モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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20.炸裂本能

 ケイミ達の乗る荷車は、雪崩以外のイベントは特になく、通常よりも多少早い日程でポッケ村に辿り着いていた。

 「来たぜ! 来たぜぇぇぇ!! ポッケ村ァァァ!!」

 荷車を降りて、うぉぉぉ! と叫ぶラガルトの声は村全体に響き、村人たちも何事かと室内から出てくる。

 「うるせぇな。おい、あのテンションはどうにかならねぇのか?」

 「ああ言う性格ですので、広い心で対処していただければ」

 ケイミとファルは、最初こそ妙な衝突があったものの、お互いに“ポッケ村の依頼”を受けていた事から協力する事を決めていた。

 「無理だ。アタシは、うるさいのが一番嫌いなんだ。黙らないなら、ぶん殴って黙らせる」

 ケイミの身体能力を考えると殴られるだけで頭が消し飛ぶ。ファルは仕方なしにラガルトへ声をかける。

 「ラガルト。今の村の状況を考えてください。みんな不安なんです」

 「ん? おう、そうだな」

 「……ったく、その馬鹿みたいな聞き分けの良さは何なんだ」

 ファルとラガルト。道中で拾った二人のハンターは特殊な武器を持ち合わせており、あの『死竜』に所属しているらしい。

 「あの“クソ野郎”の猟団の奴は皆ぶっ飛んでると思ったが、お前は比較的マシだな」

 「それは認めますが、それなりに戦果は上げています。特に団長は負け知らずですので」

 「知ってるよ。不本意ながら、あのクソは兄弟子だからな」

 ケイミはベリウスとは同じ師を持つ関係上、交流は浅くない。ラインロードで同じように猟団を運営している事もあり、ある程度の噂は嫌でも耳にするのだ。

 「言っておくが、敬意は欠片もねぇ。ジジィは『死竜(そっち)』と接触しようと躍起になってるが、話を聞いたか?」

 カルス・ハルバートが、自分たちの猟団と接触しようとしている様は知っている。だが、団長(ベリウス)の意向としては、ギルドの要人との接触は極力避ける様に通達を出していた。

 「いいえ。ですが、ある程度は予測しています」

 「あん?」

 本来なら、ソレは『死竜』が単体で行う事柄だったのだが、別ルートでその情報が露呈してしまっていたのである。大きな猟団や有力なハンターに声をかけて、ある場所を奪還する為に戦力が集められていると言う。

 「『死竜』は参戦する事は決まっています。『灰色の狼』もそうですよね?」

 「タイミングが合えばな。とにかく今は、目の前の事態をさっさと片付けるのが先だ」

 ケイミは騒がしくしていたラガルトの声で、自分たちが来たと察した村長たちが歩いてくる様を視界に映した。

 

 

 

 

 

 「遠くからどうも、ありがとうございます」

 ケイミとファルは、荷物の移動とソの世話をラガルトとディクサに任せて、長老とギルドの責任者から集会場でポッケ村の事情を聞いていた。

 「長い挨拶は嫌いでね。本題を聞こうか」

 中でも明らかに成人女性に見えないケイミ。少女姿で片腕片目の彼女の様子には遠巻きで様子をうかがっている村人たちも不安なようだ。

 「私共も、出来るなら長期滞在は避けたいと思っているので、用件だけを簡潔に教えていただければ」

 ケイミに賛同する様にファルも口を開く。ハンターとしてはケイミよりも大人びているが、若い女性と言う事で、村人たちはケイミと同等の不満を感じていた。

 「あと、コソコソ様子を伺ってる奴らがウザい。おい! てめぇら! 言いたい事があるなら、ガン飛ばして言って見ろや!!」

 ガタっと立ち上がって、凄まじい気迫で入り口付近でこちらの様子を伺う村人たちをケイミは睨む。ソレに気落された彼らは蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。

 「申し訳ありません。我々としては、今回の事態は過去に会った“轟竜”と“崩竜”に匹敵する事体と我々は認識しているのです」

 「……その件は私達も存じています」

 ファルは自身の“父”が、その当事者であったと思い返していた。

 「当時は、多くのハンターの方々や協力者によって撃退する事が出来たのですが……今回は何故か、ギルドの対応が遅い」

 「そりゃ、そうだ」

 ケイミの言葉に、長老とギルド責任者は眼を向ける。

 「知ってるつもりでも、知らない事の方が殆どだ。特に知識が浅いと()()()()()になる。人の生き死にが関係する関係上、知らなかった、じゃ済まされねぇ。だから、ソレに特化したアタシが来たんだ」

 「特化した……とは――」

 村長は、ケイミの重々しい言葉に答えを求める。

 「“狂種”。アタシの雇い主は、特殊な動きをする飛竜(トカゲ)どもをそう呼んでる。大概は、モンスターでありながら、()()()()()()理不尽の塊みたいなクソ共だ」

 それだけを告げると、これ以上は話す意味が無い悟ったのかケイミは一方的に立ち上がる。

 「やり方はアタシらに合わせてもらう。横から口を挟まれるのは嫌いでね。後で、解るだけの情報をくれ。ソレが入り次第、ぶっ殺しに行ってやるよ」

 言葉は乱暴でも、やるべき事はきちんと果たす眼をしているケイミを見て、長老は一度だけ告げる。

 「よろしくお願いします」

 「……では、私もそのようにお願いします」

 ファルも明確な立ち回りを決めるのは、敵の情報が入ってからだと判断し椅子から立ち上がった。

 「失礼ながら、お二人は同じパーティではないのですか?」

 ギルド管理者が、二人の様子を見て素朴な質問を投げかける。

 「いえ。彼女とは所属している猟団が違います。私は知り合いが巻き込まれたので、その生存確認に出向いたんです」

 「アタシは完全にパシリだ。だが、トカゲ共に好き放題されるのはもっと嫌いでね」

 「ふむ。しかし……外部の者は殆ど村から退去しましたし、空振りに終わったかもしれませんよ?」

 「いえ、まだ居るハズです。シュウエンという、竜人族の考古学者ですが……この村に居るハズです」

 その名前に、ケイミは、あ゛? とあからさまに不機嫌な表情でそんな声を上げた。

 

 

 

 

 「でぃくさー」

 「おう? どうした?」

 荷物を降ろしていたディクサは、村人があてがってくれた部屋に、必要な道具を運び終え、荷車を引いていた草食獣(アプトノス)に餌を上げていた。

 「ソ、おなかすいた」

 「マジか。おーい、ラガルト」

 ラガルトは仁王立ちで腕を組み、雪山を凝視していた。マフラーの様に首回りに追加された装飾品がバサバサと風に揺れている。

 「なんだ!」

 「いちいち、声がでけぇよ。なんか、食い物もってねぇか? お嬢ちゃんが腹減ったって」

 「なら、狩りだな! この辺りの地形を把握しておく意味も入れて、周囲を見て回ろうぜ!」

 「一理あるな。けど俺、荷物見とかないと団長にぶっ殺されるんだわ」

 「俺もだ! 勝手な行動は部隊規則違反なのだ! どうしたらいい!?」

 「村で何か買うか……いや、例の狂種の所為で、食料の備蓄に余裕はない感じだし……って、ソ、なにやってんの?」

 ソは、草を食べるアプトノスの前にしゃがんで、様子を伺っていた。

 「でぃくさー、おいしい?」

 「言っとくけど、草は食ってもまずいぞ。団長が帰ってきたら、ちょっと相談するから、それまで――」

 「じゃあ、こっちでいい」

 と、ソはおもむろにアプトノスへ、小さな口を開いて喰らいかかった。

 

 

 

 

 

 「何やってんだ? お前ら」

 「団長! ソがアプトに――――」

 ケイミは一足先に宿に戻ると、何やら騒がしい様子に顔をしかめた。

 暴れ牛の様に全身を揺らして振り落とそうとするアプトへ、ソが小さな体でしがみ付いていた。

 「ギャグか! やめろ!」

 その声に、アプトもピタッと動きを止める。その背中をがじがしと、厚い草食竜の皮膚には到底届かない歯を立てているソだけが動いていた。

 ディクサはソを引きはがすと脇を抱えてケイミの前に吊るす。

 「こら、クソガキ。アタシの部下に噛みつくな」

 「けいみー、おなかすいた」

 「さっき、アタシの飲んだだろ」

 道中でケイミがソに飲ませたドリンクは、ただのドリンクでは無い。それこそ、凄まじい量のカロリーを摂取できる代物で、常人が飲めば二日分のエネルギーを体内に摂取できるのだ。

 「おなかすいた」

 「……はぁ、わかった。なんか作ってやるよ。ディクサ、適当に草食獣をぶっ殺して来い」

 「いいっすけど、料理道具はどうするのですか?」

 「適当に焼く。細かいのは必要ねぇ」

 ケイミは村中に漂う絶望感のような雰囲気が嫌いなのである。余裕が無いのは解るが、そんな雰囲気では、こちらも気持ちが暗くなると言うものだ。

 「適当に、見繕ってきますよ」

 「それと、うるせぇ奴はどこに行った?」

 姿の見えない、うるさい奴――ラガルトの姿をケイミは探す。

 「なんか、偵察とか言って、雪山に行きましたよ」

 「は?」

 

 

 

 

 

 ファルは、集会場から少し離れた宿に居たシュウエンの元に案内されていた。そして、出来れば居てほしくなった顔を見て、嘆息を吐く。

 「生きてたのですか。いっその事、くたばっててくれた方が良かったですよ」

 「酷いですね。ベリーは元気ですか?」

 「追われている身でありながら、勝手にあっちこっちに行くのはいい加減にやめてください。手間なんです」

 「すみません。ですが、今回は急ぎの調べものだったので。単独行動を取らせ頂きました」

 身勝手な行動は気に入らないが、少なくとも成果は出すのでファルは仕方なしに腕を組んで結果を尋ねる。

 「それで、ソレに値する成果は得られたのですか?」

 「はい。やはり“祭壇”はこの地にある様です。加えて、『審判の日』の正確な日時も相当近づいていると思います」

 それは、シュウエンが調べている、ある種の“終わり”だった。

 数々の伝承を調べて、ひも解いた結果、何の関係もなさそうな伝承の数々は最終的に一つに繋がっているのだと言う。

 「『審判の日』までに、四つの戦力を整えておかなければなりません。ベリーは自分に合う武器を?」

 「そちらの情報通りに向かいました。今頃、空の上です」

 「では、残り三人ですね。ベリーに並ぶ実力者は……一人は心当たりがあるのですが――」

 「その件はまだ後で良いでしょう? 今は、ポッケ村の状況を何とかする方が先です」

 保護対象の無事を確認し終えると、ファルはシュウエンの部屋を後にする。

 「この村に何か思入れが?」

 いつもなら、身内が絡んでなければ余計な事に首を突っ込まないファルがポッケ村の状況に進んで関わろうとしている事が気になった。

 「……貴方には関係ありません」

 だが、ファルはそのように素気なく返事をするのだった。


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