

 

「やっべ」

 とはならず、生駒が刃の位置と方向を即座に変えながら、左斜め前に踏み込んで回避したことで傷をつけるに失敗する。

 

『まあでも、米屋くんはそんな状況くらい予測してんだろうけど』

 米屋から見て横に踏み込まれたとしても、間合いの外に出られたわけではない。

 

 槍の利点はリーチが長い点。それは敵が正面にいるときに、敵よりも外である間合いで応戦できるという話だけではない。簡単な話であるが、もし相手が横に回り込まれたとしても、リーチによる間合いを再度計算しなくても、攻撃ができる。

 上唇を舐めながら生駒の心臓を狙うその顔は、まさに獲物を狙う獣のそれである。

 

「貫通する」

 心臓の数cm手前で止まる槍の(きっさき)

 

「……って思うじゃん? 」

 シールドで槍の穂を防御する生駒の表情もまた、獲物を狙う獣のそれである。

 

 生駒が刀を持っていない左手で狙うは、米屋の位置の固定である。

 生駒は左手で槍の前段を掴み、そのまま小さく踏み込んで米屋の肩めがけて斬り下ろす。

 

「マジか」

 確実に落とせるとは思わないまでも、多少の傷を負わすことができると思っていた米屋は小さく呟いた後に、勢いよく横に振って無理やり左手を引き剝がしにかかる。

 

『生駒隊員の攻撃に、米屋隊員一旦距離を取った。流石に攻撃の手段を無くされるは厳しいか! 』

 生駒の攻撃の直撃を回避するため後退しながらも、米屋も生駒の左腕に攻撃を仕掛ける。

 

 その攻撃は左手首に掠り、少量のトリオンが漏出する。自分の攻撃は完璧ではないにしろその点では成功したと言ってよいだろう。しかし……

 

「というか、それ俺の台詞」

 自分も左肩に浅い傷を負ってしまった以上、成功とは言わない方がよいだろう。

 

『まだ生駒隊員の攻撃は続いていく! 』

『イコさんは徹底して槍の間合いに行かないようにしてる』

 生駒は、米屋の後退を追いかけるように踏み込み、孤月を振り下ろす。

 

 生駒が右足から踏み込んでくることを予測し、米屋は穂を地面に向けて突き刺しながら左から右へ動かす。身体は重心を低くした上で、足を滑らせながら後退する。

 足元への攻撃に対して、生駒は大きく踏み込む事を諦め、踏み込む位置を変更する。その結果、生駒の攻撃は一瞬止まる。

 

「もらい」

 米屋はその一瞬を逃がさない。

 

 重心を戻す勢いを利用し、槍を振り上げる。身体の勢いもあったことで、左手で后段を多少押すことだけで、槍の穂が振り上がる速度が上昇する。

 米屋の攻撃速度も速いものの、生駒の反応も速い。素早く盾を生成した上で米屋の攻撃を防ぐ。それと同時に、右足を滑らせながら半月を描くように動いていき、米屋から見て右斜め前に移動しながら孤月を斬り下ろす。

 

「……って無理だよな」

 米屋は後方に大きく蹴り上げながら、槍を大きく振っていき、刀の切っ先をずらす。

 

『そうなると、米屋くんは後手に回る感じになっちゃうよね。かといって距離を取りすぎると旋空が飛んでくるし……難しいところだね』

『この状況の打開策があれば、米屋隊員の反撃の兆しが見えると言ったところでしょうか? 』

『そうだね。競っているように見えてイコさん有利な状況だろうし、米屋くんがどうやって向かい合うかがポイントになると思うよ』

 三上が北添の言葉に首肯すると同時に、生駒は米屋への接近を再び開始する。

 

 次の攻撃は、生駒の突きとともに再開する。

 自身の心臓を狙い一直線に向かう刃を上から押さえ込み回避を試みる米屋に対し、生駒は孤月を急に振り上げることで、槍の(きっさき)を無理やり上へ向け、自分は踏み込んで米屋の首を狙う。

 米屋としては、槍の方向が上に向いた瞬間にすることは確定している。相手との位置関係を把握し、相手が後退する方向を瞬時に判断し、地面を蹴り上げ後退しながら槍を振り下ろす。振り下ろす先には相手の孤月。従って、孤月の切っ先の方向がずれ、攻撃を回避する。しかし相手は攻撃を緩めはしない。

 一呼吸も入れずに自分の脇腹を狙ってくる相手の刀を払ったと思った瞬間には、横に回り込み、腰も使い全身で孤月を振ってくる。米屋はこの攻撃を防ぎきるものの、勢いは殺せず、後方に数歩分飛ばされる……とはいえ想定以上のことはまだされてはいない。

 飛ばされることは理解していた米屋は体勢が崩れないように着地し、即座に踏み込むことで、既にこちらへの攻撃を始めている相手に後れを取らないようにする。

 

『両隊員、大きく踏み込んだ! 双方ともに相手の攻撃が当たったか! 』

 米屋も生駒も踏み込みを右足で行い、(きっさき)を相手の首に向け突き刺す。

 

 互いに首をずらすことで回避を試みるが、互いにその事を予測して(きっさき)の方向を変更していた。結果として米屋の右頬、生駒の左頬からトリオンが少量漏出する。

 攻撃の勢いにより、身体が残り体勢を立て直すために数歩分の時間を要する……と双方考える。従って相手に背後を取らせないように、頬に攻撃を当てた2秒も経つ前に生駒も米屋も振り返る。

 

「……」

 生駒は直感する。

 

 この状況で踏み込み孤月を振り下ろしにかかれば、孤月の切っ先の方向性をずらされ、その勢いのまま自身の心臓を突いてくることを。この場合米屋が選択する攻撃方法は、幻踊。もし後出しで盾を生成できたとしても、深い傷を負う……最悪落とされてしまうだろう。

 

「……」

 生駒と同様振り返った米屋も直感する。

 

 もし生駒の攻撃の阻止からの突きが幻踊により成功したとしても、落とすことはできないということを。その後、何時ぞやの攻撃と同じく、生駒に槍の一部を掴まれ、次こそ攻撃を受けてしまうだろう。

 

『おー、一旦下がった』

 そして互いに結論を出す。それは、一度距離を取ることだ。

 

 生駒にとっては、半歩分踏み込めば槍の間合いになることに加え、距離を取れば取るほど旋空を十分に活かすことができるため。

 米屋にとっては、槍の間合いになるとはいえ、立ち回りでは孤月の間合いにも十分になり得る状況であるため……確かに距離を取り過ぎれば、旋空の間合いになる。それを対処できれば問題はない。

 そのように考えて、互いに後ろに大きく蹴り上げて後退する。

 その結果、槍も届かないかつ旋空を撃ったとしても威力を十分に発揮できない位置まで下がる生駒と米屋。

 

「やっぱツエーな、あんた」

「ほう。それは、マグロカツ丼は奢ってくれるって意味で捉えてええ? 」

 その位置まで後退した米屋は、下唇を少し噛んだ後、口角を上げて笑みを浮かべる。

 

「……どう考えたって、普通の定食じゃなくて、高めのスペシャル定食をイコさんが奢るって意味でしょ」

 生駒よりも先に米屋が大きく踏み込む。

 

 

『米屋くん、距離取ってからは自分から攻めてるね』

 解説席で北添が呟くなか、米屋は後退する生駒を追いかける。

 

 生駒が2歩下がった瞬間に、米屋は半歩分足を滑らせて槍を突き出す。生駒が刀を振り下ろし突きの回避を試みてくれれば、(きっさき)がずらされ下を向くため、米屋はもう半歩だけ滑らせて簡単に足元を狙うことができる。

 

「さっきからワンパターン過ぎるで」

 生駒はそのことを予測し、刀を振り下ろすことによる回避ではなく、上から刀で押さえつけるようにして(きっさき)の方向をずらす。

 

「……と思うじゃん? 」

 米屋は笑みを浮かべながら、刀が槍に触れた瞬間に円を描くように、手首を返す。

 

 その結果、槍が(きっさき)の右側に刀の右側が触れる位置に移動する。ここで半歩足を滑らせた上で突けば、相手の右胸に槍を貫通することができる。従って米屋は、槍の位置を変更した瞬間に、足を半歩分動かす。

 

「マジか」

 生駒がどれだけ嫌な表情をしたところで、槍の(きっさき)は向かってくる。

 

 不意を突かれるとしても、そこはボーダー上位の攻撃手。ここで焦って盾を生成し安心する男ではない。なぜならば、自分で述べた通り、幻踊を使う男だからだ。

 このような状況で幻踊を使用する場合、確実に仕留めるための一発だろう。そのためには、相手が攻撃を凌ぎ切ったと思い込むことが重要である。意識によって生まれた隙が、曲がることへの反応を遅らせるからだ。

 つまり自分がすべきことは、わざと隙を作ることだ。

 そのように考えた生駒は、まずは一歩下がりながら刀を横に振り、突きを回避する。間髪を入れず追撃として振り下ろされる槍に対しては、横に回り込み回避する。次の攻撃として生駒の場所を横目で確認した相手は、右足を軸に身体の向きを変えながら槍を振り回す。生駒はその攻撃を受け流し後方に飛ばされる。飛ばされた先で、生駒は体勢をよろめかせる。相手はその姿を確認し踏み込む。

 

『生駒隊長、シールドを生成! 』

 ここで盾を生成するにより、こちらの防御の隙を作る。その数秒後に、米屋の槍が盾を避けるように曲がり、自身の首に伸びていくと生駒は考えた。

 

「最近は……」

 生駒は、槍の曲がる軌道を読み切った上で、回り込んで腕を落とす、もしくは、大きく後退し旋空を放つ作戦を立てていた。

 

 どちらの作戦を取るにせよ、幻踊を撃つ相手の隙を狙うことは変わらない。従って生駒は、米屋の槍に、そして米屋の動きに集中する。

 

旋空(伸びる方)も使ってるんだな、これが」

 生駒の目には、盾を避けるように一瞬止まり、横に移動する米屋の姿が映る。

 

「え、ちょ、()っ」

 生駒が米屋の動きを注意深く見ようとした、まさにそのときだったからだろう。

 

『米屋隊員の旋空!? 生駒隊員の首まで(きっさき)が伸びていく! 』

 米屋の伸びる斬撃に反応でき、距離を瞬時に置くことができたのは。

 

「やるやん……ただ三上ちゃんに褒められるんは俺や」

 槍の伸びた(きっさき)が肩を(かす)めたものの、即座に反応し米屋が次の攻撃を繰り出す前に距離を置くことに成功した生駒は、そのまま刀を横に振る。

 

『生駒隊員も旋空で応戦! 米屋隊員に向かって伸びていく! 』

 生駒の動きに合わせ半月状に刀が伸び、米屋に襲い掛かる……しかし生駒の構えを見た瞬間に動き出していた米屋は、路地を曲がることでこの斬撃を回避する。

 

「……あれでいけなかったのはちょっと痛いわ」

 斬撃の軌道を路地で確認した上で、米屋は小声で呟く。

 

『さっき自分で攻めてたのは、幻踊を意識させた上での旋空で仕留める意図もあるだろうけど、イコさんと良い距離を保って、旋空を撃たせないって意図もあっただろうから、米屋くんとしては仕留められなかったのはデカイと思うよ』

 米屋が生駒の旋空を回避するために路地に逃げ込んだことで、当然今2人が斬り合っていた路地には生駒のみが立っている。つまり生駒の正面を邪魔するものはいないということである。

 

「逃げられたか」

 従って、生駒が旋空を放った姿がはっきりと確認できる。

 

「なら……」

 そこで顔は正面を向きながら、身体は米屋のいる路地を向いた上で、左手を柄に添える。

 

「もう一発」

 そして刀を水平にして孤月を振り切る。

 

「相変わらず射程がスゲーな、これ」

 その結果放たれる3撃目の旋空孤月。

 

『本日4度目の生駒旋空! 塀を破壊しながら伸びていく』

 そして米屋が盾と後退によって辛くも斬撃を回避した数秒後には、4撃目が放たれる。

 

『回避するためだけど、狭い路地入ちゃったからね。旋空から逃げるのが難しそうだよね』

 弓なりに伸びていく斬撃を確認し、右斜め前方の塀を飛び越える。

 

 右斜め前方の塀を回避場所として選択した理由は、3撃目の旋空孤月により崩壊しており飛び越えやすいという単純な理由であるものの、飛び越えた勢いを利用して、前転するように転がり込むことで姿勢を低くすることにも成功する。その結果、米屋の期待通り4撃目の旋空孤月を回避することができる。

 しかし米屋も分かっているものの、生駒の攻撃はこれでは終わらない。

 

「お前は荒船か」

 独り言を呟いた後に、先程とは違い上方を狙い、生駒は刀を振り切る。

 

 米屋が塀を飛び越えて転がり込んだ先は、民家である。その民家は2階建ての建物であり、屋根も含め綺麗な外装をしている。

 生駒が狙いを定めたのは、2階部分。いとも簡単に斬られた民家は、屋根諸共崩壊し地面に落下する。その先には当然米屋がいる。生駒の狙いは、米屋の逃避時間を稼ぐことである。

 

「……やっべ」

 生駒が5撃目を放った瞬間に、米屋はその意図を瞬時に察する。

 

 もし瓦礫を回避することに集中すれば、旋空に対処が遅れ落とされる可能性がある。またもし旋空を警戒としても、瓦礫が逃走経路に落ちて一瞬足が止まる……だけならばまだよいが、頭に直撃すれば気を失い、旋空で落とされる可能性がある。

 そう……どちらにせよ、この距離で仕留めるならば旋空である。

 

『生駒旋空により、家が崩壊! 瓦礫が米屋隊員に襲う! 』

 意図を察した瞬間、米屋は槍に改めて左手を添える。

 

 勢いよく落下する瓦礫。米屋の後方に……そして前方にも落下する。これだけ材料があれば問題ない。

 まず確実に頭に直撃する位置からは退避する。次に既に落ちた瓦礫を見つけて足と槍を使って空中に上げる。そして槍を振り下ろし、相手に向けて瓦礫を飛ばす。

 相手は既に構え始めているが、この速さなら届く。

 

「それはなしやろ。いや、マジで」

 自分の顎目がけて飛んでくる瓦礫を避けるために、生駒は構えを解いて後退する。米屋はその時間を利用して瓦礫の当たらない安全地帯に移動し、もう一度瓦礫を空中に上げる。

 

「もういっちょ」

 生駒が嫌がる一方、米屋は楽し気に瓦礫を飛ばす。

 

『飛ばした瓦礫が生駒隊員に命中! 生駒隊員の足が止まった! 』

 2発目の瓦礫を回避した先に飛ばされる3発目、そして4発目の瓦礫が生駒の腕と顎に当たる。

 

「うっげ」

 生駒が思わず声を上げ気を失った一瞬の隙を利用し、米屋は急接近する。

 

『イコさんの考えを上手く利用したね。イコさん気失ったから焦るだろうなー』

 そして米屋は大きく踏み込んで、勢いよく突き刺す。

 

『生駒隊員、どうにかシールドを生成! 米屋隊員の攻撃に間に合った! 』

 米屋の眼前に丸い盾が出現するものの、米屋は気にせずそのまま突き刺していく。

 

「……と思うじゃん? 」

 米屋が口角を上げると同時に曲がる(きっさき)

 

「きちんと言葉に出して()うたやろ……」

 生駒もまた笑みを浮かべながら、地面を後方に蹴り上げる。

 

 生駒は不意を突かれたとしても……いや不意を突かれたからこそ、米屋相手に防御だけで安心する男ではない。

 

「三上ちゃんに褒められるんは俺やってな」

 足が地面に付いた瞬間に、生駒は片手だけで素早く刀を振る。

 

『生駒旋空が決まった! 米屋隊員を一刀両断! 』

『流石に速いね、威力も確かだし』

 米屋の右半身と左半身が分割されたことで、生駒の勝利が確定する。

 

『個人ランク戦特別解説。勝者は、生駒隊員です! 』

 後日、「お前の褒め言葉はいらない」と北添が怒られたことはまた別のお話。

 

 

 






どうだったでしょうか。
相変わらず個人的には楽しかったです。
さてまた短めに纏めて次のページに長々と書きたいと思います。
1.キャラ崩壊や間違ってる点等あればご指摘お願いします。
2,カゲと戦って欲しい人、部隊あればコメント下さい
3.コメント、感想、アドバイスあれば気軽に下さい、よろです。

ではでは
作者のコメントに付き合ってくれる方は、活動報告に挙げとくので見てください(今回は本当に長いです)

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