テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第6話 旅は道連れ世は情け

 

「えっ? じゃあ、ここ……マルクトなのか?」

 

「ええ……そうなの……」

 

 「きょとん」と聞き返すルークに、ティアはうなだれる様に頷いた。ルーク達は一旦、街道の路肩に馬車を止め、ティアの話を聞いていた。

 

「……では、首都は首都でもキムラスカのバチカルに行かれるつもりだったと……?」

 

「はい……、そうなんです……」

 

 バツが悪そうに頭を掻くコゲンタに、ティアはさらにうなだれる様に頷く。

 

「そんじゃあ……悪い事をしちまったなぁ」

 

「はい……そう……じゃなくて! ちがいます! しっかり確認しなかった、わたしがいけなかったんです!」

 

 本当にバツが悪そうに頭を下げる馭者に、ティアはうなだれる様に頷いてしまいそうになるが、慌てて首を振った。相当、堪えている様だ。

 

「じゃあ、どうする? エンゲーブの旦那が言ったみたいに次の街まで乗っていくか? 予定通り……」

 

「そうですね……でも、今は情勢が情勢なので、バチカルに連絡が着くかどうか……」

 

「あぁ、そうだよなぁ……」

 

 ティアは、馭者の質問にも、一応受け答えをしているものの、「どうすれば良いのか分らない……」と言うのが正直な所だった。

 

「しっかし……、迷いに迷ったモンだの? バチカルに行くつもりがタタル渓谷とはなぁ。あははは……」

 

 コゲンタは、苦笑しつつ率直な疑問を述べた。

 

「ち、致命的な方向音痴だったんですね……。多分……わたし」

 

 ティアは、それに『バチカルから超振動で飛ばされて来た』という事を誤魔化すためとはいえ、少しオカシな言い回しで応じる。やはり、堪えているようだ。

 

「えぇと……、トチカンねぇし! しょ、しょうがねえよ! なっ?! ハハハ」

 

 ルークは、うなだれているティアを気遣い、努めて明るい調子で笑うが、ティアはそんなルークを見て、さらに沈痛な表情になる。

 

「土地勘がなくても、場所を特定する方法は知識としては知っていたのに……わたしはそれを活かせなかった。例えば、あの光る花『セレニア』と言うのだけれど、音素の濃い場所、自然界では『セフィロト』くらいでしか、あんなに咲かないの。それに、『セレニア』咲いていられる環境の『セフィロト』はマルクト側にしかないの……。よく考えれば分る事だったのに……わたし……」

 

 ルークの解らない単語が飛び交っているが、ティア自身あくまで『自分が悪い』という事を譲る気が無い事は、ルークにでも解った。

しかし、ルークも食い下がる。

 

「……ヘッ! 屋敷の外を見て回るなんてメッタにデキねえし! むしろ望む所なんだよ! マルクト? イイじゃねえか!ジョートーだよ!! だからそんな顔すんな! あと、謝んなよ! ウゼェから!!」

 

 ティアの態度は『騎士』という立場からくる責任感だという事は、世間知らずのルークにも理解できた。

 しかし、なんとなく癪に障った。まるで、自分が『頼りにならない』『弱い』『対等ではない』と突きつけられているようで、癪に障るのだ。そして、ルークは真っ直ぐにティアを見据え吠えた。

 

「ルーク……ありがとう」

 

「ん……」

 

「どんな事をしてでも、あなたを連れて行くから。協力してくれる?」

 

「任せろって……頼りにもしてる『持ちつ持たれず』だろ?」

 

「ありがとう、ルーク」

 

「だから、ウゼェって」

 

 今の二人を、傍から見れば『余人には侵しがたい二人だけの世界』を作り出しているように見える。

 もっとも、二人は『いきなり外国に放り出された』のだから、当然と言えば当然ではあるが……。しかし、そんな事情があるとは、つゆ知らない『若い二人の世界から存在を抹消された(と本人達は思っている)』おっさん二人は、「ダアトからの愛の逃避行!?」「どこかの貴族の御家騒動!?」「君と響き合う物語!?」「心が出会う物語!?」等々、好き勝手な想像を巡らせて、こっちはこっちで盛り上がっていた。

 

「まぁ……なんとなく甘酸っぱい感じで、話がまとまった所で、年寄りから提案なんだがの?あははは」

 

「甘酸っぱいってなんだよ?! 甘くも酸っぱくもねえよ!」

 

 照れくさそうにバツが悪そうに、コゲンタが『若い二人だけの世界』に侵入を図る。

しかし、ルークは間髪入れずにコゲンタの物言いに突っかかる。

 

「もし、良かったらエンゲーブに来んかな? 村を上げての歓迎ってワケにはいかんがの。もちろん、手紙も出せるし、教会もある、すぐに路銀になりそうな仕事も当然ある。まぁ『急がば回れ』って話だの。あははは」

 

 コゲンタは、ルークをいさめる様に屈託なく笑って朗々と言い放った。

 

「歩いてエンゲーブに行くぜ。観光がてらさ」

 

 ……という事で、ルークとティア、そして、お節介な変なおっさんイシヤマ・コゲンタは、辻馬車を降り歩いてエンゲーブへ向かう事にした。

 もちろん、コゲンタは馭者に「差額払い戻せよ」という話を忘れない。ルークは、その時の馭者の何とも言えない複雑な表情を見て、『哀愁』という物を感覚的に理解した。

 

 それはさておき、ルーク達三人は、『食料の街エンゲーブ』に向かい、東ルグニカ平野を東へとゆっくり進んでいた。

 その道のり、『明るい外の世界』はルークの好奇心を大いに刺激した。

 ルークはここぞとばかりにティアに質問した。

 草花の名前はもちろん、『何故こんな形なのか?』『何故こんな色なのか?』という事を尋ねるルークにティアは、持てる知識を総動員してその疑問に答えようとするが……、応える事のできない疑問も多かった。

 そんな時、助け船を出したのは、コゲンタだった。もっとも、かなりイイカゲンな部分があったが……。

 『この草は食べられる』『痺れ薬になるけど、痛み止めにもなる』『実は毒草だけど、虫除けにはもってこい』といった事には非常に詳しかった。

 

「もしかして、イシヤマさんは植物学者か何かでらっしゃるんですか?」

 

「ゼンゼン見えねぇなぁ」

 

「あはは、まさかまさか、全てエンゲーブで学んだ知識と実体験の上の物だの。いやぁ『腹が減ったからってむやみに草なんか食べるものじゃない』って話ですな」

 

「……バカじゃねえの?」

 

「ル、ルーク……!」

 

「あははは」

 

 なかなか波乱万丈な人生を送ってきたらしい。

 

「さぁ、もうエンゲーブに着きますぞ」

 

 コゲンタが前方を指差す。

その先に『ようこそエンゲーブへ』と書かれたアーチが見えてきた。

 

 しかし、人家は見当たらず、街道にアーチが突然「ぽつねん」と立っていた。

 

「……。家とかゼンゼンねぇじゃん。ホントにエンゲーブとやらに着いたのかよ? 変な草むらばっか……」

 

「ルーク、あれが畑よ。野菜や果物を作っているの」

 

「ちなみに、この辺りのは麦だの。パンやらパスタやらの材料になる」

 

「へぇ……元からあの形じゃねぇのか」

 

 ルークは、パンやパスタの作り方を尋ね、ティアとコゲンタが、分りやすく噛み砕いてそれに答えながらエンゲーブの中央部に向かって歩いた。

 

 エンゲーブの簡単な構造は、広大な田畑が広がる『外周部』と商店や民家、役所などがある『中心部』と二つに別れている。つまり、村の敷地に入ったとしても、しばらく歩かなくては、集落にはたどり着けないのである。

 ティアの今の心境を一言で表すなら「認識が甘かった……」につきる。

 都市部の人間の「もう少し」「すぐ近く」は地方の人間のそれとは、大きな隔たりがあるという事を思い知った。

 小一時間ほど歩いて、ようやく『中心部』に着いた。

 

「へぇ、これが家かぁ。思っていたより小さいな。その分数があるのか?」

 

 公爵邸に比べれば、どの家も小さいのは当然だろう。しかし、その言葉には嫌味は無く、純粋に感心しているようだった。

 

「なぁ、ティア。探検しようぜ!? 牛乳を出す牛が見てぇなぁ。ニワトリも見てみてぇ、タマゴだ!」

 

 『好きこそ物の上手なれ』と言えば良いのか、ルークは実に元気だった。

 

「探検も良いけど、まずは教会に行って、担当預言士さんに助力を求めないと……お金の事とか……」

 

「あっ、そっか」

 

「あははは、村を回るなら、わしが後で案内いたそう。しかし、申し訳ないがこれを先に届けさせて頂きたい」

 

 そんな二人に、コゲンタは荷物を掲げ、笑い掛けた。

 

「教会は市場を抜けた向こう側だの。あそこの預言士は、見た目はあれだが、まあ、良い奴だから親身になってくれるだろう。わしは村長のローズという人の所に、しばらく居るから何かあったら来て下され」

 

 コゲンタは、意味深な言葉を残してから「ではの……」と笑って、去って行った。二人はなんとなくコゲンタの姿が見えなくなるまでその場で、見送った。

 




 これから、しばらく地味な話が続きます。
 しかし、「戦闘」という異常事態を際立たせるためには、必要だと思っていますので、お付き合い下さい。
 

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