いろはヒロイン物語集   作:たらたら喫茶

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想い出のぬいぐるみ(前編)

――おぼろげに子供の頃の夢を、視た。

 まだ俺が今のような捻くれた性格になる以前、小学校に入るより前の時だろう。公園で泣いている女の子がそこにいる。会ったこともない全く無関係の他人だ。俺には関係ない、放っておけばいいと思いつつも泣いている姿がどことなく小町と重なり、気が付くと俺は女の子の傍にしゃがみ込んでいた。

 

 

 

 

 

 超高校級のぼっちこと比企谷八幡、最大のピンチです。俺は今、多分、いや間違いなく女の子の部屋にいます、はい。落ち着かなくてキョロキョロと部屋を見渡す限り、THE女の部屋に違いない。

 

 しかも今回は雪ノ下や由比ヶ浜の所へお邪魔した時みたいに同伴で他の誰かがいる状況でもなく、正真正銘俺だけだ、何この無理ゲー。

 

 緊張からか、この状況から少しでも目を逸らしたくてついつい現実逃避したくなるまである。やべえ、女の子の部屋にいるとか心臓ドキドキだよ、マジヤベーって!?

 

 だがしかし、本当に問題なのは俺が女の子の部屋にいることではない。むしろ今は、そんな事さえ些細なことに思えるまである。

 

 さっきからずっと目を逸らし、俺が必死に現実逃避している一番の問題。

 

 それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 比企谷八幡は、クマのぬいぐるみになっている。

 

「……………………………」

 

 自分の手足や身体をじっと見つめ直す。

 

「………………(フム)」

 

 やはり、クマのぬいぐるみだ。

 

「……………………(フムフム)」

 

 今度は立てって、もう一度じっくり自分の姿を観察してみる。

 

「…………………(ナルホド)」

 

 間違いなく、クマのぬいぐるみだな。

 

「…………………(いやいやいや!!??)」ダラダラ

 

 

「(どうしてこうなった!!??)」(八幡=クマさん)

 

 

 

 

 OK落ち着け比企谷八幡、まず状況を整理しよう。どうしてこうなった、なんで俺はここにいる、そもそもここは誰の部屋だ、なぜにぬいぐるみクマさん(テディベアみたいなの想像してくれ、しかしちょっとダサイ)になってる、一体全体何が起こった、誰か教えてこのファンタジー? ハチマンワカンナイ。

 

 

 閑話休題、冷静になる。

 

 

 駄目だ、やっぱり何もわからん。これ以上考えても知恵熱が出そうだ。まあ、ぬいぐるみだから熱は持たないだろうけど。

 

「(……しかし)」フニフニ

 

 今の俺はぬいぐるみだけあって(なぜかクマさん)綿ばっかりだ。大きさも大体15~20cmくらいか。おまけに体全体が軽いまである、これは当たり前か。まあ、なんで身体が動かせるのかは全く理解不能だけど身動きが取れないよりはよっぽどましかもしれん。

 

「………………」トコトコ

 

 なんとなくベッドから降り、部屋のスペースの広い所に移動する。そして……。

 

 

 

「(昇竜拳! 竜巻旋風脚!)」アチョー、グルグルグル

「(オーバーヘッドキィック!!)」グルン、コテン

「(連続バック転! ムーンサルト!)」ウオオオオ

「(逆立ち歩行!)」トテテ

「(爆裂パーンチ!)」アタタタタ

 

 

 

「……………………~~~っ!!」ジーン

 

 

 やべえ、すげえよ俺。リアルで竜巻旋風脚できたよ、ムーンサルトまでこなしちゃったよ。

 

「……………………」

 

 ここでみんな想像してくれ、誰もいない部屋で突然、訳わからん動きをするクマのぬいぐるみ。うん、シュールな絵面だ、むなしすぎる。むしろ、一種のホラーとして語り継がれるまである。考えたら余計悲しくなってきた。

 

「(とりあえず、元に戻る手がかりを探すか)」

 

 勉強机なら何かしらの情報も得られるだろう、ちょうど総武高校の教科書も見える位だから、もしかしたら、この部屋の主も俺が知ってるやつかもしれん。あ、俺友達いなかったわ。でもま、動かなきゃ始まらん。

 

「(でやー!!)」ジャーンプ

 

「(ブッ!?)」グキャッ

 

 顔面思いっきりぶつけてしまった、ダサすぎる、激ダサだぜ(by宍戸)。今だけは身体がぬいぐるみで良かった。さすがにさっきので調子に乗って、机に大ジャンプは無理あったか。うん、普通によじ登ろう。

 

「(しかし疲れるなこの身体、ぬいぐるみになって初めて分かる人間の素晴らしさ)」ヨイショヨイショ

 

「(えーと、教科書に名前書いてるだろうから……どれどれ、一、色、い、ろ、は…)」

 

「(…………)」サイカクニン

 

「(おまえかよ、一色!?)」ビックリ

 

 メチャメチャ知ってる奴だった。つまり、ここはあのあざとい後輩の部屋で、彼女がいつも暮らしてる部屋というわけだ。

 

「(ここにあいつが住んでて、そんな場所に俺が今一人?……やばい、意識したら急に興奮というか緊張してきた/////)」

 

 プロのぼっちの俺だって普通の男子高校生だ、今はぬいぐるみだけど。知り合い女子高生の部屋にいる状況はいろいろ妄想力も高まるから精神的に非常にまずい。

 

 

 タダイマー

 

 オカエリー

 

 

 一色のこと意識したと同時に家に帰ってくるとかタイミング良いな、い(・)っしき(・・)だけに、うん面白くないな。

 

「ふう、先輩どうしたんだろ?」ガチャ

 

 このままじゃどうしようもないし、声だけでも掛けてみるか。さすがにぬいぐるみが独りでに動くのはまずいしな。

 

「(一色! おーい、一色!!)」

 

「せっかく先輩をこき使うチャンスだったのにいないし、どうでもいい男子は絡んでくるし……」ブツブツ

 

「(一色! 聞こえないのか一色! 頼む気づいてくれ!)」

 

「先輩成分補充できないし、なんかやる気も出ないし……」シュル

 

 駄目だ、やっぱり俺の声が聞こえてない。って、まてまて何いきなり制服脱ごうとしてるんだ!? 

 

「こっちがいろいろ悩んでるのに……」スルッ

 

「(いっしきぃぃぃぃぃ! お願いだ気づいてくれぇぇぇぇ!!)」

 

 だあああ、ブレザー脱ぐな。うおおおお、ボタン外して一色の胸元が見えそう、ソックスまで脱いでいかんぞ、絶妙なエロスだ、ふおおピ、ピンク色の下着がぁぁ、もうちょっと……もうちょっとだけ(ゴクリ)

 

「大体、先輩には私をこんなにした責任が……」シュルリ

 

「(って、もう無理だぁぁぁ!!!)」ハチマンキーック

 

「きゃっ!?」ドキャッ

 

 フーフー、危なかった、もう少しで一色いろはの桃源郷が垣間見えちゃうところだった。そんなことになったらおれの息子もギンギンに勃起しちゃうだろ、あ、ぬいぐるみだからそれはないか。書き手だってR-18指定は描写が下手くそなんだから表現できないんだぞ、このやろ。

 突然のことで何が起きたのか分からない一色と向かい合うクマのぬいぐるみ(俺)。うん、誰が見てもおかしな構図だ、意味不明すぎる。

 

「え、と、クマの、ぬいぐるみ?」

 

「(俺だ、比企谷八幡だ)」ナマエカキカキ

 

 いろいろめんどくさいので、以下略。

 

 どうやら、一色が『ぬいぐるみ=比企谷八幡』と認識したことで、俺の声も届くようになり会話も可能になったみたいだ、よかった、本当に良かった。ようやく一歩前進だ。

 

「先輩、聞いてもいいですか?」

 

「ああ、俺で答えられることなら別にいいけどよ。確かに聞きたいことだらけだよな、おれもなにがなんだか……」

 

「私の裸、見ましたよね?」ジロ

 

「……ミテナイヨ、ハチマンウソツカナイ」ダラダラ

 

「「…………………」」

 

「先輩のばかああああ!! いっぺん死ねえええぇぇぇっ!?/////」バンバン、グサグサ

 

「うおおおおぉぉっ!? やめろやめろ、ハサミはまずいから、ほんとに死ぬ。落ち着け一色、やめてえええっ!!??」ステテテテテテ、ニゲマワル

 

「先輩のスケベ、すけこまし、女たらし、責任取ってくださあああああい!/////」グサグサ

 

「責任でも何でも取るから、命だけは勘弁してえええぇぇっ!?」トテテテテ、ニゲマクル

 

 

 

 

 

「でだ、落ち着いたところで話を戻すが、俺もなんでこんなになったのかほんとに分からん」

 

「先輩が日頃から変なこと考えすぎて、神様から罰が当たったんじゃないんですか?」

 

「馬鹿言うな俺はぼっちだぞ、むしろ神様にだって認識されてるかも怪しい存在をなめるなよ。まあ冗談は置いといて、今の状況どっかのssで似たようなのがあった気がするぞ。たしかキスすれば元に戻る話だった気がするけど」

 

「なんですか、そうやって元に戻るのを口実にして私とキスするのが目的なんですか。すみません、魂胆がみえみえなのでせめて先輩が元に戻ってから、そういう雰囲気のときじゃないと受け入れられません無理ですごめんない」

 

「なげえよ、別にキスしたいとも言ってないだろ、単にそんな感じの話があったなってだけで」

 

「ていうか、キスで戻るとかベタ過ぎですね」

 

「まったくだ、白雪姫やアニメみたいにキスで何でも解決できるとかどいつもこいつも頭お花畑かよ、くそっ、リア充爆発しろ」

 

「明らかに先輩の私怨ですね、情けなさ過ぎです」

 

「いいや、俺は間違ったことは言ってない。そもそもここには俺と一色の二人しかいな…ん、むぐぅ////」

 

「ん、んく、…くちゅ、あむ、んんん/////」

 

 突然、俺の口が塞がれた。何が起きたのか一瞬理解が追いつかなかった、が、はっきりとわかるのは一色にキスされたことだけだ。え、なにこれ、ドッキリ!? TVスタッフの皆さん、そろそろ『ドッキリ大成功』の看板出してもいいですよー、え、ちがうの、まじか☆マジカ!?

 

 ほんの一瞬、部屋中に静寂と甘ったるい空気が流れる。

 

「んくぅ、ぷはぁ……はぁはぁ、せ、先輩どうですか?/////」

 

「ちょ、おま、な、なにかんがえて、い、いまその…き、き/////」

 

「ふふ、今の私のファーストキスですよ。私こう見えて、身持ちすごく硬いんですから激レアものですよ。値段なんかつけられませんので、もうこれは最後まで先輩に責任取って貰わないと/////」

 

 一色はゆっくりと指で自分の唇をなぞる。その仕草が妙に艶めかしく妖艶に感じられとても魅惑的に見えた。

 

 見ると一色も相当恥ずかしいのか、笑ってはいるが顔は頬が上気したみたいに朱に染まっている。冷静に分析してるようだが、俺の方はもっとやばい、いろいろやばい、俺だってファーストキスなんだぞ、男の純潔奪われたよチクショウ。クマのぬいぐるみだけど、そんな常識超えて身体が沸騰しそうだ。

 

とりあえず…。

 

「~~~っっっ!!??」トテテテテテテテ、ゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 恥ずかしさのあまり部屋の中を散々走り回り、転げまわり、悶え苦しんだ(クマのぬいぐるみが)。一色はそんな俺(クマのぬいぐるみ)の様子をクスクス楽しそうに笑ってみていた、もうやだよあざとい後輩怖い。

 

 

 

 

 

「しかし、クマったな」

 

「先輩、それ困ったなと掛けてますか、すみませんキモいです」

 

「おいこらキモいとか言うな、クマさんだぞどっから見てもキュートなマスコットキャラだろうが」

 

「私のファーストキスでも元に戻らないんじゃもう打つ手なしですね」

 

「普通にスルーですかそうですよね。何回もファーストキス言うな、お前がやったのはぬいぐるみ相手であって俺じゃない。よってさっきの行為は俺に責任取らせる効力を有してはいない、以上。……俺だって初めてだよ、くそっ/////」

 

 第三者から見れば、ぬいぐるみに向かって話しかける頭の痛い女子高生にしか見えないこの画面。うん手の施しようがないな、一色いろは。

 

「頭痛い女子高生ですいませんね、せ~ん~ぱ~い~」ニコ

 

「勝手に地の文の心まで読むなよ、お前絶対エスパータイプだろ。俺が悪・ゴーストタイプなのに勝てる気がしないとか理不尽すぎます、はいすいません、お願いだからこの哀れなクマさんを捨てないでください、後生だから」ドゲザ

 

「いろはー、さっきから何やってるのもうご飯出来てるわよ」ガチャ

 

「へ、あ、うん、もう行く」

 

 一色いろはの母親か。略してママはす、ちょっとゴロが悪いかな。

 

「(じゃあ先輩、私はご飯とお風呂もついでに済ませてきますのでちょっと待っててください)」コソ

 

「わかった」コクリ

 

「そういえば、先輩はお腹減らないんですか?」

 

「別段ないな、ご飯食べるぬいぐるみとかどこに栄養が吸収と消化されるんだよ、ってそっちの方が人体の神秘すら余裕で斜め上方向にいく議題でお腹一杯になりそうなくらいだ」

 

「そうですね、それじゃあいってきます♪」クス

 

「ゆっくりしてきていいぞー」フリフリ

 

 

 

 

「ふー、さっぱりしたぁ♪」ガチャ

 

「おう、戻ってき……/////」

 

 部屋に戻ってきた一色は風呂上がりのようだ。頬が少し赤く、しっとり湿った髪の毛、身体中から香るほんのり甘い香り、黄色を基調としたパジャマ姿もプラス効果しており、妙に艶めかしく感じてしまい正直、見惚れてしまった。無言でじっと一色を見ていたいと思うほどに。うん、グッときます。

 

「先輩、どうしたんです?」

 

「いや別に、なんでもない////」フイ

 

「もしかして、私のお風呂上りの格好に見とれちゃいましたかー、なーんて♪」ニヤニヤ

 

「……………/////」

 

「あれ、もしかして、ほ、ほんとに……そ、その、まあ私としてもその方が女の子的には嬉しいみたいな、何と言いますか/////」

 

 こら、お前まで本気で照れたような態度取るなよ、空気おかしくなっちゃうだろ、さすがいろはすあざとい。

 

「~~えい♪」ツン

 

「………」フニ

 

「~~~♪」ツンツン

 

「おい…」フニフニ

 

「えへへ~♪」デコピン、グリグリ

 

「俺を玩具にして遊ぶな、人様にデコピンしちゃいけませんって学校で習わなかったのか?」イラ

 

「んふふ~♪ いいじゃないですかー、それに先輩は今、ぬいぐるみだから問題ありません♪」ツツツツン、デコピンレンダ、テアシクルクル~

 

 こいつの楽しそうな表情は間違いなく素の一色いろはだと思う。なんだよ、やっぱりこっちの方が可愛いじゃねえか、目の前でこんな顔されたらあんまり強く言えないな。普通の男子なら。

 

「いい加減に止めろ、このやろ!」ハチマンキック

 

「あっ、んも~、先輩の照れ屋さん♪」キャッチ

 

「こら離せ、おろせ、身動き取れなくするとか卑怯だぞ!」ジタバタ

 

「はいはーい、スペシャルゲストのクマさん、いろはちゃんの膝の上にご案内ですよー♪」ストン

 

「(クマさんに生まれ変わった今ここで、目の前に広がる景色が実はちっぽけだと気付いてしまった)/////」

 

「でも、どうして先輩がぬいぐるみになったのかほんとに不思議ですね?」

 

「まあそういう事態もあるんだろ、世界には不思議な出来事がたくさん起こるしな、とか現実逃避したくなるくらい今の状況を受け入れたくないんだけど。ところで、このクマのぬいぐるみってお前のなんだよな?」

 

「そうですよ、小学生になるより前に貰ったものですから」

 

「10年以上前に貰ったぬいぐるみをまだ持ってるとか、お前案外、いやすげえ物持ちいいんだな。普通に感心したわ」

 

「でも、これだけですよ。すごく小さい子供のころだから、私自身誰に貰ったのかあんまり覚えてないですし、なんでまだ手放さないのか理由もちょっとアレですけど、……でも、とても大切なぬいぐるみだってことは分かるんです」

 

 そうやって語る一色の表情はとても女の子っぽく、真剣で、本当に大切にしている風に感じられた。

 

「……そんな大切なぬいぐるみに俺が入ってしまった、と。なんかすまん」

 

「そうです、私の思い出が先輩に穢されました。どうしてくれるんですか、いろはちゃんはオコです、マジオコですよ。この責任はきっちり取って貰いますから」

 

「お前さっきあんまり覚えてないとか言ったじゃねえか」オイコラ

 

「大切とも言いました、覚えてなくても私にとっては大切なんです~」ベー

 

 真剣な表情になったかと思えば、またいつものあざとい笑顔になる。これはこれで、一色いろはの本性なのだろう、ついついそう感じてしまい俺も気分が軽くなった。

 

「一色、とりあえず俺の今の状況を小町だけにはうまく話しといてくれないか。余計な心配を掛けたくないからな」

 

「自分がぬいぐるみの状態だっていうのに、小町ちゃんの心配とか、先輩って筋金入りのシスコンですね。あきれるのを通り越してキモいです」

 

「おい、いまキモいって言う必要がどこにあった? あきれるの通り越したら尊敬するんじゃないの、え、それ俺だけなのおかしくない」

 

「結衣先輩と雪ノ下先輩にはどうするんですか?」

 

「小町だけでいい、必要以上に知られたくないし黙っておいてくれ。由比ヶ浜の口から一気に漏れる可能性もゼロじゃないからな。だから小町にも念押して伝えてくれ、こっちはなんとかするって」

 

「先輩がそれでいいなら私はそれに従いますよ、こんなチャンスもう一生無いですから。絶対ものにしてみせます♪」

 

「お前は何の話をしてるんだよ? ほんとに頼むぞ、今の俺にとってはお前だけが頼みの綱なんだからな」

 

「は、はひっ、な、ななな先輩こそ何こんな時に口説こうとしてるんですか、一瞬ドキッとして心が傾きかけましたがすいませんもうちょっと待ってくださいごめんなさい////」

 

「いや口説いてないから」

 

 

深夜1時くらい

 

 

「もうこんな時間ですね、明日も学校ですしそろそろ寝ますか」フワァ

 

「そうか、じゃあおやすみ」トテトテ

 

「せーんぱい、どこ行こうとしてるんですか?」ガシ

 

「は、いや、俺も寝ようと思って、部屋の隅っこにでも行こうかなと……」クルリ

 

「駄目ですよ、一緒のベッドで寝るんですから♪」ニコ

 

「だが断る!」トテテテテテー

 

「逃がしませんよー♪」ゲット

 

「おい待て一色、よく考えろ。駄目に決まってんだろ!?」

 

「よく考えて最初から決めてましたよ。先輩は今ぬいぐるみですし、抱き枕代わりにちょうどいいですから。ふふ、気持ちいいですかー♪」ギュー

 

「(こいつ眠気MAXでテンションおかしくなってやがる////)」フニュ

 

「…それとも、せんぱい…私のこと、きらい……ですか?」ナミダメ

 

 急にしおらしくなるなよ、ただでさえ可愛いのに余計意識するだろうが。何とか平静を保とうとしているが結構いっぱいいっぱいだ。ぬいぐるみの姿とはいえ、女の子の部屋に二人きりなんだから。

 

「…き、嫌い……じゃない、かもしれん、よくわからん」

 

「~~~っ///// せんぱ~い♪」ガバ

 

「ふぁっ!!??」

 

「先輩可愛いです、あ、ぬいぐるみだから当たり前か♪」ギュギュー

 

「(ふわああぁぁ、む、胸が、夢いっぱいの一色の希望が/////)」モガモガ

 

「んん~、いい抱き枕ですね~♪」スリスリ

 

「(こ、これはたまらん、鋼の理性が一気に引っぺがされそうだ////)」ウオオオ

 

「えへへ~、気持ちいいです~♪」ムニムニ

 

「(だがプロのぼっちを舐めるなよ…やばいかも、気持ちいいのは俺の方です////)」

 

「………せん、ぱい…zzz」ギュッ

 

「(………////)」ググー

 

「………zzz」ギュウウ

 

「(………////)」

 

 

 

 一色はほかの男にもこんな風に接しているのだろうか。そう考えたら少しだけ寂しく、なんだかムカムカして、どうしようもないくらい心の奥底で嫉妬している自分がみっともなく思えた。

 もともと俺は惚れっぽい性格なんだ。いくらプロのぼっちを自称して、勘違いしないなどと防壁を張り、踏み込まないようにしても根底は変えられない。

 

 視線を動かすと、そこには幸せそうに眠る一色の顔が見える。普段では見ることができないとても貴重な表情に俺もドキドキさせられっぱなしだ。こっちの気も知らないでどんどん人の領域に踏み込んできやがって、ほんとにあざとい後輩だよお前は。

 一色のこんな表情をこんなに近くで見られるのは正直役得だろう。そう考えると、ぬいぐるみ状態であることにほんのちょっとだけ感謝した。……まあ、早く元に戻りたいけど。

 ともあれ今日は色々ありすぎて疲れたから寝よう。

 

 

 

イロハ、タノシンデルカナ?

 

 

ソンナニナガクツヅケラレナイカラ

 

 

ハヤクオモイダシテアゲテネ

 

 

 


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