メダロット異界異聞戦記伝   作:隔離世テロル

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プロローグ ―ハジマリ―

 太陽が頂上に昇るころだった。加藤は生きることが嫌になって、首つりの名所――樹海――へ入っていった。

 緑が生い茂る木々を段々進んでいくとチラホラと人が首吊りをした遺体が見えた。

 中には白骨化した死体もある。しばらくまっすぐ歩いていると、『あなたの大切な人が待っています』とか『パパママ私やボクを残してどこへ行くの?』の立て看板が見えた。看板を見ていると一種の皮肉じゃないかと考えてしまう。

 

 大切な人など居ない。子供も居ない。それなのに生きろと周りは、せがんでくる。死はすべてにおいて与えられた権利であり、神による祝福でもある。死ぬことは平等なはずなのに……。

 そんな色物看板を見ているうちに加藤は興ざめした。首吊りよりも川で溺れ死んだ方が供養されて天国へ行けるだろうと思ったからだ。

 

 30分かけ樹海を出ると車を走らせる。樹海に向かう際に見えたコンビニへ向かう。車を駐車場に停め、ルーズリーフとペンと、セロハンテープを買った。

 車に戻ってダッシュボードを開いて、机代わりにすると遺書を書いた。

 

『拝啓この手紙を読んでいるあなたへ、この手紙は遺書です。警察に連絡してこの遺書を届けて欲しいです。生きるのが辛くなりました。遺書の横にある財布のお金はご自由にどうぞ、連絡してくれたお礼です。加藤康高より』

 

 車を出て、橋の真ん中へ向かうと遺書をテープでとめ、財布を横に置いた。

「……覚悟は出来ている」

 加藤はこの一言だけ残して橋の上から川へダイブした。

 

 これで俺は心置きなく死ねるんだ。何者にも縛られることはない死の世界へ――

 しかし、運命は彼自身を殺すことを許さなかった。下流の岸の方に打ち上げられ倒れていたからだ。

 

「生きて――なぜ生きているのだ!?」

 

 俺は死のうと、川へ再度飛び込もうと思ったが「下流だし苦しまずに死ぬにはやっぱり飛び降りか」とつぶやくと今日死ぬ事は止めにした。

 起き上がり周りを見ると、何やらアタッシュケースらしき物が岸に流れ着いていた。

 アタッシュケースに近づいて拾って開けてみると何だか知らないが六角形の金属みたいな物が3枚あった。

 

「何だ……コレ? 真ん中に緑の丸いものがくっついているけどキレイだな。でもコレ、昔どこかで見たことがあるような気が……」

 あたりは夕暮れで、周りは所々雪が積もっている。加藤はメダルを手に取り、すべてポケットに入れた。

 加藤自身メダルの事を思い出そうと考えていた為か、体が冷え切っていたことをすっかり忘れ去っていた。北風が往々にして吹くと身震いをして歯をガタガタ鳴らす。

 

「ヘクションッ! それにしても寒いな……防寒着をとって――って財布は橋の上に置いてきたんだったな寒いけど我慢して帰ろうヘックションッ!」

 

 それもそう今日は12月24日クリスマス・イブの日だ。寒いのは当たり前、恋人たちが性なる夜を過ごす日でもある。

 

「ああ……惨めになる。車も上流のほうだし、自殺の仕切り直しは本当にイヤだな。でも次こそは確実な死に方を選ぶかな」

 

 次の死に場所はビルの屋上からの飛び降りだと、加藤はそう決意を固めると、明日には別の遺書を書いていた。

 

「クリスマスに飛び降りなんて、むなしいというか儚いな、床一面に真っ赤な俺の血を代償にでサンタを召喚しようなんてな」

 

 書きながら加藤はそんなブラックジョーク想像していた。

 

 もっと言えば幸せそうな人を巻き込んで死ぬのもありだなとも考えていた。実は加藤、リア充爆発しろ教という新興のカルト宗教に入信しようとしていた。教祖が言うには『一日1万回唱えればリア充は爆発します』と言っていた。しかしイチャイチャしているカップルに唱えているが、まったく爆発しない。教祖による実演だと爆発していたはずだが……。

 ともあれそんな宗教などおさらばだ。現に加藤自身が自殺を考えているのに、宗教やらへったくりもあったものじゃないし、仏や菩薩に苦を説いてもらうなど、おこがましく感じた。

 

 長ったらしい遺書を書き終えると辺は夕暮れになろうとしていた。

 

「じゃあ行きますかね。そういえば六角形のアレどうしようか……? まぁ死ねば、警察が落とし主を探してくれるでしょ多分」

 

 独り言をつぶやくと加藤は、ファマゾンで買ったB級ホラー映画に出る幽霊の格好に着替え、六角形のアレを懐に入れ家を出た。周りの目は痛いが、これから死ぬのだから関係ないのだと加藤は割り切った。

 徒歩20分かけ駅前に向かい、目的地の連打乱打マークタワーの16階屋上――通称名人タワー――に加藤はやってきた。いろいろ考えた末に飛び降りをするならと、某土管のおじさんを真似ることにした。

 ダッシュから飛び降り、最後はマンマミーヤと叫ぶのだと加藤は覚悟を決め実行に移した。一気にスパートをかけ高いジャンプを決めるとそのまま空中へダイブした。

 

「Oh マンマミーヤ!」

 

 地面に触れようとした瞬間、黒い渦が現れると彼の死体と共にあの六角形の物も、いずこかへと消えた。

 そんな一個人のことなど気にもせずに人々の時間は過ぎ去っていく、むなしくもはかなく――

 

 そんな痛くもバカバカしい自殺をした加藤は目を覚ます。辺りを見回すと、あるのは白い虚無。地平線のごとく先が見えない空間を見て、誰にも縛られない天国へ来たのだと思った。

 

「ん……ここはどこだ? ああそうか天国へ行けた――」

「いやそれは違うぞ康高よ!」

「あ、あなたは誰ですか!?」

 

 目の前に颯爽と現れた男は「やれやれ」とつぶやく。康高が良く見ると軍服を着た男だった。

 

「ほう……我の名を知らんとはな、まぁ仕方なかろうがな。我の名は加藤保憲、またの名を魔人加藤である!」

「魔人加藤? もしかしてあなたは世にも名高い中二病患者!?」

「違う断じてそれはない。我は帝都を憎むものなり!」

「いまどきそんなの流行りません。いや流行らせませんよ」

 

 康高はふざけた頭のオカシイ人を相手にしなければならないのは辛く感じた。一方で加藤保憲は、康高が全く隙を見せないことに少々動揺していた。さすが我が孫であり、半身だと感心をしていた。

 

「ほう……流行廃りなどとほざくか、まあ良いだろう」

「これは流行廃りの問題じゃないと思いますよ。時代遅れです」

「ぐぬぬ!」

「何がぐぬぬですか!?」

 

 目には見えないが紫電の如き火花が二人の間をほとばしった。この状況をはたから見るなら漫才である。ボケとツッコミ、受けと攻め、良くも悪くもお似合いである。

 しかしそんな漫才も終わりを告げる。段々と冷静に(バカバカしく)なり、話を切り出したのは憲保の方だった。

 

「ごほん! て、帝都を憎む云々の話はここでは抜きにしよう」

「随分とへなちょこになったな、別に良いけどさ。結構陰湿だったろ? 伊達に罵り道六段はやってないってことさ!」

「何! ぐぬぬ。しかし、今日はこの辺にしておこう私は帰って計画の仕上げに取り掛からなければならないからな!」

「へー逃げるんだぁ~。笑っちゃうなぁ、ご先祖様はこんなにも情けない人だったなんて……」

 

 康高が憲保を見る目は、明らかに人を見る目ではなかった。かわいそうな人を見る目だった。この際、知らなければ良かったと思うのは当然だった。

 

 もし、現代の日本で憲保と住んでいたならば、康高によって社会的な抹殺を図られただろう。

 プライドをスダズタにされ、胃薬が片時も手放せなくなる程になるはずだ。

その場合の呼び名は"胃薬"変人加藤憲保となって、恐怖など微塵もなく、只の胃痛のひどい軍服マニアでしかなくなる……。

 得意の陰陽術は使うことさえままならない。いつ胃痛が来るか分からない。目標が達成出来ないストレスで髪は抜け落ちて、育毛剤が手放せない。

 正にひどい有り様だ。どちらが悪者なのかさえ分からなくなる。

 ――片方は罵るだけの悪者だが……。

 

 そんな冷やかな目線を感じた魔人加藤は、泣き始めてしまった。どうでも良いとさえ思うほどに。

 そんな魔人を見て康高は思った。この俺を呼ぶぐらいだから本当は何かあるんじゃないか、させたいことがあるんじゃないかと……。

 

「ゴメンよ。んで本当は何をさせたいの? 泣き虫で、罵りがいのある魔人さん」

「ええい! まだそんなことを、だが仕方がない。話すしかなかろう」

 

 話し出した内容は、計画性があったが予想外な事が起きたということだった――帝都を破壊したは良いが、破壊した力が強すぎて空間がねじれた。ねじれた空間は何重にも拡がり、世界が歪んでしまった。

 どうにかするにも抑えきれず、身体が崩壊したという。だから子孫である康高に頼むことにしたという。

 

 話を聞いて康高は思う。帝都を破壊したが自分まで自滅するなんて、どんなアホなラスボスなんだ。大体普通見通しを立てて、計画的かつ自らの被害を受けないようにするべきだろう。

 その上、自分の失敗を子孫に押し付けるなんて、大層な身分だ……これは笑うしかない。

 内心でプークスクスと、ほくそ笑みを浮かべる。しかし顔に出ていた様子で、見ていた保憲はうつろな目をして、急にお腹を押さえ始めた。

 

「アレアレご先祖様~腹の具合は大丈夫ですか~?」

 

 康高は棒読みで心配するそぶりも見せず、あざ笑う様だった。

 

「き、貴様! 今日という日をわ、わすれにゃ、は、腹がー! メダルさえ無ければお前なんぞぉぉぉお、おー!」

 

 キュルルルルと鳴る腹の音に、康高は歓喜する。やはりこの人をイジルのは楽しいと思う。死ぬ事さえ出来なくて、先祖の人に厄介事を押し付けられそうになっているのだ。これぐらいのことで、悶えられてもらっては困ると康高は感じる。

 一方で保憲は内股で走りながら、ポケットから札を取り出す。何もない場所からトイレが出てくると駆け込んでいった。

 

 この状況をはたから見て、本当にどちらが魔人だか分からない(ただし片方は罵るだけだが)。

 

 そんな時に、ふと康高は疑問に感じた。奴が『メダルさえ無ければお前なんぞ』と言っていたからだ。たまたま拾ったこの三枚のメダルにそんな力が有るようには思えなかった。どこかで見たことは確かだが……。

 

「まぁ……後で聞けば良いか、どうせ奴はトイレの中だし」

 

 保憲が悶絶しているのを想像するだけで、康高自身は悪い笑みが止まらなかった。

 

 




ルート上において、メダル捜索のくだりは不必要だと判断し削除しました。
感想のほどよろしくお願いします。

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