いろはヒロイン物語集   作:たらたら喫茶

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いろはレンタル無期限延長

 CDやビデオ、本や車など今の時代は世界中で様々なモノをレンタルできる制度に溢れているといえよう。期間は借りる人によってそれぞれだ、1日の時があれば、半日の時もある。1週間や1ヶ月もの間レンタルする人だっている。人気の品は絶えず貸し出されいろんな人間の元に渡り、それぞれが個人の欲求を満たすための道具として扱われているだろう。そこに、貸し出されるモノ本来の商品価値があるかどうかは関係ない、見向きすらされていない。

 

 

 貸し出されて、使われることにこそ価値がある。大多数の人間がそう思うことに何の疑問も感じないだろう、当たり前だ。もともと、そのためのモノなんだからな。

 しかし、貸し出すモノ、レンタルされるモノが人間の場合になるとその考え自体が一変するだろう。きっと人々はそろって激怒するに違いない。「それは人権の無視だ」「非道徳的だ」「人間は道具じゃない」などと、どこから湧いたかも分からない自身の正義感に酔って口々に綺麗事を並べ立てて他人を糾弾する。滑稽だ、あまりにも馬鹿げた光景だ。過去の自分を鏡に映して同じことが言えるのかと心の中で噴き出しそうになる。

 休憩時間の遊びで野球をしていた友達Bを、人数が足りないからと強引に友達Aの側に誘いバスケをさせる。ほら、貸し出し完了だ。少々無理矢理なこじつけにも見えるが視点を変えればこういった行為も人間のレンタルに他ならない。

 

 

 

 結局のところ、人間のレンタルなんて行為はごく身近で、日常茶飯事の出来事のように行われているものだろう。

 

 

 

 

 

 

 一色いろはに対して、変な勘違いをしないよう俺は努めてきた……これまでは。

 

 

「先輩って普段、週末とかどうやって過ごしてるんですか?」

 

「本読んだり、アニメ観たり、ゲームやったり、後は勉強したりで超多忙に過ごしてる」

 

「うっわぁ、思った通りの可愛そうな週末ぼっちライフですね」

 

「うっせ、べつにいいだろ人それぞれで。てかそんなことより、自然な流れみたいに、一色と二人で生徒会室にいるこの状況が既に色々とおかしいだろ」

 

「美少女生徒会長の私と放課後に二人きりのシチュエーションに何の不満があるんですか?」

 

「いやいや、ほぼ不満しかねえだろ。なんで毎回便利道具みたいなモノ扱いされなくちゃいけないの。これもう一種の人身売買だろ、非道徳的な行為だ、人権侵害だ」

 

 

 先ほど、考えていたことを適当に羅列して文句を言ってみる。もちろん一色に対して効果があるとは考えていない、どうせ受け流された挙句ただの徒労に終わるだろうから。

 

 

「それっぽいこと言えば罪悪感を感じて、先輩を開放してあげるとでも思ったんですか。……じゃあ反省だけしてあげます、けど先輩はまだまだ返してあげませんよ」

 

「口だけの反省って結構イラッとするんだけど。分かってるから、お前が解放してくれる気が無いのは十分に理解してるから」

 

「なんですか、私のことを十分に理解してるからって彼氏気取りですか、せめてもう何回かデートを重ねて、ムードのある告白をしてくれないともうちょっと無理ですごめんなさい」

 

「だから、お家芸になってる一方的な拒否は止めてくれ、いやほんと頼むから」

 

「でもなんだかんだそうやって受け入れてくれる先輩は私、……その、………好きですよ」

 

「………そ、そうか」

 

「………////」

 

 

 そんな簡単に好きなんて言わないでくれ。たとえ冗談だとしても、もしかしたらなんてみっともなく期待して後悔する情けない自分の姿が頭をよぎる。

 

 太陽が沈みかけている時刻。窓の外に広がる景色は、どこか情緒を感じさせる茜色に染まる夕暮れの空。放課後の二人きりの生徒会室、扉一枚を隔てた向こう側の世界からも他の生徒たちの声や足音は耳に届いてこない。外界と切り離された部屋、誰にも邪魔されない俺と一色の空間、二人きりの世界、など思春期真っ盛りの男子高校生の脳内妄想力ならどんな表現にも置き換えられるだろう。

 

 

「せんぱい、………あの、私………」

 

「お、おう………」

 

 

 一色は少しだけ顔を俯かせた、とおもえば恐る恐るスロー再生動画のようにゆっくりと上半身を俺の方に倒し密着してきた。一色が俺の二の腕あたりの制服をギュッと掴み、身体をグイッと近づけて下から覗き込むような体勢で俺の顔を上目遣いにじっと見つめてくる。一色の顔がほんのり朱色に染まって見えるのは茜色の夕焼けのせいだろうか、鼻腔をくすぐられる甘い香りが漂ってくるのは香水の匂いだけなのだろうか。

 

 思わず身体がのけぞってしまう。ほのかに染まった頬、リップクリームでも塗っているだろうみずみずしい唇、潤んだ瞳、それらすべてのパーツが目の前にあり俺は目が離せないでいる。こうして見ると、やはり一色いろはは可愛い女の子なんだと改めて認識させられてしまう。

 つい、一色の亜麻色セミロングの髪の毛に触れてみたい衝動に駆られてしまいそうになるが、あざとい後輩の演技だと思考を切り替えて自分の欲を押さえつける。

 

 

「「………」」

 

 

 どちらかがゴクッと唾を飲み込む音が聞こえた気がする。

 数秒、数分間かもしれない沈黙。俺も一色も二人して至近距離で見つめ合ったまま動こうとせず、お互いに口が開かれないため生徒会室により一層の静寂の時間が流れる。こういったとき、音楽室から吹奏楽部の演奏でも聞こえてくればこの状況を打開するいいきっかけにもなるんだが、そういった要素も割り込んでくれそうもない。

 

 

「………んっ」スッ

 

 

 一色は潤んだ瞳で顔を、唇を俺の方にゆっくりと近づけてくる。一色の行動が意図を察してくださいと言わんばかりに如実に物語っている。それはとても魅惑的でいたいけな男子を誘惑し貶める小悪魔の所業だ。

 

 俺も徐々に余裕がなくなり、平静を保てなくなってきている証拠に左胸の鼓動が若干速く鳴り、体温が上昇している。高二病でプロのぼっちの俺だって人並みにはそういう事を期待してしまう。ただそれ以上に過去の経験から勘違いしないようにと、目を逸らし続け、抑えつけて、人並み以上に我慢しているだけに過ぎない。

 

 

「い、一色……」

 

「ふふっ……」

 

 

 目の前に来ていた一色の表情が唐突に変わった。頬を緩ませ、口角を上げてニヤリとし、悪戯が大成功したと言わんばかりに、何かを誤魔化すように笑って魅せた。それと同時に、部屋に漂っていた妙な空気も弛緩されていく。

 

 

「なーんて冗談ですよ、せーんぱいっ」

 

「お前な、あんまりそういった思わせぶりな悪戯はしない方がいいぞ。いたいけな男子にしてみればすげえ心臓によろしくないからな」

 

 

 さっと少し距離を置かれることに妙に名残惜しさを感じてしまう。密着して触れ合っていた一色の体温は温かく、俺の鼓動も速まっている。すぐには落ち着いてくれそうもない。

 

 

「先輩だからこそしてるんですよ」

 

「あのなぁ……」

 

「もしかして、先輩ちょっと期待してました?」

 

「………してない」

 

 

 ちょっとの間を置いてから悟られないように嘘を吐く。

 今まで、俺とでは釣り合わない、迷惑がかかる、勘違いだ、黒歴史が云々などとゴチャゴチャ適当にそれっぽい言い訳を探して、お得意の屁理屈を並べ、自分の想いから目を逸らし続けてきた。……が、困ったことにどうあがいても最終的に同じ方向へ、一人のあざとい後輩へと気持ちの矢印が向いてしまう。

 

 列車のレールを途中で切り替えても行き着く先は『いろは駅』、強力な磁石で矢印を別の方角へ引き寄せようともより強力な磁石に引き付けられて俺の矢印は『いろは』へ。

 何がきっかけだったかなんて俺自身もよく分からない。

 

 

「むう、まったく期待されないのもそれはそれで私が傷ついちゃうんですけど」

 

「さいですか」

 

「可愛い後輩が先輩に急接近してるんですよ、もっとこうドギマギ反応するもんじゃないですか」

 

「だって、お前のそれあざといんだよ」

 

「あざとくないですよー」

 

 

 むっとなる表情までもあざとい。でも、今の俺にはその表情すらも可愛く魅力的に映って見えている。いよいよ重症だな、こっちは必死に我慢してるって言うのに、一色はどんどん俺の領域を侵食してきやがる。

 まったく、やられっぱなしである。一色に対して連戦連敗なおも記録更新中だ。

 本当は我慢なんかする必要はないってどこかで気づいているのかもしれない。一色に対して好意を抱く感情を無理矢理に理性で押さえつけてまで我慢しなくていい、自分の気持ちをひた隠しにする必要なんかないと。

 

 

 

 

「……なあ、一色」

 

「はい、なんですか?」

 

 

 俺に比べたら一色に緊張した様子は見受けられない、さっきまでの雰囲気は消え、ある程度リラックスできているようだ。そんな中、俺が空気を一切読まない行動をとればどういう反応をするだろうか。やられっぱなしなのも癪なのでちょっとした反撃とさっきの好奇心の意も込めて試してみたくなった。

 そう思い、一色の頭に手を伸ばしてみる。

 

 

「ふぇっ!?」

 

「………」ナデナデ

 

 

 まあ、反撃といっても俺に大それたことができるはずもなく一色の頭を撫でるだけで精一杯だ。いや、女の子の頭を撫でるだけでも十分に普段の俺らしくもない大それた反撃だな、うん。正直なところ、この行動自体俺なりに勇気を出しており内心では一色に嫌がられないだろうかとかすげえビビってる。

 

 予想外の出来事だったからか、一色は驚いて「ふぇっ!?」なんて素っ頓狂な声を上げた。くそ、普段のあざとさも手伝ってか、瞬間的に素の表情が出るからこそ余計に一色を、その、可愛いと感じてしまう。

 

 

「あ、あのっ、先輩、なんで急に?」

 

「っ!? わ、悪い嫌だったよな!」バッ

 

 

 俺が慌てて手を放すと一色は「あっ」と声を漏らし、名残惜しそうにじっとこっちを見つめてくる。

 

 

「少しビックリしただけで嫌なんて言ってませんよ。その、続けてください」

 

「えっ、と……いいのか?」

 

「良いんです、ほら早く撫でてくださいっ」

 

「わ、わかった」

 

 

 一色に嫌がられているのではないと分かり、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「あっ、ちょっと待ってください。このまま普通にやっても先輩の腕が疲れちゃうと思うんで、先輩の膝を貸してください」

 

「はい、膝を貸せってなにそれ?」

 

「もう、ようするに膝枕してくださいってことですよっ」

 

「別にそこまでしなくても……」

 

「先輩の方から私の頭撫でてきたんですから、私からの要求があっても文句言えませんよね。というわけで先輩、失礼します……ん、っと」ゴロン

 

「~~~っっ!?」

 

「な、なかなか気持ちいいですね、先輩の膝枕。……さ、さあどうぞ私が満足するまで存分に撫でてください////」

 

 

 俺が緊張していることが一色にばれないだろうかと、ついつい余計な心配ごとが脳裏をよぎる。膝から伝わってくるむず痒い感触に戸惑いながらも、なるべくゆっくりとした手つきで再び一色の頭を撫で始める。

 

 

「お、おう……」ナデナデ

 

「~~~ふぁっ////」

 

「………」ナデナデ

 

「~~~♪」

 

 

 素直に頭を撫でられる一色の姿は普段の魅惑的な小悪魔からは程遠い。これじゃあまるで、ただの天使に見えるから余計にドキドキしてくる。

 視覚から入る情報が、手から伝わる感触が教えてくれる。綺麗な亜麻色の髪だ。毎日手入れをして、自分を魅せるための努力を怠っていないのだろうことがよく分かる。

 俺と一色が至近距離にいる、というより触れ合っている状況自体は先ほどと同じなのに今はとても穏やかな時間が流れている、不思議な感覚だ。いや、もしかしたら俺がそう思いたいだけなのかもしれない。

 

 

 

 

「そういえば、さっき俺に週末どう過ごしてんのか聞いたけど、お前の方はどうなんだよ一色?」ナデナデ

 

「私ですか、私は結構すぐに予定とか埋まっちゃって忙しいですよ」

 

「まあ当たり前か、お前リア充だもんな。さぞかしウェイウェイはしゃいでるんだろ」

 

「先輩、馬鹿にしてますよねそれ。あと、撫でるの止まってますよ」

 

「さあな」ナデナデ

 

 

 今までだったら気にしていない、なんてことない一色の返答にわずかばかり動揺して手が止まってしまった。そんな俺の様子に気づくことなく、一色はほんの一呼吸、少し考えるようにちょっとの間を置いて話を続ける。

 

 

「私可愛いから結構モテるんですよ。男子からの誘いなんて日常茶飯事ですから荷物持ちや暇つぶしに利用できて便利ですし、ほかにも……ペラペラ」

 

「…………」

 

 

 一色の話に対して俺はそこそこの相槌を打つばかりでどうにも言葉に詰まってしまう。一色がただ自慢したいだけなのか、俺を挑発して煽っているのかは解りかねる。こいつが男子に人気があるなんて分かっていることだ。一色は自分の可愛い容姿とあざとい性格をフル活用して主導権を握る側に立ちたがるタイプなんだと。

 

 ぼっちの俺以上に広いコミュニティを形成でき、様々なタイプと上手い具合に人間関係を築くことが可能で。

 そしてきっと、一色は俺なんかよりももっといい他の男と……。

 

 

「~~っ! あざといお前のことだから、レンタル感覚でいろんな男をとっかえひっかえする様子が浮かぶんだが」

 

「男をレンタルって、酷い言い方ですね」

 

「お前の話を聞く限り、実際その通りだろ。主導権を握りたがる、選択権があるお前は選り取り見取りで男を選んで借りる側の人間だ」ナデナデ

 

「……先輩もしかして怒ってます?」

 

「はっ、なんで? そんなわけないだろ」ナデナデ

 

「嘘つかないでください。さっきと比べて私の頭撫でるのが雑に感じますし、先輩の口調もちょっと乱暴になってますよ」

 

「………」ナデナデ

 

「否定しないってことは、やっぱり怒ってるんですね」

 

「……ちがう、怒ってなんかねえよ」

 

 

 そうだ、別に俺は怒ってなどいない。ただ、一色が自分の知らないところで他の男と遊んでいる姿を想像するのが嫌なだけだ。一色が他の男と並んで歩く未来を、思い描きたくなかっただけだ。

 

 

「先輩、その、もしかして……もしかしてですけど、嫉妬、してくれたんですか?」

 

「~~っ!?」

 

 

 ズバリその通り、正解おめでとう一色さん。結局のところ、俺はどこの誰ともわからない男に対して嫉妬しているんだろう。たかだか話を聞くだけで嫉妬の感情を抱く自分が本当に情けなく思えてくる。だから、情けないと理解した上で少しだけ正直に感情を吐露してしまった。

 

 

「そうだな、少しだけ………ほんのちょっと、嫉妬した」

 

「……そ、そう、ですか」

 

 

 ほとんど亜麻色の髪に覆われてはっきりとは見えないが、さっきより一色の耳たぶの色にほんのり赤みが増したように見えた。

 一色は何かを吐き出すように、ハァと溜め息をつく。

 

 

「すみません先輩、私がさっき言った事取り消します。さっきのは嘘なんです」

 

「嘘?」

 

「休みの日に、適当な男子と遊んでることです。確かに以前まではそうでしたけど、その、先輩と出会ってからは特に……。とにかく、最近はその、他の男子となんて全然一緒に遊んでませんからっ!」

 

 

 一色はちょっとだけむきになった様子で、俺の不安を打ち消してくれるかのように「他の男と遊んでいない」と強く否定する。心の中でつっかえ棒がとれたみたいにホッと胸を撫で下ろした感じだ。人の言葉でここまで単純に一喜一憂している自分がおかしい。

 一色は何度、俺の心を揺さぶれば気が済むのだろうか。

 

 

「どうしてそんな嘘付いたんだ?」

 

「……どうしてだと、思いますか?」

 

「質問に質問で返すなよ」

 

「これは先輩が自分で考えるべきです。ちゃんと、考えてほしいです……」

 

「………」

 

 

 いつの間にか、一色の頭に手を軽く乗せたままの状態で撫でる手は止まっている。

 ああ、だめだ。一色を相手にするとどうにも感情のコントロールが上手に制御できている気がしない。けれど、今ではそれすらもなんとなく心地良いと感じられる。

 考えていたさ、むしろここ最近はずっと考えているまである。だから、ほんのちょっと正直になったついでに、もう一歩勇気を出して踏み込んでみよう。手を伸ばさなければ届かないというのなら、がむしゃらにでも手を伸ばしてみよう。そう思えた。

 

 

「……先輩?」

 

「一色、その、な、さっきの話ついでに乗っかるようでなんだが……」

 

「はい?」

 

「あー、なんだ、これから先、……お、俺がその、一色いろはをレンタルすることってできるか?」

 

「………」

 

 

 自分でも突拍子も無い相当に恥ずかしい発言だと承知している。今の体勢が膝枕状態で良かった、一色からは俺の表情が読み取れないから。たぶん今顔を見られたら地面に潜ってモグラみたいになるかもしれない自信まである。

 

 

「ま、まあ大丈夫じゃないですかね。私は人気者ですけど、えっと、先輩に借りられても、良いですよ////」

 

「そ、そうか。いいのか////」

 

「「……………」」

 

「ち、ちなみに先輩はどれくらいの期間、私をレンタル希望してくれますか?」

 

「そうだな、貸し出し期間は―――」

 

 

 一色がしどろもどろに聞いてくる姿がたまらなく可愛い。それを見たら頭の中でゴチャゴチャした考えが瞬間的にどこかへ吹き飛んでしまい、こうありたい自分の願望が、ついうっかり口から洩れてしまった。

 

 

 

「―――無期限延長だ」

 

 

 

ボフンッ、プシュー/////

 

 

 

 温めていたやかんでも沸騰したかのような音が聞こえた。そして、熱でもあるんじゃないかというほど顔を真っ赤にした一色は小さく、とてもか細い声で「はい」と頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、途中で先輩と別れてからも私はふわふわした状態で、どこか覚束無い足取りのままなんとか家に辿り着きました。

 

 

「ただいま」ガチャ

 

「あら、おかえり。どうしたのなんか顔が赤いけど大丈夫?」

 

「うん、へいき」

 

「あら、そう?」

 

「……お母さん、レンタルっていいね」

 

「……?」

 

 

 トコトコトコ、ガチャ

 

 

 部屋に入ってから、私は制服を着替えるでもなくぼふっと頭からベッドに倒れこむ。

 

 

「……………」

 

 

 一気に体重を掛けたせいか、身体がずぶずぶとベッドという海の中に沈んでいくみたいです。ただそんな感覚ってだけなんだけど。

 

 

「……うう~~」

 

 

 そのまま、私は手近に飾ってあるクマのぬいぐるみを手に取りぎゅうっと抱きしめてみる。

 

 

『俺が一色いろはをレンタルする』

 

 

「~~~~~~っ!! ~~~~~っっ/////」ギュウウウ

 

 

『貸し出し期間は無期限延長だ』

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~っっ//////」ゴロゴロゴロ

 

 

 とうとう我慢できなくて、私はぬいぐるみを抱いたままベッドの上をゴロゴロ転げ回り、喜びの感情を爆発させました。きっと今の私の顔はだらしがなく、ニヤニヤし、とても幸せに満ちた表情を浮かべているんでしょうね。

 

 

 

「えへへ、わたし……先輩に一生レンタル、されちゃいましたぁ////」

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 




もしかしたら読んだことある人が………いるのかな?
pixivで投稿済みの作品ではありますが、これからも気まぐれで載せていこうと考えてます。

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