テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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師との再会

 

 一方、坑道の奥では……

 

 瘴気が発生して、それなりの時間が経過したからなのか、あるいは管理が不充分なせいなのか、坑道のあちこちから地下水が湧き出して通路を濡らし、支柱と足場を崩して水没させ、ちょっとした地底湖の様相を呈している坑道すらあり、このままでは坑道全体が崩壊してしまうのも、時間の問題なのではないだろうか。

 そういう意味でもアクゼリュスの人々には“時間が無い”らしかった。

 

 そして、経路の案内板も役に立たない状況で、引き返しては回り道の繰り返しを強いられていたルークたちであったが、やっとの事で“地下作業場”と街の人々から呼ばれているらしい広場に到着した。

 

 本来は採掘した鉱石を一時的に保管し、選別もする場所でもあるようで照明の譜業が無数に灯り、ちょっとした事務所らしい建物まであり、地下の奥深くとは思えない町のような場所でルークも関心する事頻りであった。状況が状況でなければ、地底世界の町を見物して回りたいほどである。

 

 そして、この場は救助においても拠点となっているようで、そこかしこの通路以外の場所には大勢の人々が寝かされ、一心不乱に救助に駆け回る騎士達と仲間を助けようとする鉱夫たちの姿があった。

 改めて見ると、ルークは救助の騎士達は年若の者なのだと気が付く。

 

 下手をしたらルークよりも年下というよりも幼い者までいるではないか。頼もしさと対抗心のような焦りのない交ぜになった不可思議な感覚をおぼえしまう。

 

 そんな感覚に促されながらルークはヴァンの姿を探して駆け回る彼らを見回す。

 

 地上での救助に当たっているティアのため、もちろん被災者たちのため、そして目の前の彼らのために障気自体をなんとかしなければとルークは改めて思う。これだけの数の被災者を街から避難させるのは坑道の状態も鑑みて物理的に不可能だと、素人のルークでも容易に分かる。

 

 "英雄になる"だとか"亡命する"だとか自己保身ばかりが先走った不純な動機で始めたこの仕事だったが、危険を顧みず戦っている人たちを「助けたい!!」という確かな気持ちがルークの中で芽生え、花を拡げ始めていた。

 

「こいつは……。外の状況を見れば当然なのかもしれないが、中も想像以上に酷い有り様だな……」

 

 そんなルークの背中に、親友の苦い物を噛み潰したような低い声がかかった。

 振り返るとガイは、真剣な面持ちでルークの言葉を待たずに続ける。

 

「こりゃあ、俺たちも何かしなきゃならないかもしれないな。ティアを見習ってさ。なぁ、ルーク!」

 

「……は? え? いや、なんでオレがそんな……あ、い、いや、そーじゃなくて、その、てっゆーかオレに何ができるってんだよ?この状況で……」

 

 頼もしげな笑顔でルークの肩を叩くガイ。何故か彼の中では、この場で人々を直接手助けするのが最善で、そのうえ自分達も救助の一員に加わるのは確定事項らしかった。

 言い様の無い“ズレ”を感じるながらもルークは、自分自身の今現在の率直な認識と疑問を、拙いながらも一緒に口にする。

 

 ヴァンが示してくれたような具体的な提案をガイの口からも期待したのだが……

 

「……いやに弱気だな。色々あるだろ? 荷物を運ぶとか、動けない人に手を貸すとか……」

 

 やはり奇妙な“ズレ”を感じずにはいられないガイの返答の呆れた様な嘆息交じりの口調に、ルークの語気が想わず強くなってしまう。

 

「そ、そんなの! オレがやんなきゃいけない意味があんのかよっ? もっと、こう、もっと意味のあるみたいな……、やんなきゃならない事みたいなのがさぁ。あるだろっ!」

 

「意味がないだって……?!」

 

 ルークの強い語気に吊られたのか、ガイの声も僅かにささくれだつ。

 

「ルーク、お前……。それ、本気で言ってるのか?」

 

 ルークの言葉を全く別の意味で受け取ったらしいガイの怒りと哀しみがないまぜになった何かに裏切られたかの様な眼差しで咎める口調が、ルークの感情を揺さぶる。

 

「あ……い、いや、そーじゃねぇ……けど……」

 

 とにもかにも、目の前で苦しんでいる人たちを、何も考えず助けて回る方が正解なような気がする。ガイに言われるまでもなく、ルークとて全員まとめて担いで地上まで駆け上がりたい気分だった

 

「もっと、よく考えろよ。あんまり俺を見損なわせるなよな……」

 

 言い捨てると、ルークに背を向けて、鉱夫と騎士たちの方へと歩き去ってしまった。

 

 思わずガイの後を追いかけてしまいそうになるルークのところへ、コゲンタがやって来て

 

「若いのぉ……。いくら人助けとはいえ、主の護衛を脇に放ってというのは、褒めて良いものかのぅ」

 

 曖昧な苦笑を浮かべ顎を撫で漏らすが、苦笑いを直ぐに消してジェイドに目配せする。

 

「まぁ、状況が状況ですからね。これを目の当たりにして、居ても立っても居られない気持ちになるのは理解できちゃいますし、マルクト人としては感謝しなければならない事ではありますね。おや? 私の心もまだ若いのでしょうか♪」

 

 コゲンタの視線に促されてジェイドもずれてもいない眼鏡の位置を直すと、首をひねった。そして、

 

「もっとも、ガイだけ難しい事を考えなければならない訳ではありませんし、単独行動をとって良い状況でもありませんし、理由にもなりませんが……」

 

と困った様に呟くのが聞こえる。

 

「しかし、ガイ一人では“焼け石に水”です……」

 

 と、ジェイドの答えを待たずにイオンが言いにくそうに呟く。しかし、今の状況にぴったりなコトワザである。ガイは水難救助の資格も持っているらしいし、馬鹿にする気も無いが、どう背伸びをしても一滴の水になれるかも怪しいとルークでも思ってしまう。

 

「あのルーク、もし……」

 

 と、何か思い詰めた面持ちだったナタリアが顔を上げてルーク達を見回しつつ口を開いた。

 

「もし、よろしかったらなのだけれど……。ガイとこの場の事は、わたくしに任せてくださいませんか?」

 

 ナタリアの口調と態度は以前のようになりふり構わないような見てくれの良くない物ではないが、何処かルークに何かをすがる様な色合いを感じる物であった。

 

 街の入口での一件を、いまだ気にしているのは明らかだった。ルークも「気にしていない」と言えば嘘になるが、ナタリアの言葉はルークの思い付くまま言った事と違って、正しい事であったのだから、彼女が罪の意識を持つのは違う気がする。

 

 そして、決意の表情のままナタリアは続ける。

 

「このまま鉱山の奥へ向かっても、わたくしの治癒術士の知識ではお役に立てないと考えますの。けれど此処でなら、ティアさんほどではないかもしれませんが、街の皆さんの力になれるかも……いえ、力になりたいんです。少しでも……!」

 

 この先「お役に立てない」は卑下が過ぎると思うが、鉱夫や騎士達の事を考えれば、ナタリアに此処に残って貰うのが一番だろうし、この二人なら、神託の盾が邪魔をしてきても切り抜けられるだろう。

 

 もちろん、鉱夫たちは見捨てればだが……。

 

「えっと……無茶はすんなよ。まず自分が助かんないと、他のやつ、助けらんねぇだからな」

 

 ルークは、ナタリアが誰かの“盾”にでもなってしまわないか心配で、彼なりに言葉を選び言い聞かせるように言う。

 

 ナタリアは少しの間、目を見開いていたが

 

「ルークは、少しの間に大人になりましたのね……」

 

 と優しく微笑む。母シュザンヌにも似た柔らかな微笑みである。考えてみれば叔母と姪の間柄なのだから似ていて当たり前だ。

 

「前におっさんが似たような事言ってたのを真似しただけだよ! お前の方がよっぽど大人みたいな事言ってるっての!うんじゃぁなっ!」

 

 急に照れ臭くなったルークは、素っ頓狂な声を上げてそっぽを向いた。

 

 何時もなら小言の一つや二つはナタリアから飛んでくる態度と言葉だが、今回は優しい微苦笑の彼女の見送りを引き出したらしい。調子が狂うったらないルークであった。

 

 

 そしてナタリアとガイと別れて、手が空いた騎士に聞いた所によると、ヴァンは鉱山技術者達と共に坑道を爆破して瘴気の流出を食い止めるためにさらに奥へと向かったとの事だった。

 

「ほほう、それがルークも言った“妙案”ですか? しかし、これは賭けですね。ヘタをすれば坑道全体が……」

 

「そ、そうっ! そうだぜ! 師匠は勇気があるからな!」

 

 ジェイドが口にした疑問に、ルークは『いかにもそうだ』というように胸を張った。

 

「この状況では、そのくらいの博打も必要といった所かのぅ……。謡将殿ほどの譜術士と、鉱山の専門家が一緒なら勝算のある博打なのか……?」

 

 コゲンタも腕を組んで唸るが譜術や瘴気の事は全くの門外漢である彼では、現状では唸るくらいしかできる事がなかった。

 

「オレ達も、行って手伝おうぜ。これがオレの“やるべき事”だ!」

 

 ルークは拳を握って、勇んで奥へと歩き出した。

 

「ルーク殿、待て! ガイにも事情を話してくる!」

 

「ふぅむ、これは賛成するにしても反対するにしても、謡将の算段を聞いてみない事には何とも言えませんねぇ。直接出向くしかありませんかね、ここは……」

 

 同行するというイオンと反対するアニスとの間に短い言い争いがあったが、「言い争っている時間はありません」というジェイドの言葉にアニスは、「分かりましたよ。行きますよ。行けば良いんでしょ、行けば!」と渋々、同行を了解した。

 

 しばらく坑道を進むと何やら多少開けた場所に出た。そこは先程の地下作業場に比べれば大分手狭だが、よく手入れされている様で鉱石採掘の道具のあれこれも無く、何処か『礼拝堂』の様な雰囲気があった。鉱山に当たり前に有る場所だとは思えないが……

 

 空間の中程に何人かの人影が見えた。ヴァンと三人の神託の盾の騎士達だ。しかし、何故か鉱夫や先遣隊の姿は無く彼らのみであった。

 

「ルーク。来てくれたか」

 

 ヴァンもルーク達の姿を認めたのか笑顔を浮かべて、よく通る声でルーク達に声を掛けてきた。

 

「師匠、探したぜ! こんなとこにいたのか? 他の先遣隊は?」

 

 ルークは手をブンブンと振って、ヴァンに駆け寄って行く。ヴァンはそんな彼の肩を優しく叩くと、焦っているわけではないようだが表情を硬い物に替えイオンに向き直り

 

「別の場所に待機している。導師イオン、この先のセフィロトの封呪を開けて頂けますかな?」

 

 と神官としての最敬礼しながら言う。

 

「セフィロトの封呪? ここにセフィロトがあるのですか? それに瘴気と何の関係が……?」

 

 イオンは恭しく返礼したものの、ヴァンの言葉には意図が掴めず首を傾げる事しかできないでいる。

 

「いいえ。セフィロトから放出される記憶粒子で、私の第七音素、譜歌を増幅させて瘴気を中和させるのです」

 

「これは初耳。そのような事ができるのですか?」

 

 ジェイドが興味深げに眼鏡を上げた。ルークには、ヴァンを詰問するような口調が混ざっているのを感じた。

 ヴァンはそんな事は気にしていないのか、堂々と微笑み、

 

「貴殿が譜術の全てを知っているわけではないという事ですよ、カーティス大佐。この話は、ここを切り抜けたら議論致しましょう」

 

 と軍隊式の敬礼をした。

 

「そうですね……失礼」と、ジェイドは返礼し引き下がる。しかし、「ちぇ~……」と不服そうな態度を隠しきれていない。いや、隠す気がないのか?

 

 そして再びルークに向き直り続ける。

 

「ルーク。教団の……いや、ダアトという国家の決まりとして、ここから先へはイオン様と私、そしてお前だけ……いや、それと従者であるミュウしか立ち入る事は許されない。不安かもしれないが……」

 

「え? あ……いやっ、ふ、不安なんてあるわけないだろ! なんてったってオレは、ヴァン師匠の一番弟子だしな! なんなら、オレ一人でも行っちゃうぜ?」

 

 ヴァンにしては珍しい言いづらそうな口調に、ルークは師も不安なのだと、元気付けようと『力こぶ』を造ってみせた。

 

「ハハハ、頼もしいな。だが、これは大勢の人の命と未来、ひいては世界の為の仕事だ。お前一人だけに押し付けるほど無責任ではないさ。それに当然、イオン様もそんな御方ではない」

 

 ヴァンは笑って頷くと、イオンを促すような視線を送り微笑む。

 

「……そうですね。僕の身体では、こと戦いに関してはルークに迷惑をかけてしまいますが……。ダアト式譜術に関してなら少しはお手伝いできます」

 

 イオンは流石に緊張していたが、しっかりした口調で答え頷く。

 

「あぁ、頼りにしてるぜ。イオン! ……っても、あんま使うなよな。オマエ担いで、こんな洞窟をのぼったり、おりたりするのなんかオレでもゴメンだからなっ! ハハハ」

 

「はい、ルーク……」

 

 イオンはルークの冗談は自分の緊張はもちろんルーク自身の緊張もほぐそうとしているのだと分かり、彼の想いに応えるよう気丈に頷き返した。

 

「ミュウ……ぼくは何だかフアンですの……」

 

 と、しかし自分に正直なミュウはルークに縋り付く。ミュウの震えが小さな手から伝わってくる。

 

「ヘンッ! ブタザル、なにビビッてんだよ! ヴァン師匠がいれば、勝ったもドーゼンだぜ! 師匠ならエンシェント・ドラゴンの十匹や二十匹、オチャノコ・サイサイってもんだぜ! ほら、荷物袋に入ってろ」

 

 ルークはミュウを抱き上げて、その頭をワシャワシャと撫でてながら脇に置いていた荷物袋に導き、ミュウの恐怖が自分自身に伝達してしまう前に袋を担いだ

 

「ふっ、流石にエンシェント・ドラゴンの群れは難しいが……。だが、私もそのくらいの意気込み行くとしよう」

 

 明るい声ではしゃぐルークにヴァンは苦笑すると、コゲンタの方を向くと

 

「貴殿もここまでルークを護衛して下さり、感謝します」

 

 と敬礼する。コゲンタは黙礼でそれに応じた。ルークは、「いやに無口だな」と思ったが、この状況なら緊張して当たり前かと、とくに気に留めなかった。

 

「お前たち、この方達は頼んだぞ」

 

 後ろに控える騎士たちに言いつけると、「さぁ、こちらへ」とルークとイオンを手招くと、坑道の奥へと歩き出した。

 

 そう……

 

 奥へ……

 

 奥へと……

 

 自らの足で勇んで進み

 

 

 

 深淵の闇の奥へと沈み姿を消した……

 

 

 

 

 騎士たちはヴァンを見送り、彼の姿が闇に隠されるまで敬礼し続けた。

 

 ルーク達が、大きく口を空けた坑道の奥へと消え、しばらく経った時である。

 

 少々わざとらしい咳払いをして、一歩前へと歩み出るジェイド。

 

「さて……♪ このまま黙って睨めっこというのも、奥手な男女のお見合いのようで微笑ましい一時なのかもしれませんが……。私のあふれる知的好奇心が抑えられそうにありません! ですので、質問タイムに移りたいと思いま~す♪」

 

 ジェイドのおどけた調子に、特に反応も示さず彼を注視する騎士達。いや、一切の油断を見せないという反応でそれに応えている。

 

「それでは……。なぜ、グランツ謡将閣下は、何をおいてもお守りすべき導師イオンを人質に取ったのでしょうか? 我々にイオン様を殺害する様子を、凄まじい殺気を用いて見せつけ、なぜ動きを牽制したのでしょう? それにしても、ご本人とルークには気づかれず、我々にだけ見せつけるとはグランツ謡将は大変に器用な方ですねぇ♪」

 

 ずれてもいない眼鏡を直し口元を隠しながら、赤い光の灯った両眼で騎士達を見回すジェイド。

 

「貴君たちほどの騎士なら気が付いていたであろう? 何ゆえ止める所か見て見ぬふりをした?それも予言だと言ってごまかすのか?」

 

 黙して語らない騎士たちに、コゲンタが質問を引き継ぐ。すでに腰のワキザシに手をかけている。

 

 するとその時、騎士の一人が口を開いた。

 

「我々は、あくまでグランツ謡将の配下であって、導師イオンへの忠誠は副次的な物に過ぎません。導師イオンへの想いなど条件によっては捨てる事のできる程度の物です。そちらの書類上では、大詠師モースの配下である導師守護役のお嬢さんならご理解いただけるでしょう?」

 

 それは凛然とした美しい女性の声だった。三人の騎士の中で最も長身でまとった甲冑で分からなかったが、まだ歳若い女性のようだった。

 

「そもそも、この世は一皮剥けば弱肉強食。悪逆非道がまかり通る醜い世界である。それに気が付きもせずへらへらしている導師と親善大使が悪い! 間抜けだ! 強さこそが正義! すなわち、首席総長こそが正義だ!ハハハッ!」

 

 それに続いて、黒法衣の下にこれ見よがしに鎖帷子やなめし革の装甲板をまとった騎士が吼える。しかし、導師イオンを掴まえて間抜けとは、不敬極まりない発言である。

 

「正義か悪かはともかく……。気が付いていながら、何もできなかった弱い者が後になって不平不満を吐露する……か? いい気なものだ。 正直、羨ましくも……思う」

 

 小柄な男がぼそぼそと呟きながら、背中に背負った鞄を降ろすとそれが独りでに開き、幼児ほどの大きさの人形が、三体出てきた。彼は人形使いらしい。

 その人形の顔や体つき、足は人間の関節を忠実に象っていたが、腕がなく胸辺りに切れ込みがあり、そこから、二本の三日月型の刃が伸びていた。人形たちは、しゃきしゃきとしきりに刃を摺り合わせて少し滑稽だが不愉快な音を響かせる。あれは鋏……異形の鋏人形であった。

 

「アニス・タトリンの相手は私がしよう」

 

 人形使いは、人形達を引き連れて、アニスの方へ歩み出た。「えぇっ?!な、なんでぇ!?」というアニスの明らさまな驚嘆と拒絶の表情を無視している。

 

「了解……。私は死霊使いを止める」

 

 女性騎士が腰に帯びた細剣を静かに抜く。冷い殺意が刀身と共に煌く。彼女の細剣は刀身にフォニック文字が刻まれており、明らかに何らかの音素を放っていた。

 

「俺は、あの爺さんか? でもまぁ……特務師団長と互角ってんなら、年寄りだろうがガキだろうが、相手にとって不足はねぇ! へへへっ!」

 

 重装甲の騎士は笑いながら、無数に鋲が打たれた腰の大型装甲板を取り外すと手甲に装着すると、腕を振り回した。その姿は、大型の狒々のようだが、全身を鎧に身を包みながら、動きのキレは敏捷そのものだ。

 

 彼らの姿を見ていたアニスは頭を抱えて、

 

「な、なんかぁ、勝手に話が進んでんですけど~……」

 

 と狼狽えた声を上げて、ジェイドとコゲンタの顔を見回すが……

 

「話し合いで済みそうにはありませんねぇ」

 

「時間が惜しい。覚悟を決めるしかないの」

 

 年長者たちは、眼鏡を拭いたり、ワキザシの目釘を締め直したりと落ち着き払った顔で戦いに備えている。

 

「ひぃ~っ、やっぱり~……」

 

 アニスは半泣きになって、トクナガを抱きしめた。

 

 こうして、ジェイド達はヴァンの圧倒的な実力によってルーク、イオンと引き離されてしまった。そして、立ちはだかるのは三人の騎士達。ジェイド、アニス、コゲンタは彼らを退け、ヴァンを止める事ができるのか?

 

 それは、この坑道の闇を形作り、それに沈み晶霊にも知るよしもない事であった。

 

 

 

 

 




 毎回、更新が遅くなり申し訳ありません。
 今回はガイに職務放棄する悪役になってもらいました。(毎回、そうなのですが……)彼が原作寄りだという事もあり、損な役回りにしてしまいます。原作においてもそうだと思いますが、彼は自分が「被害者」であると思っているので、本来「加害者」であるルークの発言をまず否定してから、提案なり了承をするような印象がありましたので、今回のような表現になりました。

 また、制作陣のスタンスはどんな非常事態でも、自分に公の役目を脇に置いても自分の気分の良い事をするのが一番と考えているようにも感じました。例えば、消防隊が火災現場に向かう途中で、関係ない事故現場に遭遇して、見捨てたくないので、そちらを優先させるという場面を思い浮かべると良いかもしれません。

 そして、後半は残りのメンバーが、ルーク、イオンの側から離れてしまう「理由」という事で、ヴァンの強さをアピールする場面として描く事にしました。また、原作にはない刺客も登場させました。彼らについては短い登場でも、単なるお邪魔キャラにさせないように描ければと思います。

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