モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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15.支配者の末裔

 一日前に、ポッケ村の村長に頼まれて、雪山の発光原の調査に出向いた二人のハンターは、まだ生きていた。

 場所はエリア8の崖の間に作られた隙間の裏側である。彼らは、発光原の正体を突き止めた。突き止めてしまった故に、この場所へ逃げる事を余儀なくされたのである。

 「むぅ……ワタシも衰えましたね」

 「シュウエンさん……僕に構わず、下山してください……村に一刻も早く伝えないと――」

 その“元凶”から竜人族の調査員――シュウエンを庇った青年ハンターは、深手を負っていた。今は、かまくらを作り、その中で火を起こしてなんとか耐えている。

 「大丈夫ですよ。丸一日戻らないとなると、村もこの事態に気づいているハズ」

 そうなれば、手練れを送って来れるハズだ。更に、自分からの連絡が途絶えたとなれば、別の経由で間違いなく“彼ら”が動いてくれるハズだ。

 「それに食料は、二週間分は常に持ち歩いているので、お気になさらずに」

 「ハハ。なんで、そんなに?」

 「大人の嗜みです。ワタシも世界中を旅して、色々とあるのですよ」

 と、薬草を煮た薬茶を淹れると青年に渡す。片腕が怪我で上手く動かせない青年は、残った腕で受け取った。

 「なら聞いて良いですか? なぜ、ポッケ村に?」

 かつて、ポッケ村は数多くの危機に見舞われた。

 “轟竜”の出現。

 “崩竜”の帰還。

 それは、まだ、青年が生まれる前の物語であり、ポッケ村を救った4人の英雄の話であった。子供の頃は、毎日の様に聞いたおとぎ話でもある。

 「新たな伝承をひも解いていると、この地に眠る“存在”があるらしいのです」

 「“存在”? それは“崩竜”の事では?」

 「いえ、全く違う角度の記述が見つかったのです。ですが、実物を見つけなければ、ハッキリと断言できないので、この場では、これ以上は話せません。ワタシ、憶測が嫌いでして」

 シュウエンの目的は、世界の謎を解く事にある。それは、果てしない道のりであると自覚しており、煙のような手掛かりを掴んでは外すのを繰り返してきた。

 だが、今回の伝承こそ、一番手ごたえを感じているモノだった。しかし、

 「“彼ら”に黙って来たのは、失敗でしたね」

 本来なら友人の組織の人員が護衛をしてくれるのだが、今回は時期が時期なだけに、待たずに出てきてしまった。

 「……皆心配してる。多分……お姉ちゃんも――」

 青年は、ポッケ村の専属ハンターのアカネの事を思い出す。きっと僕たちが帰らないと、派遣されるのは姉だ。G級になったばかりで村での手続きがあったので、この調査を代わりに受けたのだが、予想以上のモノが待ち構えていた。

 「シュウエンさん。アレは一体何だったのでしようか……」

 遭遇したのは、明らかに規格外の化け物だ。だが、今までなぜ発見出来なかったのだろう? あれほどの巨体で、目立つ赤色をしていた。気球の観測にも引っかからず、どこに居たのか……

 「赤牙と白暴君の伝説。それが他の地域で見つけた、この地に伝わる伝承」

 明らかに、異常な事態。出来るものなら――

 「友よ。隊長クラスの者でなくては余計な死人が増える――」

 その時、壁の向こう側から生き物の気配を感じた。シュウエンは口を閉じ、その気配が去るのをじっと待つ。だが、

 「――――見つかったか?」

 抜け穴をほじくる様な音が聞こえ、ソレはこちら側に落ちて来た。

 「わぁ!? 突き抜けて――ふぐぅ……」

 かまくらの屋根をぶち破って雪の中に顔面から落ちて来たのは、ノハナだった。

 「ノハナ! 居たか!? ヴァイはいるか!?」

 外から、アカネの声が聞こえた。二人は、何とか生存者の元に辿り着いたのである。

 

 

 「……よし、いいぞ!」

 アカネたち四人は、吹雪の吹き荒れる山頂、エリア8からエリア7に移動していた。雪山から脱出しポッケ村に帰る事を重点に荷をほとんど持たず、ホットドリンクだけを飲んで動いている。

 「……こいつか――」

 その先頭を歩く、アカネは積雪の上に作られた、真新しい足跡を見て周囲に、その持ち主が居ない事を確認する。

 「こればかりは、時間をかけなければ危険ですね」

 次に続くのは、重傷のヴァイを背負っているシュウエンである。最速で下山する方向で今は殆ど荷物を一日過ごした隠れ場所に置いてきたのだ。

 本人は、盗まれる心配は皆無、と言って荷を置いていくと言う提案には賛同してくれた。

 「……アカ姉、行けそう?」

 殿を務めるのはノハナであり、武器には敵の出現を知らせる為、ペイント弾を装填させていた。

 「……ああ、このまま――!!?」

 その時、気配が現れた。吹雪で視界が定かでないので、目視は出来ないが明らかに同じエリアに“奴”が居る。

 アカネは手信号で隠れる様に指示すると、“奴”が別のエリアに移動する事を考えてしばらく待機する。

 「良く視えないが……アレが、そうなのか?」

 「はい。間違いないでしょう」

 奴の正体を知るシュウエンに尋ねて、改めに気を引き締め直す。いざとなれば、自分が時間を稼がなくてはならない。

 「アカネ、サン。今は、アレと戦うのは避けた方が良いです。間違っても、時間稼ぎが出来る相手ではありません」

 シュウエンの言葉は、ある種の真実味を帯びていた。ここを抜ければ、直ぐにエリア2だ。(ヴァイ)が危険な状態なので一刻も早く雪山から脱出しなければと、一番早いルートを選んだが、少しだけ見誤った。

 「ああ。解ってる」

 だが、また山頂に戻ってエリア6を経由するとなると、時間がかかりすぎる。更に、奴もどう動くのかが、よくわからず下手をすればエリア6で再び鉢合わせる可能性があった。

 「くそ……」

 一番の理想は、奴がエリア6方向にこのまま去る事だ。しかし、逆にエリア8方向に向かってくれば鉢合わせる事になる。

 今すぐ決断しなければ余計に時間を喰うだけだ。しかも、吹雪の所為で奴が、どちらを向いているのか解らない。

 「……そこの脇道からエリア6へ抜けるぞ。シュウエン殿は先に行ってくれ。ノハナ、先頭を交代する。私が殿だ」

 「はい!」

 ギリギリまで、奴の気配はエリア2に近い、旧ベースキャンプ前で止まっている。アカネは、こちらに気づく様子が無いかを常に確認し、その背後をシュウエンは通り抜け、次にノハナが抜ける。

 そして――気配から目を離さない様にアカネも後退するとエリア6へ無事に抜けられた。

 「――無事か?」

 十分に聞こえない距離を移動してから、先に氷窟の前まで移動していたノハナ達にアカネも合流する。奴の所為なのか、小型のモンスターは全て生りを潜めており、特に気にする事は無かった。

 「はい!」

 「上手く行きましたね。このまま、一気に麓まで降りましょう」

 「ああ。早いところ、ヴァイを医者に――」

 ソレは、まるで型破りな怪物だった。

 奴が背後に現れたのは、全員が理解できた。そして、未だに吹雪の中に居ると言う事も、理解できた。理解できたから――まるで別物であると、理解できなかった。

 いくら、同じエリアに居ると言っても、気づかれずに背後を通り抜けるのと、見つかったと互いに認識しながら移動するのとはわけが違う。

 奴は、エリア7からエリア6へ移動しただけだった。

 奴は、彼女たちを見つけたのは単なる偶然だった。

 馬車に轢かれる人間が、避ける事はおろか、防御手段を取る事も出来ない様に……目の前に発生した雪崩から逃げられないと悟ると脚が止まるように……

 人の身体は自らの“死”を悟ると、反射的に身体が硬直する。

 奴に“見つかる”という行為は、まさに“避けられぬ死”に等しき圧殺が向けられていた。

 そして、死神(ヤツ)は向かって来る。咆哮も放たずに、ただ積雪をかき分けるように走り出して来たのだ。

 「二人とも! 逃げますよ!!」

 以外にも、その硬直から一番に立ち直ったのはシュウエンだった。その言葉に、ハンターの二人も遅れて氷窟に駆ける。だが、積雪で思った以上に上手く走れない。

 「ノハナ、走れ! 振り向くな! いいか麓まで、絶対に振り向くな!!」

 だが、一番重い装備を持っているノハナが遅れるのは必然だった。奴と自分たちの間には距離があったのだが、この数秒で既に補足される位置まで迫っている。

 「ハァッ! ハァッ!」

 シュウエンは先に走り、滑らない様にエリア4に飛び降りていた。一呼吸遅れて、ノハナも段差を飛び降りる。そして、エリア4を――氷窟を抜けると気がついた。

 「――! アカ姉!!」

 彼女が居ない。一体どこに? そう考えたのは数瞬で、答えが出ると同時に氷窟に戻ろうと崖に手をかけ――

 「ノハナさん! ダメです!!」

 シュウエンに止められた。

 「なんで!?」

 「ベースキャンプで待つべきです。彼女を助けたいなら、我々は戻ってはならない! 貴女もハンターなら、解るでしょう!?」

 ハンターなら……アカ姉は――

 『力を持つと言う事は、“自分”にも“他”にも責任が付きまとう』

 戦う能力の無い二人を置いて戻る訳には行かない。敵は型破りの怪物だった。なら、ベースキャンプも安全である保障は無い。護衛が必要……なのだ。

 ノハナは、雪山を見る。すると、点滅するような発光が瞳に映った。

 「責任……わたしには重すぎるよ……アカ姉――」

 アカ姉が奴と対峙したのだ。たった一人で……

 

 

 ノハナ達は、無事に下山で来ただろうか?

 狩猟場に馬車が来るまでは、数時間かかる。今回は救助と言う事で比較的に近場に馬車は待機してくれているが、それでも一時間はかかるだろう。

 「お前は……一体何なんだ?」

 アカネは、先ほどから震えが止まらない。心から信頼を置き、何度も窮地を助けられた装備なのだ。ソレが、たった一体のモンスターを前に――

 「こうも、心もとないとはね――」

 発光する。そして、轟音と共に覆いかぶさる様な雪。鼻を突く火薬の匂い。規格外だ。

 だが、同時に違和感を覚える。

 なんだ? 何かおかしい……コイツはモンスターだ。だが、我々の知る範疇の“存在”であり、多少特殊な生業をしているに過ぎない。

 故に、ある程度は対処できる。その大きさに惑わされたが、一人でも時間を稼ぐくらいは出来ると判断した。

 だか――

 「有りえない……お前はまさか“同じモノ”を見ているのか――」

 そう言わずにはいられない。目の前の隻眼のモンスターに――

 「ッ!!」

 突進を回避。規格外のサイズなだけあって、大きく飛び避けなくてはならなかった。そして、飛び避けてから地面に着地するまでの刹那に、初めて奴の咆哮を聞いた。

 まるで、山が崩れたと錯覚するような、その轟哮(こえ)は、麓はおろか山を反響してポッケ村まで響いていた。

 そして、アカネの意識はそこで途絶える。

 後に、かつて以上の脅威が襲い掛かる事を現地の四人以外には、現段階では知る由も無かった。




シュウエンは蛇神さんの提供キャラです。
流石にこの時点で、襲撃する謎のモンスターを当てられる人はいないでしょう

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