この小説では、内部通信(原作で、脳内で喋ってるやつ)や解説や実況の会話は
『』
で表現しています。
ボーダー本部 模擬戦ブース
『ブースにいる皆さん、こんにちは!! 騒ぎを聞きつけ、今回この戦いの実況を務め頂きます。海老名隊オペレーターの武富 桜子です』
ブースの大画面が映る真正面に、急遽用意された長机に手を置きながら、これまた急遽用意されたパイプ椅子に腰掛け元気よく挨拶する、B級18位海老名隊オペレーター 武富 桜子。
……ちなみに彼女が本日の防衛任務に対する報告書を纏める仕事を放り出しているのは別の話である。
自己紹介を終えた後、一呼吸置いて隣に座っているA級隊員の紹介をする。
『そしてお忙しい中、来ていただいた解説者は……ボーダーの顔A級5位嵐山隊の木虎 藍さんです』
『よろしく』
紹介を受けた木虎は、挨拶をそれだけで済ます。
『さて、今回普段やらないであろう個人ブースでの模擬チーム戦。しかもA級1位太刀川隊の出水先輩、A級4位草壁隊の緑川くん、A級7位の米屋先輩で組まれた、言ってみれば即席ドリームチームを組まれたわけですが、その点についてどう思われますか? 』
武富は、見るからに興奮していますと言わんばかりに捲し立てて、木虎に話を振る。
その様子を見ながら、呆れたように溜息をついた後、肘をつきながら吐き捨てるように木虎は言う。
『どうせ、俺達チーム組んだら強いんじゃねとかいう思い付きよ。B級とはいえ、日頃から連携をしているチームに勝てるわけないわ』
明らかに馬鹿にしたように鼻で笑う木虎。
……ここだけの話、ブースで個人戦を終えた米屋と緑川が、
「俺らって組んだら強いんじゃね、スコーピオンと弧月で被ってるかわけでもないじゃん? あー三輪隊なきゃやってみたいわ」
「いやー、近距離だけじゃ厳しいでしょ」
「確かに……ん? 」
「……当てがあるな」
「……だね」
「太刀川隊……行くか」
「おっけー」
そんな何の根拠もない会話をした後、ブースを出て太刀川隊に向い、出水を呼び即席チームが完成したのである。
そしてブースに戻った米屋達は、たまたまいた村上に頼み込んで鈴鳴と模擬チーム戦を組むことになった……正直何が彼らを駆り立てるのかが理解不能である。
まあそのような経緯でできた ”米屋隊” であるけれど、彼女……解説席の主にはそんなことは関係ない、現に今も、
『そのような経緯だとしても、私としてはこのような夢の共演に興奮が収まりません!! 米屋隊がどんな戦いをしてくれるのか、見物ですね』
鼻息を荒くして言っているのだから。
……彼女がどうやって即席チームのことを嗅ぎ付け、解説席と解説者を用意したのかも今となっては不明である。
『あなたを駆り立てるものはなんなのよ……』
彼女の様子を見て軽く引く木虎だった。
『そういえば、もう1人解説者に来てもらっています。同じく嵐山隊の佐鳥先輩です』
『どうも、どうも』
画面には、ブースのベットに腰掛けている佐鳥が映る。当然のことながらドヤ顔で映っている。
佐鳥語録を披露するのかと思われたがそんなことはなく、
『桜子ちゃん、そういえばって言い方はなくない?』
ドヤ顔を終え、すぐに突っ込んでくる佐鳥。
それに対し、武富は、あははすいませんと素直に謝る一方、隣に座っている同隊の美少女はそうはいかなかった。
『先輩の扱いなんてそんなもんですよ』
『なに当然のことのように言ってるの? それフォローになってないからね、分かるよね?……木虎さn』
そこで机に置いてある通信用携帯トリガーをオフにする木虎。
『あはは。えーこのようにですね、私が持っている現場実況用通信トリガーで現場とこの解説席を繋いで佐鳥先輩に現場実況と戦闘員をやって頂こうというわけです』
その解説を聞いた木虎は、そのトリガーのボタンを押す。
すると
『あ、繋がった。だからね木r』
もう一度ボタンを押す木虎。
しかし、急にボタンのスイッチがオンになり通信が繋がる。
『だーかーらー、ひどいって木r』
画面を睨みながら、素早くボタンを押す木虎。そして、咳払いをした後に述べる。
『なるほど。このようにボタンを押すことで、先輩と通信可能で呼び出すことも反対に先輩から連絡も取ることも可能ということね』
『はい、そういうことですね』
ほくそ笑んでいる木虎を横目でみながら返答する武富。
その様子を見て、睨みながら一言。
『なにか』
『いえ、なんでもないです……』
この子には逆らわないと心のなかで誓う桜子ちゃんだった。
武富の木虎の印象が、A級エリート隊員から同隊の先輩を何食わぬ顔で貶める悪女に変化しているなかMAPの選択を終え、転送がそろそろ始まろうとしていた。
今回の模擬チーム戦ではB級ランク戦のルールを適用するため解説をしていきたいと思う。
通常のB級ランク戦では、下位、中位、上位の各々で時間制限有りの三つ巴もしくは四つ巴のチーム戦を行い、そこでの得点の差で勝敗を決めいき、最終的に得点の大小でB級全体の順位を決めていく方式を取っている。
得点の決め方は単純で、相手を1人倒せば倒した方のチームに1ポイント入るというものであり、聞いた通り時間内で多く倒した方が勝ちというものだ。
では、自分のことを気にせず相討ち覚悟で突っ込めばよいのではないかというとそういうわけではない。その理由はランク戦のもう一つのルールがあるからだ。
そのルールとは、生存点に関するものである。
これは、時間内にランク戦の勝敗がついた場合、生き残ったチームに2ポイントの得点が入るというルールだ。このルールにより、もし上位に食いこみたいチームがあった場合、敵を多く倒すだけでなく生存点も狙いにいく必要性が生まれるわけである。
ここまでランク戦の一番重要なルールを説明した。実際にはこれより細かいルールがまだ存在するのであるが、それは解説が必要になったら説明することにしよう。
さて、ランク戦の中での戦場の設定について移ることにする。
B級ランク戦では前述の通り、三つ巴や四つ巴で戦う。その際の戦場は勝手に決まるわけではない。
正規のA級部隊ならば、どのような戦場でも対応し敵と戦うのは必須な条件であろうが、B級の全部隊にそれを課すのは無理がある。
そこで、B級ランク戦では戦場を本人達が決めることができる仕様になっている。しかし参加する全員で決めるわけではない。
その三つ巴、四つ巴で一番下位のチームが決めていいというルールだ。どういう意図でこのルールを決めたのかは定かではないが、おそらくB級チーム全体の考える力の向上ではないだろうかと考えられる。
そうやって考えていくことにより、戦場での動きを学び上手くいったときには上位に、もしくは上位チームにその作戦を破られ下位のままに……そのやり取りのなかで上位も中位も下位も学んでいくわけだ。
では、今回のような特殊事例の場合はどうするかというと、
『今回来馬隊長の温情により選択権は、即席チームの米屋隊に渡されたわけですが、これは試合に影響するでしょうか』
『来馬先輩には申し訳ないけど、関係ないでしょ。どうせろくなこと考えてないわよ、あの3人は』
解説モードの武富の軽い問いかけにこれまた毒舌で返す木虎。
え? 事実だろって?
ナンノコトカナー、ワカラナイヨ。
というわけで、即席で連携もこちらより上手くいかないだろうということと、4人で米屋隊より人数が多いということで来馬が選択権を譲ったのである。
正直な話、A級のなかでもできる3人を揃えた部隊であるので、選択権まであったら勝率が格段に上がる気もする。
しかし佐鳥も付きどうなるのかが想像ができないためこの判断が正しかったかは、ブースの隊員が考えることであるためここでは控えておこう。
さて……米屋隊が選んだMAPはというと、
『市街地B 天候は、晴れ!! このMAPは他の市街地とは違い高い建物が乱立しいるMAP。これについてどう思われますか? 』
『射線を通りにくくしてるんでしょう。
『なるほど』
意外と考えているのではないかと素直に思う武富。
それに対して
『……これぐらいは考えてないうちに入るわよ、ええ』
意地でも認めようとしない木虎。
この子は何と戦っているのかよく分からない。
そんなことは置いておいて、先ほど説明を忘れたので補足すると、戦場MAPは一つのステージにつきA、B、Cと特徴が違うMAPが存在しておりこれを自由に選択できる。またそれだけでなく、天候も細かく設定できる。選択権を与えられた下位チームは、この2つの条件を組み合わせて戦場を決定することができる。つまり、設定の組み合わせ方が無限大となる。
このため、ランク戦で戦場設定が被ることはなく、1戦1戦どのように下位チームが戦うのかを見るのも面白い。
……戦場のMAPが改めて説明された後、転送が開始される
『転送開始!! さて、配置はどうなっているかというと……』
解説の声がブースに響く。
米屋隊の転送位置は、MAP上北西の位置に米屋、その数10メートル南に緑川がいる。出水はというとMAP上の真南より、数メートル西の方向に転送された。
一方、鈴鳴第一と佐鳥の転送位置は、来馬が北東に、村上が東の位置に転送される。そして、鈴鳴第一の
最後に佐鳥の転送場所は、
『ど真ん中でーす』
バックワームを着用しながら片手でピースをしている佐鳥が画面に映る。
『先輩……そういうのいいんで仕事してください』
ジト目になりながら木虎は冷たく言う。
『ちょっとくらい先輩のこときちんと扱ってよ』
涙目になりながら言いかえす佐鳥。
その返答はもちろん
『はいはい、仕事してください』
『……やっぱ泣いていい? 』
佐鳥が後輩に勝てる日はまだ遠い。
佐鳥が後輩と仲のいい会話? をしているなか米屋はというと……
「誰かいねーかな。早くバトりたいわー」
弧月を横にして両肩に乗っけた状態で、口笛を吹きながら呑気に歩いていた。
「つーか俺らって意外と不利なんだよな、こんなことなら誰か誘うんだったわ」
空を見上げながら小さな声で呟く米屋。
というのも、彼らA級3バ……米屋隊にはオペレーターがいないのである。まあ言われてみれば当然のことだ。
この隊の結成はわずか2時間前、それも正式な手続きも踏んでいないのだからB級ですらない。行き当たりばったりの正しく即興ノリで出来上がったバカ部隊といっても過言ではない。
そんな隊にオペレーターなんてつくはずもなく、彼らはタグづけなしのレーダーと感覚頼りの戦いを強いられることになったのだ。
もっと事前準備をしてから隊を組んで欲しいと思う……やはりこいつの隊はこいつ以外の三輪、奈良坂、古寺の3人で成り立っていると言ってよいかもしれない。
槍バカがどうすっかなーと言いながらMAP中央に向って歩いていると背後に影が現れる。
「あっ、よねやん先輩じゃん。合流しちゃった」
迅バカである。
「おっ、緑川じゃん。じゃあ2人でやるか」
「だね」
緑川を見つけ、右手を軽く上げて挨拶する米屋。
解説席では、合流して2人がかりで敵を狙うのではという話になっているようだけれど、実際はこんなもんである。合流して2人でやるのではなく合流したから2人でやるのだ。
まあどちらが本当の場合いいのかは言うまでもない。
米屋隊2名は出水の位置をなんとなく確認した後、とりあえず中央に向うことにする。
2人は、他愛のない会話をしながら中央の大通りに出ようと路地を右に曲がっていく。そのとき大きな声が聞こえるのであった。
その声の主は……
『木虎さんひどいよー』
佐鳥であった。
手を動かしながらオーバーリアクションを続ける佐鳥を視認した彼らは言うのである。
「佐鳥だな」
「うん、さとけん先輩だね」
真っ直ぐ佐鳥の方を見て遠い目をしながら言う2人。
「めっちゃ動いてるな」
「だね」
手も体も上下させながら、弁明のようにも見える行為を繰り返す佐鳥。
「行くか、まず1点だ」
「了解」
肩にかけてあった弧月を降ろし、片手で持ち直す米屋。
右手のスコーピオンを改めて握り直す緑川。
息を吐く2人。そして
「「まずは1点じゃー」」
走りながら大声を出し、佐鳥に近づいていく。
「ぎゃー、殺されるー」
近づいてくる獣2名を確認した佐鳥が北東の方向に逃げていく。
『はぁ……馬鹿ばっかね』
『あはは』
それを見た解説席ではそう呟かれていた。
「待て佐鳥ー。首取らせろー」
「いや、はいどうぞって言うわけないでしょ」
米屋の言葉に反応しながら、後ろ向きに走り続ける佐鳥。
なぜ後ろ向きかというと
「イーグレットを撃ちながらバック走とか、さとけん先輩も十分変態だよね」
米屋と緑川を近づけすぎないようにイーグレットを撃ち続けているからだ。
佐鳥はどうもありがとと言いながらも厳しい様子で、この距離感は今にでも崩れそうだった。
実際この均衡はすぐにも崩れるだろう。
理由は簡単だ。
『緑川隊員。グラスホッパーを左手に出現させた』
『緑川くんにとって、この状況の打破の方法は急接近が一番簡単な方法なのだから、当然それを選択するわね』
グラスホッパーは踏むことで加速ができるオプショントリガーだ。ここで接近して
自分の後ろに、敵の方向を向いている地面と垂直な向きの四角い踏み台を発生させる・それを両足で踏み込みこむことで、地面に対して体を多少浮かせながら進んでいく。当然、踏み込むと同時に移動速度が速まり佐鳥に近づいていく。
「げっ、マジ」
思わず苦笑いをする佐鳥。
このまま、加速し佐鳥に近づき首を掻っ攫うと思われたが、そのような事態にはならなかった。
「緑川、横!! 」
そう、この大通りに交わっている横の路地から弧月の突きが緑川を襲ったからである。
緑川はその弧月を確認してすぐに片足の指を地面に降ろし、急停止をすると後ろに下がる地面を蹴り上げる
「悪い、佐鳥遅れた」
『村上隊員 見参』
村上が佐鳥と緑川の間に割って入る。
向かい合う3人。
「緑川、米屋。2対1、いや3対1だとしても倒されるつもりはないぞ」
ここで村上が口を開き、南の方角を一瞥した後、2人の方に目をやる。
その言葉を聞いて、米屋は通信をオンにして出水と連絡を取る。
『おい、弾バカ。位置バレしてんぞ』
『は!?……あぁあれだわ、太一だわ。
その言葉を聞いて、出水は辺りを見渡し、別役を補足する。
出水は位置を確認した後、聞き返す。
『どうする? このまま俺としてはウザいから太一やりたいんだけど。まあ、鋼さんを倒しとくのも手だと思うぜ』
『まあ、3対1のほうが倒しやすいよね、もちろん』
村上が踏み込んで振り降ろしてくる弧月を左に捌きながら、答える緑川。
『あれだな、お前。太一相手しながらこっちのフォローもしろよ』
村上が、緑川に対して追撃のためにもう一手を踏み込んだところを後ろから突く米屋……これをレイガストのシールドで受け止め、右に避けていく村上。
『終わったら何か奢れよ、槍バカ!! 』
フルアタックの準備をしながら、そう吐き捨てる出水。
『勝ったらな』
緑川が左から斬りかかり、米屋が右から斬りかかる。
『出水隊員が残るんですね、この感じだと[[rb:狙撃手 > スナイパー]]のことを気にして動いてもよさそうですが……』
『まあ普通に考えて3対1のほうがいいってだと思うけど……強いて言うなら出水先輩だからってことかしら』
『……どういうことですか? 』
先ほどの斬り合いが終わり、正面に緑川と米屋を置きながら、距離をあける村上。
まず村上の正面にいる緑川が仕掛ける。
左手のグラスホッパーで後ろに回り込み、浮いている状態で加速の勢いのまま斬りつける。
しかし、この攻撃は正面を向いたままの村上にレイガストで防御されてしまう。
緑川もこれくらいの受けは想像していたらしく、右手のスコーピオンを盾から離さないようにしながら、空いた左手でもう一刀を出して、下から上に斬り上げ喉元を一突きしようとする。
この一突きを重心を少し前に傾けることで、避け切った上でレイガストの加速機能であるスラスターを使用し、緑川をそのまま後方へ押しやる。
案の上、10m弱飛ばされる緑川。
ただここで終わらせないよう動いていたのが米屋である。
米屋は、スラスターを用いたちょうどそのとき、正確には緑川が右手のスコーピオンで斬りつけたときに踏み込んで村上に一突き。弧月でその剣先を下にずらす村上。
これで受け切ったと思った村上であったが、剣先の方向をずらしたときは、重心をずらしたときと重なったときで、体勢を崩し何歩か左にふらついてしまう。
そのときを狙っていたかのように上から数10本のバイパーが降り注ぐ。
「緑川!! 」
「了解」
叫ぶ米屋に呼応しながら移動を始める緑川。
『どうって……。見れば分かるように出水先輩は、バイパーの射線を自由自在に引けるわけだから……』
出水が米屋とやりあっている村上に向け、バイパーを放ったとき弾丸が飛んできていたのだ。
しかし、出水は別役の位置を視認していたため、建物を盾にその弾丸を避けた上で、バイパーをそちらに放っていた。
それを見た南東にいた別役は
「やべっ。バイパーきちゃったよ、逃げなきゃ」
慌てた様子で、建物の屋上を走り、対角線上の位置から飛び降りて逃れようとする。
しかし……
『だから、相当な逃げ足がない限り逃げられはしないわよ』
≪戦闘体活動限界
別役が落ちる。
南東で最初の1人が落ちる中、先程の大通りでは緑川がいなくなったことで2人が正面から向かい合っていた。
「鋼さん。いっちょやりましょうよ」
「……米屋」
2人の男はともに口角を上げて笑っている。
『村上隊員と米屋隊長が一騎打ち!! そのうちに緑川隊員が北東方向に向かっている。村上隊員のサポートに回ろうとしていた来馬隊長は、北東で佐鳥隊員と待ち構える様子です』
『うちの
右肘を机につき、顎を掌に乗っけて息を吐く木虎。
『ちょっと木虎さん!! 聞こえてるから!! ひどいからね?……あと』
泣きまねをしたあと、急に真顔になる佐鳥。
『? どうかしました? 』
その声の調子に木虎も真顔になる。
咳払いを1つしてから、キメ顔になる佐鳥。
『溜息ばっかりついてると幸せ逃げるz』
ボタンを押す木虎。
数秒通信が途絶えたかと思ったら、再びつく。
『ちょっと、今いいセリフ言おうとしたんだけど!! 俺かっこよかったと思うんだけど!! 』
『今のは引きました』
『なっ!! 』
怒鳴りながら主張をする佐鳥に対して、木虎が効果抜群の一撃を食らわす。
『桜子ちゃんもなんか言ってよ!! 木虎ひどいよね? 』
『え……私ですか』
急に振られたことで、慌てた武富は、チラッと一瞬横の美少女に目をやる。
『!! 』
桜子ちゃんは悟ったのだった。
隣の美少女が無視をしなさい、肩を持ったりしたら分かってるわねと言ってるのを……いや別に言ってないけど、分かるか、うん。
肩を持ったりした場合、自分が殺されるということを理解した。女の勘ではなく、本能で。
冷や汗をかいていることが分かる、心音も何故か聞こえる。殺気を放つ目の前の悪魔を横目に、普段解説役の音声をどうバレず盗聴するかを考えることでしか使わない頭をフル回転して導き出した回答は……
『佐鳥先輩……頑張ってください!! 』
『泣いちゃうよ、俺? 』
すまない、佐鳥先輩。私はまだ聞かなければならない解説があるんだ……生きねば。
そう思う桜子ちゃんだった。
武富が個人的に生死をさまよっている中、戦場はというと
まず、北東では武富の解説の通り、緑川は米屋の足止めの隙に北東に向う。
佐鳥はそれを迎えうつ形となっている。
『えー……まず、北東の移動をした緑川隊員ですが、通りに出ずに路地に留まっていますね』
『建物を遮蔽物にして、佐鳥先輩の狙撃を通らないようにしているんでしょ。
北東地区にも1本のみ中央にあるような大通りが存在している。
そこに届くであろう弾道を気にしてか細い路地から入らずに、様子を窺っている緑川。
前述の通り、米屋隊にはオペレーターがいない。そのため、先程佐鳥を見つけた際、タグ付けができていないため現在の佐鳥の位置が把握できていない。加えてバックワームでレーダーによる捕捉もできないのだ、慎重になってしまうのも無理はない。
『北東を攻める上でこの大通りを通る必要があるけど、そこは射線が通れる大通り。この道を抜けようとして、アイビスで抜かれる心配もあるわね』
慎重になる理由を補足し始める木虎。
『なるほど』
そう返す武富。
それと……と前置きをしながらそれを続ける木虎。
『緑川くんは位置を把握してなくても鈴鳴のほうは、オペレーターがいるわけだから先程の接触でタグ付けは完了している。要するに鈴鳴側についた佐鳥先輩は今どの路地に緑川くんがいるかは分かるわけね。そのことを理解してるから慎重になるというのもあるんじゃないかしら。位置が把握されてる以上、バックワームで素早く大通りを抜けようとしてもタイミングを合わされてお仕舞だわ』
『……なるほど』
その補足に納得する武富。
ただ、その様子を見た木虎は納得いかなかったようで聞いてくる。
『何か質問でも? 』
さながら、子供向けの質問コーナーでも始めるかのように優しく言う木虎。
『いや、その』
『何でもいいわ。分からないことは悪いことではないもの』
なぜこの子は得意げなのか……分からん。
武富は困ったように笑いながら、言うのであった。
『緑川くんもきちんと考えているなーって』
まあ先程からのあの3人はバカ発言を聞いているからだろう。思わずそう発言する武富。
その言葉を聞いた木虎の反応は……
『なっ!! 別にこれくらい考えるのはふつうよ、ええ。別に私が間違っていたとか、そういうわけではないわ……ってなんなのよその目は!! やめなさい』
うわーこの子こんな可愛い反応するんだと、少し紅くなっている木虎を見ながら暖かい目をしていた武富であったが、頭をぶたれたことで解説モードに戻り話を戻す。
『緑川隊員が動かないとなると、膠着状態ということでしょうか? 』
武富の問いかけに、木虎も咳払いをした後解説に戻る。
『そんなことはないと思うわ』
『……というと? 』
不思議そうに木虎を見る武富。
木虎の言う通り、膠着状態になることはない。なぜなら、
『緑川隊員にバイパーが降り注ぐ!! 堪らず隣の建物の窓を割り、建物の中に逃げ込む』
村上のフォローに向っていたはずの来馬がちょうど緑川の向い側の建物屋上から下に銃口を向けていた。
『射程がある
来馬が銃口を建物に向き直し、バイパーを撃ち続ける。その弾は、1階の窓を割っていく。
それを逃げるように2階に逃げようとしている緑川。
それを察したのか、2階のほうに意識を向け始める来馬。
『このまま屋上に出てしまうと、佐鳥隊員のアイビスの餌食になってしまう!! 緑川隊員、落ちてしまうのか』
煽る武富の言葉を否定する木虎。
『それは、まだ分からないと思う』
画面が南東方向に移る。
『出水先輩が緑川くんのフォローにつければ、こちらも射程がある戦闘員がいるのだからどちらかを仕留められる可能性が上がる』
MAPの東の端から向かうつもりなのかそちらの方向に向っている出水。
『米屋隊員のフォローには入らないと?』
疑問に思ったことを口にする武富。
『緑川くんが堪えられずに落ちて、来馬先輩と佐鳥先輩がフリーになることと自分がやられて村上先輩のみがフリーになることを天秤にかけたんでしょ。それで、それなら出水先輩と2人を落として、こっちに向かわせたほうがいいという判断ね……どちらが正しいとは今は一概には言えないけど』
それに答える木虎。
『となると、米屋隊長と村上隊員の一騎打ちが大きなカギを握るということですね?』
『ええ、どれだけチームで落とせるかまで時間を稼げるかにかかってるわ』
米屋と村上が斬り合っている映像が映る。
「米屋、ワンパターンだぞ」
米屋の突きを右に捌き米屋のほうを向き言う。
「いや、鋼さんが強すぎるだけだけで…しょ」
それに追撃をするために踏み込もうとする米屋。
その剣先を弧月でずらして、次の攻撃に繋げようとしているように見える村上。
「……と思うじゃん? 」
そう言いながら、踏み込もうとした足を軸に村上の横に回り込むように動き、反対の足で踏み込みながら敵の喉元を貫こうとする。
それを軽く口元を緩めながらレイガストを弧月の方向に向ける村上。
『弧月が盾をすり抜ける』
『弧月のオプショントリガーですね』
弧月がレイガストの盾の右を通り、村上を狙う。
ただ、村上はそのことは分かっていたようで、レイガストを持ったままスラスターの加速で米屋に近づきそのまま後ろに飛ばそうとする。
「うおっと」
先ほど、緑川を飛ばした方法であるだけにそれを予測していた米屋が右にジャンプして避ける。
米屋が地面に足を着き持ち直すと思われたがそんなことはなかった。
「お前がそう避けることは知ってるよ」
そう言いながら、その勢いのままレイガストを横にして米屋に追撃。
「……と思うじゃん? 」
空中の体勢を崩した状態でなお村上の首を狙おうとする弧月。
「終わりだ」
その槍をレイガストで後ろに吹き飛ばし弧月で喉を一突き。
≪戦闘体活動限界
光の筋が空中に向う。
『米屋隊長落ちる』
ブースでは解説の声が響く。
「げ、鋼さん。こっち向ってんじゃん。怖い、怖い」
大通りに出た出水が、村上を視認する。
「こうなりゃ……
とりあえず、火力だろと判断したのか、四方に合成弾を2秒足らずで作り村上に放つ。
「まあ、どうせ落ちてないだろうけど、逃げなきゃダメなんだから時間稼ぎにはなんだろ」
その後、内部通信をオンにする出水。
『緑川!! とりあえず来馬さんを仕留めろ。佐鳥はどうにかする』
『おっけー。屋上に出てすぐグラスホッパーであっちに渡る』
『了解』
通信で最後の確認をする。
ここからだと、射線が通るとしたらあそこの建物だと判断した出水は、両手に大量のキューブを生成して
「メテオラ」
ある建物を破壊する勢いで上から放射させる。
爆音とともに建物が崩れていく。
「佐鳥みっけ」
崩れゆく建物の中でそう呟きながら、バイパーの準備をして打ち抜く。
そして……
≪戦闘体活動限界
≪戦闘体活動限界
「……ありゃ、もう来ちゃった」
右腕を落とした村上が出水に追いつく。
「出水先輩、出水先輩!! 俺の空中ツインスナイプ見た? 」
「うぜー」
佐鳥が落ちた後に市街地MAPに流れたアナウンスは佐鳥のその声だった。
結果
米屋隊3点(来馬、別役、佐鳥)
鈴鳴第一 + 佐鳥 5点(米屋隊全員 + 生存点)
それで、アンケートの件です。
この作品は、あっちの作品とは違う本当に原作世界観なので、あの子はでません。
その上でなのですが
誰と誰が戦ってるのが見たい!!(チーム戦可。今回の場合のようにオリチームでもオッケー。但し、見て分かるように1チーム vs 1チームの時点で活かせてないキャラがいるため、三つ巴とか四つ巴はまだ無理です……いずれ書けるようになりたいですが)
あと、もう一つ。
解説キャラの指定もしてもらってもいいです。
めざせ、菊地原解説!!(笑)
上記のを模擬戦についての活動報告に書いてもらえばそれで頑張ります!!
ご指摘、アドバイス、その他ありましたら、感想欄か今から作るアドバイス欄(活動報告)にお願いします。
精進します。
あと、1つ。
基本1戦で1話の括りにする予定です。
そのため、量は多くなりますが「短編」という形にしました。
これって長編の括りですか?
誰か教えてください。
……こちらは気まぐれなので、いつ投稿とは言いません。
ではでは