この世界で生きる者たちが求めるモノはさほど多くはない。
しかし、そのすべてを手に入れることができるほど、彼らの生涯は永くはなく、多くの者たちがその途中で息を絶やす。
それでも、求めるモノに向かって歩みを止めず、戻らず、進み続ける者たちが存在する。
ある者は、大いなる伝説を求め。
ある者は、古の宝を求め。
ある者は、形ではない生涯の称号を求める
それが、この世界に存在する理由を持つ者たち――『ハンター』である。
そして、ある者は……自分の中にある“答え”を見つけるためにその意思を貫いていた。
その轍が何を残すのかは、歩んでいる本人にはわからない――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ハンターは何を求め、狩りをするのか?
ハンターの数ほど、その意味は存在し、皆、何かを追い求めている。
巨大な力をまき散らす、意志を持つ“災害”――
ソレは決して人の勝てる相手ではなかった。
“災害”は、まるでそこを住処に決めたように十数年も前から森で翼を休めていた。特に害をなすわけでもなく、ただ森に踏み入る人間の前に姿を現す程度だった。
しかし、その“災害”の恐怖に人は耐えられず、討伐を行うことを決意する。
近くの王国と古龍観測所の連携にて、腕に自信のある多くのハンターがその地を訪れた。しかし、ソレを倒すハンターは現れず、増えるばかりの犠牲を前に王国は“災害”を放置することに決定。古龍観測所も、こちらから手を出さなければ問題ないと、静観を決め込む。
王国は、森の入り口を巨大な塀で囲い、余計に煽り立てる者がいない様に見張りを立てる。
人とは逞しいもので、伝説の存在を見る事が出来るかもしれない領域を確保できている事を利用して王国はこの地を観光名地としていたのだ。
稀に腕が立つハンターが我こそは、と“災害”の討伐に訪れるが、ソレに挑戦する者は5分と経たずに塀の外へ逃げ帰ってくる。
そして、また一人。蒼い鎧に身の丈ほどの太刀を持った狩人が、塀の前へ姿を現した。
門番はそのハンターの入門を断ることはせず、名簿に名前を書くことだけを頼むと、扉を開ける。この塀より向こうに居る相手と戦った者の中には、この世から去った者もいる。その時の為の名簿だ。
終始無言の不気味な青年は名前を書いて、そのまま入って行った。
この先にいるのは桁外れの怪物だ。ハンターだけではなく、国や軍隊ですら手も足も出ない“災害”。奴に挑んだ者は大半が死者となって戦いの後に回収されていた。
青年が入ると門番は門を閉じる。向こう側から声がかかるまで決して開けずに待機する。こちらが、とばっちりを受けるからだ。
数分と経たない内に雨が降ってくる。“災害”が現れたのだ。どのように戦っているのか分からないが、たびたび塀を揺らす振動を少し離れていても感じ取れる。
戦いが始まった時に、門兵の二人は、蒼い狩人が後どのくらい持つか賭けを始めた。
しかし、予想以上に戦いは長引いている。一体何が起こっているのか、不思議に思った時、異変が起こる。爆音と共に門から離れた位置の塀が吹き飛んだのだ。
その痕は凄まじく、地面が大きく抉れ、激しさを増した雨が溜まっていく。
次々と塀が抉れ、吹き飛んでいく様子に、門番は役目を放置して逃げ出し、離れた所で見守った。そして、雨が止んだ。同時に塀の破壊も止まる。
そして、翼が羽ばたく音と突風が吹き抜けると、何かが塀の向こうから現れ、上空を――雲が道を開ける様に青空となっていく大空を羽ばたいて行った。
“災害”が飛んで行ったことに唖然としていた門番二人は、門からではなく吹き飛んだ壁から、中へ入ったハンターの様子を覗いた。
中にいるハンターは“災害”が飛び去って行った方角を眺めていた。
「――――」
聞き取れない言葉を何か放っている。そしてようやく自分たちの存在に気が付いたのか、ハンターは背中に太刀を戻す。
「逃がした……次は――」
そう言い残し、彼も去って行った。
それ以来、その名簿には名前を刻まれることなく保管されることとなる。
その名簿の最後の名前は――
セル・ラウト。と書かれていた。