若村 麓郎
対葉子ちゃんスキル『熱血』の持ち主。このスキルを使うことで香取の発言に意見を言うことができる。ただし香取の怒りのボルテージが+20される。個人的にこういう性格の子は大好きなので、ぜひともマスターランクになって欲しい。頑張れ、応援してる。後全く関係ないけど、『ろくろう』で変換できない、厄介な男。
三浦 雄太
対葉子ちゃんスキル『まあまあ』の持ち主。このスキルを使うことで香取に自分の意見をイラつかせず伝えることができる。香取隊として結構なキーパーソン。でもとりまるには敵わない。頑張れ、応援してる。彼は『みうら』も『ゆうた』も一発変換できる、作者にも優しい男。
荒船 哲次
人類筋肉化計画委員会参謀(仮)。読者の皆さんもご存じの通り、村上との一件で狙撃手(アクションも可)からアニキにランクアップした。犬が結構好きでありなおかつ知っている筋肉も上腕二頭筋くらいしかない作者では、たぶん会話を長続きさせることが不可能。
穂刈 篤
時枝もそうだが、作者は援護系の隊員を書くのときに一番テンションが上がる。そこで彼を解説席に座らせてみた結果、色々と革命を起こしお蔵入りとなった伝説の男。彼の功績は、倒置法が面白いという文学的な話よりも、狙撃界という言葉を作り上げたことだと思っている。
半崎 義人
荒船隊で脳内戦闘をすればするほど、あれこいつ結構凄いんじゃね? と作者の好感度を地味に上げてくるできるやつ。ダルい言ってるが、体調は悪くない。むしろ常時好調であるため、高みに挑むことができる。
熊谷 友子
志岐を那須隊に引き入れたイケメンであり、穂刈事件第一の犠牲者。穂刈解説書いた後のテンションで書いてしまったため、あんな感じになってしまった。戦闘のスタイル自体は好きなため、テンションが上がる。彼女には非常に申し訳ないことをしました。
日浦 茜
那須隊の中で一番のお気に入り。マスコット的な可愛さかなと思ったら、隊長のために最後まで頑張れるいい子だった。このことが判明し、作者の好感度がより上がった。ただし彼女が好きなのは、とあるC級狙撃手に居座っている猫である。猫は正義だから仕方ない。
『補足&掩蔽訓練』
ボーダー隊員の狙撃手の訓練である。内容はレーダーや射撃音・光の情報なしに、他の隊員を見つけ狙撃をするというものである。これにより狙撃手としての基本的な心構えを実践的に学ぶことができる。狙撃手の訓練である以上、当然狙撃手が集合するため、弟子としては普段多忙である師匠からアドバイスを聞く機会である。
「雨取ちゃんの
「ライトニングでもあそこまでの速さを保てるのは彼女のトリオンの量だろうね」
訓練の度に師匠である奈良坂にフィードバックをもらっている日浦が、今回のフィードバックを終えた後に呟く。
先の香取隊と柿崎隊との三つ巴を見た日浦は興奮した。一度戦ったことがあり、交流もある後輩が活躍したランク戦であったという点も当然あるが、
那須隊でランク戦に参加できるのも残り数戦。後輩としては、世話になった先輩3名とともに今まで一番高い順位に行きたい。そのためには自分には何ができるかを考える必要がある。
「やっぱりメテオラかなー。わたしには雨取ちゃんみたいなトリオンないし……」
「雨取もその形にはなっているけど、ポイント取ることだけがチーム戦の狙撃手の形ではないからあまり気負い過ぎるなよ」
奈良坂は息を短く吐いた後、気難しい顔をしている日浦に言う。
本人の口から聞いたわけではないが、玉狛の雨取が人を撃てないことは察せる。そのことも受けて、三雲は雨取に崩しや援護の役をやらせている面も理解はできる。しかし、狙撃手が攻撃手や射手の援護の役割を担っていることも事実である。
彼女の性格上、1つのことを考え過ぎて切り替えることもないことは分かってはいるが、悩んでいる場面に対面した際に声を掛けるのが師匠の仕事。実際奈良坂の言葉を受けて、日浦は笑顔を浮かべて……
「相手の手数とか考えを削るのも狙撃の仕事……ですね! 」
「あぁ」
元気よく答える日浦の姿が確認できる。
そして弟子が悩んでいるならば、その悩みを解消することも師匠の仕事である。しかし答えをそのまま教えるようには奈良坂も教育されていない。彼女が導き出した答えがどのようなものであったとしても、彼女にも考えさせる必要がある。そのため奈良坂が取る方法は、彼女自身に喋らせる方法である。
「えっと、狙撃手のわたしがどうやったらメテオラを
「……」
手を動かしながら、身振り手振りで自分が何をしたいのかを説明する日浦とその説明を黙って聞く奈良坂。
そして、その師匠と弟子の姿を遠巻きに見ているのは……
「奈良坂先輩羨ましい。俺も弟子欲しーわ……女の子の」
「電話するか、警察に」
「そうですね。その方がいいと思います」
思わず願望を呟く佐鳥と、佐鳥の奇行を防ごうとする穂刈と半崎の2名である。
佐鳥は荒船隊2人の疑いの目と辛辣な言葉に対し、単なる独り言に対してひどくないっすかと言いながら泣き真似をした後、凛々しい顔に戻していき2人の方を向く。
「確かに俺は女の子大好きですよ。でも俺は、そんな可愛い女の子を無下に扱うような行動はしません」
「……なんだ単なる変態じゃん」
「ちょっと、義人くん……その結論はひどくない!? 俺変態じゃないから!! 女の子の味方なだけだから」
「流石はツインスナイプの使い手だわ」
決まったと言いたげな表情を浮かべる佐鳥に対して、半崎は態度だけは佐鳥を避けるような演技をして、佐鳥をからかう。
「やはりダメだな、ツインスナイプは」
「2人してツインスナイプを悪口みたいに言わないで! 泣けてくるから! 」
半崎の言葉に乗かって放たれる穂刈の援護射撃を受けて、佐鳥は再び泣き真似をしながら大声を出す。
佐鳥はそのまま床に膝と手をついて、自分にとってツインスナイプへの非難は悲しいものであるのだと言うことを体で表現する。その行動を見た荒船が深い溜息をついた後に、背後から近づいた荒船が佐鳥の肩に手を乗せて問いかける。
「じゃあ、もし女子が弟子になったらお前はどうすんだよ」
荒船の言葉に対して、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの表情を浮かべながら、立ち上がり再び凛々しい顔を作っていく。
「その女の子に、いかにツインスナイプが凄いかを教えて全ボーダー隊員にそのカッコよさと素早しさを共に布教するメンバーに入ってもらうつもりです」
そして、目指せツインスナイプ信者増加を……とは言わないまでも拳を握り天井に挙げてドヤ顔をする佐鳥。
その佐鳥の表情を正面から見ること5秒。全員が狙撃手という異色の部隊である荒船隊は……
「ないわ」
「ないな」
「ねーわ」
見事に全員が真顔のまま否定という答えを佐鳥に突きつける。
「一言で否定はひどい! しかもわりと即答! 」
佐鳥は再び膝と手をつきながら、声を上げる。
佐鳥が弟子を取る日は来るのか、来ないのか……それは誰にも分からないことである。
『こんばんは。本日の実況を務めます、嵐山隊綾辻です! 解説席には三輪隊の米屋隊員と冬島隊の当真隊員にお越し頂きました! 』
『よろしくー』
『うーっす』
仕事を片付けてきたはずであるのに関わらず、その疲れを見せず元気よくブースに声を響かせる綾辻の隣で、何の仕事のもしていないであろう米屋と当真が気楽に返事を返す。
『那須隊の選択により、本日のMAPは工業地区となっています。工場や倉庫が密集いているため射線が通りやすいとは言えないMAPになっています……やはり隊が全員狙撃手である荒船隊を封じる算段でしょうか』
『荒船は攻撃手って選択肢もあるし、単なる荒船隊封じってだけじゃないだろ。もちろん香取隊のことも考えてるとは思うぜ』
何考えてるかはすぐは分かんねーけどと補足しながら、当真は綾辻の質問に答える。
『……なるほど。那須隊が香取隊とどう戦っていくかもポイントとなるわけですね』
『でも香取隊、このMAPでこないだ負けてるわけだし、因縁のMAPだよな。その分燃えてると思うけど』
綾辻が香取隊への発言したことを受けて、米屋は違う見方で香取隊に対する発言をする。
先日の香取隊、柿崎隊、玉狛第二のランク戦の戦場も工業地区であり、そこで大敗を喫した。そのため米屋の言う通り、那須隊の選択を聞き、香取は眉間に皺を寄せ、小声でムカつくと呟ながら、転送を待っていたわけであるが、それはまた別の話である。
『さて全隊転送準備が完了したようです。いよいよ戦闘開始です! 』
香取が燃えている中、ブースには綾辻の声が響く。
「で、アタシが囮でいいわけ? この前失敗したじゃん」
「葉子が引きつけた方が那須隊を釣れる思う。雄太と麓郎も那須隊と荒船隊の誰か見つけたら教えて、タグつけるから」
MAP南側にあるコンテナの前に転送された香取は、自隊オペレーター染井 華と連絡を取る。
玉狛戦での敗北以降、それ以前よりは香取が作戦会議に参加する雰囲気ができたことにより、香取隊全員が事前知識の共有がここ数戦可能となった。
今回事前に共有した情報は、2月期のランク戦第1戦。鈴鳴第一と諏訪隊が戦ったランク戦の情報である。そのランク戦は、村上の間合いの外から封じる作戦を徹底することで諏訪隊が勝利を収めることができた戦いだ。鈴鳴第一と香取隊は狙撃手がいないという点で異なるものの、
後は上手く釣るだけ。
「那須隊の位置を把握次第攻撃するから、指示を聞いて」
「「「了解」」」
染井の言葉とともに香取隊3名が移動を開始する。
『香取隊長と三浦隊員は北上! 若村隊員はバックワームを装着して南下。香取隊は合流優先か』
全隊員の中で一番南側に転送された香取は、南西方向に転送された三浦と合流するために北上を開始する。
『荒船が意外といい位置だな、ちょっと移動すればいい場所取れる』
MAP北側に転送された若村が南下する中、MAP中央より東側に転送された荒船も何かを開始する。
香取隊の那須隊への作戦は、香取を囮にした那須を釣ったことによる那須及び那須隊の撃破である。これはマスターランクである那須の相手を正面から受けきれる術が香取隊にないという判断からきたものだ。那須1人対香取隊であるならば攻撃手の間合いに持ち込み倒すこともできる。しかしチーム戦である以上、熊谷が援護に回るためその状況を作ることが困難である。香取曰く、
香取隊の作戦会議にて話し合われたのは主に2点。
1点目は、熊谷に那須の援護をさせないこと。これは今述べたように熊谷が援護する形になったら那須に近づくのは困難になるという三浦の意見を尊重したものである。実際、熊谷が那須の間合いである中距離を守っていれば、崩しにくいものになることはどの部隊も認めることであろう。
2点目は、荒船に狙撃のみを選択させること。染井は、狙撃手部隊という特殊な部隊である以上、香取隊対那須隊という構図になれば、荒船も狙撃を選択すると結論付けた。理由は、その状況下では、遠距離攻撃が可能な隊員は、香取隊と那須隊で日浦だけになるからだ。こうなれば、荒船隊は日浦のみ気をつければよく、安全地帯で射撃すれば香取隊と那須隊のどちらも狙いやすい状況になる。それならば、わざわざ荒船が攻撃手の選択肢を取り、那須にも向かい合うことはないというわけだ。当然味方ではないので、荒船隊の狙撃にも気をつける必要はあるが、荒船に前線に出られるよりは香取隊としてはダメージが大きくないという判断だ。
香取隊の最悪なパターンは、こちらが万全な状態でないのに那須か荒船にいる場で向かい合うこと。
「熊谷は見えた。レーダーだから不正確だけど、那須の位置も大雑把に確認した 」
「了解。熊谷先輩のタグ付けはしとく。今は深追いしなくていい。那須隊の2人が一度合流するのはこの際仕方ないから」
「了解」
家の塀から顔だけ出して熊谷を確認した若村は、南下した道を少しだけ戻り右に曲がり、直線距離ではなく多少遠回りをして南下する。
『那須隊長、MAP中央へ移動開始。熊谷隊員と合流か』
若村の位置からは視認できないが、北西の位置に転送された那須が熊谷のもとへと走っていく。
転送位置を考えても、那須の射程距離に若村も荒船も入ってはいない。荒船隊の穂刈も転送位置は、那須の真逆の南東方向であるため、当然のことではあるが那須の射程圏内ではない。しかし、半崎はというと……
『いくら熊谷も那須も狙えるっていっても、半崎は狙えねーよな。那須の射程圏内にきっちり収まってる』
当真の視線の先にある半崎のアイコンの近くには、那須のアイコンが近くを通り過ぎるのが確認できる。
『射線選択の幅が広がるのは、攻撃の幅もそうだけど、敵の選択を潰せるのがデカい……って
米屋がドヤ顔をしている合間にも那須と熊谷の距離が近づいていく。
『香取隊、那須隊両隊エースとの合流を終えた模様。荒船隊も参戦できる位置には入れたか! 』
MAP中央より東で合流する那須隊2名とMAPの南西位置で合流する香取隊2名。
香取隊は、現時点で熊谷と那須の切り離しをすることはできていない。この状況を放置すれば、那須に近づくことは困難になる。ただでさえ那須や熊谷が転送後すぐにこちらに来ないよう、1名にバックワームを着せて奇襲を警戒させるようにしている。荒船隊や日浦がどこにいるか分からない以上、三浦や香取を発見され、落とされれば現在の攻撃されていない均衡は崩れる。
那須と熊谷が合流をしていると考えて問題ない。那須隊は、おそらくレーダーで三浦と香取の場所は理解しているだろう。このまま移動してくれなければ、香取隊は狙いやすいが流石にそれはない。
この前の囮の失敗は、香取隊として普段以上に香取を気にかけ過ぎたこと。彼女には、
「いくよ」
考えを纏めた染井が全員を誘導する。
『香取隊長、三浦隊員と離れバックワームで身を隠す。奇襲狙いか!? 』
『那須の射程圏内に入る前に隠れたのは
MAP中央には那須と熊谷。2人の位置から南西方向には三浦と香取。
「小夜ちゃん、一人消えた。たぶん香取だと思う……もしかした若村くんかもしれないけど」
「了解です……これで香取隊で見えてるのは1人だけですね。奇襲警戒お願いします」
「了解」
MAP中央に聳え立っている管理棟を利用し、射線を切る那須は南側の工場に意識を向けながら志岐と連絡を取る。
那須邸にて行われた作戦会議で話し合われた香取隊の対処は、隊長である香取を自由に行動させない……つまり香取の火力を封じることである。香取隊であれば
注意すべき点があるとすれば1つ。それは香取隊の奇襲戦法である。今までの香取隊の戦法は悪くいえば、三浦と若村の2人が好き勝手暴れる香取を援護するという香取中心の戦法であった。従って、香取を封じることだけを考えることが、香取隊への定石だった。しかしこの前のランク戦では、その香取自身を囮にして背後から若村が挟み込む戦法を使っていた。このような戦法を使っていた以上、那須隊も気をつける必要がある。香取に集中した結果、背後を取られることはあってはならない。そのように考え、若村を警戒しながらも接近していた。
「三浦くん確認できた」
「了解です。熊谷先輩も奇襲警戒よろしくお願いします」
「了解」
熊谷と志岐が連絡を取り合っているなか、那須も手を下にかざし、立方体を分割していく。
「……」
那須は、前方にいる熊谷とアイコンタクトを取りながら息を整え集中する。
今身を隠したのが若村であれ香取であれ、自分のすることが変わることはない。日浦も狙撃位置を確保している。荒船隊の位置を把握しているわけではないが、その対処も那須隊として考えてはいる。
後は勝つだけだ。
「いくよ、みんな」
隊長の呟きに応える形で那須隊が攻撃を開始する。
『熊谷隊員、三浦隊員に斬りかかる! 那須隊長は熊谷隊員の援護をする形か』
『那須も那須で
当真の視線の先には、前方に弾道を引きながらも、顔を少しだけ後ろに向け背後を確認する那須の姿。
那須は、自身を取り囲むように楕円状に浮かんでいる弾から10本ほど前方に放射する。5本は左斜め上空から三浦の首を狙うように放たれ、残りは三浦の右腕を狙うように放たれる。三浦はその弾道を回避するために右側にシールドを生成しながら、後退する。
『返しが上手いってのは、普通の剣捌きがあってこそだからな。那須と連携なら余計にきついっしょ』
三浦の後退に対する追撃として、喉元を突く熊谷を見て、米屋は口を開く。
その突きを孤月で捌いた上で、右に回り込み攻撃を仕掛けようとしていた三浦の動きを分かっていたかのように上空から降り注ぐ弾丸を三浦は確認し、攻撃は止めて、右足を蹴り上げて後退。
熊谷はその隙に距離を詰めて、孤月を振り下ろす。右からの攻撃は防がれるものの、那須の援護射撃を右肩に掠らせるに成功する。三浦は剣先を熊谷の心臓に向けて構えることで、熊谷が踏み込みを阻止しようとする。しかし、熊谷は1回目の小さい踏み込みと同時に、三浦の孤月の刃を振り払った後、間髪入れずに大きく踏み込み、相手の頭上目がけて孤月を振り下ろす。この攻撃はシールドにより回避されるが、三浦が横に移動し距離を取ったことで攻め手側の保持に成功する。次は、自分が斬り込むことにより、相手の腕を落とす攻撃。万が一避けられたとしても、逃げた先には那須のバイパーがある。連携の心配はせずに、熊谷は踏み込んでいく。
熊谷が踏み込んだ瞬間、那須が南側にある工場のある一点が光ったことを確認する。
『三浦隊員に意識を向いているところへの荒船隊長の狙撃! しかし間一髪で熊谷隊員もこれを回避! 』
『荒船さんも攻撃手が踏み込んだ瞬間に狙撃とか嫌らしいことするわ……那須が気づいたとはいえ、今のは反応できた熊谷がスゲーわ』
米屋の苦笑いを余所に、荒船は背中を解説席に向け移動を開始する。
荒船の狙撃を回避するために三浦への追撃を諦めざるを得なかったが、那須の援護射撃により、三浦が攻め手に転じることは防ぐ。
次の攻防は、那須が数歩近づきながら10本以上の射線を引き始めたことにより再開する。
6本の弾道が自身の左半身に狙いを定め放たれてくることを察知し、三浦はシールドを生成した上で移動することで回避していく。また移動先に置いてあるコンテナを利用し、残りの弾道を遮る。
工業地区のMAPでは少し移動しさえすれば、数えきれないとは言えないまでもコンテナが多く置かれた道に出ることができる。障害物がある以上、先程のように相手を目で確認することができない。
普通の射手であれば、相手の動きを確認できないことは難点であるかもしれない。しかし、那須は射線の選択を自由にできる。障害物を避けながらも、相手を削るための攻撃を放つことができる。それは、コンテナの上から三浦に降り注ぐ射線と右腕を刈るために横から飛んでくる射線が三浦に襲い掛かってくることからも簡単に確認することができる。
「右曲がった……たぶん次は左曲がる」
加えて今は熊谷の援護もある。熊谷が那須の目となり、相手の動きを伝えれば先手を打つことができる。
『那須隊長、熊谷隊員の後を追いかけながらバイパーを放射! やはり那須隊が優勢か! 』
しかし、那須の実力も那須隊の連携も、流石に香取隊は研究してこのランク戦に臨んでいる。
『まあでも、荒船もいたら那須も集中できないわな』
染井の思惑通り、安全地帯にいる荒船が那須の心臓を狙撃。
この狙撃により那須は落とされることはないものの、三浦への追撃を中断する。
三浦は熊谷との攻防を続けながら、那須が攻撃を中断瞬間に東側への移動を再開する。
『荒船隊長の狙撃に続き、半崎隊員の狙撃! しかしこれはシールドによって阻まれる! 荒船隊は那須隊長狙いか! 』
『まあ、それもあんだろうけど……』
那須の射程圏内から外れた半崎が、狙撃した様子を見て叫ぶ綾辻に対して、当真が口を挟む。
『このMAPは気持ち狭いからな。香取隊と戦ったときの玉狛の雨取みてーにどっしり構えられるならまだしも、そうじゃないなら狙撃手は普通のMAPより位置バレしないことに気をつけなきゃいけねーだろ』
狙撃を終えた荒船は、横を見れば確認できる工場に移動するために、今いる建物の屋上から隣の建物の屋根に飛び移る。
『……那須であればなおさら、位置バレして狙われるのなんて分りきってるしな。それに荒船も攻撃手に切り替えられる前に狙いたいだろう那須の考えにわざわざ乗るわけない』
荒船隊2名の狙撃が止んだ瞬間に那須は、熊谷の後を追い三浦への攻撃を再開する。
『オペレーターの援護があるなら那須の動きとして、三浦とか放っておいて荒船の方に行くことだってできなくないわけだろ? そう考えたら今の半崎の一発は、那須隊を狙うだけの意味もあんじゃねーの』
『なるほど。荒船隊長を狙わせないための牽制ということですね』
綾辻の同意に対して当真は、「そうそう、ケンセイ」と頭を縦に振りながら同調する。
『さっき当真さんも言ってたけど、那須は奇襲も考えなくちゃいけないからな。なかなか踏み込めないよな』
狙撃手編成である荒船隊に対するコメントを述べた当真に対して、香取と若村のアイコンの位置を確認した上で、三浦と熊谷の方に注目しながら米屋は口を開く。
『三浦隊員は那須隊との攻防の中で、移動中! 米屋隊員が言うように、バックワームで身を隠している他2名に奇襲させるためか! 』
綾辻が左に座っている米屋の言葉を拾う中、米屋は左に座っている当真に「ケンセイ」の意味に聞く。
『だろうな。コンテナが置いてある場所の先も障害物利用して、熊谷と那須にある程度見えないようにしる』
米屋の言葉に対して、「ケンセイはケンセイだよ」と小馬鹿にした後、当真は綾辻の言葉の補足をする。
当真のその言葉に対し米屋は「マジか……」と呟いた後、当真の言葉に続いていく。
『熊谷は回り込んで三浦を那須と挟み込むつもりだったのかもしれねーけど、もう熊谷の背後は若村が取ってる』
画面には、バックワームを取りながら熊谷に銃口を向ける若村の姿が映っている。
『若村隊員、熊谷隊員に放射! 熊谷隊員が挟み込まれる形となった! 』
『ただ、熊谷だけを挟み込む奇襲は、那須隊相手じゃあんま意味ないかもな』
那須は、若村の姿を確認してすぐに放物線を描く射線を引いて若村の頭上を狙う。
『そうなると、前のランク戦で香取隊が行っていた奇襲作戦は使えないということでしょうか? 』
『それもねーだろ。若村と違って香取は、熊谷じゃなくて那須に奇襲仕掛けるみたいだしな』
若村の奇襲を受けて、最後の弾を放った那須を確認した三浦が香取に連絡をする。
「了解」
『香取隊長がバックワームを着たまま、那須隊長に急接近! 那須隊長を落としにかかる。香取隊長の奇襲は成功するのか! 』
那須の背後に近づいた香取が、右腕を振りかざし那須の首に狙いを定める。
『……と思うじゃん? 』
米屋のドヤ顔とともに、南東の方角で穂刈が引き金を引く。
那須ではなく香取に向けられた銃口は、那須に襲い掛かる手前で香取の足を取りにかかる。しかし、荒船隊の狙撃に細心の注意を払うように忠告されていた香取は、急停止することにより、狙撃を回避する。
穂刈もこの狙撃で香取を落とせるとは思っていない。穂刈の狙いは、香取の那須への急接近を止めることにより時間稼ぎと、この狙撃により香取が那須の背後を取っていることを那須に理解させることである。すなわち、香取隊の奇襲の失敗である。
『射線引く時間さえあれば、那須が香取に攻撃する時間は作れるわな』
香取が足を止めた瞬間に引かれた弾道が、香取に襲い掛かる。
『那須隊長、すかさずバイパーを放射。香取隊長に掠ったか!? 』
当真の言葉に対して綾辻が叫ぶと同時に、香取の腕と腹に2本のバイパーが掠る。
『香取隊全員と那須隊長と熊谷隊員が向かい合う形となった。それに対して荒船隊は5名全員を狙える位置で銃口を構えている』
『ぱっと見、那須が支配してそうで、実際支配してんのは荒船隊だろうな。全員安全地帯から狙撃できてる。だから……』
香取がバックワームを取り、バイパーを防ぎながら熊谷の背後に回り込む。
熊谷は右足で蹴り上げて後退し、正面にいる三浦と距離を取った上で、香取の背後からの距離を避ける。その動きに合わせてバイパーが三浦と香取目がけて放射される。三浦は自身の盾で攻撃を防ぎ、香取は若村が生成した盾でその攻撃を防いた上で、熊谷に左に持った刀で熊谷の首を狙う。熊谷は襲い掛かる刀を捌きながら後退し、香取の間合いの外に出ることで、右の刀の攻撃を回避する。
そこで向けられる2つの銃口。
1つめの弾丸は、穂刈の狙撃により放たれる。その弾丸は熊谷の首を狙った香取の右腕を狙い放たれる。しかし香取は追撃せずに後退を選択したことにより、この弾丸が香取に着弾はすることはなかった。
香取の後退に対して、那須隊の2名は香取への攻撃を開始する。
熊谷は、香取との間に入っていく三浦の刀を盾で防いだ上で、右足を軸足にして半月を描くように滑らせていき、後ろを取って三浦の右腕を狙う。
那須は、後退をしながら
香取は盾を生成し、避けきれないものは足を使い、移動した上で冷静に捌いていく。若村は熊谷に気を向けていたこともあり、反応が遅れ盾のみでの防御を試みる。当然何発か着弾するももの、直撃は避けることに成功する。しかし……
『気を抜いた奴から狙われる』
半崎が放つ2つ目の弾丸によって、右足を落とされる。
「華に言われたんだから少しは気を付けなさいよ、馬鹿」
熊谷の攻撃を捌きながら、香取は若村の方を見ずに内部通話をする。
香取本人は、「何やられてんの、馬鹿じゃないの? 」のような若村が弱いからやられたという含みを持たせた言葉ではなく、不注意によるものだから次から注意を怠るなという含みを持った発言のつもりであったが、この言葉で真意を伝えることは困難である。
「こっちはお前を守りながらやってんだよ! 落とされてねーんだからいいだろ」
当然若村には真意が伝わらず、怒りから若村は銃を強く握る。
以前であれば例え戦闘中であろうとも、香取が若村を苛立たせる一言をもう一度吐く。今は少し違う。香取はその言葉を飲み込んで再び口を開く。
「……あんた、次当たったらバカ丸出しだから気をつけないさいよ」
「……了解」
苛立たせる発言をしないよう、気をつけることぐらいはできる。
そこで放たれる荒船の弾丸。その弾道は、若村の心臓を貫くように飛んでくる。
「ろっくん、来るよ! 」
「分かってる」
その弾丸は、若村が横に飛んだことで心臓を貫くことなく地面に着弾する。
「……荒船隊の誰かは分からないけど、やっぱり1つは真南方面だと思うから麓郎くんも気をつけて」
「了解」
2度目の染井の忠告を改めて心に留め、若村は熊谷を狙う。
戦場の支配権を取りたい荒船隊は、那須隊と香取隊が互いとの戦闘を切り上げてこちらにこないように狙撃をすることに加え、荒船隊が漁夫の利を得られるように狙撃をするはずである。そのために両隊の隙を狙うこと、両隊に荒船隊を狙う選択を取らせないことを荒船隊は気をつけているはず。従って那須隊と香取隊が向かい合って戦闘を行なっている状態である現状では、狙撃の間隔を短くし狙撃するという無難な策を取るはず。
「葉子ちゃん、南東側からくるよ」
「了解」
実際、狙撃場所を変える移動時間を短くしているのか、狙撃場所は徐々に変わっているものの、理解できる範囲で動いている。だからこそ香取隊も狙撃に反応できている。
『穂刈隊員に続き、半崎隊員の狙撃。那須隊長、これは少し掠ったか!』
そのような状況下で香取隊は、熊谷を集中的に狙い那須先輩の行動を制限することによって、切り崩していく、もしくはポイントを1点与えてしまうが、荒船隊に那須を落としてもらい熊谷先輩は確実に獲る作戦であった。
しかし、今の状態では那須隊のどちらを倒せたとして、荒船隊ときちんと向かい合う前に落とされる可能性が高い。
「……」
そうであるならば、香取隊は荒船隊と那須隊に焦らせることが最優先事項だ。香取にも那須隊と向かい合ったらこうなるかもしれないことは作戦会議で言っている。
自身の右腕を落とすために踏み込んでくる熊谷の攻撃を、三浦に間に入ってもらうことで防ぐ香取。那須に対しては、若村に銃口を上に向けてハウンドを放射してもらうことで、攻撃を数秒遅らせてもらう。数秒あれば、彼女には十分だ。その数秒で熊谷の背後に回り込みながら、ホルスターに手を持っていき、銃を抜いていく。そして三浦の刀を捌きながら後退をする熊谷に銃口を向ける。
当然防御するために盾を生成する熊谷と援護射撃をする那須。
『香取に対して三浦とか若村がシールドで守っても、香取隊の連携だと思うのがフツーだろ。香取がシールドをホルダーから減らしてるって思わねーわな』
『
熊谷が生成した盾を通過する
理由は、熊谷が盾の生成とともに熊谷が後退したから。そしてそれに加えて……
『まあ弾が飛んでくる中で近づいて狙ったとこに当てられるのは、なかなかできることじゃねーよ』
解説席で米屋がドヤ顔して述べたと同時に、自身を狙う弾が放たれ、その回避に体勢を崩したからである。
『……当たらなかったが、那須隊を焦らせるには十分だったみたいだぜ』
攻防の中で那須隊と香取隊の位置は、MAP東側に移動している。
それにより、南東側にいた穂刈が南側に、南側にいた荒船は東側に徐々に移動し始めていた。東側には工場が1つあり、狙いやすい高台代わりになっている。
「弾道解析完了しました。まだ荒船隊の狙撃を利用しますか? 」
「香取ちゃんも荒船先輩もまだいるから、くまちゃんがいないと無理だと思う。始めちゃっていいわ」
「了解です……茜! 」
那須隊も荒船隊を利用していたことは、荒船隊を利用して香取隊の戦力を落とすことである。実際、若村の右足を落とすことに成功した。
ここから若村か三浦を、もしくは両名を那須隊で落としてから次の作戦を行うもりであったが、熊谷が落とされてしまっては厳しい状況になるのは明らかだ。そうであるならば、荒船隊の今の陣形を崩す作戦に移行しなければならない。
「了解っ! 」
『日浦隊員、工場に向かって狙撃。この狙撃で工場が崩壊した!? 』
『日浦が狙撃戦に参戦しなかったのは、これを仕掛けてたんだろーな。荒船たちも日浦の狙撃も気をつけてはいたんだろが、あくまで狙撃戦での警戒だったんだろうし、こういうのは気にしてなかったんだろ』
あらかじめ仕掛けていたメテオラを狙撃することで、工場を崩壊させる。
「……ギリギリ狙えないな、日浦を」
工場から飛び降りた荒船を狙う北側の狙撃を確認した穂刈は、スコープを覗きながら独り言を呟く。
『荒船隊長、孤月を抜刀! 香取隊と那須隊の乱戦に踏み込んでいく。那須隊長の間合いに入った』
穂刈の銃口は、コンテナから顔を出した那須の方に向いている。
『那須隊も香取隊も分かってんだろうけど、荒船さんが狙撃止めてからが本番っしょ……この状況だと』
那須が荒船に射線を引いた瞬間に放たれる穂刈の弾丸は、那須に直撃はしないものの、脇腹からトリオンが多少漏出させる傷を負わせる。
『那須隊と香取隊だけでなく荒船隊長も加えた乱戦になった。一番ダメージが大きいのは右足を落とした若村隊員か! 』
荒船と三浦に挟まれた形となった熊谷は、荒船の刀を往なし、三浦の刀はシールドで往なした上で後退する。
熊谷が後退した先に踏み込む香取の援護射撃として、若村がアステロイドを放射する。若村の攻撃姿勢を確認したため、半崎が若村を狙撃。しかしこれは三浦がシールドを生成して防御する。
『那須隊長のバイパーの雨が降り注ぐ! これは隊員全員、攻撃を中断するしかないか! 』
『二宮さん程じゃねーけど、フルアタックの量は流石に多いな。ちゃんと穂刈と半崎の射線も切ってるし』
建物を利用して荒船隊の射線を切った上で、那須はフルアタックのバイパーを放射する。
二宮の方が那須よりもトリオンが多いため、フルアタックの火力は二宮の方があることは確かに事実である。しかし、何度も述べるように那須は射線を引くことができる。二宮のような火力やハウンドを選択したことによる追尾効果はないものの、盾を生成したとしても敵に傷をつける攻撃を放つことも可能である。
『まあ、状況から考えてある意味二宮さんよりひでーよな。バイパーの射線をどうにか逃げるか、狙撃くらうかだからな』
スコーピオンでバイパーを捌きながら後退する香取とシールドで防ぎながら後退をする三浦。
荒船もバイパーの攻撃に加え後退に対する熊谷の追撃も捌く必要もあった。バイパーの直撃を避ければ熊谷の刀が身体を貫き、熊谷の刀に注視すれば、バイパーが身体を貫くだろう。しかしそれは、援護がない場合である。
孤月を振り下ろした右腕を半崎が狙い、左脇腹を貫通させるように穂刈が狙撃する。熊谷は右腕の攻撃を盾で防ぐものの、穂刈の弾道が足に当たり負傷する。
それだけではない。バイパーを防ぎ終えた荒船が踏み込んで斬り下ろしてくる。熊谷はその攻撃を刀で受けて、自身の手首を返して相手の手首を狙う。
当然その程度の攻撃は荒船へ届かないが、今回の熊谷の踏み込みは荒船を狙うためではない。
『そうなると当然動きが遅い奴が狙われる』
若村を荒船隊に狙わせないため、そして日浦を自由にするためである。
『日浦隊員の一撃が若村隊員を貫いた! 最初の得点は那須隊だ』
スコープを覗く日浦が画面に映る。
「……何してんのよ、全く」
「こっちが那須さんへの反応が遅ちゃったから……ろっくんは悪くないよ」
コンテナの密集地に移動し那須の射線を切り、熊谷と荒船とも距離を取る香取隊2名は、顔だけ出して様子を窺う。
「別に麓郎のせいなんて思ってない……アタシ達のせいでも絶対ないけど」
向かい側にいる三浦を睨んだ後、香取はスコーピオンを強く握り、熊谷の先にいる那須を睨む。
「ただちょっとムカつくだけ」
香取は小声で呟き、熊谷と荒船が斬り合っているところに踏み込んでいく。
「雄太! 」
香取は踏み込みながら、既に背後にいる三浦に向かって叫ぶ。
『三浦隊員、旋空を選択。荒船隊長と熊谷隊員の間合いまで伸びていく』
熊谷と荒船の孤月の切っ先が交わる位置まで伸びる三浦の攻撃に熊谷と荒船は攻撃を中断し、互いに後退する。
その隙に走り込んでいく香取の姿を確認し、熊谷が背後を狙おうと試みるが、荒船が間に入りこの攻撃を防ぐ。そして荒船の追撃を援護するように穂刈が熊谷を狙い、熊谷の背後を狙う三浦に対しては半崎が狙う。
『荒船隊長が熊谷隊員を狙ったことにより、香取隊長は難なく那須隊長のもとへ走り込んでいく』
『荒船が攻撃手に回ったってだけでも那須が支配しやすくなってるからな。香取隊が那須を狙うなら文句ねーだろ』
『半崎も荒船さんもそのつもりで三浦狙ったんだろうしな。まあでも今のは……』
半崎の攻撃は辛くも回避したものの、荒船の攻撃の勢いを殺せず数メートル飛ばされる。
「……悪いわね」
『熊谷がメテオラ放ちそうなのを防いだ三浦の援護だろうけど』
三浦の刀とシールドの金属音を聞いた香取は、背後の方を一瞬向き三浦に礼を述べる。
「雄太! 」
『再び、三浦隊員の旋空。香取隊長、踏み込んでいった! 』
伸びてくる刀を見て、那須は攻撃を一時中断し管理棟のある路地へ逃げていく。
『那須隊長も香取隊長に応戦する。香取隊長と距離を保ったまま移動していく』
那須は香取の両腕を刈り取るために横から香取を狙う射線だけでなく、背後にいる三浦も狙う射線を引いていく。
香取はスコーピオンで捌きながら直進。直撃しかけた数本の射線は三浦のシールドによって防御していく。
三浦は数本被弾しながらも、急所を狙うものについてはもう一枚のシールドを発生させて回避する。
那須は道を2回曲がったところで、バイパーを再び放射する。
『那須隊長、徐々に南下! 熊谷隊員から離れていく』
『どうせ南下すんなら、穂刈を無理やり移動させようっつうことだろう。ライトニングにしたら射程的にこれ以上近づいたら、穂刈に撃たれる』
当真は穂刈に加え、半崎のアイコンが移動することを確認する。
日浦はホルダーにイーグレットだけでなくアイビス、ライトニングの全ての狙撃手用トリガーを入れている。これは那須もしくは熊谷の状況に応じて狙撃手としての立ち位置を変更するためだ。荒船を狙撃するまでは接近され狙撃されないために、狙撃をしていなかったが、荒船が抜刀した以上日浦の力も必要になっていく。そこで日浦は手数を取る作戦で熊谷への援護しようと考えた。
しかしここでの問題は射程である。ライトニングはイーグレットと比較すると射程が短い。従ってイーグレットで撃つよりも接近して撃つ必要があるため、現状穂刈が届かない距離であってもライトニングで狙撃をするときには、穂刈に狙撃される可能性がある。
「……ヤバいな、俺が」
そこで那須の出番である。正確ではないにせよ狙撃位置を理解した那須が穂刈を牽制した上で倒す。
そうすることで、日浦の援護にもなり自隊のポイントにもなる。半崎の援護を無くすことはできないが、穂刈を狙うということはいずれ半崎も狙うということ。半崎の牽制にもなる。
問題は香取隊を2名那須のもとへ行かせてしまった点である。しかし……
「くまちゃんと茜ちゃんは荒船先輩を取って」
隊長である那須が気にするなという以上、熊谷と日浦がすることは決まっている。
「香取隊は私がどうにかする」
那須は穂刈の方角に走りながら、全員に話しかける。
『さて、香取隊はこっからだな』
バイパーの猛攻を防ぎながら那須と向かい合う香取隊の姿が画面に映る。
『香取隊長、横から襲い掛かるバイパーを防御しながら、
路地から出てくるバイパー刀で斬り落とした上で、銃口は那須に向け引き金を引く。
香取は那須の攻撃は凌ぐものの、自身の攻撃は壁に阻まれ回避される。那須が道を曲がったことを受け、香取も曲がり壁走りをしている那須に向けて引き金を引いていく。
その弾丸に対して、那須は射線を香取めがけて放射する。盾を生成していなかったため、何発か掠るが、香取も何発掠らせることに成功する。
自分の想定以上に傷を負わせることはできなかったのは、おそらく三浦の盾もあったからだろう。
『那須隊長の猛攻は続いていく! 香取隊長は距離を詰められない』
『まあでも、三浦が香取の防御だけに意識向けてるからなー。このまんまだと決められずに終わるぜ』
自身の周辺にバイパーが降り注ぐことで歩みを止めることを余儀なくされるものの、三浦の援護により攻撃を回避することに成功する香取。
「穂刈先輩がいると思われる狙撃場所を送っときます」
「小夜ちゃん、ありがとう」
その場所を目線で追った上で、背後にいる香取に射線を引いていく。
米屋の頭の片隅にもあるように、玉狛戦におけるトリオン切れが原因により離脱した状況と重なる部分がある。
熊谷と日浦対相手部隊のエースの戦場と那須1人が数名を相手にする戦場。
厳密に言えば、香取隊のエースである香取は
しかし、銃手である若村がいないことは、玉狛戦と比較すれば良い点だ。香取は万能手とはいえ、攻撃手よりの隊員である。若村がいなければ、自分の優位を保つことができる。
「倒す・倒される」とは別のところで……この言葉を復唱しながら志岐に連絡を取る。
「小夜ちゃん、くまちゃんの状況を教えて」
香取の応射や時間稼ぎの意味を含んだ穂刈の牽制を障害物で凌いだ上で、改めて場所を確認する。
『那須隊長がメテオラを射貫いた! 再び建物が崩壊した』
『さっきの日浦の残りだな。穂刈は逃げる時間をできる限り稼ぎたいだろうけど、今の那須ので逃げるルートが制限された』
舞台はMAP東寄りの地区。そのうちの1つの工場が爆音と共に崩壊する。
『こっから東はメテオラあるぞってことっすね』
『そーういことだな。実際あるかは別にして行動を削れんのが罠のデカイとこだ』
米屋と当真2人のドヤ顔とともに、那須は今いる東側から先程の場所へ戻っていく。
「穂刈先輩の位置の情報改めて送っとく。葉子はもう少し那須先輩を引きつけて」
「了解……ちゃんと仕事しなさいよ、雄太」
那須が工場を崩壊させると同時に、三浦がカメレオンで身を隠す。
那須の移動を受け、香取と三浦も後を追いかける。那須がコンテナを跨いで頭上に降り注いでくるバイパーを香取はスコーピオンで往なし、自身の背後を狙うバイパーに関しては盾で防ぐ。そして香取は那須のいる道に足を踏み入れる。
那須は香取の身体を確認するとすぐに、香取の前後を同時に狙う射線を引く。香取にこの攻撃を捌かれるが、那須も距離を保つために放射した攻撃であるため驚いた表情も見せず、次の路地に入っていく。
逃げる那須と追いかける香取の構図は変わらず、このような応酬を何度か行った頃には、穂刈も狙撃位置を変え、引き金を引く。
『穂刈隊員、香取隊長を狙撃。香取隊長、一瞬足を止めた』
この狙撃にに対して、香取は急停止をして回避する。
その瞬間、バイパーが再度放たれる。今回の軌道は直線軌道のものと右斜め上空から腕を狙いに来る2つの軌道である。
前者の軌道に対しては数歩分右横に移動することで回避し、後者の軌道に対しては、スコーピオンで斬り落としていく。
そして那須のいる道に足を踏み入れていく。
『香取隊長、多少の被弾も気にせず那須隊長のもとに踏み込んでいく! 那須隊長もこの速さには追いつけないか』
『那須も分かってんだろうけど、
那須のバイパーの軌道を予測し、那須のもとに向かわず、出てきた路地を直進し那須から見て左斜め前10数メートルの位置まで移動した後、那須のもとへ急接近する。
米屋の述べる通り、スコーピオンを出さずにホルスターに手を持っていく姿から、香取が
『香取隊員が腰から銃を抜いた瞬間に、穂刈隊員が狙撃! 三浦隊員がシールドでこれを防御』
『流石に香取隊も穂刈先輩が狙撃すんのは分かってたんだろうな。香取が撃とうとした時にはいい位置取れてる』
香取を囮にする戦法は那須隊も理解している。
必要な情報は、正確な三浦の位置である。香取にせよ那須にせよいずれ落とされる状況であるならば、穂刈がポイントを稼ぎにくることは明らかだ。従って、無防備である香取を穂刈が狙う。そして香取を守るために、三浦が姿を現す。
そこまで分かれば那須にとっては十分。
「……」
日浦との連携で、荒船を上手く削れていることは志岐から連絡を受けている。こちら側の穂刈の離脱が時間の問題である以上、このことは半崎が移動重視で荒船と連携を上手く取れていないことが効いていることの証拠の1つであるはずだ。
心の中でそのようなことを考えながら、正面にいる香取と背後にいる三浦の他にもう2本射線を引く。
『香取隊長の
自分の優位が保たれるとはいえ、三浦の援護もあり
舞台は東側から先程の位置に近い位置になっている。
『この状況で再び、建物が崩壊!? 穂刈隊員のいる建物も崩壊した模様』
『香取から逃げる間にメテオラを仕掛けといてんだろう。さっき東側の方のを崩壊させのは、穂刈に引き返させるためってことだな』
落ちた瓦礫が違うメテオラに当たり、違う爆発を起こすようにメテオラを配置し、多少の誘発は引き起こせる。これで狙撃位置まで自分の射程が届かない今の状況でも、穂刈を引き出すことに那須は成功する。
『建物が崩壊したことで、穂刈隊員の位置が明らかになった。穂刈隊員が落とされるのも時間の問題か』
『そーだな。崩壊した建物も1つだけじゃない。香取は穂刈のとこに行きやすくなった。それに三浦が那須の首を落とすために振りかぶってる。那須は落とせるから香取の意識は一瞬穂刈に向く。その一瞬さえあれば……』
動けない者が落ちる駒であることは、那須も理解している。
『那須には十分だろ』
だからこそ、香取隊が自分は落としたと思う瞬間を狙う。
『那須隊長、自身に帰ってくる射線を引いていた! 香取隊長に襲い掛かる』
一度は通り過ぎ戻ってくるように射線が引かれていたバイパーは、香取の腹部に襲い掛かる。
「雄太、後ろ!! 」
三浦が那須の首を狙う姿の他に三浦の背後にも自分の腹部を刈り取った射線と同様、三浦の腹部に狙い定めて方向転換する射線を香取は確認する。
「了解!! 」
香取が穂刈に意識を向けていたように、三浦も那須を狙うことしか考えていなかった。
従って、三浦も反応が遅れる。盾の生成が間に合わないと判断した三浦は、踏み込もうとした位置を変更することで那須への攻撃を一度止めるものの、腹部への甚大な損傷を防いだ
『三浦隊員にもバイパーが襲い掛かった!! どうにか急所を避けたものの、足は削られてしまったか!? 』
しかし反応が遅れたことで那須の攻撃を凌ぎきることはできず、三浦は右足を落としてしまう。
香取を落とすだけでなく三浦も右足を落とす以上のことができれば、那須隊がより有利に進められることは言うまでもないことだろう。傷が深ければ深いほど、援護がない三浦は荒船と熊谷の戦場への乱入ではなく、ひとまず半崎を落とすように動いてくれるはず。その間半崎の狙撃がないと考えれば、荒船を落とせる状況である。志岐の情報から判断して取った作戦であったが、全て上手くはいかなかった。香取は落とせたものの、三浦の傷が想定より軽い傷である。
香取への攻撃が成功したからには三浦への攻撃も上手くいくと那須も流石に思っていない。回避されることは分かっていた。しかし、香取の三浦への援護がここまで早いと考えていなかった。香取隊として、三浦への指示も出して連携し始めていることを失念していた。
自分の失敗は、相手の連携を考慮に入れなかったこと。もう少し弾速に気を配るべきだった。
「ここまでね……」
自分は既に動くことができないため三浦により落とされてしまうが、香取は落とすことができた。
香取との連携がない以上、三浦1人でできることは限られている。もし半崎を狙わず荒船と熊谷のいる戦場に乱入したとしても、三浦としては、2対2対1の状況を戦う必要があるため、那須隊としてはそこまで脅威ではない
『香取隊長を追い込んだが三浦隊員の手により、那須隊長が脱落!! やはり
自分の作戦がある程度上手くいっていたことで、那須は重要なことも忘れていた。
『穂刈も狙ってるように見せ掛けて、実際は香取隊も狙える瞬間を見せる。そうすることで確実に香取隊を取りにきたっつうわけだな。若村がいねー状況なら、香取さえ落ちてくれれば、那須隊はやりやすいだろうし。ただまあ……』
1つ目は、香取が簡単に負けを認める隊員ではないこと。
「葉子ちゃん、大丈夫!? 」
「いいから、あんたは狙撃手の方行って。これはどうにかするから」
それは自分が落ちかけていた際も、狙える
確かに穂刈を取れれば、那須も含めて2点取ることはできる。しかし彼女も那須のように自分が落ちた同然であったとしても、勝つためには何をすべきかを考えることはできる。
そこで2つ目の那須が忘れていた点だ。
「ほんと……」
勝つために浮かんだ手段に対して、咄嗟にその手法を扱うだけの技術があること。
「ムカつく」
傷口の対処を思いついた香取が呟いたその言葉が那須に向けてものであるのか、もしくは……
『ここでどう動くかが香取隊にとって重要だな』
聞こえないにせよ冷静に解説している解説席を想像してのものなのか、もしくは……
『スコーピオンで傷穴を塞いだ!? 』
『おー、この前空閑がしてたってやつはこれかー。
この状況下で思いついた策がこの前惨敗を喫した敵のものであったからなのかは香取にしか分からない。
しかしこの策により、香取が取れる行動が増えたことは事実。
「急ぐわよ」
「うん」
香取と三浦は、半崎のいる方面ではなく熊谷と荒船がいる方面を目指す。
理由は3つある。
1つ目は、熊谷と荒船が争っている戦場が、香取と三浦がいる位置に近いという点である。
香取のトリオンは切れかけており、半崎の反撃により時間が伸びることを考慮すると、香取が持たないため、荒船達のところに行った方が良いという判断だ。また三浦の足も落ちている以上、三浦1人で荒船達のいる戦場に行かせるのは、ポイントを相手にあげるようなものだ。2人ならば、連携をして戦える。
『そういうのもあるだろうけど、きっと半崎が逃げてることは香取隊も分かってただろ。半崎と連携できないなら、荒船さんが負傷してるって判断もあるんじゃね? 実際その通りだし』
2つ目は、那須と同様荒船が負傷具合である。
染井は、荒船隊と戦うに当たり狙撃手の位置を普段以上に気にかけ、香取や三浦から半崎のいると思われる方向からの狙撃がない情報を手にしていた。MAP中央に香取隊がいないため、正確な情報ではないものの、半崎が狙撃をしていないだろうと考えた。そしてもしそうならば、荒船は負傷をしているだろうと判断した。
荒船が負傷しているのであれば、厳しい状況である香取隊でも連携次第で、乱戦で点を獲ることが可能だと考えた。
そして、3つ目は……
『半崎隊員の長距離
『那須も落ちて、香取隊も半崎の方来ないなら半崎も自由に撃てるな』
香取隊が半崎を狙わなければ、相手の連携を崩すためにまずは日浦も必ず狙うというものである。
香取と三浦はその弾道を確認した後、荒船達のもとへ向かうため狙撃を受けない経路を通りながら走る。三浦にはバックワームを着ているものの、香取は今後の攻撃のためのトリオンを残すためバックワームを着ていない。
従って奇襲ができないため、染井が香取を囮にした作戦を再度提案する。しかしながら、できることは限られている。現状囮にできる材料は1つ。
そのことを理解している香取は、三浦の方を向かずに内部通信で独り言のように呟く。
「行くわよ」
『香取隊長、踏み込んでいった! その銃口は荒船隊長に向いている! 』
半崎が熊谷を狙った瞬間に、香取は走り込んでいく。
香取の放った黒い弾丸は、後退した熊谷に追撃を試みる荒船を狙う。
荒船は踏み込みを止めてこの弾丸を回避し、地面に着弾させる。普段の荒船であれば、問題なく次の動作にいけたが、今回は違う。日浦の連射により、香取程ではないにせよ左腕と右足に穴ができていた。それが仇となり、即座に万全の体勢を戻すことができない。
当然三浦は背後からその瞬間を狙いに踏み込む。バックワームを外して踏み込んでくる姿を確認した荒船は、咄嗟にシールドを生成し防ごうとするが、三浦の突きは盾を避けていく。
理由は簡単である。三浦が選択した攻撃は、幻踊孤月。盾の位置を予知していたかの如く曲がっていく。
『あれは、首狙いやすいよなー。まあでも……』
幻踊孤月だと気づいたときにはもう遅い。荒船の喉に孤月の切っ先が貫通する。
三浦が荒船を取ることを信用していたのだろう。三浦が荒船の背後を取る頃には、香取は後退している熊谷に銃口を向けていた。
香取の行動に気づいた熊谷は回避が間に合わないと判断し、弾道の先に孤月がくるように構えて弾丸に備える。
しかし熊谷が考えていたように香取は弾丸を放つことはせず、大きく踏み込んでいく。
理由は簡単だ。
熊谷も香取が踏み込んだ瞬間に香取のトリオン切れを悟ったのだろう。香取の踏み込みに合わせて、孤月を横に振り切り、香取の接近を防ごうとする。
しかし、気づくのがコンマ何秒か遅すぎた。熊谷が振り切ったときには、香取は既に熊谷の背後を取っていた。
「終わりよ」
アタシにできることは、精々あと1回のスコーピオンの生成くらい……でも、これで決める。
そう思いながら、
しかし背後を取ることだけに集中していたことが仇となり、香取もまた何秒か気づくのが遅れていたのだ。
「ちっ……雄太!! 」
熊谷が香取の速さに追いつけず、自分が落とされることを考えた上で、熊谷がメテオラを生成していたことを。
「ただで負けるわけないでしょ……舐めんじゃないわよ」
スコーピオンが心臓を貫いていても熊谷は笑う。
たとえ香取にトリオンがあったとしても、盾の生成は間に合わないのだから。
たとえ三浦に荒船が取られたとしても、三浦を取ることができるのだから。
『メテオラ付きだけどな』
熊谷と荒船の
「ムカつく……」
その光を見上げながら、香取は独り言のように呟く。
『試合終了! 香取隊長の
『香取が粘ったのがデカかったな。あそこで何もせず香取が落ちたなら、三浦は半崎は取れたにせよ、荒船も那須隊に取られて那須隊が勝っただろうしな』
綾辻のアナウンスとともにランク戦が終了する。
香取隊 得点4点 (那須と穂刈と荒船と熊谷)
荒船隊 得点3点 (日浦) + 生存点2点
那須隊 得点3点 (若村と三浦と香取)
ちょっと長いので、また要点を纏めときます。(読みたい方は活動報告を見てください)
1.何か間違えていたり、感想やアドバイス、こんなのが見たいとかあればコメントお願いします。
2.次は米屋 vs 生駒かコンセプト強化部隊戦です。
コンセプト部隊強化は
強化間宮隊(二宮、出水、那須)
強化香取隊(影浦or太刀川、嵐山、辻)
強化荒船隊(木崎、荒船、当真)
の三つ巴になるんじゃないかなと思います。
3.那須さんってやっぱり書くの楽しいですね
って感じのことが活動報告に書いてあります。
10/4追記
ご指摘により、那須さんのシーン及び最後を修正しました
ただもう少し作者の力が上がれば、もっと上手く動かせそうな気がするので、作者のポイントが上がり次第再度修正します。