やはり心は叫びたい   作:ツユカ

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三話です!

たくさんのUAとお気に入りをいただいて恐縮です。
本当にありがとうございます。


三話 八幡サイド

 八幡が目を覚ました時、外はとても暗く室内が見えなかった。自身がベットで寝ていることに気付き、起き上がろうとするが、右腕が重くうまく体が上がらなかった。覚醒しきっていない頭で横にいるものを確認しようとするが部屋が暗くよく見えなかった。しかし、横にいるものが寝息のような音を立てていることに気付き、八幡の頭が一気に覚醒してゆく。

(なんで順が俺の腕に抱き着いて寝てるんだよ!)

 急激に発熱していく顔を自覚しながら対処を考えようとするが、このようなことは初めてだったので、うまい対処の仕方を思いつかない。

(とりあえず起こすか……?いや、順がこんな状況を見たら嫌われるかも知れないな……。なら抜け出す?いや、駄目だ。俺の左腕に壁があるということはおそらく右側…つまり順の方からしか降りれない……どうすれば…)

 八幡が何も思いつかず混乱していると順の方に動きがあった。

「んぅ……はぁはぁ……」

 どうやらうなされているようだった。右腕を抱く力が強くなり、荒い息を吐き始める。その様子を見た八幡は今の状態など忘れ、塞がっている右腕をそのままに腹筋の力で上半身を傾け、左手で順の頭を撫でた。体勢が悪いのでどちらかというと手ぐしのようになったが、順は安心したように先ほどのような安らかな寝息を立てる。その様子に八幡は安堵し、手ぐしをやめようかと思ったが、順の髪質が心地よくつい、もう少しこのままでいいか。などと考えてしまう。

(そういや、さっきも思ったけど順の髪質ってむっちゃ手になじむな。撫でてる方が気持ちいいんだよな。)

 などと、冷静に先ほどあったことを思い出す。

(ん……さっき……?)

 八幡は先ほどあったことを思い出し、顔が熱くなる。

(順の前であんなに泣いてしまった……兄貴なのに……)

 八幡は順に抱きしめられ泣いたことを悔むが、仕方がないと諦める。

 八幡の顔の熱がなくなり始めた時に順に動きがあった。

「ん……ふぁぁ~……お兄ちゃんおはよ……」

 まだ眠気の含んだ声で順はそう口にした。そう、口にしたのだ。その時、八幡の感覚で世界が止まった。

 初めて順の声を聴いた。それは、とてもきれいで、甘い声だった。寝起きのせいか妙に間延びしていて、その声をさらにかわいく魅せる。八幡は惚けていた。順の呪いによる腹痛が起こったことを認識はしたが対処は出来なかった。順は携帯の光を頼りに部屋を出てトイレに向かう。扉の閉まる音で八幡の世界は再び回り始めた。

(……なんだよ今の、かわいすぎだろ。)

 「お兄ちゃん」と初めて声に出して呼ばれた。それは不意打ちでもあり、八幡の心臓に大きなダメージを与えた。八幡の激しい鼓動はしばらく鳴りやまず、ベッドに座ったまま八幡は動けなかった。

 

 五分ほど経ってから部屋のドアが開き、電気がつく。見ると順が少し恥ずかしそうに立っていた。順はベットに近づくと、腰を下ろし携帯で文字を打つ。

『ごめんね?急に部屋を出たりして。お腹痛くなっちゃった。改めて……おはようお兄ちゃん!』

 順はもう一度挨拶から始めるようだった。

『おう、おはよう順。なんで一緒のベットで寝てたのかわかるか?』

 順は読み終わると、少し考えるそぶりを見せ、こう答えた。

『そういえば、お兄ちゃん、順がぎゅーしてる間に寝ちゃったから、私もそのまま一緒に寝たんだ。そこまでは覚えるんだけど、なんでベットで寝てたのかまでは知らないよ?』

 ……そうか。おそらくだが、答えがわかった気がした。自分たちのことが心配になり見に来たのだが、寝ていたから父さんがこの部屋のベットに運んだんだな。

『多分なんだが、父さんあたりが様子を見に来た時にベットまで運んで来てくれたんじゃないか?』

 伝えると順は納得したように頷き、そして……腹の虫が大きく鳴った。順は急いで腹を抑えるが、ばっちり聞こえてしまい、苦笑いしてしまう。その様子を見た順は顔を真っ赤にし、軽く腕をつねってくる。

 スマホで時間を確認すると、19時34分とあらわされていた。結構な時間寝ていたんだなと思いつつ、順へメッセージを書く。

『ごめんごめん。もういい時間だし、降りようか。』

 順は少しだけ悩んだようだが小さく頷くと、そのまま立ち上がり、俺に手を伸ばしてくる。俺はその意味を察し、ベットから出て、軽く伸びするとその手を取り、部屋の出口へ歩く。部屋の電気を消し、階段を下りていく。階段を一段一段降りていくにつれ、順はそわそわするが、手を強く握り、安心させようとする。階段が終わりリビングのドアの前に立つと、順は強く緊張したのか、手が震え始めた。安心させるために頭を軽く撫で、スマホで伝えたいことを書く。

『大丈夫、頼りないかも知れないが、俺がついてる。』

 順はそれを見ると首を振り、文字を打ち始める。

『ううん、全然頼りなくなんてないよ。ありがとね、お兄ちゃん。』

 震えが止まったのを確認すると、順と目を合わせ頷き合うとリビングの扉を開ける。

 そこには夕方は見なかった段ボールなどがあり、少し散らかっていた。二人は俺たちに気付くと声をかけてくれる。

「あら、起きたのね。おはよう。」

「おぉ、起きたのか、仲良くなったようで、結構結構。」

 二人の様子を見て、少し安心する。どちらも怒っているようではなかったし、順も安心できるだろう。順の方を振り向くと、順は携帯に急いで文字を打っていた。そして、打ち終わるとそれを父さんに渡し、走って俺の背中に隠れる。父さんは携帯に書いてあることを読むと笑顔になり、携帯を俺に渡してくる。そこには

『成瀬順です!さっきは逃げちゃってごめんなさい!これからよろしくお願いします!』

 と、簡素ではあるが、心がこもっていると思われる、自己紹介と謝罪が書かれていた。

「あぁ、こちらこそ、よろしくね」

 父さんは順の目線に合わせていった。順は俺の背中に顔を押し付け小さく頷いた。

 そこでチャイムが鳴った。泉さんが財布を持って玄関へ行き、戻ってくるとその手にはピザがあった。美味しそうな匂いが部屋の中に広がって行き、お腹が鳴りそうになる。

「今日は荷ほどきで忙しかったからピザを取ったの。お腹空いたでしょう?手を洗って来たらみんなで食べましょう?」

 俺と順は同時に頷き、洗面所へと順に案内してもらう。順は洗面所についた途端、胸に顔を押し付けるように抱き着いてきた。初めて気づいたが、順は同い年にしては少し身長が小さく俺の胸のところまでしかない。急に抱き着かれびっくりしたが、順が離れ、携帯に文字を打ち込み見せてくる。

『順、さっき、緊張したけど頑張ったよ?だからお兄ちゃん、順をほめて?』

 携帯を見せながら上目遣いで見てくる順の頭を撫でながら、スマホで文字を打ち込む。

『あぁ、よく頑張ったな。褒めるって頭を撫でるだけでいいか?』

 順は少しだけ赤くなりながら、携帯で文字を打ち、両手で照れ隠しのように勢いよく画面を見せる。

『出来れば、ぎゅーってしながら、撫でて欲しいな……順、お兄ちゃんにぎゅーってされたことないし。』

 それは、恥ずかしいが、俺は一度されたので、嫌ということは出来なかった。

『少しだけな……』

 と伝え、俺は順の小さく壊れそうな体を優しく抱きながら、順の後頭部を優しく撫でる。

 ………………

 いつまでそうしていただろうか、俺たちはどこからともなく離れ、お互いの顔を見れなくなり、下を向く。

『早く、手を洗って戻ろうぜ。腹減ったし』

 それを読むと、軽く頷き、手を洗い始める。

 リビングに向かうと、すでに机には皿やコップなどが準備されていた。

「遅かったじゃない。順がお兄ちゃんにでも甘えてたのかしら?」

 泉さんがからかうような口調でそう言うと順は激しく首を振り、全力で否定する。その姿が面白く俺は大口を開け笑ってしまう。それを見た順が頬を膨らませ、軽く睨んできたが、スルーし椅子に座る。順は慌てて俺の隣へと座る。

「それじゃあ、食べようか。いただきます」

 父さんが、手を合わせそういうと、泉さんはそれを復唱し、俺たちは手を合わせて軽く頭を下げ、いただきますと心の中でいう。ピザは二種類あり、シーフードのピザと玉ねぎや肉の入った具材たっぷりのピザだった。俺は両方のピザを取り、まずシーフードのピザを食べる。順もシーフードのピザを食べ、チーズを伸ばしていた。しかし、そのチーズがなかなか切れずに焦っている順はとてもかわいかった。口いっぱいにピザを頬張り、リスのようになりながらも幸せそうに顔をゆがめている順を見るとこちらまで幸せな気分になった。

「八幡?手が止まっているわよ?」

 泉さんの一言で気が付き、急いで食べ始める。シーフードのピザを食べ終え、具材たっぷりなピザを食べようと思ったのだが、そこで、俺の敵があることに気付く。

(ピーマン入ってんじゃん……)

 俺はピーマンが苦手なので箸で避けてから噛り付く。すると、横から視線を感じた。そちらを振り向くと順がにやぁとした顔でこちらを見ていた。ピザを咀嚼し終わり、飲み込んでからスマホで

『なんだよ……?』

 と聞くと順はにたにたしながら携帯で文字を打ち見せる。

『ピーマン嫌いなんだなぁって思って』

 読み終わると、少し腹が立ち逆切れのように

『悪いかよ』

 と、打ってしまう。

 しかし、順は首を横に振り、こちらを向いて口を開け、目をつむる。

(食べてくれるってことか?)

 俺はありがたく思いピーマンを順の口の中に入れる。順はゆっくり咀嚼するとそれを飲み込む。そして、自分の食事を再開した。

(あれ……?これってアーンってやつじゃ)

 一人顔を赤くし、順に首を傾げられる。父さんと泉さんは終始にやにやしていた。

 

  こうして二人の食事は続いてゆく。




八幡がピーマンを嫌いというのは設定です。
公式ではないです。


順サイドは今日中に書けるかわかりません!




コメント待ってます。

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