げんそうごろし!~Imagine Breaker~【凍結】   作:海老酢

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【第八話】目的の達成は終了の合図になりはしない Fist_and_will

 

唐突だがここで上条当麻の目的について説明し直そうと思う。理由は?と聞かれれば特に理由はある訳では無いが強いて言うのなら”気分転換”だろうか。目的を見直すことで冷静さを取り戻したり、ごちゃごちゃになった脳内を整理したり。何かを見つめ直す、振り返るということはとても大切な行為だ。

 

上条当麻の目的は巡々丘市の中央に位置する構造物である巡々丘駅内に今も籠城していると思われる少女祠堂圭の救出。これさえ達成できれば現時点では大きな問題はこれといって無いはず。

 

(確か放送では駅長室にいるとか言ってたよな?)

 

確認のため心の中で呟く。祠堂からの放送では確かに駅長室という単語が耳に入った筈だと上条は出来の悪い自分の脳内から重要な記憶を叩き起こす。そう確かに言っていたはずなのだ。自分が覚えている限りでは。

 

と言ってもこの出来の悪い、もっと言えば追試送りの刑が中間テストや期末テストの度に実刑されたり休みの度に補習流しの刑にされてしまう程に頼りのない上条の頭に収められていた記憶などちゃんと当てになるのか不安だが。

 

(祠堂のあんな怯えた声は初めてだった)

 

静寂だけがその存在を誇示する荒廃した駅内をゆっくりと徒歩で移動する。

祠堂圭という少女と上条当麻は巡々丘学院の同級生であり仲の良いクラスメートという関係で、上条と祠堂と上条の幼馴染みのとある少女といつも連んでいたものだ。

上条が不幸を展開し、幼馴染みが心配し、祠堂が大笑いしながら馬鹿にする。そんな日常を繰り返していたが今はもう戻ることのない過去だと考えると少し憂鬱な気分になってしまう。

 

(アイツには明るい声が合ってるんだ、さっさと助けて上条さんの不幸っぷりで大笑いしてもらいましょうかね)

 

さて。意気込みが付いた所で、現在地の確認をすることにしよう。

辺りを軽く見渡すとご都合主義に好かれているのか案内図が壁に貼られていた。少々小汚くはなっているものの位置確認が出来ないほどにボロ雑巾のような状態にまで至ってはいなかった。一先ず安堵の息を吐きながら案内図を見る。どうやら駅長室は案外近くにあるようで、案内図から見て現在地のすぐ近くの位置に大きな文字で書かれていた。

 

「予定より存外早く事が済みそうか…いや~日頃の行いが良いからオティヌスも見ててくれてるんだなぁ」

 

とりあえず神様の名前を口に出しながら駅長室のある方向へ身体を向け、一歩目を踏み出した。

あの大人気の欠片も持ち合わせているかも解らない神様も矮小な人間の行いに見合った益を与えてくれていると思えば可愛いものだとその神様に聞かれていたら間違いなく存在ごと塵に消されるだろう発言を心の中で呟く。思考の中に発言を押し留めたことが上条の無意識の英断だっただろう。まぁ、本人の知ることではないが。

 

(しっかし…はぁ)

 

歩けど歩けど周りにあるものは瓦礫や破れた紙などのゴミばかりで、そのくせ食料や生活に欠かせない備品は綺麗サッパリ残って居らず、駅内の物販店は物の見事にもぬけの殻である。

 

(結局は『やつら』になっちまったんだろうか)

 

おそらくこんな大規模な駅だ。パニックは他の施設内の比ではないだろう。多くの人々が混乱し、逃げ惑い、お互いの足を引っ張り合い、混雑を招き、喰われた。喰われた者はまた別の者を襲い喰らっていく。その悪循環は捕食される側が全滅するまで続いたのかもしれない。

 

(生き残った奴もいるかもしれない。けど今は)

 

上条の目的は先程振り返ったように祠堂圭の救出。もし別の生存者が居た場合はもちろん助ける気ではいるが果たして生存者はいるのだろうか。

 

前回は(・ ・ ・)居なかったけど、もしかしたらいるかもしれない…が)

 

生存者を見捨てるほど非情ではないが居るのかも分からない生存者を捜すほど今の上条に時間も余裕もそれほどない。何処かで身を潜めているのかもしれない他の生存者には申し訳ないが、今は駅長室に居るであろう知り合いの祠堂圭の救出を最優先にしよう。

 

しかし。

 

もし本当にこの駅内に別の生存者が存在していたとして。探そうともせずに祠堂だけを救出し、他の生存者を可能性の話として自分勝手に見捨てたことで、助けられた筈の命を失ってしまったら。果たして、自分は。上条当麻という男は。

 

「俺は助けられた筈の命のツケを払えるのか?」

 

小さく呟いてみる。しかしこの場には上条以外の言葉を返す者はいない。結局は自問自答となってしまうのに何故呟いてしまったのだろうと自嘲の笑みを作る。多分こんな考え方に至っている時点で何様なのだろうと自分で自分が嫌になっていく。上条当麻はどうしようもない程に人間という生物なのだ。人外でもなければ神様と呼ばれる超越者でもない。だからといってその領域にまで自己を昇華することも出来ない、本当に矮小なただの人間。だからこそ上条は上条なりに人間として出来る範囲で、手を伸ばせる範囲の人々を救うためにその右手を振り下ろしてきた。殆どが他人の力を借りた結果だが、実際に何人もの人々の人生の道から踏み外さないように導くことができた。だが限界があることは嫌と言うほど教えられたのだ。内側からボロボロに崩れていく恋査を本当の意味で救うことが出来ず、完全なハッピーエンドは不可能で、ノーミスクリアなんてものは無理なのだと思い知らされ。だが同時にその拳を握り、努力を諦めることはしないと誓った。

 

(俺は完璧じゃない。それは十分に分かってる。だからこそ、不完全なりに戦っていくしかないんだ。それが俺の役割で、やりたいことなんだから)

 

今まで経験してきた事件を思い出せ。そこで気づいたことを心に縫い止めろ。ただそれだけを忘れなければ上条当麻は何度失敗したって立ち上がれるはずだ。

 

(行くか)

 

こんな所でグダグダ悩んでいる時間はない。その拳を必殺の武器に変え、かつて救えなかった少女を救いに行く。それが上条の目的なのだから。

 

なんてことを考えていたらいつの間にか駅長室の文字が書かれた矢印が目に入る。

曲がり角を右に曲がれば駅長室のようだ。ふう、と汗も掻いてもいないのに腕で額の汗を拭う動作をしてみた。

 

「ん?」

 

曲がり角の先から何か呻くような声が聞こえてくる。まるで『彼等』のようだがどうせこの世界だ。十中八九『彼等』に間違いは無いと見ていいだろう。

 

また『彼等』と闘うのかと考えると疲れ混じりの溜め息の一つでも吐きたいのだがこの世界では回避しようのないことなので一々意識するのも馬鹿らしくなるので止めておくことに。

 

(犬は勘弁願いたい)

 

複数の『犬』たちとの戦闘を思い出し、上条の背筋に寒気が走る。脅威的な速度と凶器的な牙を併せ持つ『犬』は主に異能戦に特化した上条には相性の悪い相手であるため、あのような戦闘はなるべく避けていきたいところだ。

 

だが駅長室があるだろう右側の通路からは『人』型の声しか聞こえてこず、別の種類の鳴き声のようなものは聞こえては来ない。いるのは『人』型だけと断定しても良いだろうか?

 

しかしこの先にある駅長室には祠堂がいる。一人なのかは定かではないものの、彼女はいるはずだ。一般人である彼女は殆ど未知といってもいい存在が何時その扉を破壊し、自分を襲ってくるのかという恐怖にただひたすらに耐えているはずだ。ならば上条に出来るのは一刻も速く、迅速に彼女へ安心を与えられるか。その一言に尽きる。

 

彼女の明るさに何度も助けられた。偶に彼女の悪戯で上条の不幸が加速したこともあったがそれも含め、祠堂には癒しと呼べるような時間を沢山与えて貰った。上条は護りたいのだ。祠堂圭という少女は上条にとって護るべき『日常』の象徴の一つであるからだ。

 

 

だからだろうか。

 

 

目の前で。『彼等』に囲まれた彼女の。祠堂圭の命が散ろうとしている場面を目の当たりにして。

上条当麻の脳内が真っ白に染まったのは。上条当麻の口からこの世の者とは思えない、呪詛のような叫び声が捻り出されたのは。

 

 

 

 

 

 

ぐぅ~

 

 

蛍光灯の無機質な光で照らされた寒くもなく暑くもない平均的な温度に包まれた駅長室にそれは響いた。

少女―――――祠堂圭は耳まで顔を真っ赤に染め上げる。彼女の内心を埋め尽くすのは羞恥心。いくら他に人が居なくとも彼女はうら若き一人の乙女。腹が鳴れば赤面するのは当然のことである。

 

(えっと、食料は確か………………………あっ)

 

食料を探そうとして拾ったバックの中を漁ろうと横に手を伸ばすがそこでピタリとその動作を止める。『彼等』からの逃走の際、逃げるので必死で形振り構わずに走ったのでバックを落としてしまったことを思い出したからだ。若干祠堂は涙目になる。情けない。なんか色々と自分が情けなくなって泣けてくる。

 

先程までの絶望に(さいな)まれていた自分は何だったんだろうと、羞恥心を対価に冷静さなどを取り戻すことが出来た。だがそれでいい。くよくよ悩んでいるよりも何とかなると前向きに頑張る方がよっぽど自分らしいのではないか。

 

(一先ず頑張ることから始めよう。まだ…前みたいに笑うことなんて出来ないけど)

 

そうと決めれば。まずは食料調達から始めよう。

 

(でも外には『あいつら』がいるし、何よりも)

 

己の片足へ目を向ける。引きずらなければ歩くことすらままならず、常に痛みが襲い掛かる状態。こんな状態で果たして自分は無事に食料を手に入れることは出来るのか?

 

(下手したら自分が食料になっちゃうかも)

 

はは、と乾いた笑いを小さく発する。その内側に渦巻く感情は「喜」ではない。どうしようもない程の「負」の感情が祠堂の心を圧迫していく。ずっしりと自分にのし掛かる「それ」は重みを増していく。

 

(ッ!!)

 

頭を左右に振り、両の頬を両の手で二度(はた)く。ダメだ。同じことを繰り返すな。先程のように泥沼へ填っていくような真似を今はしている時間などきっと無い。自分に宣言したばかりではないか。くよくよ悩んでいるよりも前向きになれと。自分に課したことを数秒で破棄する程に自分は、祠堂圭という人間は落ちぶれてしまったのか?

 

「…ふぅ」

 

 

絶望(運命)に負けている時間なんて無い。

希望(救済)を待っている時間なんて無い。

祠堂圭()から動かなければ始まらない。

 

 

(行こう)

 

扉の取手へ手を掛ける。その先には地獄が待っている。祠堂は真剣な面持ちで一呼吸を置いてから、地獄への扉を開ける取手を捻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から先に言えば。

 

 

 

 

 

「………は」

『……………………』

 

 

 

 

 

 

祠堂圭は失敗した。

 

 

 

 

 

 

 

扉を静かに開け、周囲を確認するところまでは問題は無かった。見える範囲には『彼等』が五体、内二体が片腕を欠損しており今にも倒れそうな程に不安定な状態で周囲を彷徨っていて、他の三体も祠堂との距離は遠く、走って逃げることは十分に可能。そこまで分析出来た所までが運の尽きだったか。

 

扉から出た瞬間。扉の前に出来ていた水溜まりに足を滑らせてしまった。いや、正確には血で出来た血溜まりに。

そこからは誰にでも予想の出来る展開だ。気づかれた祠堂は何とか逃げようとするが足に走る激痛で上手く立ち上がることが出来ないばかりか恐怖により腰まで抜かすという状態に。さらに最初にいた五体以外の『彼等』が現れた。

 

その光景に今度こそ。祠堂は『諦めた』。何度も諦めそうになった。でもやっと諦めそうになる気持ちに打ち勝てたと思ったのに。

 

(結局。私がどんな大層な決意を固めたって、重大な決断を下したって、あっさり死んじゃうんだ)

 

ここは漫画や小説の世界じゃない。重要人物だろうが英雄だろうがあっさりと死んでいく。無邪気な子供が餌を運ぶ蟻達を何の疑問もなく踏み潰すように。世界も法則も災害も、有無を言わさずに人を殺す。

 

(ゴメンね、美紀)

 

心の中で今はもう生きているのかも分からない親友に一言謝る。

未練がないとは口が裂けても言えないけれど。ただ一つだけ。たった一つだけ、願ってしまう。

 

(当麻)

 

頭に浮かんだのはとある少年の名。

いつも地味な不幸に晒され嘆きながらも笑顔で乗り切り、笑いに変えるあの少年。

親友の幼馴染みであり、祠堂の同級生で、クラスの中心だった彼はとても強かった。本当に「強かった」。

 

『不幸だ!?』

『当麻!』

『あっはははは!!!』

 

いつも上条は祠堂のツボを正確に押さえた不幸ばかりを巻き起こす少年だった。上条が涙目で不幸を嘆き、美紀がそんな上条を心配し、祠堂が腹を押さえながら大笑い。そんなことの繰り返しが祠堂の日常。

 

楽しかった。戻りたいとも思う。けれど戻ることなんて、到底叶うことのない願いだ。こんな世界で、『あの日』から始まってしまった『この世界』で、「あの日常」を取り戻すことなんて出来る訳がない。

 

(ゴメンね。本当にゴメンね……………………私、諦めるね(・ ・ ・ ・)

 

不思議な感覚だ。もうすぐ死んでしまうというのに今まで自分を支配していた恐怖が塵のように消えていく。これが自身の死期を悟った者の気持ちなのだと知る。学校では学べないことを。まさか自分の人生を賭けて学ぶことになるとは思いも考えもしなかった。

 

(でも。一つ。一つだけ叶うなら―――――――)

 

彼等()』が迫る中、祠堂は瞼を閉じ、静かに祈る。

その想い。いや願いは心の中で呟くはずだったが、押さえきれなかったのか自然と喉を通り、口から発せられた。

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――――三人で思いっきり笑い合いたかったな」

 

 

 

 

 

少女はついに諦めた。

 

希望は潰え、死が迫る、絶望と孤独で支配された狭き世界の中で。

その命の灯火が消えようとする中で。

 

少女は絶望した者の顔つきではなく、希望を信じる者の顔つきでもなく。

ただ静かに己の運命を受け入れた者の、無というべき表情を顔に貼り付けて。

 

絶命するまでの痛みに耐えるために。身体の芯にまで力を入れ、強ばらせた。

 

その直前。

 

 

 

 

 

「祠ッッ堂ォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

目を見開いた祠堂は耳に入ってきたその声の発信源を急いで探す。

すると祠堂が諦めているうちにぞろぞろと集まっていた『彼等』を薙ぎ倒し、殴り倒し、蹴り倒す一人の人間がこちらに向かっていた。

 

その声は日常で嫌と言うほど聞き慣れた声だった。その姿はいつも不幸な出来事に晒されていた。その髪型はいつもツンツンとしていて特徴的であった。

 

祠堂圭はこの人間を、この少年を知っている。知らないはずがなかった。

 

祠堂圭の知る人物の中でとても近い場所に立ち笑い合った男子であり、親友の幼馴染みである少年。

 

その名前は。その拳で『彼等』の波を押し進む少年の名前は―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「当……麻ぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

祠堂は疾うに枯れ果てた筈の涙を流しながら、少年の名を精一杯叫ぶ。

ひたすら叫んだ。それに呼応するように少年、上条当麻も叫ぶ。

 

その声は獣のような威勢があり、断末魔のような忌避したくなるような何かを持ち合わせていた。けれどそれは失いかけ、待つことを諦めざるを得なかった希望を祠堂に与える結果となる。

 

 

 

 

 

上条は走る。障害となるもの全てを薙ぎ払いながら。ただ泣き叫ぶことしか出来ず、助けを乞うことすら出来ないほどに消耗した少女を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに退路は無く、先もない。祠堂の元へ辿り着くには『彼等』を蹴散らすこと以外に方法は無く、手段もない。ならばやるべき事はたった一つ。

 

「邪魔だッ!!」

『ごっ、ぎゃ?』

 

ゴギンッ!!と上条の拳を叩き込まれた『人』型は数メートルの距離をノーバウンドで吹き飛ぶ。中には堅く冷たいコンクリートの壁に衝突し、『人』という原型を粉々に砕かれた状態に変化する個体もいた。上条は殴る方向や力加減を調節し、群れる別個体達を巻き込む形になるように殴り飛ばす位置を調整する。それにより体力の消費を削減しかつ多くの『彼等』を撃破していく。

 

祠堂との距離は目と鼻の先と言えるほどに近づいた。この距離ならもうこちらの物だと上条は確固たる確信を手にする。幸い大きな音を立てながら走っている御蔭か、殆どの個体の注意がこちらに向いている。

 

これは紛れもないチャンス。この機会を見逃せば次は永久にやってこない。今回が最後なのだ。例えこれが最後にはならないと言われようが、これが最後。上条にとっても、祠堂にとっても。

 

 

ならば。ならば!!

 

 

「手を!!」

「ッ!」

 

 

右手で祠堂の手を掴もうとした上条は『彼等』のどす黒い血で汚れた己の右手を見て、舌打ちをしながら全くと言っていい程に戦闘で使用しなかった左手を伸ばす。上条の声に応えるために祠堂も左手を伸ばした。祠堂はただひたすらに手を伸ばし続け、上条は右手で『彼等』を捌きながらその左手を伸ばし続ける。そして。

 

ガシッ!!と上条の左手が祠堂の左手を掴み、握り締めながら引き寄せた。強く、強く抱きしめることで上条は祠堂が生きていることを改めて実感した。少し、涙が零れそうになったが力強く瞼を閉じ首を横に振ることで何とか堪えることに成功する。

 

「やっと救えた(・ ・ ・)

 

こうして祠堂を抱きしめている間にも後ろから『彼等』が迫ってきているというのに。内心に封じ込めようと思った喜びを完璧に押さえつけることは無理だったようで、祠堂に指摘されて初めて気付く程に小さく口元が綻ぶ。

 

「もう、遅いよ当麻」

「ああ」

諦めちゃったじゃん(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「だけどお前はちゃんと(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)手を伸ばしただろ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)?」

「…うん」

 

放したくない。離れたくない。そんな想いが上条の心に熱く宿っていく。これほどまでに弱々しくなった祠堂を、一人の女の子を護りたいと思った。

 

『ごっ?』

 

必殺の右手を強く握り締め、包帯を巻くことで完成した上条の拳に付属する力は現実(物理)には全くと言っていいほどに効力を示さない。だがこの拳は誰かを護ることは出来る。誰かの手を掴むことが出来る。ならば。上条はこの拳を振るい続ける。例え親しい人物を眺望することになろうが、不幸がこの身に降りかかろうが。

 

絶望はまだ尽きない。死を招く亡骸達は上条と祠堂の前へ立ちはだかる。だが上条は笑みを絶やさない。希望(祠堂)がこの腕の中で生きているから。助けられるから。上条は彼女を助けられることが堪らなく嬉しい。だから上条はその笑みを消そうとは考えもしない。

 

 

学校()に帰るまでが救出(遠足)だ」

 

 

救出の目的は達成された。しかしそれは終了ではない。

戻ろう。あのがっこう(出発点)へ。




約一ヶ月ぶり。
やっと圭の救出成功の第八話。
キャラをしっかり掴むのは簡単なようで難しいと改めて実感。

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