メダロット異界異聞戦記伝   作:隔離世テロル

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第4話 193封鎖されていた井の頭公園にて ~吉祥寺Ⅲ~

 翌朝――大陽の光りがカーテンから漏れだし、康高の顔を覆う。ベットから這い出ると、着替えを済ませカーテンを開けた。パソコン冷却用ファンの回転音を聞いた康高は、パソコンの方に目をやった。すると、またしても勝手にパソコンは起動していた。

 

「どうして勝手に起動しているんだ……?」

 

 もしかしてという思いが募る。康高はパソコンを操作すると、やはりメールが届いていた。差出人は、またもやSTEVENだ。内容は、オートマッピングの使用法やらだが、康高自身には関係のない話だった。

 

「これで2回目だぞ、また送ってくるんじゃないだろうな」

 

 ボソボソと一人言で悪態をつくと、半分イライラしながら部屋を出た。階段を降りて居間を見ると、母親らしき人が朝食を作っていた。

 

「あら、康高起きたのね。残念だわ、英雄は先に出たから私達だけで朝食を頂きましょう」

 

 母親らしき人が言うと、お皿にスクランブルエッグとソーセージを盛り付けられる。一方で別の皿にはトースターで焼かれたであろうパンが食卓に並んだ。

 辺りには、香ばしい焼きたてのパンの匂いと、ソーセージとスクランブルエッグの混ざった美味しそうな匂いが漂った。

 

「美味しそうだ」

 

 康高は席に着くなり、いただきますの掛け声の後。テーブルの上にあったコショウを手に取って、スクランブルエッグに振り掛けた。

 すると、ツンとした香りが鼻の中を駆け巡った。康高は、唾液が溢れだしそうになった。たまらずにフォークを手に取ると、パンの上にソーセージとスクランブルエッグを片面にのせる。そこから、パンを半分に折って豪快にかぶり付いた。

 

「うまーい」

「良かった。作った甲斐があったわ」

 

 などと言っている内にペロリと平らげた後。英雄の追うようにして、康高は家を出た。

 歩いて辺りを散策していると、知らない間に公園に来てしまっていた。そんな時だった、みずほらしい格好をした老人が、康高に向かってこう言った。

 

「お前が異界から来た康高か、光と闇や法と混沌、世界のバランスがくずれようとしておる。

いずれにかたむこうと結果は同じじゃ、お前ならどうする?」

 

 康高は、老人に聞かれていても、キョトンとするしかなかった。

 

「どうするというか、異界ってどういうことですか?」

「知らぬのか?」

「記憶が無いんです。だから、何がなんだか分からないんです」

 

 康高がそう言うと、老人は康高を見つめた。すると、老人は何かに気がついた。

 黒い(もや)が、康高の頭の上を覆っているのだ。ならばと老人は、左手に氣を込める。

 

「ちと痛いぞ」

 

 そう言うと、いきなり華奢(きゃしゃ)な腕を伸ばし、康高の頭を鷲掴んだ。康高は激痛に見舞われると、目が白目になり、顔は冷や汗を多量に流しながら気絶していた。

 

「うーむ気絶させてしまったか……。しかし、これで記憶は戻るじゃろうが、いずれにせよ。もう引き返すことは出来ぬ。別の者は、倒すことが出来なかったが……とりあえず力をみせてもらおう」

 

 康高は目を見開いた。周りを見渡すと、どこか知らない場所に来ていた。

 

「ここは夢の中なのか?」

 

 康高がつぶやくと、横にはウェルギリウスとシエミヤが居た。状況が飲み込めないのだろうか、二人とも不思議そうにしている。

 

「ああ、俺も昼間から夢を見ているなんてな、全くおかしいもんだ……」

 

 などとシエミヤは言うが、ウェルギリウスは無言のまま腕を組んで静かにしていたが、辺りを探す為に走り始めた。

 数分走ると、まばゆい光と共に場面が切り替わった。目の前には母親らしき人が、大声で訴え始めた。

 

「ダメよ康高この先はキケンなの! みんなもやめて! 止めても無駄なのは分かっているの。でも英雄が居なくなって、あなたまでも居なくなったら私はどうすればいいの……」

 

 母親らしき人の叫びは無視し、構わず先に進むと扉が見えた。3人は、なんの変鉄もない無機質な扉の口を開ける。すると中で怪しい男が、機械の前で作業している。

 左右を見ると白いハチマキをした巫女2人が、無数の細い紙の付いた棒――御幣(ごへい)――を左右に振り、何かの呪詛を唱え怪しい儀式が行われていた。

 

「我が同胞よ。今こそ魔界より来れー! むむっ一体何の用で、ここに足をふみ入れたのだ。お前達も儀式を見たからにはお前達を生かしては帰さんぞ」

 

 怪しい男はこう言ったが、康高にしてみればオカシイと言わざるおえなかった。だからこそイジリ始めた。

 

「ちょっと待った。儀式を見たからにはって言うけどさ、普通は見せないようにしっかり警備するとか無いわけ? なのに、見られたから殺しますとか正直あり得ないわ……」

 

 康高がこう言うと、怪しい男はがく然としていた。これを見て康高はニヤニヤ笑っていた。逆にシエミヤ達は、怪しい男をかわいそうな目で見ていた。

 しばらくすると、怪しい男の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「そんなことは、今はどうでも良い。絶対に生きては帰さんぞ!」

 

 怪しい男は、まばゆい光を放つと変身した。見ると頭は紅白のかぶり物しており、肌は浅く茶色くなっている。身体には白っぽい緑のマントをまとっている。

 

「我が名は超人・道満。貴様らを殺してやる!」

「チッ! 面倒だな、さっさとカタをつける」

 

 シエミヤはそう口にし、逆にウェルギリウスは無言だったが2人は剣で攻撃を開始する。その(すき)に康高は、印を組み呪文を唱え始めた。

 

「これが初陣だ。行くぞ急々如律令、来いメタビー」

 

 康高は札を取り出すと目の前に投げた。そこに現れたのは、メタリックオレンジと白を基調にしている。全長約1m程の人型ロボットがそびえ立った。

 

「陰陽道だと、ええい! うっとうしいぞ貴様らシバブー」

 

 超人・道満は驚きを隠せないでいたが、2人に呪文シバブーで金縛りにした後。攻撃対象をメタビーに変更した。しかし康高の指示が早かった。

 

「行けメタビー! 反応弾だ」

 

 しかし、メタビーは動かなかった。康高がメタビーを見ると、目が光っていなかった。メダルを入れ忘れていたのに気がついた。

 しかし、その隙を超人・道満は見逃さなかった。康高達に向かい呪文を唱え始めた。

 

「戦いの最中に、よそ見とは良い度胸だな。焼き払え! マハラギ」

 

 超人・道満が手を目の前に出すと、辺り一体が小さい火の海と化した。3人と1体は火ダルマになった。

 

「あ、熱い! ヒーッ!」と康高は叫び、シエミヤは「うわぁー! や、焼ける!」と悲鳴をあげた。逆にウェルギリウスは無言のままだった。

 

「焼けろ、叫べ! 命乞いをするが良い! フハハハハ」

 

 康高達は、マハラギの小さな火の海から防ぐ事も出来ずに敗北した――。

 

 康高が、目を開けて立ち上がると目の前には先程の老人が居た。

 

「気が付いたようじゃな。どうやら、今のお前では無理のようじゃ、運命なら奴ともう一度相まみえようぞ。心してかかれ……」

 

 老人はこう言い残すと、こつぜんと姿を消した。辺りを探すが誰も居なかった。周りには静けさが漂っていた。しかしある一角は異様だった。危険という文字が書かれた黄色い非常線が貼られていたからだ。

 

「少年ここで何しているのかな?」

 

 後ろの方で、不意に聞き覚えがある声が聞こえた。康高は後ろを振り向くと、黒のスーツを着た刃黒が居た。刃黒は、短く手を振りながら康高に近づいてきた。

 

「刃黒さんじゃないですか、いや老人と話しをしていただけですよ」

「ふーんそっかあ残念だな。少年がお茶にでも誘う為にここに来たと思ったんだけど……」

 

 刃黒は少し落ち込んだが、聞き忘れていた事を思い出し少年に言った。

 

「そう言えば君の名前を知らないな。2回も会ったのだから、いつまでも少年と言っていては可哀想(かわいそう)だからね」

 

 康高は、変なことを考えているんじゃないかと一瞬思ったが、仕方なく名乗ることにした。

 

「そうですね。俺の名前は加藤、加藤康高です」

「良い名だ。大事にするんだよ」

「ありがとうございます。ところで、何でここにいるんですか?」

 

 康高には疑問だった。確か羽黒は、部下に呼ばれたはずだった。すると刃黒は、黄昏るように言った。

 

「ここはね……バラバラ殺人事件と、男性失踪事件の現場なんだよ。慣れないし、慣れてはいけないけど、初動捜査で残虐なものを見ると、寂しさが出てくるんだよ」

「そう……なんですか」

 

 康高はこれ以上聞くのをためらったが、刃黒は続けてこうも言った。

 

「だからこそ、こんなことは起こさせてはならない。だけど、(てのひら)に収まるだけしか護る事が出来ないよ。例え超能力者(ESP)や人にも限界があるからね」

「そう、ですよね」

 

 康高は顔をうつむかせた。しかし刃黒は違っていた。

 

「でもこれだけは言えるよ。振り向くな前を向け! 前を向いたら突き進め、お前はお前だってね。まぁこれは部下の受け売りなんだけど」

 

 その時だった。茂みから不審な人が現れると、顔の下半分には、ステンドグラスの紋様が現れると同時に目は紫に光を帯びた。

 

「若い人間か美味しそうだ!」

 

 刃黒には、康高に透明な口が迫っているのが見えていた為に、急に康高を横に押し倒し、康高は転んだ。

 

「チッ外したか、次はない」

「クッ、こんな時に奴らか!」

「奴らって!?」

「とにかくここは俺に任せて康高、君は逃げるんだ」

「はい……でももう1体いますよ」

 

 康高は起き上がり逃げようとするが反対側にもう1体別のが現れた。事態はさらに悪い状況になった。

 

「前門の虎、後門の狼か。康高君、君は悪魔召喚プログラムは持っているか?」

「え、いや、持ってないです。不気味だったんで受け取らなかったんです」

「そうか、なら何か超能力とかある?」

 

 刃黒は苦笑いしていた。逆に康高は、待っていたとばかりにこう答えた。

 

「超能力なら無いですよ。でも戦う術はあります」

 

 刃黒はこれを聞いて安心した。これで安心して任せられるかもしれないと思ったが、一抹の不安も同時に感じていた。

 

「ならそっちは君に任せる。後は頼んだよ。でもこれから見るものは誰にも言わないでね」

「分かりました約束します」

 

 康高はポケットから札を取り出し前に投げた。刃黒は背中から機械的なベルトを取り出した。そして腰に巻いて、機械的なナックルを握ると手を合わせた時、機械音声が響いた。

 

『Ready』

 

 そして二人は同時に叫んだ。

 

「変身!」

「急々如律令、セットメダルオベリスク! 出でよメタビー」

 

 康高の目の前には、目が紅い白い騎士が現れた。刃黒の方は、康高が陰陽道であったことの驚きよりも、こんな小さなロボットで戦えるのかまた不安になった。

 敵に目をやると、白い騎士を見て片方は「イクサめ!」と叫けび、敵は人からクモやカエルに似た異形へと姿を変えた。

 そして敵達は、イクサと呼ばれる白い騎士に向かって攻撃を仕掛けてきた。そこを康高は見逃さなかった。反応弾を撃つよう指示をしようとした時だった――。

 

 上空から男が、高速回転して降ってきたのだった。着地点には、小さなクレーターが出来ていた。敵と康高達は、いきなり現れた男に唖然(あぜん)としていた。

 康高は、男に気が付くと目を光らせた。初老の男性だった。まるでボクシングのレフリーのようだった。男は叫んだ。

 

「この勝負は、真剣異種ロボトルと認定されました。よってこの勝負は、異種ロボトル認定レフリーのミスターうるちが務めさせていただきます」

 

 そうミスターうるちが言うと、手を真っ直ぐに開き腕を真上に振り上げて叫んだ。

 

「合意とみて宜しいですね? それではロボトルファイト!」

 

 ミスターうるちが腕を振り下げるのと同時に康高は先制攻撃を仕掛けた。

 

「メタビー反応弾! 着弾後続けてガトリング」

『いくぜ反応弾!』

 

 黒いツノの部分から、2発の反応弾が煙を帯びて発射されると、敵2体に1発ずつ当たった。続けざまにガトリングの弾がばらまかれると、敵は後ろに引き下がった。

 その隙を刃黒は見逃さなかった。笛のようなものをベルトの横から取り出すと、ベルトの真ん中に差し込んだ。そしてナックルを横に押し込むと、またもや機械音声が鳴り響いた。

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「行くぞ! その罪を償うが良い」

 

 ナックルを取り外すと、敵に向かって走り出し2体殴った。するてガラスが割れ蒸発するかのように消滅した。ミスターうるちは叫んだ。

 

「勝者、康高選手と刃黒選手! では私は失礼させていただきます」

 

 などと挨拶するなり、ミスターうるちは猛ダッシュで走り去った。刃黒は、変身を解除すると膝を付いたのを見て、康高は駆け寄った。

 

「大丈夫ですか」

「ハハハ……まぁいつもの事だから気にしないで」

 

 刃黒は顔色が悪そうだった。どうしようかと悩んでいると、1人のフォーマルスーツを着てヒールを履いた女性が、走って寄ってきた。

 

「あ、先輩どうしたんですか!?」

「いやぁ奴ら二人を相手にしていたからね。まぁしょうがないよね」

「しょうがないよね。じゃないですよ! まだその子は未完成品なんですから、使っちゃダメだってヤタの研究部の方からも、何度も言われているじゃないですか!」

「ゴメンゴメン……それよりもだ、この少年を紹介しよう。彼は加藤康高というんだ仲良くね」

 

 康高は、紹介を受けると女性に挨拶を交わした。女性もそれに答えた。

 

「はじめまして、私は須藤七海(すどうなつみ)って言います。先輩からは、警視庁捜査6課の刑事って言われているだろうけど、本当は警視庁捜査666課通称対魔課の刑事よ。あ、気軽に名前で呼んでくれて構わないわ」

「分かりました。七海さんと呼ばせていただきます」

 

 七海は、刃黒の肩を組んで一緒に帰ろうとした時、こう言った。

 

「ああ、本当は事情調書を取りたい所だけど、先輩はこんなだから明日にするわ、住所教えてくれる?」

「はい」

 

 康高は、うろ覚えな自宅住所を七海に教えると、刃黒を支えながら帰っていった。

 無事に康高は、自宅の前へと帰ると警官2人に声を掛けられた。

 

「ちょっとまて貴様、康高だな!」

「はいそうですけど……」

「それっ取り押さえろ!」

 

 警官は康高を地面に押さえつけて、手錠をつけると目隠しを被せ、何処かへと連れ去った。

 




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