いろはヒロイン物語集   作:たらたら喫茶

2 / 6
いろはシンデレラ

「うー、だるーい」ダラー

 

「………」

 

「………」ペラペラ

 

 

 俺は今、生徒会室で一色いろはの作業の手伝いをしている。理由はまあ、察してくれ。それともう一人、ルミルミこと鶴見留美もいる。なんでも鶴見先生から少しだけ頼まれたから。

 なぜ奉仕部ではないかというと色々だ、決してこの話にあの二人は必要ないだとか、登場人物多くするとまとめるの大変だとか、作り手が面倒と感じているわけでは決してない。

 ちなみにルミルミはさっきからなんかの本を読んでいる、うんいい集中力だ八幡嬉しいぞ。

 

 

「なあルミルミ」

 

「ルミルミ言わないで、ちゃんと留美って呼んで」

 

「お、おう留美///」

 

「ちょっと先輩、なにデレッとしてんですか! 私のことも『いろは』って呼んでください」

 

「いや呼ばないから、ぼっちにそんな無理難題吹っかけるな……恥ずかしいだろ(ボソ)」

 

「それで、どうしたの八幡?」

 

「あ、ああさっきから留美が何の本読んでるか気になっただけだ」

 

「ん、これ」

 

 

 ルミルミが読んでいたのは世界の童話集の本だ。そういやいっぱいあるな、イソップ、グリム、アンデルセン、ゲーテ、シートン、シュトルム、ハリス、ボンゼルス、バリ、千夜一夜etc…改めて考えるとすげえ数だな。童話は子供向けのイメージが強いが、知識を広める意味合いでいえばもっとたくさん中高生の教科書の題材にしてもいいのでは、と本気で考えてしまうまである。

 

 

「童話ですか、懐かしいですねー。私も小さい頃読んでましたよ」

 

「…………」

 

「なにかいいたいことでもあるんですか、せ・ん・ぱ・い?」ニコッ

 

「イイエナンデモアリマセンヨ」

 

 

 めっちゃいい笑顔で聞いてくる、いろはすこわい俺のライフ削られちゃう、助けて小町!

 

 

「有名な童話では、女の子だったらみんな、一度はシンデレラとかには憧れちゃいますよー」

 

「シャルル・ペローの童話だっけ? まあ誰でも知ってる話だな。ルミルミもやっぱ、シンデレラみたいになってみたいとか思ったことあるのか?」

 

「……どうだろ、よくわかんない。少し前までは思ってたかもしれないけど、今は違うよ。むしろシンデレラじゃなくてよかったと思ってる」

 

「そうなのか、でもなんで?」

 

「だ、だって……///」チラッ

 

「はいはーい、じゃあ私がシンデレラですよね、っていうか私以外いませんよ。ほら私カワイイですから!」

 

「「…………」」

 

 

 俺もルミルミも思わず無言になった。というかお前はどっちかいうとイジワルな姉役だとおもう。ついでに、母=大魔王(言わずもがな)、もう一人の姉=雪ノ下(毒舌)or三浦(でもオカン属性)、王子=葉山、シンデレラ=? 多分これが正しい配役だろう。いやでも、外面かぶって玉の輿ゲットの意味では一色がシンデレラってのはありなのか、ううむ悩むな?

 

 

「……な、なんで二人して黙っちゃうんですかー?」

 

「……いろはさん、シンデレラになりたいの?」

 

「え、そりゃ私も女の子だからなりたいよ」

 

「じゃあ私が考えて、いろはさんシンデレラの物語を書いてあげる」

 

「ほ、ほんと? ありがとう留美ちゃん、大好きーーーっ!!」(ダキッ)

 

「うん、まかせて。ちゃんと『シンデレラが王子様と結ばれる』物語にするから」(ニヤリ)

 

 

 そのとき、俺はルミルミが一瞬意地悪な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。絶対何か変なこと考えついた顔だ、八幡センサーが警報鳴らしてる。エマージェンシーエマージェンシー、準備はしとけよ!

 

 

「それじゃあ始めるね……」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 むかし、とある国にとても美しい娘がいました。名前はいろは、母たちは『灰かぶり姫』の意を込めて『シンデレラ』と呼んでいました。

 ある日、お城で葉山王子様の嫁選びのため舞踏会が開かれることに。

 いろはシンデレラは妖精のおばあさんに助けてもらい、とても綺麗な格好で舞踏会に参加しました。

 

 お城の大広間にて葉山王子はいろはシンデレラの美しさに見惚れて手を取り一緒に踊ります。夢のような時間はあっという間に過ぎ、約束の12時が過ぎる前にいろはシンデレラは慌ててお城を抜け出しました。

 葉山王子は残されたガラスの靴を見つけ、この靴の持ち主である娘と結婚するので探してきてほしいと臣下たちに言います。

 

 

葉山「君にはいつも面倒事をまかせてすまない、比企谷」

 

八幡「正直働きたくないんだが」

 

 

 葉山王子も本気なのだろう。自分にとって切り札臣下の八幡を投入したのだ。目は腐っているがこの男できる奴だ、でもやる気はゼロ。

 

 

八幡「畜生、葉山のやつ、……しかし働きたくねえ、やっぱ専業主夫になっときゃよかった。だれかお嫁さんになって養ってくれねえかな…」

 

 

 しかし今回の仕事は八幡にとっても難しくなかなか目当てのいろはシンデレラは見つからない。数日が経過して、八幡は身体的にも疲労が溜まってきており、大分まいっているようだ。つい、そんなことをぼやく八幡の前に一人の女の子が声をかけてきた。

 

 

???「ねえ…大丈夫?」

 

 

 その日、その出会いが二人の運命を変える、二人の物語が幕を開ける。

 八幡ととてもかわいい女の子、留美の恋物語が……。

 

 八幡のことを気にかけて、留美は八幡のお世話という名目で一緒に過ごすよう提案。最初はかたくなに拒否していた八幡だが、留美の優しさに触れ徐々に心を許していくようになる。

 

 

留美「八幡、身体は大丈夫? 辛かったら無理しちゃだめだよ,身体壊したら元も子もないよ」

 

八幡「ありがとな留美、お前がそう言ってくれるだけで頑張れそうだ」(ニコ)

 

留美「ほんと、じゃ、じゃあこれからもいっぱいいっぱい『ありがとう』言うからね///……い、いってらっしゃい八幡」

 

八幡「いってきます、留美」

 

 

 日が経つごとに二人の距離は確実に、近づいている。少し歳の差があるためか、周りからは冷たい目で見られているがそんなことはどうでもよかった。生活は貧しいがそれでもよかった。一緒にいて楽しい、この事実さえあればそれ以外は何も望まない。

 それからある日、八幡が一つの決意を留美に告げる。

 

 

八幡「ただいま、留美」

 

留美「おかえりなさい、八幡」(トテテ)

 

八幡「留美、大事な話があるんだがいいか?」

 

留美「どうしたのあらたまって?」

 

八幡「俺、臣下の仕事辞めることにした。退職金も出るから、住民税や健康保険とかのお金はまだ何とかなる。もちろん生活が苦しくなることには変わりないんだが」

 

留美「ううんそれはいいの、でもどうして?」

 

八幡「俺、留美と一緒に生きたい。もっと一緒の時間を過ごして、笑って、留美を守りたい。だから…」

 

留美「……八幡///」

 

八幡「俺と結婚してくれ、留美」

 

留美「うん、うん、八幡大好き。私を、八幡のお嫁さんにしてください///」(ガバッ)

 

八幡「もう一生離さないからな、留美」(ダキッ)

 

留美「うん、一生離さないでね八幡///」

 

 

 こうして、八幡と留美は生涯ともに暮らすことを誓い合った。

 

 

留美「ところで、次はどんな仕事に就くか決めてるの? やっぱり、専業主夫とか?」

 

八幡「いや、留美に迷惑かけたくないから仕事は探すさ」

 

留美「じゃあさ教師とかやってみたら? 八幡は何となく、人を教え導く職業に向いてると思うな。それで、私が家庭科の先生になる。そうすれば一緒の時間も増えるでしょ」

 

八幡「教師か、そうだな留美と一緒ならいいかもな」

 

留美「うん、八幡は私と一緒にいてくれるって誓ったもんね!」

 

 

 二人は手を取り合って笑いあう。大好きな人と一緒に過ごしていくために…。

 空の色はとても青く輝いていた、まるで二人の未来を祝福するかのように…。

 

 

 

 

エピローグ

 

いろはシンデレラは葉山王子と暮らしてるらしい。よかったねw

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「「……………………………………」」

 

「どうしたの二人とも?」

 

 ルミルミの書いたシンデレラ物語を読んで俺と一色は固まっている。というか、これはツッコミ待ちか、いやもはやどこから突っ込んでいいのかもわからんレベルなんだが。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!」

 

 ほら一色なんてさっきから震えてるぞ、もしかしたらあまりの出来栄えに武者震いかもしれん、いやそれはないな。あとなんでルミルミはクエスチョンマーク頭に浮かべてんの? わざとだよな、天然じゃないって知ってるよ俺。

 

「どうだった八幡? 私なりにいろいろ考えてアレンジしてみたんだけど」

 

 ここで俺に聞くのかルミルミよ、でも下手に突っ込んだら蛇でも出てきそうだから無難なことを言っとこう、うん八幡賢い。

 

「ま、まあ個性があっていいんじゃないか。それにシンデレラの大雑把なシナリオから外れてるわけじゃないしな、こういうのも楽しいと思うぞ。最近じゃスピンオフ作品で主役以外にスポットあててるものが結構出回ってるくらいだし」

 

「ほんと、八幡にそう言ってもらえて嬉しい/// あのねあのね、この場面とか実はね…」

 

机ドンッ!!!

 

「い、一色……さん?」「いろはさん……?」(そ~)

 

 急に机ドンとかマジでビビった、おそるおそる一色を見ると天使と悪魔が混在してるそんな笑顔だった。はっきり言ってチョーコワイ。ルミルミなんて小動物みたいになってんぞ。

 

「留美ちゃんすごいですね、たしかにシンデレラが王子様と結ばれる話になってる。私も感心しちゃいましたー」ガシッ

 

「ほ、ほんと。あ、ありがとうございます……あ、あの」ビクッ

 

「ん、どうしたのー?」(にぎにぎ)

 

「そ、そろそろ手、離してもらっても……」ビクビク

 

「そうだね、留美ちゃんが先輩から離れてくれたらいいよー」(ワタシノセンパイカラハナレロ)

 

 やめたげて、その光景は二人を見てる俺の方がつらい。一色もシンデレラじゃなくヤンデレラになってて、このままじゃ洒落にならん。もしかして一色がやきもち妬いてくれてるのかと勘違いし、ちょっと期待してしまう。でも、ヤンデレラは勘弁してもらいたいなーなんて。

 まあ、なんやかんやで落ち着いてはくれたが。

 

「確かに私がシンデレラ役だけど、これはありえません」

 

「最初にちゃんと言ったよ、『シンデレラが王子様と結ばれる』話を書くって」

 

「確かに言ってたから嘘はついてないな、他にもいろいろ突っ込みどころは満載なわけだが…おもに住民税と健康保険、あと八幡のキャラ」

 

「と・く・に、なんでシンデレラの相手役が先輩じゃないんですか」

 

 おっと一色さん、なかなかの爆弾発言してくれましたよ、八幡勘違いしちゃうよいいよねだめかな、つい顔が照れちゃうよ。てっきり、話の内容に文句言うのかと思えば、まさかの配役からケチつけてきましたよこの子。

 

「八幡に王子様は似合わないって分かってるでしょ」

 

「それはそうだけど、先輩はその辺の召使いHの方が似合ってるって思うけど、でもでも…」

 

「分かってても人に言われるとグサッとくるんで言い方は少し抑えようね。あとAでもBでもなくHってとこが名前と存在感がマッチしてて妙にリアリティ溢れるポジションすぎて俺泣いちゃうよ」

 

「八幡は王子様じゃなくていいの、そんなの八幡らしくない。だから私もシンデレラにはならなくていい、物語の主役になんてなれなくていい。……そうすれば、こんな物語が待ってるかもしれないから///」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!???」

 

「う~~~~~~~~っっっ!!!」

 

 

 今のは遠回しな告白か、やばいシスコンに次いでロリコンにも目覚めそう。ほんとにお巡りさんのお世話になっちゃうからルミルミさんや、これ以上あざといろはすを刺激しないでくれますか、さっきから顔赤くしてこっち睨んでますよ。いくら孤高のボッチで鋼の精神力ある俺でも、心臓に悪いからモウヤメテ!

 

「先輩、今度は私が書きますシンデレラ!」机バンッ!

 

「もうこれでいいじゃない、いろはシンデレラもちゃんと王子様と結ばれてるしハッピーエンド(笑)だよ。これ以上を望むなんて、いろはさんは贅沢過ぎ、…ばっかみたい」

 

「全然よくないでーす、生徒会長権限なんでこれは決定、はい始めますよー!」

 

「無理やり進めたな……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ある国に、みんなから愛されるとても可愛い娘がいました。名前はいろは、周りを魅了するその容姿から『シンデレラ』の愛称で呼ばれています。

 

 葉山王子の嫁選びの舞踏会の日、いろはシンデレラは憧れだった葉山王子と踊りました。でも心のどこかで、なんだか物足りなさを感じてました。

 そんな中、いろはシンデレラは臣下の一人、八幡と出会いました。心の中で何かが弾けた、周りからちやほやされるなんて日常だった彼女が初めて心動かされたのだ。

 

 彼女が体験した初めての、『本物』の恋だった。

 

 

いろは「先輩、私……その、先輩のことが……///」

 

八幡「いろは、俺……」

 

 

 いろはにとっても、八幡にとってもお互いが意識しあい、どこかぎこちなさを感じつつも、初々しくとても楽しい時間であった。しかし、もうすぐ終わりの12時が過ぎてしまう。このままでは駄目だと思い、いろはは思い切って八幡に抱き着いた。八幡への愛情を伝えたくて、八幡からの愛情を感じたくて出来うる限りのアプローチで自分の存在を八幡の中に残す。

 

 

いろは「先輩、今日はここでお別れです。本当に残念ですけど約束の12時を過ぎるわけにはいかないんです、ごめんなさい。でも、もう一度私を捕まえてください、お願いします///」

 

八幡「いろは、俺……いろはのことが!」

 

いろは「駄目ですよ先輩、今そんなこと言われたら私……泣いちゃいます。あはっ、変ですよね自分から離れていくくせに、先輩に捕まえてくださいなんて……ほんと、グスッ、笑っちゃいますよ」

 

八幡「…………お前のこと、捕まえるからな。捕まえて、どんなにあざとく振る舞ったって許してやらないからな。たっぷり卑屈になるぐらいの説教をしてやるから覚悟しとけ!」

 

いろは「グスッ、はい……待ってますよ先輩。その時は二人で愛の逃避行しましょうね///」

 

 

 いろはシンデレラの瞳から溢れ出る涙はとても綺麗で周りの者も息を飲むほどであった。お城から出ていく際、いろはシンデレラは八幡が自分を見つけてくれる可能性を信じてガラスの靴を階段に残してきた。いや、きっと彼なら自分を見つけてくれる、そう確信している。

 

 

 

 

 それから・・・

 

 八幡はいろはシンデレラを見つけ、二人でひっそりと暮らし始める。

 

 

いろは「先輩いきますよー、それーー!」

 

八幡「うわびびった、急に驚かすの勘弁してくれ、ったく」

 

いろは「あはっ、だって先輩の反応面白いんですもん♪」

 

 

二人で笑い・・・。

 

 

いろは「どうして先輩はいつもいつも…!」

 

八幡「だからそうじゃなくて、今回はだな…!」

 

 

二人で喧嘩し・・・。

 

 

八幡「~~~~っ!」

 

いろは「ぐすっ、えぐっ……、せんぱあい!!」

 

 

二人で哀しみ・・・。

 

 

いろは「ここの木の下で昼寝していきましょう」

 

八幡「あんま外に出たくはないんだが、まあたまにはいいか」

 

いろは「ほらほら、早く横になってください。膝枕してあげちゃいますから、もちろん拒否権はありませんよ♪」

 

 

八幡「ん……、zzz」

 

いろは「おやすみなさい……、先輩」(クスッ)

 

 

二人でのんびりして・・・。

 

 

八幡「いろは……その、あ、愛してる///」

 

いろは「ちゃんと、責任…取ってくださいね///」

 

 

 二人で同じ時間を共に過ごしていく・・・。

 

 

 

 しかし唐突に、二人の幸せがぶち壊される。いろはシンデレラを嫁に迎えようと葉山王子が略奪愛という強硬手段に乗り出したのだ。

 

葉山「勝負ありだ、比企谷。これで、いろはは僕がもらっていくよ、じゃあね」

 

いろは「そ、そんな、そんなの嫌です。先輩たすけて!!!」

 

八幡「くそっ、いろは、いろはあああああぁっ!!!!」

 

いろは「先輩、せんぱい、いやあああああああああああぁっ!!!??」

 

八幡「ぐっ、うぐっ、くっそおおおおおおおぉっ!!??」

 

 

 葉山王子の陰謀により引き離されてしまった八幡といろはシンデレラ。引き裂かれた二人の愛はこのまま終わってしまうのか、絶望してしまうのか!

 

 

 

 

いろは(大丈夫、先輩はきっと私を助けてくれる。どんなに卑怯な手を使ってでも私の元に辿り着いてくれる。だから……)

 

八幡(いろはを葉山なんかに渡してたまるか! 持ち札がないなら考えろ、策を弄せ、あらゆる状況をイメージし尽くして葉山の弱点を見つけ出せ! それに……)

 

いろは(先輩以外の人には絶対に、心も身体も差し出したりはしない。私の全部は先輩のモノなんだから!)

 

八幡(責任……取ってください、って言われたもんな)

 

 

いろは「先輩……信じてます」

 

八幡「さてと、……いくか」

 

 

 

 

 二人は絶望しない、お互いを信じて立ち上がることを決めた。

 

 そして、ついに・・・。

 

八幡「……俺の勝ちだ、葉山」

 

葉山「ああ、そして……俺の敗北だ」(クスッ)

 

 八幡は葉山王子と決着をつけ、ついに愛しのいろはシンデレラを救い出した。

 

いろは「せんぱい!!!」(ダキッ)

 

八幡「いろは!!」

 

いろは「先輩やっぱり来てくれた、よが、よがっだでず~、ふええええぇぇぇんっ!!」

 

八幡「遅くなって悪いな。お前のそのあざとい声も久々に聴いたな、なんか安心した」

 

いろは「私、信じてました。先輩はきっと来てくれるって、それでほんとに助けてくれて、わた、私嬉しくて……」

 

八幡「まあ、『責任取ってください』って、言われちまったもんな。約束は果たさねえと///」

 

いろは「~~~~~~~~っっ/////」

 

八幡「……………/////」

 

いろは「先輩……愛してます!!!」

 

 もう二度と離さない、お互いの存在を確かめるように抱き合う二人。そんな二人を祝福するかのように、城の壊れた天井から差し込んだ光が二人を包む。偶然にしても、見るものが心惹かれるような光景だ。

 聖なる光が照らす城の真ん中で、八幡といろはシンデレラは熱い抱擁をし、そっと唇を重ねた。

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

???「ねえねえパパとママの話聞かせて!」

 

???「あたしも聞きたい、ねえ聞かせて!」

 

八幡「せっかくいい天気でピクニックに来てるんだから、もっと走り回ったりしてもいいんだぞ」

 

いろは「もしかして、あなた照れちゃってるんですかー?」

 

八幡「分かってるならそうやって図星つかないでくれると八幡的にポイント高いんだが」

 

いろは「そうですね、あなたはすぐ照れちゃって、でもそんなところも好きですよ♪」

 

???「あー、またパパとママがイチャイチャしてるー」

 

???「仲良しさんだ、私たちも混ぜてよー」

 

八幡「そうだな、じゃあこの木の下で揃って昼寝でもするか」

 

いろは「それじゃあ横になってください、膝枕してあげます。もちろん拒否権はありませんよ♪」

 

 

 

 明るい太陽が照らす快晴の空の下、とても仲の良い家族が一緒にお昼寝をしている。ありふれているようで、とても大切な日常の1ページだと思う。

 私はもうシンデレラではなくなったけれど、シンデレラと呼ばれた頃に好きになった人と今もこうして幸せな時間を過ごしていられる。すごいことだと思う、もしかしたらこれも一種の魔法かも、なんて冗談めかして考えたりもする。

 童話のように王子様と結ばれるサクセスストーリーじゃないけれど、私にとってはこれ以上ないくらい幸せな時間を過ごせる『本物』を見つけられる物語でした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「「…………………………………………」」

 

「~~~~~~~♪♪♪」

 

 やべえ、正直色々やべえ。読み終えてからなんか首筋に汗かいてきた。

 

「~~~~~~~っ!!!」

 

 ルミルミも少し引いた表情してるぞ、まあ気持ちは分からなくもない。

 

「二人ともどうしたんですか、ほらほら何か言ってくださいよー」

 

 こいつは自分が何を書いたのか自覚してないのか、むしろ自覚してないからこそ平気でいられるんだろうが。見てるこっちが少し恥ずかしくなる内容に、こいつら誰だレベルのキャラ崩壊、シンデレラの皮をかぶった脱線ストーリー。

 

 さっきのルミルミのは、枠組みだけいえば、基本ストーリーに乗っ取ってるからマシな部類だ。でも一色のは、枠組みすら壊しての完全オリジナルだ、どこをどう突っ込めばいいのかほんとにさっぱり分からん。

 

「…ねえ、これってシンデレラ?」

 

 おっとルミルミさん、いきなりズバッと切り込んでいきますね、八幡感心しちゃう。

 

「何言ってるんですか、ちゃんと私が主役のシンデレラの話じゃないですか。ほら先輩、どうですどうです♪」

 

 キャッキャ言いながら身体近づけないでほしい、柔らかい膨らみ意識し過ぎて緊張するだろうが。

 

「まあ、一色らしさの部分が出てるところも結構あるな。シンデレラがみんなに愛されキャラとか、わざとガラスの靴を残す計算高さ、あとちょっとあざとい所とシーンの背景」

 

「でも、八幡と葉山王子はいくらなんでもおかしいよ。そもそも、王子様が悪役になるってどうなの?」

 

「そこは俺も絶対に突っ込みいれなきゃいけない部分だと思ったぞ」

 

「わ、私のシンデレラではこっちの方が合ってるから構いませんよ。それに原作に囚われず、自分のやってみたいこと、されてみたい事を創造して新しく書く方が面白いじゃないですか」

 

「……………」

 

 なんか今、一色が爆弾セッティングしたような気がしたんだけど、気のせいか?

 

「お前、寝取られる性癖でもあんの?」

 

「違います、何言ってるんですかほんとキモイです、ドン引きです」

 

 ちょっと聞いてみただけなのに酷い、そんな白い目で見なくてもいいじゃない。ルミルミに頭よしよしされて八幡少し回復。

 

「そうじゃなくて、自分を巡って男性が対立して、一生懸命向き合っていく展開が女の子にとっての一つの憧れでもあるんですよ!」

 

「それは確かに賛成できる……かも」

 

「そんなもんか?」

 

「それにちゃんと囚われのお姫様であり、想い人を信じる健気なヒロイン、愛の救出劇、初恋の人と添い遂げる幸せ、もうこれ以上ないくらいの王道ストーリーじゃないですか」

 

 自信満々だな、それでももはや童話『シンデレラ』でないことは揺るがないけど。

 

「これって、いろはさんがこういう事に憧れたり、やってみたい事を物語にしてるけど……」

 

「「………?」」

 

 

 

「いろはさんは、心も身体も八幡のモノにされたい、ってことなの?」

 

 

 

ピシィッ!!??

 

 

 あ、今なんか亀裂入った。

 

「「……………………/////」」

 

「八幡と一緒に過ごしたり、膝枕してあげたり、愛の逃避行したり、ヒロインみたいに助けてもらったり、キスしたり、……夫婦になって幸せな家庭を築きたい、そういう事をしてみたいってことなんだ」

 

「「………………………/////」」

 

 今ようやく気付いた、さっきの一色がセットした爆弾は間違いなくコレだ。そんで、ルミルミが見事にスイッチ入れて爆発させちゃいました、実に見事な連携プレーだ、ハイもう手遅れですね。なにやってんだおれは!

 

「あっ、お母さんも帰るみたい。じゃあ私もういくね、今日はありがとう」

 

 おいぃ、何でこのタイミングなんだよ! 狙っているとしか思えないこのタイミング、まさに外道!

 

「ちょっ、留美ちゃん、まって…!?」

 

「八幡、私がいないからっていろはさんとイチャイチャしたり浮気したら許さないから」ガラッ

 

 ぶふううううぅっ!!?? 余計に爆弾落とすってルミルミわざとか、それとも据え膳か!?

 俺っちがいろはを食べちゃってもいいってことか、おいぃ!?

 

 

 

 

「………………………////」

 

「………………………////」

 

「………………////」

 

「………………」

 

 

 

 まあ冷静に考えてみればないな。孤高のぼっちである俺は勘違いしない、期待もしない、妄想されるような展開は起こりえない、それに、一色いろはは俺の中であざとい後輩ポジの人間(でも、最近一緒にいるから線の内側に入ることを認めてやらんでもない)だから間違いもしない。

 

 ちょっとイラッとするが一色も男子とのスキンシップは慣れっこだろうから、今のこいつの態度はただの恥ずかしがっている振りの可能性もあるわけだ。変に意識したら、いつものように振られてごめんなさいのパターンまっしぐらに決まっているからな。

 理性の化け物たる俺は決して、場の雰囲気に呑まれたりはしない。そうと決まれば、さっさとこの場から立ち去ろう、うんそれがいい。

 

「じゃあ一色、俺もこの辺で「……先輩///」(ギュッ)

 

「えーと一色、どうし「……してあげますよ////」

 

「膝枕……してあげます。だから先輩、横になって寝てください////」

 

制服の袖をつかんで、上目遣いで真っ直ぐに視線を向けられると、どうにも弱い。一色は恥ずかしいのだろうか、顔が少し赤くなっている。だが、そんなあざとい仕草で落ちないのが百戦錬磨の俺である。

 

「すまんが一色、そういう冗談はあんまり言わない方がいいぞ。それにお前は男に慣れてるから膝枕くらい簡単かもしれんが、ぼっちの俺にはハードルが高すぎる」

 

「なっ、わ、私、他の男子に膝枕なんてしたことありません! 絶対にするつもりもありません。膝枕するの先輩が初めてです。ていうか、今後も先輩以外にしてあげようなんて思ってないです、私のは先輩専用なんですから勝手に勘違いしないでください!!」

 

「わ、悪い、頼むからちょっと落ち着け」

 

 すげえ勢いで捲し立てたなこいつ、あれ、これって勘違いした方がいいのか? てか、恥ずかしがってる振りじゃなかったの? まじで、ダメだ脳内処理が追いつかん、ボッチにこんなシチュエーションは乗り越えられん。

 

「あーもう、生徒会長命令です、さっさと横になってください、拒否権はありませんよ!」グイッ

 

「げっ、うおっ!?」ストン

 

 

 

 

「「…………………………………………/////」」ヒザマクラ

 

 

 まずいまずい、なんだこの激甘展開。ほんとに理解が追いつかん、誰か助けて! いやこの状況見られたらそれこそ一発アウトだ、やっぱ誰も来ないで。でもそしたらこのまんまか、それもいいかも、イカーン!? やばい思考回路がショートしてきた。…あ、やわらかい。

 

「せ、先輩……どうですか?////」

 

 OK落ち着け比企谷八幡、化け物を超えて菩薩の領域にまで達したお前の理性はこんなものではないはずだ。たかだか可愛い後輩の膝枕ごときで揺さぶられるほど軟な精神力ではないぞ。…すげー気持ちいいです、はい。

 

「おーい、先輩……私の膝枕、どうですか?////」

 

「……すげー気持ちいいかもしれん///」

 

 俺は屈しないぞ、あざとい後輩の誘惑になんか屈しないんだからな。…でも膝枕してるためか、一色が優しく感じる。なんか眠くなってきた。

 

「ふふっ、じゃあ先輩ちょっと失礼しますね♪」ナデナデ

 

「……………お、おい一色/////」ウトウト

 

 あかん、頭撫でられるの気持ち良くて、もう限界です。さよなら鋼の理性、ただいまより比企谷八幡は後輩女子高生の膝枕で夢心地のまま眠ることにします、できれば起こさないでね。

 

「~~~♪」ナデナデ

 

「………zzz」ウトウト

 

「~~~♪」(ナデナデ、アホ毛みょいんみょいん)

 

「……zzzzz」

 

「せんぱーい、起きてますか?……あー、ほんとに寝ちゃってますね///」ナデナデ

 

「………zzzzz」

 

「おやすみなさい、……先輩」

 

「………zzzzz」

 

 

 

 

 

 

(もしも私が本当にシンデレラなら、一つの願いが叶っちゃいました)

 

(私のシンデレラストーリーではもっともっと楽しいことを先輩と一緒にやっていく予定ですからね)

 

(先輩をキャスティングから外すことはありえません、私と一緒に物語を進めていってもらいますから途中でいなくならないでくださいよ)

 

(まあ離れないようにちゃんと手をつないで、先輩を振り回していくんだけどね)

 

(……でも、たまにはこうやってのんびり過ごす時間もいいかもしれない)

 

(だから、先輩と二人きりの時間を独占させてください……もうちょっとだけ、このまま)

 

 

 

おわり

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。