やはり心は叫びたい   作:ツユカ

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 今回は順サイドと同時投稿です。
 結構シリアスなのでお好きな方からお読み下さい。


八話 八幡サイド

 その日は空は曇り気味で湿度は高い、嫌な天気だった。まだ梅雨は明けないようで今日も昼から降るようだった。今日は金曜日なので先生の部屋へ行かなければいけない。正直今日は行きたくなかったのだが、そんなわけにもいかないので今日も今日とて朝食を作る。

 最近、両親は家に帰って来ていない。仕事が大変なようなのだが、ちゃんと向こうで人間的な生活を送れているのだろうか。まぁ、親父だけなら心配で仕方がないのだが、向こうには母さんもいることだし、心配もいらないだろう。明日からは休日だから会いに行くのもいいだろう。順と応相談だ。

 なんて考えていると階段を下りてくる音が聞こえてくる。順が起きたのだろう。料理を皿に盛り付け、テーブルに置く。順はリビングに入るなり、背中に頭を擦りつけてくる。準備の途中なので適当にあしらいながら、準備を続ける。準備が終わると俺と順は席に着く。食べ始める前にスマホにてお互いに挨拶をし、合掌し、食べ始める。

 

 食べ終わると、俺と順はいつも通り、少しうとうとした後に家事に取り掛かる。俺は皿洗いや掃除、風呂掃除をする。その間に順には洗濯をしてもらうが洗濯機を回している間は俺の手伝いをしてもらう。いつものことながら中学生らしくないと思う。まぁ、順と同じなので辛くはないのだが、たまにはさぼりたくなる。ちなみにさぼると順が張り切って余計に酷い状態になる。なのでさぼる訳にはいかないのだ。なんて考えていると、順が脛を軽く蹴ってくる。

『お兄ちゃん失礼だよ!』

 順がスマホを突き出してくる。なぜ考えていることが分かるのだろうか。いつものことなので軽く頭を撫でて鎮めておく。それで解決するのだからチョロいものだ。

 

 昼ご飯も食べ終わると、先生の部屋に向かう準備を始める。勉強道具を入れてあるカバンに傘、財布、スマホ、家の鍵、くらいだ。バス停まで歩き、バスを待つ間、順と何気ない会話を交わす。

『順は宿題やったのか?英語と数学のやつ。』

『え、英語はやってない。他のはやったんだよ?』

『怒られても知らねーぞ。』

『だって英語ってわけわかんないんだもん……』

『また家でも教えてやるから頑張れ。』

『うぅー……』

 なんてやり取りをしているとバスが到着する。バスに乗っていつもの席に座って会話を再開する。

『お兄ちゃんは苦手な教科はないの?』

『あえて言えば数学だな。出来ないことはないんだが、得意じゃない教科は数学だけだ。』

『ハイスペックめ……』

 順が恨みがましい目を向けてくるが、俺はそれを受け流す。

『順も頑張ったら出来るだろうに……』

 と返そうとして、やめておいた。

(順が頑張ったら負けるかもしれないしな……)

 なんて意地悪なことを考えているとバスが目的地に着いたようだ。バスを降りて先生の部屋へと向かう。今にも雨が降りそうな天気だがまだ降っていない。早めに行った方がよさそうだったので、二人して小走りで歩く。ゆっくり歩くと十分ほどで着く距離なので小走りだと五分ちょっとだろう。俺はよく朝にランニングに行ってるので体力には多少自信があるため、息が乱れず目的地に着いた。順は少し息を乱しているようだった。何とか雨が降ってくる前につけた。

 

 俺達は先生の部屋のインターホンを押した。

「はいはい、入ってきていいよー」

 中から先生の声が聞こえてきたのでドアを開け、傘を傘立てに入れて、中に入っていく。先生は自分の自室でゴソゴソと何かをしていた。いつもの椅子に座って待っていると、少しして先生が出てきた。

「いやぁーごめんね。ちょっと押入れを整理していたんだ。」

 と、言いながら先生は冷蔵庫からジュースを出して俺たちに出してくれる。俺達は頭を下げてから、ジュースを飲む。

「色々出てきて楽しかったんだけど、どんどん出してたら片つけられなくなっちゃって……君たちが帰ってから続きをするよ。」

 軽く苦笑しながら話す先生は、なんだか懐かしい顔をしていた。相当懐かしいものが出てきたんだろう。

「ま、それは置いといて。はい、二人とも宿題出して。」

 その言葉にびくっと肩を震わせたのは順だった。俺は普通に宿題のノートを二冊取り出し先生に渡す。順も宿題のノートを()()取り出して先生に渡す。しかし、俺は知っている。あのノートの一冊、つまり英語のノートは宿題をやっていない。すぐにバレるのだが、順は賭けたのだろう先生が見逃す可能性に。

 先生は二人のノートを見終わって、俺たちに返してきた。

「八幡は流石だね。両方とも満点だよ、今日は難易度を上げるからね。」

 そこで先生は言葉を切って、順に笑顔で向き直る。

「順ちゃんはどういうつもり?英語やってないよね?」

 そこで順は俺の背中に隠れて、スマホを高速で打ち始める。言い訳を書いているのだろう。仕方がないので、順が打ち終わる前に俺がフォローしといてやろう。俺はスマホに、順が英語に苦手意識を持っていることを書き、これからは俺が順に家でも教えることを提案する。

 それを読んだ先生は少し考えてから

「順ちゃんが英語に苦手意識があることは知らなかったな……次からはちゃんと教えるように。それと今日順ちゃんはちょっと残って英語の補習。いいね?」

 その言葉に順は嫌な顔をしたが了承した。

「うん。それじゃあ今日の授業を始めようか。」

 

 

「はい、今日は終わり!順ちゃんは居残りだから八幡は帰っていいよ。僕が送っていくから。」

 という先生の言葉で授業が終了した。俺は帰ってもすることがなかったので先生に

『順を待ってちゃだめですか?』

 と、聞いたのだが先生に

「ちょっと二人で集中したいから……ごめんね。」

 と、言われたら俺は引くしかなかった。先生と順に手を振ってから玄関に向かう。先生の順への説明を聞きながら俺は先生の部屋を後にした。

 

 俺はバス停に向かう前にバス停とは逆にあるスーパーへ向かった。食材の買い出しをするためだ。時間はたくさんあるので、ゆっくりと歩きながら向かう。スーパーへは十分ほどで着いた。カートとカゴを持って買い物を開始する。そこで、改めて順が近くにいないということを強く感じる。

 順が近くにいないということはまずないことなので、正直、違和感というより強い喪失感を感じる。俺が順に出会って数年が経過したがよく考えたら俺と順が一緒にいなかったことはなかったように感じる。本当にお互いべったりだなと思うが、仕方がないとも思ってしまう。お互いにお互いの存在が心の支えなのだから、俺も順も常に一緒にいたいのだ。しかし、ずっとこのままではいけないと思っているのも事実なので、時を見て順と相談する気である。

 などと考えている間に、買い物は終了して袋に商品を入れ終わり、出口に向かう。

 外に出ると雨が降っていた。俺は傘を差そうとしたのだがそこで気づいた。

(あ、傘がない……先生の部屋に忘れたのか。)

 雨は少し強いが、走ればなんとかなるだろうと考え走り出す。雨は冷たいが、体は熱く、汗が出てくる。汗と雨で服が肌に張り付いて走りづらいが、走るのをやめると余計に濡れるので走り続ける。

 

 先生のアパートに着き、階段を上がって先生の部屋に向かう。先生の部屋の前に着いたとき俺は違和感に気付いた。先生の部屋は電気がついていなかったのだ。空には雲がかかっていて辺りは相当暗いので電気をつけないと勉強はできないはずなのだが……俺はドアを開け中に入る。

 中に入って、まずいつも授業で使っていたテーブルを見に行ったが、そこには順も先生もいなかった。そこで先生の自室の電気がついていることに気付いた。俺は先生の部屋のドアを開け、中の光景を目にした。

 

 そこには、順と先生がいた。ベットに順を押し倒し、順の服のボタンを外している先生を俺は見つけた。順は泣きながら、抵抗をせずにされるがままの状態だった。俺はそれを見て、順の涙を見て、

 

   俺の中のナニカが壊れた

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 声が出た。だが、俺はそれに気づかずに、近くの床に落ちていた何かを手に取り、先生に向かって走り出す。先生がこちらを振り返った。先生は驚いたような顔をしていた。俺はその顔に向かい、手に持った固く重い何かを、躊躇いも、躊躇もせず、全力で横殴りに叩きつける。先生はベットから落ち、そのまま気絶したのか、動かなかった。

 だが、俺はお構いなしに先生に馬乗りになって先生の顔に持っていたものを、

 振り下ろす。

 振り下ろす。

 振り下ろす。

 振り下ろす。

 何度も何度も先生の顔に何かを振り下ろした。先生の血が顔に飛んでくる。そんなことはお構いなしに何度も何度も何度も。

 

 

「もうやめて!!お兄ちゃん!!!」

 その大声と一緒に横合いから、何かが俺の体にぶつかってきた。俺が目線を向けると、そこには順がいた。順は俺の体に両腕を回し、抱きしめる。

「お兄ちゃん……もう、やめて……」

 俺は順の声を聞いて、

   自分の意識を手放した。

 


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