気に食わなかったのでこのページまるごと書き直しました。
文字数えらいことになったので2ページに分けました。
流れは元々と同じですが、めっさ描写増やしました。
サクラの心情とかだけ変えました。
いやもう、ほんとすみません……。
※
ここは……。
と、立ち上がる。
何時の間にか眠っていたのか、気を失っていたらしい。
私は左右を見渡して状況を確認した。すると、辺りは果ての見えない真っ暗闇。その闇に浮かぶように、右手にサキ、左手にアキラが倒れていた。
とんでもない光景に息を呑む……が、考えても理解出来ないのは分かっている。直近の記憶でセレビィが未来予知をするって言っていたのは覚えているし、多分そういうものなんだろう。
とりあえず、二人を揺すって、目覚めさせた。
「ん、サク?」
「頭痛い……ですの」
揃って頭を押さえながら起き上がる二人。
その表情は険しくて、どうやら揃って頭痛に襲われているようだった。
私は特に頭痛くないんだけど……。
頭痛を堪えるような仕草の中、二人はどうも記憶を思い返しているようだった。
やがて「ええっと」と口火を切ったサキが、「確かウバメの森に……」と、零す。どうやら痛みで記憶が混濁しているらしい。私は頷いて肯定した。
「そそ。そんで……」
「森の神様ですわ。セレビィに出会って、わたくし達に本題と言っていたような……」
私はアキラの言葉にハッとする。
そういえば、『本題』だと教えてくれた当人が居ない。
思わず辺りを見渡せば……。
『ここだ。主よ』
と、いきなり目の前に現れる海鳴りの鈴。何処かからやって来たというより、ランプが点くような様子で現れた。思わず悲鳴を上げた。
『ここはセレビィの未来予知だ。存在するもの全てがセレビィによる空想の世界だ』
私が仰天する様子も何のその。
ルギアはそう言って、この状況を説明してくれる。……多分、説明してくれている。よくわかんないのは、まあ……サキが巧く解説してくれるよね?
と、目線を向ければ、彼は溜め息混じりだった。
「……ったく。前にメイがゴチルゼル使ってやってたじゃん? あのもっとすげえバージョンってことだろ」
言われて思わず「おお」と感嘆する。
辺り一面なんか宇宙みたいなんだけど、そうか。これ全部セレビィが造ったのか。
すっごーい。
「貴女ってほんとのんきですわね……」
溜め息混じりのアキラ。
褒められている気がしない。
「褒めてませんもの」
デスヨネー。
私は思わず肩を落とした。
まあ、流石に自分でも『すっごーい』は無いと思う。そう叫んじゃった数秒前の自分を殴りたい。
『主。セレビィが時を動かすようだ。本題とやらを見せたいそうだ』
お得意……というか、恒例の貶し合いをやっていれば、ルギアは溜め息を吐いた様子も無しに、そう言った。
『時を動かす』という良く分からない言葉に、思わず隣のサキを見てしまうけど、彼も訝しげな顔付きをしているだけだった。一応アキラも見てみるけど、サキが分からないのならお手上げといった様子。
已む無く首を傾げて待っていれば、唐突に目の前の風景が激変した。
ぶわり、ぶわりと、風が吹くよう。物凄く大きな光が、輪になり、束になり、まるで虹のような色彩で迫って来て、私達の前にくると弾けて、瞬いて、目が開けてられなくなった。
思わず「きゃあ!」と叫んで、次に目を開けたら……。
「ひでぇ……」
サキが、ぽつりと零した。その表情は、正に絶句という言葉が相応しい。
わたしも目を見開いたまま、動けなくなってしまう程の衝撃を覚えた。
辺りは緋色。
建物という建物が、獄炎に燃やされていた。
バキバキという乱暴な音。
目が痛くなる程の光量。
肌が粟立つ程の熱量……は、錯覚かもしれない。
でも、わたしにとって、既視感がありすぎる光景だった。
思わず両肩を抱いて、身を縮こまらせる。ドクンドクンという音が、聴覚とは別のところで響いて、脳を侵すようだった。
全身の汗腺がきゅうってするような、目に見えている光景とは、真逆の温度を感じた。
「……サクラ。大丈夫か?」
そんな私の背中を撫でてくれる温かい手。
ハッとすれば、サキが隣で心配そうな顔をしていた。
私は頷いて、改まる。
今に吐いちゃいそうだけど、我慢出来ない程じゃない……それこそ、サキが居てくれるおかげだろうか。彼の顔を見れば、確かな安堵感を覚えた。
「でも……此処、どこですの?」
サキと同じく、私の様子を認めたらしいアキラは、辺りを見渡してそんな事を言った。
私も倣えば……嘔吐感が増す。気持ち悪い。
だけど、アキラの疑問も分かった。
「ワカバタウンか?」
私は首を横に振る。
違う。ワカバに『海』は無い。
遠目に見えるそれは、ワカバの横にある湖とは、てんで大きさが違った。
「此処は……もしや」
そこであたりをつけたらしいアキラの声。
振り向けば、彼女もこちらを向く。こくりと頷いた。
「おそらくですが、アサギではないかと……海の他に、ほら」
として、指を差された先には、天へと届きそうな程の高さを持った建物。
ああ、確かに……ジョウトで高い塔があるのは、キキョウ、エンジュ、コガネ、そしてアサギだけだ。他の三つの街にも湖はあるけど、やはりあんなに大きくはない。コガネは海に面しているけど、コガネにしては建物の背が低い。
「ええ。間違いありませんわね」
でも、だとすると……何で、燃えているのだろう。
と思えば、アキラは唇を噛んで、俯いた。
「……おそらく、未来ではないかと」
絶句。
私は思わず蹲った。
胸を迫り上がってくる気持ち悪い衝動を堪えようとして、胸と口を鷲掴みにする。きつく押さえつけていれば、その背中を撫でてくれる小さな手。ふと手の主に目をやれば、アキラが申し訳無さそうな表情で、隣にしゃがみこんでいた。
何時の間にか離れていたもう一方の手を疑問に思って、サキへ振り返れば……彼は固唾を呑むような表情で、明後日の方向を見ていた。
「サキ?」
私の様子に気が付いたアキラが、彼に問い掛ける。
自然とその視線の先を追おうとして――。
「馬鹿! 止めろ。見るな!!」
私とアキラの視線に気が付いたらしいサキが、途端に前に立ち塞がった。
だけど、見えた。
見えてしまった。
鋭利な鎌を振り上げるストライクの姿。
その先には、やめてくれと言わんばかりに、手を上げて懇願する老人。
ストライクは、何度も、何度も、非力な老人の身体を抉った。
血飛沫にも気を止めず、何の感情も無いかのように、機械的に鎌を振り下ろしていた。
やがて命乞いをする手が、力尽きても、その鎌は……何度も、何度も、繰り返し振り下ろされていた。
その一部始終を、サキが遮りきれなかったところから、認めてしまう。
目を背けたい筈の光景を、視線までもが麻痺してしまって、見続けてしまった。
さぁっと血の気が引いた。
ドクンドクンと喧しく鳴っていた鼓動が消え去った。
「サクラ!」
背中からアキラに抱き締められる。
目と片耳を塞がれ、余った方の耳に「大丈夫だから」と、何の根拠もない言葉を投げかけられた。……何度も、何度も。
そして、また光がくる――。
ぶわりぶわりと駆けて、落ち着けば、また同じような風景。
火が建物を呑み込んで、ポケモンが人を蹂躙していた。
「ちくしょう……何だってんだよ!」
「ここは、エンジュでしょうか……」
苦々しげに零すサキと、消沈したような声で零すアキラ。
もう気持ち悪くすら無くって、私は私を庇ってくれていた手を、ゆっくりと退ける。
心配そうに見詰めてくるアキラには申し訳無く思ったけれど、私も辺りを改めた。アキラの指の間から見えていたけど……やっぱり、酷い有様だった。
と、思えば……ガラリと大きな音を聞く。
ハッとしてその方向を認めれば、天にも届きそうな程の、荘厳な塔さえもが燃えていた。その外壁が崩れ、何やら宜しくない雰囲気を漂わせている。……と、言わずもがならしい。こちらに向かって、倒れようとしていた。
「……おいおい」
「倒れてきますわね……」
茫然と認める私達。
本来なら逃げようと必死になるところだろうけど、私は腰が抜けて立つ事すら出来なかった。咄嗟に立ち上がろうとしたアキラも、踵を返したサキも、「未来予知だから、大丈夫だよな?」と確認しあうばかりで、逃げる様子は無かった。
だけど……二人の表情も、すこぶる悪い。
さっきの凄惨な光景の所為かもしれないけど、おそらくこの状況が何を示すか……と、考えているのだろう。
茫然自失な私にだって分かる。
巨大な鈴の塔が、街へ向けて倒れてきているのだ。
その被害は……想像もしたくない。
グシャリ。
そんな音を聞いた。
また、光が来る。
今度は……これは、キキョウシティだろうか?
ついこの前訪れたばかりだし、間違いは無さそうだ。
ただ、記憶にある光景とは、やはり違う。
緋色の炎によって、てんで違う印象を覚えた。
「……何だよこれ。一体何なんだよ」
「わたくしも……もう限界ですの。胸糞悪いのを通り越して、吐き気がしますわ……」
苛立ちを顕にするサキ。
私と同じく腰を降ろして、お腹と口元を押さえるアキラ。
気丈なアキラさえもが我慢出来ない光景に、私が耐えられる訳が無い。
嘔吐していないのは、見ている事に何の感情も働かせていないからだ。
自分で理解出来る。
そう理解出来てしまう程、やけに冷めた感覚だった。
何で燃えてるのだろう?
これが未来だとすれば、ワカバタウンみたいな事が、また何度も起こるって事なのだろうか……。
そんな事を考えながら、私は不意に深い思い入れのあるキキョウジムへと視線を向ける。とすれば、そこには見覚えのある青年が、背の高い男の人と相対していた。
ツバサ……さん?
オニドリルとピジョットを従え、煤塗れの顔を拭うキキョウシティポケモンジムの長。出されている二匹はきっと、彼の純粋な手持ちポケモンなのだろう……だけど、相対している七色のポケモン一匹を相手にして、明らかな劣勢だった。
そのポケモンを認めて、私は刺すような頭痛を覚えた。
咄嗟に耳元を押さえながら、顔を
まるで警鐘を鳴らしているような頭痛を無視して、視線を七色のポケモンの主の方へ……。
――ああ、やっぱり。
そう悟った時、私の意識は途絶えた。