モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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17.力の集合地点

 ケイミは、物陰で縮こまって己の恥を思い返しながら頭を抱えていた。

 「ジジイに見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……」

 と、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返している。女性団員たちが庇うように慰めの言葉をかけていた。

 カルスは、ドンドルマとラインロードを何度か行き来しており、次は別の地域に向かう為、最後の挨拶に寄ったのである。

 ソレがまさか、弟子のコスプレを見る事になるとは思わなかったらしい。ちなみに、そんなケイミを見て発言した彼の第一声は、

 「フッ」

 と言う、色んな意味に受け取れる失笑だった。

 「あれ? カルスさん?」

 そこへ、セルも現れる。アプトノスを提供した帰りに食堂に寄ったのだ。一心不乱にアプトノスの生肉を食べるハンター三人と、物陰で縮こまるケイミ。色々とカオスな現場に鉢合わせてしまったようだ。そして、ケイミのメイド服姿を見て、

 「――――」

 死にたくなかったので、何も見なかったと自分に言い聞かせて視線を外した。

 「丁度良かった、セル。少し話がある」

 カルスは席に座っていた。既に食事をするつもりで注文も頼んである。

 「ポッケ村に向かって欲しい。緊急でだ」

 その言葉は、神妙な口調で告げられ、カルス自身もモンスターと正面から対峙しているような緊張感を纏っていた。

 「ポッケ村?」

 その言葉に、セルは疑問詞を浮かべ、ケイミはピクッと反応する。

 

 

 同時刻。フェニキアは、ラインロードの西にある工房へ立ち寄っていた。

 その工房は個人経営の者であり、色々と黒い噂がある職人である。それでも、腕が立つと言う情報から、セルの武器の修復を個人的にお願いしていたのだ。

 「あん?」

 と、工房から出てきた若い鍛冶見習いと鉢合わせた。フェニキアは、本を閉じて立ち上がる。

 「お、親方ぁ! 工房の前に、絶対来ない美女がぁ!」

 「やかましいわ! ボケェ!! さっさと資材を取ってこんかい!」

 まるで、怪物でも見た様な声を上げる弟子の頭を叩きつつ、奥から出てきたのは、上半身半裸の男だった。片目に眼帯を着けて、柄の長い鉄工用の鉄槌(ハンマー)を担いでいる。

 「なんや。お嬢やないか~」

 「出来た?」

 「ヒヒヒ。相変わらず、言葉足らずやのぅ。セルゥちゃんの武器は、まだやで。街の復興に資材持っていかれてのぉ~。後二日はかかるわ」

 眼を見開いて、素敵な笑顔を作る男――ガルバレン三世は、かつて好き勝手武器を造っていた事で工房連合から追放された鍛冶職人だった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 セクメーア砂漠。刺すような強い日差しに熱せられた砂は、周囲の水分を蒸発させる程の熱砂となっていた。生身の人間では装備なしには半日ともたない、この極熱の大地にも根城として生息するモンスターは数多く存在する。

 その広い外側のフィールドにて、今日も一体の角竜が天に咆哮を仰ぎ、音を立てて絶命した。

 「――――」

 「はい、終了~」

 全身にゴアシリーズを装備した女のハンターは、背の鞘に太刀を納めてようやく戦闘状態から元に戻った。

 「で、どうよ?」

 少女の戦いの一部始終を観戦していた、インゴットS装備をした男は楽しむ様に塩梅を聞く。

 「試作型両断刀『秋月』。切れ味と耐久性を考えて、長さを通常の太刀の半分にしたのは正解のようです。しかし、太刀本来の利点である攻撃距離(リーチ)を失うのは致命傷です」

 「クッカカ。でもお前は尻尾も角も壊してるじゃねぇか」

 倒れている角竜の全ての部位が壊されている様子を見て独特の笑い声が上がる。

 「私だから、です。“止まった的”を解体するのに何の手間をかける必要があるのですか?」

 ちなみに、今死体となった角竜(ディアブロス)は怒り状態に入りやすい特殊固体として危険指定されている飛竜であった。

 「ファル。『入界』で、今度はどんな“歌”が聴けた?」

 ゴアシリーズを着けたファルは、少し考えるように数秒沈黙する。

 「いつもと変わりません。奴らを皆殺しにするのに、いちいち考えている間は無いんですよ」

 激しい炎の様な怒りではなく、深く深海に沈んでいくような錯覚を覚える、暗い殺意を含みながらファルは返した。

 「ぐはぁ。やっぱりお前の事は“好き”だぞ」

 「どうも。私は隊長の事は“嫌い”です」

 その返しに、笑いを押し殺すようにインゴットSの男は再び笑う。と、

 

 シャアアアアアアアアアアア!!

 

 そんな声が外にいても聞こえた。声の主は洞窟から叫んだのだろう。洞窟内を反響して、さらに外を泳ぐデルクスが驚いて飛び出すほどの声は、勝利の雄叫びでもある。

 「あっちも終わったな。これからお前らに任務だ」

 インゴットSの男は立ち上がりながら、ファルへ告げる。当人はジト目で嫌がる様子をアピールするが、そんな視線など屁でもないと、特に気にせず続けた。

 「お前の領分だ。第二部隊はアイツの護衛も兼ねてただろ? シュウエンから連絡があった」

 「私、あの人嫌いです」

 「仕事だ、割り切れ。元々、シュウエンとはポッケ村で合流する予定だったんだよ」

 「じゃあ、ロスト姉さんが行けばいいじゃないですか」

 「アイツは別件でオレと調査だ。お前らでシュウエンを保護して、次の命令があるまで第三部隊と行動な」

 ファルは不服そうに何か言いたげだが、彼のやることには意味がある。最終的には、猟団に有益となっている事もあり、今回も仕方なしと了承する。

 「ちなみに、別件の調査ってなんですか?」

 「天空都市だ♪」




 今回のポッケ村の事件は、公式の依頼では配布されていません。情報もポッケ村のギルドで止められており、一部のハンターと猟団にだけ声がかかっています。

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