天を渡るは海の音   作:ちゃちゃ2580

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序章
序章


 のどかなのどかな村、ワカバタウン。

 

 村には有名なポケモン博士の研究所があるだけで、ポケモンを治療する為のポケモンセンターが無ければ、デパートはおろか、トレーナーズショップさえ無い。村民にトレーナーが居ても、治療施設はポケモン研究所にあるメディカルマシンで事が足りる程、とても小さな村だった。

 

 そんなワカバタウンに、二つの新星が誕生したのは、もう随分と昔の話。

 

 

 公式の記録に本名は残っておらず、愛称とされた呼び名が、数多の偉業と共に残る。

 天を象徴する伝説のポケモンに愛されたゴールド。

 湖を象徴する伝説のポケモンに愛されたクリスタル。

 ジョウトの地で、二人の呼び名を知らぬ者は少ないだろう。トレーナーであれば、誰しもが知っているのではないだろうか。

 

 その二人は、二人一組で有名だった。

 ウツギ博士によって同じ時期に見いだされ、ワカバの地を旅立ち、瞬く間にポケモントレーナーの最高の栄誉とされるポケモンリーグ制覇を成した。その旅路の最中でも、アルフ遺跡の謎を解いてみせたり、コガネのラジオ塔を占拠したマフィアの残党を解散させたりと、枚挙に(いとま)がない。

 更にその後、二人は協力を重ね、最強のトレーナーと謳われた猛者さえも戻らなかったとされる、シロガネ山の登頂を成す。

 

 その功績は真に認められ、ポケモンリーグを管轄するポケモン協会から評されるに至った。

 

 二人が一〇歳の頃に旅立ち、それから長く時が経った今となっても、のどかなワカバタウンではあるが――この地には英雄の家もあると、言えるようになった。

 

 

 英雄はやがて、互いを半身のように愛し合い、一つの実りをこの世に産み落とす。

 

 笑顔が愛らしい少女は、二人が愛した樹の名を与えられた。

 

 その名前は、『サクラ』。

 

 とても美しく、人の歩む大地へ微笑みかけるように、花を咲かせる樹。同じように美しく、地を這う虫さえ慈しむ人に育つように。

 

 サクラはすくすくと育ち、二人が望んだように愛に溢れた少女になった。

 

 二人の英雄は、それはそれは幸せだったと言う。

 

 

 しかしある時、二人のもとにある報せが届く。

 それは、確かな凶報だった。

 

「ウツギ博士、それじゃサクラをお願いします」

 

 ある日の夜半、クリスタルはそう言って、幼い少女を初老の男に預け、頭を垂れた。

 

「きっとこの鈴が、お前を護ってくれる」

 

 ゴールドはそう言って、眠る彼女の小さな手に『鈴』を握らせた。

 

「Lとサクラちゃんの事は任せておいてくれ。何があっても護ってみせる。……何事も無ければ良いんだけど」

 

 ウツギは泣きじゃくる幼子を抱き、Mの文字が烙印された紫色のモンスターボールを、金庫にしまった。

 

 

 ある春の日。

 

 少女がまだ四歳の頃。

 

 二人は金色のポケモンに乗って天へ旅立った。

 

 名残惜しそうに、まるで今生の別れと言わんばかりに、ワカバタウンを何度も何度も振り返りながら……。

 

 

 

 その日から一〇年。英雄達の旅からは二五年が流れ、二人は未だ帰らない。

 

 

 この話は、二人の英雄が故郷としたワカバの地が、黒煙に撒かれるその少し前から始まる。『鈴』を託された少女が、一四歳に成長した頃だった。

 

 全ては時の導くままに、少女は海神と呼ばれたポケモンに出逢う――。




二、三回全文修正したのですが、懲りずに気が向いた時に加筆修正をしてます。主に三人称、三人称一元、一人称の混合に直してます。

進捗27ページまで完了。
この前後で描写力が激変していますがご了承を。
また、他の機会で修正する機会があったページは丸ごと直していたりします。

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