東方賢神伝 ~ Lost dignity of ostracized girl.   作:バイロン

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今回から東方原作キャラが登場します。




第3話

 

 

「今年はたくさん要るからね、急ぎなさいよ」

 

「今度の冬は餓えずにすみそうですね」

 

 

若い娘と、大人の女が会話をしている。

人はだいたい男30年、女40年の命だというが、彼女らはいくつなのだろう。

まだ2人の寿命に余裕があるのはわかるけれど...

 

 

この集落を観察し続け7日が経った。

ここには200人ほどが住んでいる。

彼らは狩猟と採集によって生活しており、農耕はやってないようだ。

彼女らは木を彫って動物の姿をした像のようなものを作っている。

何に使うのかはよくわからない。

 

集落の奥には蔵のような木造の建物があり、中には干し肉や果実のようなもの、それに穀物の類が保存されている。

 

更に下流の村との物々交換が行われているらしく、おそらくそちらでは農耕が発達しているのだろう。

 

特に困った事は無さそうな村だ。どうすれば彼らから信仰を得られるのか...

 

 

 

 

 

 

「お、おい! お前ら、大変だ! 」

 

「山の奴らが、オニが来たぞぉ! 早く逃げろぉ!」

 

山の方から、狩りに出ていた男達が慌ただしく村に駆け込んでくる。

 

"オニ"とはいったい何だ? 妖怪の一種だろうか。

 

「ほら、ぐずぐずしてないで、はやく!」

 

「でも、オイノサマが...!」

 

「そんなの諦めなさい! 八つ裂きにされて喰われてしまうよ!」

 

物騒な単語が聞こえる。やはり妖の類で間違いないようだ。

 

妖怪とは、人を襲い喰らう者で、地上の穢れから顕れるという。

その性質は粗暴にして残虐、知性に乏しく、姿は言いようもないほど醜いと言われ...

 

「貴様ら、そこを動くなぁ!」

 

む?

 

大声のした方を見ると、村の入り口に人影が三つ。

少女が一人に男が二人。

 

「ふふ、今日は良い日だ。 逃げ遅れたヒトどもがこんなにおるとは...この辺りのはウマいからな。 私が直々に赴いた甲斐があったというもの。 のう?」

 

「ええ、親分のおかげでさあ!」

 

大の大人に見えるが、少女より格下である様子だ。

あの少女はいったい何者だ?

 

よくよく見ると、妙な容姿をしている。

男二人の頭のてっぺんにはツノがあるし、少女の頭には雄牛のような、立派な双角が生えている。

 

これが"オニ"というものか?

 

「い、伊吹童子だ!」

 

「もうだめだぁ...おしまいだぁ...」

 

人々は大層恐れている。"オニ"というのはおそらく種族の名前だな。"イブキドウジ"というのは多分あの少女のことだろう。

 

「ふふ、運が悪かったな。 だがこの富、貴様らには似つかわしからぬもの」

 

「俺達に美味しくいただかれちゃいな!」

 

「ヒャッハー!」

 

後ろのオス二匹にはまるで知性が感じられぬ。

だが少女には多少は話が通じそうだ...

 

これは好機だな。うまくやればヒトの歓心を買うきっかけにできる。

神はヒトに寄り添い、ヒトを護るもの。この典型に持ち込めれば信仰はすぐそこだ。

 

胸が高鳴る。

機を見計らって...

 

 

「...神への祈りは済んだかい? よし、貴様は家を漁れ、貴様はヒトどもをまとめろ。 私はーーーー」

 

 

今だ!

 

「待たれよ!」

 

オニの三匹がこちらを一斉に振り向く。虚をつかれた様子だ。

 

「その狼藉、その横暴、その傲慢、ゆめゆめ見逃すまじ...」

 

オニ達の方へ近づきながら、口上を述べる。

 

「我が名は寒川白媛、ヒトを守護する者。 我が子らに手をかけたくば、その前にこの私を斥けてからにせい!」

 

よし、決まった。

少女は口をあんぐりとあけてこちらをみている。

 

「あんた、誰だ?」

 

「既に名乗った通りだ、貴殿こそ名乗られよ!」

 

少女は頭を掻いて、困ったように言う。

 

「ち、調子狂うなぁ...私は伊吹萃香、ここらの鬼をまとめている。 ...アンタ、いったい何がしたいんだ?」

 

「先ほど言った通りだ。 貴殿らの狼藉を許さぬと言うのだ」

 

萃香の表情が不敵な笑みに変わる。

 

「ほう...何者かは知らんが、この伊吹童子に逆らおうとは良い度胸だ。 だが、貴様なぞ私の手にかかれば、瞬きもせぬうちに粉々だぞ?」

 

拳をボキボキと鳴らして言い放ってくる。やはり腕っぷしには自信があるようだ。

だが自尊心も大きいよう。これならいけるぞ。

 

「はは、笑わせるな...貴殿のような弱輩では、この私に傷一つもつけられまいよ、身の程を知れ!」

 

「貴様...」

 

不敵な笑みが一転、怒りの相形に変わる。

 

「この私をして弱輩とは、よくも侮辱してくれたな! もう怒ったぞ、八つ裂きにしてくれるわ! 決闘だ!」

 

よし、あと一歩だ。ふふっ、と一笑してから自信満々に言う。

 

「良かろう、だが私は慈悲深いからな、下駄を履かせてやろう」

 

「何?!」

 

夕色に染まって沈み行く太陽を指して、言ってのける。

 

「私はここを一歩も動かず、貴殿にも一切手を出さない。代わりに、この太陽が沈んでふたたび昇ってくるまでに、私を八つ裂きにしてみせよ!」

 

顔をカアッと赤くして、歯をくいしばっている。さっきの可憐な容貌からは想像もできぬ、凄まじい形相だ。

 

「どこまでも馬鹿にしやがってぇ...おい、お前たち!」

 

「は、はいぃっ!」

 

「決して手を出すなよ、そこで見ていろ!」

 

「わ、わかりやしたあっっ!」

 

子分のオニは相当怯えているようだ。さすがは親玉といったところか。

 

 

「さて」

 

 

私は穏やかな笑みを浮かべ、両手を広げる。

 

 

「どこからでもかかってきなさい」

 

 

牙を剥き、睨み付けられる。とんでもない覇気を感じる。押し潰されそうだ。

 

 

「ウオオオォォオォオォオォォォ!!」

 

 

大地を揺るがすような咆哮。空気が震える。

 

 

一瞬で目の前に現れた鋭い爪を最後に見て、

 

 

 

私は、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

========================================

 

 

 

まだ辺りは暗く、夜が明ける気配はない。

背後には村人達の不安そうな視線を感じる。

そして目の前には息の上がりきった萃香。

 

 

私の身体には、傷一つ無い。

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ...くぅっ!」

 

鋭い蹴りが唸りをあげて飛んでくる。

別にどうするでもない。

 

身体に当たる。

ごっ、と鈍い音がする。

衝撃は無い。

 

萃香は飛び退くと、また構える。

さっきからずっとこの調子だ。

 

最初は殴ったり蹴ったり、投げようとしたり耳をちぎろうとしたり目を潰そうとしたり、果ては呪いのようなものをかけようとしてきたりしたものだが。

 

もう万策尽きたらしい。ずっと同じ攻撃を繰り返している。

 

 

「おい」

 

「...な、ケホッ、何だ」

 

「もう勝負はついた。貴殿が何をしようとこの身体には通じぬ。 わかっているんだろう?」

 

「うるさいっ!」

 

風をきって鉄拳が飛んでくる。私の顔面へ一直線に。

怖いので目を閉じた。

ボグッ、と鈍い音が聞こえたので目を開けると、またもとの位置に戻った萃香が顔を苦痛で歪めて、左手をさすっていた。

 

右手は真っ赤に腫れ上がっている。

大した根性だ。私があんなケガをしたら、泣いて医者へ駆け込むだろう。

 

「いつでも投了してよいのだぞ?」

 

「うるさい! まだ夜は明けていない!」

 

本当に見上げた根性だ。

妖怪の中にも、このような誇り高き者がいたとは。

認識を改めないといけないな。

 

さて、萃香との勝負が終わったらーーーー

 

 

色々考えているうちに、空が白んできた。

やっとだ。

 

萃香は死力を尽くして最後の猛攻をしかけてきた。

恐ろしい速さだ。目が追い付かない。

きっと威力も相当なものなのだろう。

 

「あ、諦める、ものかっ...!」

 

大きく息を吸い込んでいる。これが最後になろう。

 

「屈する、ものかあああぁぁぁ!!!」

 

驚いた。萃香の体がどんどん巨大化してゆく。

こんな能力を持っていたのか。

もう見上げるほど大きくなっていた。

足を振り上げている。

私を踏み潰す気か。

 

「死ねっっ!」

あの巨体の全体重がかかった巨大な足の裏が迫ってくる。

 

ああ、そんな無茶をしたら...

 

 

 

ぐちゃっ

 

 

 

 

 

視界が真っ赤だ。

 

オニの血も赤いんだな。

また一つ賢くなった。

 

私の身体は、萃香の足を貫通していた。

 

 

「あ、あがっ...」

 

萃香はまたも飛び退いて、尻餅をついてしまった。

みるみる体が小さくなり、元の小柄な姿に戻る。

 

「ああ、ううっ...」

 

腫れ上がった小さい手で、大穴の空いた足を一生懸命押さえている。

血はまるで止まらず、両手は血まみれだ。

見ているだけでこっちまで痛くなってくる。

私がこんなケガをしたら、失神してもう二度と目を覚まさないだろう。

 

 

空を見上げる。

控えめに顔を出す朝日が見えた。

 

日の出だ。

 

 

 

 

 

 

「時間です」

 

血を滴らせながら、ゆっくりと歩み寄る。

 

「この勝負は、私の勝利」

 

萃香の血が、白装束にみるみる染み込んでゆく。

 

子分の二人が立ちはだかってきた。

 

「お、親分に近付くんじゃねぇ!」

 

「や、やらせはせんぞぉっ!」

 

「おい、やめろ」

 

萃香が言うが、意に介さず子分は続ける。

 

「こんなチビに親分が負けるはずがねぇ!」

 

「何かの間違いだっ! インチキだっ!」

 

「チビなのはあなたがたの主の方でしょう」

 

ずい、と子分に詰め寄ると、彼らは怯みながらも退かない。

 

「ちくしょう、おめぇなんか俺がギッタギタに...」

 

「やめろっっ!」

 

萃香の透き通った声が凛と響き渡る。

 

「道をあけろ。手を出すな」

 

「し、しかし...」

 

「つべこべ言うなっっ!!」

 

子分は悔しそうに道をあける。

 

私は血生臭い臭いを振りまいて、萃香のそばへゆく。

 

萃香を見下ろす。

 

上半身だけを起こした彼女は言う。

 

「負けたよ」

 

顔に諦感の色が浮かぶ。

 

「鬼の攻撃をこれだけ受けて無傷とは、とんでもないな。 ...本当に、とんでもない奴め」

 

はは、と乾いた笑いをして、一呼吸おくと再び語り始める。

 

「この私に敵うものなんかそうそういない、って思っていたよ。 なのに、こんな近くに、これほど格の違う相手がいたとはねぇ...」

 

萃香の話を黙って聞く。

 

「井の中の蛙、ってやつか。 思い知らされたよ。 ...最後に訊かせてくれ。 あんた白媛、といったな? いったい何の妖怪なんだ?」

 

「私は妖怪ではない」

 

「じゃあ、何なんだよ。 まさか人でもあるまいし」

 

「私は神。 人に寄り添い、共にあるもの」

 

「カミ、ねぇ...私の知ってるのとはちがうなぁ。 あんたみたいな人想いの神ははじめてだよ」

 

神を知っているとは意外だ。もしや...

 

「貴方も元は神だったのですか?」

 

「...? 何を言っているのかわからないよ」

 

萃香はごろん、と仰向けになると、穏やかな顔をして、

 

「さあ、一思いにやってくれ。 あんたほどのものだ、私なんて一瞬で消し飛ばせるんだろ?」

 

「いえ」

 

私も柔らかい笑みを浮かべて言う。

 

「命まで奪ったりはしません。 ただ、今後は人の村を襲わないで頂きたい」

 

「...殺さないのか? 私を殺せば、もう村を襲うこともできないのだから」

 

「いいんですよ、村を襲わないでくれればそれで」

 

萃香の手をとって起き上がらせてやる。

 

「...わかった。 もう人の村は襲わない。 誓うよ」

 

「本当に?」

 

「ああ、嘘はつかない。 約束だ」

 

胸に手をあてて、ハッキリと言った。

 

「それでは私は帰るとしよう、お前達、支えてくれ」

 

「へ、へい!」

 

よく見ると、萃香の手の腫れはほとんど引いているし、足の出血もほぼ止まっている。

 

やはり化け物だなぁ。

 

強きオニの親分は、子分に支えられながら、ゆっくりと山へ帰っていった。

 

 

 

 

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川で身を清めて帰ってくると、村人達から熱烈な歓迎を受けた。

 

「あの伊吹童子を追い払って下さるとは...貴方は村の皆の恩人です。 本当になんとお礼をすれば良いのか...」

 

この中年の男はこの村の長であるらしい。

 

「私に恩義を感じて下さるなら」

 

村長の目を見て、ハッキリと告げる。

 

「私を主として崇め、祀って下さい。 日々私に祈りを捧げ、感謝のことばを述べてください。 さすれば、私はきっとあなた方を護り、幸福へと導きましょう」

 

 

 

こうして白媛は、初めて人の信仰を獲得するに至った。

 

その力はまだまだ微々たるものだが、これは神々の在り方そのものを変えるための、偉大な、大きな第一歩である。

 

 

 

 


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