キキョウシティポケモンジム。
登竜門の一番最初。始まりのジム。ベースは飛行タイプがメインかつ、ジム戦用に繰り出されるポケモンの相対レベルは低い。とはいえ、レベルが低い事がそのまま弱い事とイコールではなく、どんなに強いポケモンでもトレーナーの指示が悪ければ突破は難しいとされた。
登竜門の始まりではあるが、キキョウシティポケモンジムは突破率が僅か5パーセントの難しいジムだった。それは『これから旅をはじめる』トレーナーに対する最低限の敷居ではあるが、最低限にして難関との呼び声が高い。尤も、ここの難度が低いと、旅のトレーナーがパートナーの力量不足により危険に陥るかもしれない。そういう事を加味した上で、最低限『トレーナーとポケモンの命』を守れる強さ、判断能力を問う。
奇しくもこの時、先日の『ワカバタウンの壊滅』にあたってジムリーダーが長く席を空けた。戻った際には予約が殺到しており、故に普段はある『ジムトレーナー戦』は省略され、直接ジムリーダーが全ての挑戦者に対応をしていた。
僅か三〇分間隔にて訪れる挑戦者に対し、手持ちポケモンを二匹ずつ使い、戦う。三戦終わったら三〇分休憩をし、その間にジム用ポケモンを入れ換える。
そんな過密スケジュールだったが、ジムリーダーが帰って来てから一週間足らず。まだ彼は誰にも『ウィングバッジ』を渡していない。
予約を入れた時間は昼過ぎの一番目。一三時からの枠だった。過密スケジュールなので五分前には来てほしいと連絡があり、サクラはその更に五分前……つまり一〇分前に、キキョウシティポケモンジムの前にやって来た。
軽いウォームアップがてら、レオンとルーシーの二匹と一緒にランニングを行い、軽く体を温めてから二匹を臨む。
「レオン。今回は貴方がメインでお願いね」
「チィ!」
「ルーちゃんはタイプ相性悪いから、レオンが決めきれなかった時にお願い」
「ルー!」
ジムの前にて二匹へ作戦を告げ、彼らと円陣を組んで気合いを入れてから、モンスターボールに入れた。そしてジムの扉の前を臨む。
「サキ、絶対勝ってくる」
そう言って拳を差し出す。
「無様な姿見せたら蹴っ飛ばすぞ」
にやりと笑いつつ、サキはサクラの拳へ自分の拳を軽く当てた。
コツンと、相棒同士の挨拶。
サキは観客席で観戦する事になっていた。
ジム戦の観戦は基本的に自由だ。むしろ観戦を行い、戦略を立ててから挑むのが普通だ。その実昨日フジシロと別れ、ポケモンセンターにレオンとルーシーを預けた彼女は、同じく手持ちを預けたサキと共に観戦を一度行った。
そして知る。
ジムリーダーたる『ツバサ』の強さを。
受付で使用ポケモンの記入――サクラはチラチーノとドレディアだけを書いた――を済ませ、ルールを確認。ジムリーダーの使用ポケモンは二体。挑戦者は登録した手持ち。それぞれが尽きるまで戦う勝ち抜きバトル。
戦闘不能判別は戦闘続行が困難な状態異常、瀕死、気絶、絶命――勿論絶命は早々有り得ないが――、場外での
ルールの確認を終え、どうぞと促されてサクラは扉の前に佇んだ。脇の階段から応援席へ上がっていくサキと目を合わせ、頷き合う。
――大丈夫。負けない。
『挑戦者、ヨシノシティ。シロガネサク』
アナウンスで呼ばれて一歩前に出る。
扉を潜ればすぐにバトルフィールドがあり、奥には袴姿の青い髪を目のラインで切り揃えた青年がいた。入って目が合うと一礼し、相対するトレーナーゾーンに入る。
応援席には多くの観戦者がいた。相当な数のトレーナーがここで立ち止まり、挑み始めた登竜門の高さを知る。
『キキョウシティジムリーダー。ツバサ』
ジムリーダーの一礼。倣って再度サクラも返した。
「挑戦者、今一度ルールの確認は良いか?」
ツバサとサクラの間に立ち、赤と白の旗を持った男がそう言う。前回二人がジムを訪れた際に受付をしてくれた青年だった。
「はい」
一言で返す。
「では両者、ポケモンを出して構えられよ」
サクラはチラチーノ。
ツバサは隈取りが印象的な茶色い鳥ポケモン『ホーホー』を出す。
ごくりと息を呑んだ。
このバトル前にやってくる不思議な高揚感は、他の何事にも変えがたい独特な緊張。張り詰めた空気がむしろ心地よく、深く、深く、集中する。
観客もごくりと生唾を呑むような、不思議な沈黙。
その中、ジムリーダーは片手を挙げた。
「四天王に輝いた父の名に誓い、正々堂々と勝負する」
サクラは一礼し、復唱する。
「故郷に誓い、正々堂々と勝負します」
審判が離れ、壁際へ行く。
ジムリーダーが胸に着けたジムバッジを高々と掲げる。
「君が僕に勝てばこのウイングバッジを差し上げる。但し、僕は強く、君の旅の一番最初たる壁となって君を阻む」
「はい!」
「是非とも全力で、勝ち取ってくれたまえ」
その顔には、余裕。相当レベルで遥かに上回るチラチーノを前にし、同じくホーホーも全くもって臆さない。
「入れ換え無しの勝ち抜きバトル――」
審判が高々と旗を掲げた。
「初め!」