モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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5.抗う者と蹂躙する者達

「なんだ?」

 ライラルは、漂ってくる焦げた匂いに反応した。荷台から顔を出すと、ラインロードの南門が見えている位置まで来ている。だが、

「!? 総員! 戦闘用意!!」

 上空から、滑空してくる数匹のレウスを捉え、全ての車両に聞こえるように叫んだ。

 レウス達は上空を通過しながら全ての車両に火球を落していく。荷台を引っ張っていたアプトノス毎、高々と吹き飛び、かろうじて脱出した面々は武器を構え、レウスの存在を認識した。

「後部の車両は!?」

 後方も同様に、レウスの襲撃を察して一人も欠けることなくハンター達は脱出している。

 確認したリオレウスは5匹。上空を旋回し、着地する気配はなさそうだ。折り返す様に弧を描いて再び向かって来る。

「……ラインロードは既に――」

 レウス達が来たのはラインロードからだ。予想よりも早くリオレウスの群は街に到着してしまったらしい。

「ライラル隊長! 来ます!!」

 隊員の一人が、接近してくるレウスを見て叫ぶ。だが、もう少しの距離まで肉薄したところで、不意に悶えるように空中で暴れ出した。

「なんだ!?」

 そして、そのままライラル達の上空を通り過ぎると、少し進んだ道の先に墜落し、尚も何かを振り払うように暴れ回っている。

「隊長――」

「! 待機! 俺が近づく。上空を警戒していろ!」

 墜落したレウスは、ゆっくりと力尽きるように既に絶命していく。ライラルは武器を構えずに近づと、レウスの死の原因を悟った。

「カルス殿」

 その火竜の躯から、血を一度払って離れるように双剣を後ろ腰に戻す人物は、カルスだった。

「一体いつ、取りついたのですか?」

「最初に荷台が吹き飛んだ時だ。脱出する機を逃してな」

 カルスは荷台が吹き飛んだ時に、近くを通過したレウスに取りついたのだ。

 あの時に、一瞬で行ける、と判断した事にライラルは驚愕しか出来ない。少しでも機会があれば、ソレを逃さずに掴む。これが……裏に生きる特務部隊か――

「上空のレウスはギルドナイトに任せても良いか? 私は、ハンターたちを連れて先にラインロードへ向かう」

 既に、カルスは全ての状況を悟っていた。目の前にラインロードは見えているのだが、進行速度――荷車を失った事と、既に都市にレウスが侵入している事態から、一刻の猶予も許さないと、先に向かう必要があると判断したのだ。

「任せてください。レウスが、そっちに向かったら援護します」

「頼むぞ」

 カルスは、後方で上空のレウスを警戒しているハンター達に声をかけ、ラインロードへ走り出した。

 その様子を上空のレウス達は見逃さない。そのハンターたちの背後を追撃するように、高度を下げて来た。その瞬間、レウスの一頭が撃ち落とされる。

「お前達の目的は解らないが……狩猟場でギルドナイトに背を向ける事は、命取りになると本能に刻んでおけ」

 

 

 

 

 

 市街地に着陸した15体のリオレウス。それは、どれもG級と判断されるほどの固体である。

 東門へ固まったハンター勢力と5体のリオレウスの戦闘が開始された。後退できない状況下と、殆ど地に降りることなく火球と爪で攻撃してくるリオレウス達に苦戦を強いられている。

 そして、8体は各々で市街地に舞い降り、我が物の様に歩いて巡回している。生半可な武器では不意打ちで倒す事が困難なG級のリオレウス。現在の市街地の様子は最悪と言っても良い

 そして、残り2体は――

「キャァァァ!!」

 南門の避難していく市民たちへ襲い掛かっていた。

「くそっ!」

 しかし、誘導と指示を出すために残ったギルドナイトと数名のハンターが、ギリギリのラインで何とか引きつけている。それでも、一向に進まない避難にギルドナイトが叫ぶ。

「何をしている!? 門は開かないのか!?」

 市民たちは門の前で溜まっており、先に進めない様子だった。そのギルドナイトの隙を突いたリオレウスは彼に火球を放っていた。

「しまっ――」

 直撃を覚悟して目を閉じて身を強張らせたが、

「門を開けるギミックが壊されているようで、修理しなければ開かない様ですわ」

 火球は手前で割って入ったハンターによって無効化されていた。

 金髪のブロンドヘアーに整った上品な顔立ち。レイアS一式に全身を包み、片手剣――祀導器【一門外】を持ったハンターである。

「アリアナ殿。礼を言う」

「礼を言われるような事をしたつもりはありませんわ。ハンターとして持つべき知識で判断した結果ですのよ?」

 G級レウスの火球は盾で受けても数メートルは後ろに引きずられる。しかし、アリアナは火球を受けた際に盾を少しだけ斜めにして受けており、衝撃を半分以下に引き下げたのだ。

 咄嗟の動作で、現状で最も有効な対応している。彼女はG級ハンターではないが、次の試験では確実に認定されるとお墨付きをもらうほどの実力者だ。

「一人でも欠ければ、目の前の二体のリオレウスは間違いなく市民たちに向かいます。それだけは絶対に許してはなりませんもの」

 ギルドナイトは3人。この場はアリアナを含めて計4人で持ちこたえなければならない。

 二体のレウスは、不意に現れて容易く火球を無力化したアリアナに警戒するように攻めあぐねていた。

「先ほどの話……門を開ける機構が壊されていると言ったな?」

「ええ。皆さんがラインロードより脱出するためには、誰かが直さなくてはなりませんわ。それも、迅速に」

「だが、今はこの場から離れられん。こいつらを討伐せねば市民に被害が出る」

 今もレウス達は警戒している様だが、いつ思い切って突っ込んでくるとも解らない。こちらから仕掛け、レウス達のペースを終始乱し続けることで、こちらに釘づけしなければならない。

 上空の30以上のレウスの群も未だに滞空したままだ。もう少しすれば、増援が駆けつけるのだが――

「ですが、門が開かない以上、増援もラインロードへ入れませんことよ?」

 彼女の言うとおりだ。ここは、多少強引にでも門を開けなければ、事態は一向に好転しない。

 足止めが出来るか……? この状況……二体のG級レウス相手に――

「そんなに何を悩んでいるのか、わたくしには理解しかねますわ」

「お、おい!」

 双方の硬直を破る様にアリアナは前に、レウスに向かって足を踏み出した。

 

 

 

 

 

「早く、門を修繕しなさい。あの二体は、わたくしが抑えます」

「だが――」

 ギルドナイトは彼女一人が抑えると言う事に躊躇を見せたのだが、レウスはソレを待たない。警戒していたアリアナが一人前に出た事で、二体は彼女をロックオンした。

 アリアナはギルドナイト達と一直線にならない様に横へ走る。

 一体は咆哮を響かせ、もう一体は走り出した彼女へ火球を放つ。

「なっていませんわ」

 咆哮を盾でガードし、火球は動くアリアナには当らない。横の屋台が吹き飛び、少しだけ土埃が上がった。

 間を置かずに土埃を一瞬にて晴らすレイアの突進。それだけでも死を連想させる圧力をアリアナは感じていたが、それは何度か経験したことがある慣れた感覚だ。

 突進するレイアの頭を踏み台にして、その背を走り渡る。そして、尻尾の先端から着地すると目の前には、もう一匹が大顎を開いて喰らいかかってきた。

「下品ですわね」

 片手剣――祀導器【一門外】が抜き放たれた。唯一、容易く刃を通す事が出来る口内。その裏側から、脳を貫ければ確実に沈黙させられる。しかし、

「切り替えましょう」

 片手剣のリーチでは標準以上の体躯を持つ、G級レウスの脳には口内から届かない。乱戦になる事を考えて、立ち回りやすい片手剣を選んだが、少しだけミステイクだったようだ。

 盾で噛みつきをガードすると、一歩踏み込み、頭部へ無数の斬撃を見舞う。しかし、それは軽く頭部の鱗を傷つけただけだった。

「流石、G級ですわね。浅い剣筋では血も流れない」

 突進していたレウスが切り返してくる。噛みつきの動作で首を動かしたレウスは身体を半回転させ、周囲の屋台を吹き飛ばしながら尻尾をアリアナに叩きつけた。

「ですが、アナタ達には唯一の欠点がある事に気づいている?」

 アリアナは、その場で身を沈めるように尻尾を回避する。しかし、その動作では後ろから突進してくるレウスは防げない。

「気づいていないの? なら、教えてあげる」

 次の瞬間、突進してきた背後のレウスに旋回してきた尾が頭に叩きつけられ、横の建物に吹き飛ばされた。崩れる瓦礫が暴れるレウスに落下していく。

「アナタ達は、徒党を組んでから日が浅い。集団での立ち回りは脅威だけれど個々の連携は殆ど出来ないと、わたくしは判断していますの」

 アリアナは、余裕の表情を崩さずにそう言い切る。その言葉を信用するように、ギルドナイト達は門の修理に向かった。

 

 

 

 

 

 街を徘徊する8体のG級レウス達。

 何を捜しているのか、それとも警戒しているのか、その心を知る事は不可能だが、その内の2体が、命が消える際の咆哮を上げていた。

「……将ですらないか。やはり、ただの雑兵――」

 ジーンである。彼は、短時間で徘徊するG級レウスを2体討伐していた。1体目と交戦していたところで2体目が来たのだが、彼にとってすれば、この場に居るレウス達は、まともに相手にする方が難しいほどの弱者だったのだ。

「よぅ、ジーン。やってるかい」

 そこへ、団長であるベリウスが片手をあげながら、挨拶でもするかのように現れる。彼の傍らには、フードを目深に被った白髪の女が居た。

「団長。ファルも一緒か」

「ジーン、武器は?」

 ファルと呼ばれた白髪の女は、静かに口を開く。フードに隠れているが、長い後ろ髪を三つ編みにして肩口から垂らしていた。

「上々だ。盾の耐久性も問題ない。砥石の使用頻度も標準圏内に収まっている」

「では、採用にします。近い内に使用レポートをまとめるから、報告をお願いね」

「団長。南門の開閉機構を破壊しました。今、ラインロードは外部と孤立しています」

「おお。有能な奴をもって、オレは嬉しいぜ」

 その時、正面の通りの角からリオレウスが歩いて現れた。ベリウス達の存在を確認すると威嚇の咆哮を上げる。

「――――」

「まぁ待てや。ジーン」

 抜刀しようとしたジーンを制するようにベリウスが告げた。

「オレがやるよ。まだノルマの2匹に到達してないからな」

 ベリウスはジーンと違って背に四つの武器を装備している。

 

 太刀――ゼファー。

 大剣――覇剣エムカムトルム。

 双剣――轟爪【虎血】。

 片手剣――ウォガウォガ。

 

 それらの武器全てを試験用に持ち歩いていた。全て、試験として使うには脆すぎる為に一度の狩りでは危険であると判断された武器。本来なら一つ一つを慎重に使って行かねばならない代物である。

 しかし、ベリウスは、その全てを特定の狩りで使用しており、大幅なデータ収集を行っていた。今回の件も、そのつもりで持って来たのである。

「まずは太刀(ゼファー)から行くか」

 ベリウスは地面を蹴る。石畳が砕けるほどの脚力は一瞬でリオレウスとの距離を縮めて行く。

「『紫電』」

 正面から向かって来るベリウスに、レウスは迎撃の火球を口内に溜める。その刹那に彼の姿が消えた。

「!」

 最初に加速した時と同じ、加速法で横へ跳び退き、横の建物の壁を足場にしていた。そして、太刀の柄へ手をかけて側面からレウスを狙う。

「マジかよ」

 しかし、レウスはベリウスの動きに反応していた。側面から襲ってくる彼に、瞬時に首の動きを変え、至近距離で火球を放ちながら羽ばたき、ふわりと後方へ。火球はベリウスへ直撃する――

「甘く見てたのは、お互いか?」

 ベリウスは飛来する火球を、神速の抜刀で両断していた。左右に分かれて足場にしていた建物に激突して爆発する。

「ファル! 奴の心臓はどこだ?」

 ベリウスは壁から地面に着地しながら太刀を正面に構えて声を張り上げる。

「――――左翼より左に30センチ。下に15センチの位置です。だけど、あのサイズの固体なら、覇剣エムカムトルムで頭を狙った方が早と思われますが」

「なら、狙うぜ……」

 防具の下でベリウスは口の端を吊り上げる。

 距離を置いたレウスは着地すると同時に、その巨体で押し潰さんと突進を仕掛けてきた。

「十字断裂斬を」

 ベリウスは、横に太刀を水平に寝かせ、その場で強く腰を落としてレウスの突進に身構えた。

 

 

 

 

 その一閃は、力任せに刃を叩きつけるような一撃だった。

 突進してくるリオレウス。その巨体は、正面からまともに受ければハンターでさえただでは済まない。

 加えて、向かって来るのはG級の大型サイズである。その巨体の全体重を乗せた突進は致命傷どころか、一撃で命を奪われかねないモノだ。

 しかし、ベリウスは避けるつもりは無かった。正面から真っ向に迎え撃つ為、深く腰を落とした構えは命を投げ出す者の構えである。

 レウスが迫る。その速度も巨体が相まって凄まじいモノに引き上がっていた。

 ベリウスは太刀を横に寝かせたまま一歩踏み出す。砕ける石畳。そして突進の際に突出しているレウスの頭部に、音も無くゼファーが通り過ぎた。

 斬られたと、レウスが気づき、大きく怯んで突進を停止した時には、ベリウスは自らの一閃に耐えきれず折れた太刀を捨てて、別の武器――大剣を両手で握っていた。そして――

 例の消えるような加速で、僅かに足りない距離を瞬時に移動する。

 しかしレウスも、その数瞬の刹那の間に無防備であったわけでは無い。振り下ろされる大剣と相討ちに形になる様に、正面からベリウスへ火球を放っていた。

「十字断裂斬――」

 至近距離。正面からまともに火球を喰らいながらも、振り下ろされた大剣はG級レウスの頭部に叩きつけられ、頭蓋は与えられた衝撃に耐えきれず破損して砕ける。

 そこでようやく、太刀の一閃によって両断されていた頭部が剥離を始めたが、大剣の一撃によって石畳に叩きつけられるように激突したレウスき気づかぬまま絶命していた。

「――――ファル」

 正面から火球を受け、身体の半分が燃えているベリウスは、振り返りながら問う。

「損傷とダメージ計測を頼む」

「…………どっちの?」

 燃えるベリウスを見ながら、相変わらずの無茶ぶりにファルは呆れていた。彼の狩猟は自分の命を何も考えていない……まるで特攻だ。

 しかし、対するジーンは今、目の前で起きた事がどれほど凄まじいかを改めて認識させられる。

 鋭く、どんな(なまくら)でも一級品の刃物と化す一閃。

 どのような攻撃が来ても、怯まず、止まらず、最高峰の一撃を確実に叩きつける剛撃。

 その二つの技量に、太刀と大剣は耐えきれず大きく損傷していた。

 太刀は二つに折れ、大剣は砥石では修繕が不可能なほど刃こぼれしている。二つとも、ベリウスが、たった一回、使用するだけで近い物にならなくなってしまったのだ。

 武器が技量についていけない。これが、創設時より彼が『死竜』の団長をしている最大の要因だ。

 使える武器が無い。それほどに、狩人として極みに近い存在が、ベリウス・ストライダーという人間なのだ。

 『死竜』をこの手に収めると言う事は、そんな彼を越える事を意味しているのである。

「うぉ!? アチチ!! 水はどこだ!?」

「あちらに井戸があります」

 ようやく自身が燃えている事に気が付いたベリウスは、ファルが指を刺した先の井戸に飛び込んだ。




アリアナは『アヴァロンの戦士』さんからの提供キャラです。

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