「ふぁ〜」
眠い……順はあくびをしながらそう思った。今は修学旅行先の京都へ向かう新幹線の中なのだが、窓の外を見ることに飽きが回って来たところなのだ。
(暇だなぁ……)
順は暇を持て余し横にいるこれまた暇そうなお兄ちゃんに声をかけた。
「ねぇねぇ、しゃべろうよお兄ちゃん。順退屈だよ」
出来るだけ可愛く聞こえるように言う、こうすれば単純なお兄ちゃんはきっと話してくれる!と確信していた。
「ん?あぁ、これは俺が小学校二年生のときなんだがな」
と、語り始めるお兄ちゃん。なんでこの話題なのかな……昔の話をする時のお兄ちゃんは順は嫌いだ。お兄ちゃんは気づいてないかもしれないがただでさえ濁ってる目がさらに濁り明らかに辛そうなのを嬉々として語る。その姿はとても見てられない。声をかぶせて止めようと試みる。
「はいはい、ゆりちゃんからのラブレターが罰ゲームだった話はいいから順と会話してよ。」
お兄ちゃんは驚いた顔をして話すのをやめてくれた。これはこれからも使えそうなのであの日記はこれからもちゃんと読んでおこうと決める。
「え、なに?俺この話お前にしたっけ?」
お兄ちゃんが聞いてくる。
(これは……正直に答えた方がいいか否か……)
答えに悩むがバレて嫌われるのは嫌なので正直に答えることにした。
「お兄ちゃんの日記を読んだんだよ。またまた辛いことだったね。そういう風に辛かったことを自虐するの止めなよ、順は心配になるよ?」
正直に答えると共に自分の素直な心をさらけだす。お兄ちゃんは怒ることも忘れて返事をするので、成功した、と笑い、「うん、よろしくね」と返す。
「んで、なんだよ。京都なんて寝てればすぐ着くだろ。」
お兄ちゃんは仕切り直し、振り出しに戻す。その言葉を聞き少し不機嫌になる。なにさなにさ、理由なしじゃ話しちゃダメなのか?
「妹がお兄ちゃんと話すのに理由なんて要らないもん、むしろ妹としゃべらないお兄ちゃんの方が重罪だー!」
怒ったふりをして、お兄ちゃんの肩に乱暴に頭をあずけた。お兄ちゃんの匂いが近くなり安心し、また眠くなる。
「………」
少しの間お互いに無言になり、お兄ちゃんが追い打ちのように頭を撫でてくる。
「……」
無言のまま頭をなでてくれる。それはとても心地よくて眠ってしまいそうになる。頑張って耐えているが、少し、目を閉じた瞬間に激しい眠気に襲われ意識を刈り取られる。最後まで、お兄ちゃんは頭を撫で続けてくれた。
どれくらい眠っただろう。軽く目を覚ますと頭から重圧を感じる。どうやらお兄ちゃんも私に頭をあずけて寝てしまったようだ。二人分の体温を感じながら、順はこの時間がずっと続けばな、と思いながら、もう一度眠りにつくのだった。