テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第10話 真犯人はチーグル

 

 

「しかし、チーグルが食料荒らしとなると、そいつはちと妙だの……」

 

 コゲンタは、腕を組みつつ首を傾げ、ぽつりと呟いた。

 

「ほほう♪妙と言いますと?」

 

 ジェイドは、自分の意見を否定されるような発言にも関わらず、まったく気にした様子を見せず、コゲンタと同じように腕組みしつつ首を傾げ、嬉々として話題に喰い付いた。

 

「チーグルは、基本的に草食。まあ、人の食べ物も食べられん事もないだろうが……木の実や果物、キノコなんかも食べるかの?肉食するにしても、小さな虫くらいのはずって話でしてな……」

 

「なるほどぉ♪」

 

「荒らされたのは、野菜や果物だけではなかったろう? たしか……」

 

 コゲンタは、自身の抱いた「ひっかかり」を話しつつ、ローズやケリー達に視線を送る。

 

「そうだね。肉も魚も持って行かれたはずだよ」

 

「あ、ああ。ウチの倉庫も、生肉と燻製、どっちも盗られたよ」

 

 コゲンタの質問に頷き合うローズとケリー。

 他の者たちも「俺のトコも……」やら「ウチもそんな感じ……」と頷く。

 

「うぅむ…」

 

「ふぅむ♪」

 

 コゲンタは腕を組み、ジェイドはズレてもいない眼鏡を直し、思案する。

 ルークは、そんな二人を眺めながらも、別の事が気になっていた。

 

「なぁ、ティア。さっきからちーぐる、ちーぐるって……ナンなんだ?魔物か何かか?」

 

 ルークは、根本的な所が分らなかったのだ。聞き慣れない単語に戸惑いつつ、ティアに尋ねる。

 

「『聖獣チーグル』ローレライ教団の象徴とされている小型草食動物で、とても可愛いの。魔物と言えば確かに魔物なんだけど……」

 

 ティアは、ルークの質問に答えるが、何故か歯切れが悪い。

 

「やっぱ『ズルガシコイ』系の魔物か?ほら、グレムリンとかみてぇな?」

 

「ううん……全く逆さまね。図鑑でしか知らないんだけど、気性も穏やかで体も小さくて臆病だし。滅多に人里に近寄らないし……」

 

 ルークは、自分がよく読む物語にも登場する『悪戯好きな小鬼』を思い浮かべるが、ティアは首を横に振る。どうやら、ルークが持つ『魔物』のイメージとは全く別物のようだ。

 

「……だけど、人の言葉や文字を理解できるくらい知能が高いらしいから、やろうと思えば泥棒くらいできてしまうかも……」

 

 ティアは、悲しそうに目を伏せた。

 

 ルークは、ティアをフォローしようと言葉を探すが、ここまで状況証拠を並べられたらチーグルが真犯人であると、素直に思えてしまう。

 

「そう……ティア殿の言う通り、チーグルは頭が良い。だからこそ『人の恐ろしさ』もよく知っているはず……、ならば何故『人を敵に回すような事をしたのか?』って話になるがの……」

 

 コゲンタが、ティアの言葉を肯定する形でルークとティアの会話に加わる。

 

「ん?おい、おっさん。それって、やっぱチーグルがハンニンじゃ、おかしいってコトか?」

 

「『そうかもしれん……』って話だの。まぁ、まだまだ別の可能性も考えられますがの……」

 

 難しい表情で、勿体ぶった言い回しをするコゲンタ。

 

 そのコゲンタの言葉で、ティアは何某かを閃いた。

 

「それはつまり……『人を敵に回す』ほうが、リスクが少ないと考えてしまうほどの……、そうしなければならないほどの事が『チーグル達に起こっている』という事……ですか?」

 

 ティアの考えに、コゲンタは無言で頷いた。

 

「こりゃあ……、一度チーグルの森を調べに行ってみなけりゃイカンかなぁ?」

 

 腕を組み、コゲンタは首を捻る。

 

 と……その時

 

「はいは~い!」

 

 と、三十五歳が再び元気よく手を上げた。

 

「ならば♪ ソレは、私達マルクト軍が請け負いましょう。チーグルの森は魔物も生息していますから♪普通の人では危機一髪ですよ~♪」

 

 ジェイドは、頼もしく胸を叩き、優しげに微笑んだ。

 

「親書が届くまでこちらにお邪魔させて頂くんですから、任せて下さい♪タルタロスの皆さんは、と~っても頼りになるタフガイばかりですから♪明日、朝一番で『カーティス秘境探検隊』を組織しますよ!」

 

 ジェイドは、なんの屈託もなく部下自慢をして、空想の翼を冒険の空へと広げた。

 

「……なのでぇ、イオン様はお留守番ですよ♪」

 

 ジェイドは、イオンと目線を合わせ、優しくだがキッパリと言った。

 

「……もちろんですよ。ジェイド」

 

 イオンは、輝くような笑顔でジェイドの言葉に答えた。

 

「うふ♪今『間』がありましたよ。イオン様♪」

 

 ジェイドは、苦笑しつつ、アニスに顔を向け……

 

「アニ~ス♪ イオン様を一人ぼっちにいたらペケですよ。お友達として♪」

 

 と、言った。

 

「はぁい、分ってます大佐。ワタシだって導師守護役のハシクレなんですから!」

 

 アニスは、ジェイドと同じように頼もしく胸を叩いた。もっとも、性別、年齢、容姿などせいで『頼もしい』と言うより『微笑ましい』と言う方が正確だったが……。

 

「と言うわけで。皆さん♪ 今夜は絶対に『こんな奴らといられっかよ!』って一人ぼっちで行動しないでくださいね! それは『死ぬパターン』ですよぉ!!」

 

 ジェイドは、おもむろに真剣な表情になり、言った。

 

「大佐ぁ~……殺人事件じゃないんですからぁ~」

 

 アニスは、その表情を見て苦笑しながら、「ガクリ」と肩を落とした。

 

「ほんの、性質の悪いジョークです♪ こういう台詞にも憧れていましたので、ノリで言ってしまったのです。夢が叶いました。不謹慎で恐縮です!」

 

 ジェイドは、白々しいくらい爽やかな笑顔と声で、その場の全員に向けて、深々と頭を下げた。

というか、自覚しているらしかった。実に性質が悪い。

 

「では参りましょうか? イオン様。これから忙しくなりますよ♪」

 

「はい、では皆さんごきげんよう」

 

「失礼しま~す」

 

「ローズさん、また明日お邪魔させて頂きます♪」

 

 「ど~も♪ ど~も♪」と、朗らかに周りに愛想を振り撒きながらジェイドは出口へ、そして、それに続くイオンとアニス。

 

 一陣の風……いや、台風の様な男だった。

見ているだけなら面白いかもしれないが、

 

「積極的に関りたくない……」

 

 というのが、その場にいる者の正直な感想だった。

 

「ジェイド・カーティス大佐……楽しい人……」

 

 

「あん? なんか言ったか? ティア?」

 

「ううん、なんでもないわ」

 

 しかし、どうやら一人だけ少し違う印象を抱いた様だった。

 

 

 

「ふぅ……、何かと騒がしい日だよ今日は。ルークさん、本当に申しわ……」

 

「へへ、しつこいぜ。おばさん」

 

 またしても謝ろうとするローズに、ルークは苦笑しながら、言った。

 

「そうだったねぇ。そうだった。ははは」

 

 つられてローズも笑った。

 

「さぁ今日は、もうじき日が暮れる。今夜は村に止まっていきな。もちろん宿賃はこっち持ちだよ」

 

 ローズは屈託のない笑顔を、ルークとティアに向けつつ宿屋のケリーに目配せをした。

 ケリーは苦笑して、頷いた。

 

「……そんな、いけません。これ以上迷惑はかけられません!」

 

 それを聞いたティアは、慌てて辞退するが……

 

「なんだよ、ティア。イイじゃん、泊めてくれるってんだから、泊めてもらおうぜ?」

 

 ルークは無邪気に言った。

 

「もう、ルーク……! 教会に泊めてもらう事もできますし……」

 

「言っちゃ悪いが……」

 

 そこにコゲンタが口を挟んだ。

 

「……あそこの寝台はカタイぞ。その点、宿屋の女将は、働き者で布団もしっかり干してあって柔らかい。出される飯も美味い。まぁ、主人の早合点が玉に傷だがの。あはは」

 

 気安くケリーと肩を組みながら、少し意地の悪い笑顔で言った。

 

「うるさいよ……。まぁ、なんだ? 『わだかまり』がない訳じゃないけど、もう疑うのも面倒だしな。遠慮はいらないよ。なんなら、預言士さんへの迷惑料……『お布施』だって考えてくれりゃ良いさ」

 

 ケリーは、コゲンタの嫌味に顔をしかめるが、ティアの方を見て、照れくさそうに言った。

 

「……分りました。宿屋さん、お世話になります。わたしは、ああいう村や街の宿泊施設を利用した事がないので……、いろいろ教えて頂けますか?」

 

 しばしの黙考の後、ティアは困ったように微笑んで、ケリーに対して、折り目正しく頭を下げた。

 

「はは、俺の所みたいな田舎の宿屋なんかに特別な事なんて必要ないさ。あえて言うなら、ベットから落ちないように気を付けなきゃいけないくらいかな。ははは」

 

 小粋なジョークを飛ばす、宿屋のケリー(妻子持ち)。微妙に鼻の下が伸びているのはご愛嬌。

 

「貴族様や騎士様の使う寝台に比べたら、そりゃ切ない事だの。気をしっかり持て、ケリー」

 

 コゲンタは、ケリーの肩をパシパシと気安く叩き、意地悪そうに言った。

 

「どういう意味だよ……」

 

 ケリーは、コゲンタをじろりと睨んだ。

 

 コゲンタは気にした様子もなく、笑っている。

 

「まっ、なんにしても馬車ン中よりマシだぜ。野宿なんて……ワルくはなかった……かな」

 

 ルークは、草原の心地よい感触と柔らかな風、そしてなにより『膝枕』を思い出し、何故か解らないが、顔が熱くなるのを感じた。

 

「ルーク……?」

 

「な、なんでもねぇ! アハハハ!」

 

 ルークの様子がおかしい事に気が付いたティアは、気遣わしげに問いかける。

一方、ルークは何がなんだか解らないが、笑ってごまかした。

 

「よし、じゃあ行こうぜ! おっさん! たのしみだなぁ! ちいさいベット! アハハハ!!」

 

 ルークは、やや裏返った笑いを上げて足早に館から飛び出した。

ティアは、首を捻りながらもルークに続いて館の玄関をくぐる。

 

「そんじゃあ、ローズ殿。わしはルーク殿達を送ってくる。後程、今後の事を相談致そう」

 

「ああ、そうしよう」

 

 コゲンタとローズは、茶飲み話の約束でもするように頷き合った。

 

「おいおい、先生……。もしかして、一人で森へ行く気かよ? 眼鏡の軍人さん、魔物がいるって言っていたじゃないか!」

 

 ケリーが、不安げに尋ねる。

 

「情けない声を出すでない。別に魔物と殺し合いに行くのではないのだ。ただ様子を見てくるだけの話だってのエンゲーブの民として何ができるのか? 何をするべきか? を見極めなくちゃなぁ、村の雑用係としてな。あははは」

 

 コゲンタは、不敵に笑い、事も無げに言ってのけた。




 今回も地味な回でした。
 しかし、原作とは違う物語を作っていくための「下ごしらえ」と思っていただければ幸いです。まだもう少し地味な話が続きます。よろしかったら、お付き合いください。

 

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