モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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21.起源の意志

 「その身、その実に何を目指す? 若き狩人」

 雪山に向かおうとしていたラガルトの目の前に現れたのは、一人の男だった。全身を覆うフードコートに、雪原を歩く為のブーツを履いている。

 「燃えるぅぅ。そんな、俺自身の最大最強の、生涯のライバルを越える為だぁぁ!!」

 まるで雄叫びを上げる様に、ラガルトは男の不信感にも気落されずに叫ぶ。

 「……強い。絶対に折れない精神を既に持っている。いや……産まれつきの素質――“才王”というものか」

 フードから覗く片目でラガルトを見定める。だが……と、男はそれでも“四人”には到底及ばないと呟く。

 「ここから先は未知でも地獄でもない。ただの現実そのものが形となった世界だ。故に、常人では荷が重い。ただの“天才”では荷が重い。その世界でまともに戦うには、“同じ”にならなければならない」

 男の言葉は少なからず、ラガルトの身を案じての事でもある。彼では、今、雪山に居る“彼”を止める事は不可能だと言っていた。

 「かつて、一人の狩人が、我々と同じに()()()()()。結果としては彼女が止めたが……それでも、未だに片足をこちらに突っ込んでいる」

 「誰だ! それは!」

 「知ってどうする?」

 「そいつこそが! 俺の生涯のライバルだからだぁぁぁぁぁ!!」

 何と言われようと、ラガルトがハンターをしている理由はただ一つ。

 いつか現れる目の前に現れる生涯のライバルを越える事。ソレはまだ居ないが、いつか必ず出会えると信じていた。つまるところ、馬鹿なのである。

 「――――フッ。名を明かす事は出来ん。“彼女”に止められているのでな」

 「そうか。それじゃ、しょうがないな」

 今にも戦い始めると錯覚するほどに燃え上がったラガルトの闘気は、水をかけられた様に一瞬で鎮火した。その極端なオンオフに、流石の男もこけそうになった。

 「今の銀世界に行くのはお勧めできない。せめて、“嘆き”と共に登山する事をお勧めする」

 「そうか。ありがとう!!」

 あっさりする程拍子抜けにラガルトは踵を返して去って行った。

 「長生きはするものだな。あのような“戦士(サシャール)”が要るとは」

 フードの男――クロードは、ラガルトの事を全くもって考えの読めない馬鹿だと、思う事にして踵を返し背中合わせに去って行った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「では、シュウエンさん。例の“飛竜”について話してください」

 ファルはシュウエンを連れて、集会場で情報の提示を求めた。その場には、ディクサと当事者であるヴァイ、そしてコノハが席についている。

 「おや? ケイミではないですか。そんな隅っこに居ないで、こっちに座ったらどうです?」

 「話しかけんな。あと、子供に向けるような口調で話しかけたら次は殺す」

 少し離れた場所で、不機嫌ながらも仕方なしと言った形で椅子に座ってその場に居た。別に聞こえるので、無問題と言いたげである。ソーは、お腹一杯になったのが目の前で涎を垂らしながらうつ伏せで眠っていた。

 「まだ怒ってるのですか? もう6年も前の話でしょう?」

 「話しかけんなって言っただろーが。死にてぇのか? ああん?」

 「あぁ、平行線なので、話し進めてもらっていいですか?」

 ディクサが仲裁に入り、チッ、とケイミは舌打ちしてシュウエンから視線を外す。

 「それよりも、ラガルト君が居ない様ですか?」

 「気にせず始めてください。らちが明かないので」

 姿の見えないラガルトには後で自分が説明すると、ファルは進める事を望む。その様子に、ヴァイとコノハはもちろん、ファルにディクサ、ケイミも聞き逃す事の無いように集中する。

 「恐らく、この中には聞き覚えの無い方も居るかもしれません。ワタシもまさか、本当に居るなんて思いもしなかった。コレは……稀というレベルを超え、ある種の進化と言えるでしょう」

 そして、シュウエンはある単語を皮切りに説明を始める。

 「人が……可能性を秘めて進化する。限界を超え、人はモンスターへ対抗する術を確立させた。同時に、モンスターも進化している。けれど……これは全くの逆と言える現象です」

 「…………チッ」

 その言葉にシュウエンが何を言いたいのか、ケイミだけが察していた。ソレは彼女が初めて対峙した“狂種”にも存在した要素であったからだ。

 「先祖返り。それは、決して見てはならず、遭遇してはいけなかった……『祖』の血を濃く現れた竜の事です」

 

 

 

 

 

 「フェニキア・シャムール殿。要請に応えていただき、感謝の意を申し上げる」

 「…………」

 フェニキアは、フィルブラットの前に座っていた。だが、この場に来ただけ、と言いたげに本を開いていた。

 「今回、君には確認してもらいたい事がある。君の抱える専属狩人(オーダーハンター)である、セル・ラウトについて」

 相変わらず、我関せずと言った様子でフェニキアは本を読み続ける。

 「彼は死亡扱いだ。かつて、一体の古龍と戦い、命を落としたと記録されている。だが、彼は実際に生きている。その辺りの辻褄が合う様に説明が出来るかね?」

 「…………」

 「フェニキア殿。召喚に応じたと言う事は、我々に話す事があると言う事でしょう? 少しは真面目に返答をしたらどうなのですか?」

 共に立ち会っているギルドナイトのライラルは口を挟むつもりは無かったが、あまりに不遜なフェニキアの態度に声を荒げる。

 「…………技術も、文明も……一歩も進まない時代(とき)がある。そして……時代は巻き戻る」

 本の頁をめくる手を止め、少しだけフェニキアは語りだす。

 「過去に出来上がった“技術”が……(いま)の時代では理解できなくなった。理解し、再現する者を異端として輪から追放した」

 それは()()()()の口調では無い。まるで()()()()()のような口調である。

 「氷の中を掘り進む竜が居ると言ってソレが伝説になり、風や雷を操る原理がわからないから得体が知れないと彼らを“古龍”と分類した」

 そして、本を閉じると何かを思い出す様に呟くように彼女は繋ぐ。

 「貴方たちは解る。いずれ解る。だけど()()()ではダメなの。全てが巻き戻る前に、誰かがソレを成さなければならない」

 彼女は立ち上がるとその場に居る誰に告げるのでも無く、ただ口から出る言葉がソレだけであるように告げる。

 「“ソレ”とは解る? まだ貴方達では解らない。けど、()()()解る。今の時代は一縷(いちる)の暗黒時代。故に彼は一度死んだ。死ななければならなかった。そして、()()()()()()()

 その声はいつものやる気の無い彼女のモノ。だが、どこか、得体のしれない何かがフェニキア・シャムールから漂い出ている。

 「選択は……二つに一つ……その内の一つは既に失われた。私は安寧(シャムール)。永遠に繋ぎ、繋がれる為だけに居る贄。だから、私はフェニキア・シャムールなの」

 そして、それだけを告げる為に来た様に踵を返して扉へ向かう。

 「セル・ラウトの報告は誤認と言う事か?」

 そのまま行かせる前に、フィルブラットは最低限の事柄を彼女へ尋ねる。

 「見たまま……後は……わかるよ。彼は……生きているから」

 振り向くことなく決定的な事柄を告げ、扉を開けて彼女は出て行った。

 

 

 

 

 

 装備を整える。

 片腕で鎧を着け、ポーチの道具を確認。ホットドリンクに回復薬全般。そして長期戦を予期して、例のドリンクも持っていく。

 「…………ディクサ。行くぞ」

 「うっす」

 立ち上がったケイミの後に同じく装備を整えたディクサも続く。少し休んでの出立。日はすっかり落ちてしまったが、わざわざ朝まで待つ義理も無い。

 「考える事は同じみたいですね」

 集会場から依頼を受注しようとしたところで、ファルと鉢合わせた。傍にはラガルトも居る。

 「ディクサァァ! 行くぜ、行くぜ! 燃えてきたァァァァ!!」

 「夜中だから、あんまりね。大声は避けようぜ」

 だんだん、ラガルトの扱いに慣れてきたディクサ。その間にケイミはファルと話をつける。

 「正直な所、貴方には村で待機していてもらいたいのですが」

 「ガキが生言ってんじゃねぇ。アタシはクソをぶっ殺しに来たんだ。お前が待機してろよ」

 「では、さっさと片付けて帰還しましょう。私も今後の予定が詰まっているので」

 「ケッ。本当に可愛くねぇガキだ。その言い方、アイツにそっくりだよ」

 身を隠すほどの大剣を肩に担ぎ、ケイミは先に歩き出す。

 「……誰の事ですか?」

 「ああ? セル・ラウトのボケだ」




そろそろ、何のモンスターかわかった方もいるかもしれません。
次は狩りをします。

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