やはり心は叫びたい   作:ツユカ

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セーフ?とりあえず三話 順サイドです。

それと、嬉しいことにランキング
ルーキーの30位なことに気が付きました!

皆様のおかげです!
ありがとうございます!



三話 順サイド

 順は、夢を見ていた。それは、あの日から毎日見る夢。あの日、玉子に出会った日の夢。いつも、順は見てるだけで何も出来ない。これで何回目だろう。もう、順は疲れた。いつも通り無感動で見ていた。

 しかし、今回はいつもと違っていた。順の後ろから見知った少年が現れ、玉子から少女を救ったのだ。それを見た順は驚き、唖然としてしまう。少年はこちらを振り向き現実ではありえないことだが、その口で言葉を紡ぎ順に優しい言葉をかける。順はその言葉を聞き、とても暖かい気持ちになり、目から涙があふれてくる。順はその少年のもとへ駆け寄ろうと走るのだが、その少年のもとへたどり着く前に夢が覚めてしまう。

 目が覚めると、頭を撫でられていた。眠たい頭でも誰が撫でていたか分かったため、声をかけた。

「ん……ふぁぁ~……お兄ちゃんおはよ……」

 眠たくて少し舌足らずみたいになったかも知れない。お兄ちゃんの様子を見るとこちらをじっと見、固まっていた。なぜだろう……と、考えようとしたところで腹痛が順を襲う。

(あ、お喋りしちゃってた。)

 順は腹痛が来てから自分の失態に気付いた。急いでトイレに向かおうとするが部屋が暗く足元がよく見えなかった。順は携帯を取り出しその明かりを頼りにドアを目指す。ドアから出て、トイレに向かう。トイレにたどり着き一息つくと猛烈な羞恥心が順を襲う

(わー!わー!お兄ちゃんに声聞かれた!!撫でられてた!!寝顔見られた!?)

 顔が紅潮し恥ずかしいという感情が頭を支配する。その場で少し回ったり、飛び跳ねたりするが、顔の熱が引く気配がない。

(とりあえず熱が引くまで籠ろう)

 しばらく経ってから熱はマシになり、少し頭が冷静になった。順は先ほどの夢を思い出していた。

(順、お兄ちゃんになんて言われたんだっけ……)

 どうしてもそれだけは思い出せない。思い出そうと四苦八苦するが、どうしても思い出せなかった。ぼーっとしているといつの間にか五分も経っていたので、順はトイレを出て、先ほどいた部屋に向かった。部屋が暗いので電気をつけると、お兄ちゃんの姿が見えるようになった。お兄ちゃんはベットに座ったままだったので、順はベットに近づき、お兄ちゃんの近くに腰を下ろした。先ほど、何も言わずトイレに行った謝罪と返って来なかった挨拶をもらうため、携帯で文字を打ち込む。

『ごめんね?急に部屋を出たりして。お腹痛くなっちゃった。改めて……おはようお兄ちゃん!』

 お兄ちゃんは読み終わるとスマホを取り出し、文字を打って順に見せる。

『おう、おはよう順。なんで一緒のベットで寝てたのかわかるか?』

 順は、記憶をたどった。けれど、覚えているのは、お兄ちゃんがぎゅーっとしている間に寝てしまい、そのまま順も寝たことまでだった。

『そういえば、お兄ちゃん、順がぎゅーしてる間に寝ちゃったから、私もそのまま一緒に寝たんだ。そこまでは覚えてるんだけど、なんでベットで寝てたのかまでは知らないよ?』

 すると、お兄ちゃんは少しだけ考えそれから答えを出した。

『多分なんだが、父さんあたりが様子を見に来た時にベットまで運んで来てくれたんじゃないか?』

 なるほど、それなら納得だと頷いていると、急に順のお腹から音が聞こえる。急いでお腹を押さえたがお兄ちゃんに聞かれてしまったようで、苦笑いをしていた。腹立たしいのと恥ずかしいのが同時にきて、ほっぺを膨らませてお兄ちゃんの腕をつねる。お兄ちゃんはスマホで時間を確認し

『ごめんごめん。もういい時間だし、降りようか。』

 と、提案をした。順は、降りるという単語に反応して少し体が固まってしまうが、それを耐えて立ち上がった。しかし、やはり少しだけ不安なので無言でお兄ちゃんに手を伸ばす。お兄ちゃんは手を繋いでくれた。その暖かさに順は安心する。ドアを出て、階段を下りてゆくのだが階段を一段一段下りていく度に緊張し落ち着かなくなる。しかし、繋いでる手を強く握ってくれるため、とても力強く、大丈夫だよ、と言われているようで安心する。最後の階段を下り、リビングのドアの前に立つと緊張がピークに達し、手が震えだす。

(もし、怒ってたらどうしよう……また、お母さんに嫌われたらどうしたらいいんだろう……)

 マイナスに考えてしまう思考を打ち消すように、柔らかくお兄ちゃんに頭を撫でられる。

『大丈夫、頼りないかも知れないが、俺がついてる。』

 その言葉は順から不安を取り除くのには十分だった。

『ううん、全然頼りなくなんてないよ、ありがとね、お兄ちゃん。』

 お兄ちゃんと一緒なら大丈夫だ。順は、信用するお兄ちゃんと目を合わせ、リビングの扉を開けてもらう。お兄ちゃんについて行き、リビングに入る。

 そこは、いつも過ごしているリビングより少し散らかっていた。たくさんの段ボールが部屋を埋め尽くしていた。そこにお母さんと新しい父親がいた。二人は順たちに気付くと、声をかけてきてくれる。

「あら、起きたのね。おはよう。」

「おぉ、起きたのか、仲良くなったようで、結構結構。」

 二人の口調を聞いて怒ってないのだと思う。

 順はお兄ちゃんの背中に隠れて、携帯に新しいパパ向けのメッセージを書いていく。心臓の鼓動はうるさく、手は震える。何度も打ち間違えながらも、完成させたメッセージを本人の前に持っていき、手渡しで渡す。渡すだけで精いっぱいで、すぐにお兄ちゃんの背中に走ってしまうが。すると、新しいパパは笑って、こちらに歩いてきた。携帯をお兄ちゃんに渡すと、少しかがんで目線を合わせて

「あぁ、こちらこそ、よろしくね」

 

 <新しいパパ>が<パパ>になった瞬間だった。

 

 順は泣きそうになり、お兄ちゃんの背中に顔を押し付けながら、小さく頷いた。

 泣くのをこらえているとチャイムがなった。お母さんがお財布を持って玄関へ行き帰ってきたら、その手にはピザがあった。いい匂いが部屋を満たしていく。順はお腹が空いていたことを思い出した。

「今日は荷ほどきで忙しかったからピザを取ったの。お腹空いたでしょう?手を洗って来たらみんなで食べましょう?」

 順はお兄ちゃんと同時に頷き、お兄ちゃんを洗面所へ案内した。

 お兄ちゃんと二人になると先ほどの緊張が一気にほぐれ胸に飛び込んでしまった。順はそのままでもよかったが急に抱き着かれ驚いているお兄ちゃんのために一度離れて携帯で伝えたいことを打ち込む。

『順、さっき、緊張したけど頑張ったよ?だからお兄ちゃん、順をほめて?』

 お兄ちゃんは順の頭を撫でながらスマホを操作する。

『あぁ、よく頑張ったな。褒めるって頭を撫でるだけでいいか?』

 順は恥ずかしい気持ちを我慢し、わがままを言ってみる。

『出来れば、ぎゅーってしながら、撫でて欲しいな……順、お兄ちゃんにぎゅーってされたことないし。』

 お兄ちゃんはかなり悩んだようだが

『少しだけな……』

 と、書き、順の体を優しく抱きしめながら、頭を撫でてくれる。順は一瞬にしてお兄ちゃんの匂いに包まれたことに最初は戸惑ったが、その心地よさにそれもすぐになくなり、果てしない安心感に包まれた。

(……お兄ちゃんがお兄ちゃんでよかったな。)

 順は抱きしめられながらそう思った。

 ………

 時間の感覚がなくなり、お互いどこからともなく離れる。暖かさが離れていくことを、少しだけ残念に思ったが、いつまでもこうしているわけにはいかないと、我慢する。順は恥ずかしくて、顔を上げることが出来なかったがそれはお兄ちゃんも同じなようだ。

『早く、手を洗って戻ろうぜ。腹減ったし』

と、提案してきたので、頷き、自分の手を洗った。

 リビングに戻ると、すでに皿やコップを準備されていた。

「遅かったじゃない。順がお兄ちゃんにでも甘えてたのかしら?」

 ……図星だった。隠すために首を全力で振り否定する。それを見たお兄ちゃんは、順の前で初めて大口を開けて笑った。

(こんな笑い方もするんだ。)

と思ったが、それ以上に腹が立ちほっぺを膨らまして睨んだが、無視されて椅子に先に座られる。その隣に急いで座った。

「それじゃあ、食べようか。いただきます」

 パパが手を合わせてそう言った。ママも同じことをしたけど、順とお兄ちゃんは手を合わせて軽くお辞儀しただけだった。ピザは二種類あった。エビの乗ってるピザとお肉の乗ってるピザだった。お兄ちゃんがどちらも取ったので順もどちらも取り、エビの方から食べた。チーズがびよーんと伸びた。でもそれがなかなか切れなくて、持っていたピザも全部口に入れると、口の中がパンパンになった。しかし、とても美味しかったのでもぐもぐと食べているとお兄ちゃんが横でピーマンを避けていることに気が付いた。順はピーマンを食べられるので少し勝ったようで嬉しくて、ついお兄ちゃん笑いながらじっと見てしまう。

『なんだよ……?』

 視線に気づいたお兄ちゃんがスマホで聞いてきた。

『ピーマン嫌いなんだなぁって思って』

 お兄ちゃんは少し気に障ったのか少し怒って

『悪いかよ』

と、書いた。

 順は悪いこととは思わないので首を振り、お兄ちゃんのピーマンを食べてあげようと思い、横を向き、口を開け、目を閉じた。すぐにピーマンが口に入ってきたので、よく噛んで飲み込んでから、もう一度ピザを食べる。お兄ちゃんはなんでか赤くなってたけど、なんでかは順には分らなかった。




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