モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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12.それぞれの選択

 知っている……この視線を――

 私が……まだ本能で生きていた頃に、初めて感じた“恐怖”そのものだった……

 たった一人の、小さき殺戮者(ハンター)――

 その“歓喜”を向けられたから――

 死は躱せないと、私は同胞へ告げる。

 高く、広く、全ての同胞に聞こえるように空間に咆哮を響かせた。

 家族の元へ還れ。と――

 

 

 

 

 

 スカーレウスが落ちた様子を見て、他のレウスたちもラインロードの市街地へ次々に着地する。

 多くの地響きと、統率を失ったレウス達にとって、傷ついたラインロードは格好のエサ場であったのだ。彼らが統率者(スカーレウス)より言われていたことは、都市の制圧とソレの弊害となる存在の排除である。

 指示が途絶えた以上、それが最優先であると従っているのだ。

 「!!」

 東門へ向かっていたカルスの率いるハンターたちの前にも、G級レウスと空中から攻撃を担当するレウス達が立ちふさがる。

 「おっと……」

 南門へ向かい、アリアナが視界に見えた所で、ソレを遮るようにセルとフェニキアの前にもG級レウス達が現れた。前後を挟み込む様に退路と進路を塞がれる。

 

 

 

 

 

 「!! くそっ! 全員! 警戒しろ!!」

 そして、東門に最も多くのレウス達がその場にいるハンター達へ敵意を向けて着地していた。数にして10体。

 「団長! 団長!!」

 ディクサとガイは、ケイミの落下地点を予測し、門の根下を探していた。そして、城壁の落下用ネットに引っかかっている彼女を発見する。

 「団――」

 「ぎゃあぎゃあと……うるせぇ!! お前はレウスか!!」

 と、いつも通りの怒声でディクサを蹴ると、ガイの肩を借りて立ち上がる。口調とは裏腹に自力で立つ事が出来ない様だった。

 

 団長も相当疲弊している。仕方ないか、元は短期決戦が主体の戦い方だ。

 ケイミの戦闘スタイルは、大剣による短期決戦を主軸に置いた戦いである。それが……ここまで肉体を酷使したとなると、反動が危険な状態になるだろう。加えて、既に一本飲んでいる。

 「団長!」

 他の団員達も、ガイとディクサの肩を借りて、とりあえずは生きているケイミを見て安堵の表情を浮かべる。

 「全員前を見てろ!! ガイ、アタシの剣を探せ。どこかに落ちた」

 「はい」

 「ディクサ、肩はもういい」

 「うっす」

 ケイミは、荒く息を吐きながら、その場に座り込んだ。

 ちっ、あのクソを斬り損ねた。断末魔でも聞かせてやれば、トカゲ共は逃げ出す可能性はあったが……

 いくら腕が立つと言っても、疲弊した『灰色の狼』では、負傷したハンター達を庇いながら戦い抜く事は不可能に近かった。

 間違いなく死者は避けられない。

 まだ、動ける『灰色の狼』だけなら生き延びられる可能性は高い。しかし、その行動はリスクが大きすぎる。

 「さて、どうするか……」

 ケイミは最悪の事態を視野に入れ、自分が全責任を負うつもりで、団員に退却命令を出そうと――

 「――――」

 その時、スカーレウスの咆哮を聞いた。

 

 

 

 

 「…………」

 その咆哮(こえ)の意味は、ベリウスにも、ケイミにも、セルにも、カルスにも解らなかった。しかし、彼らは“裏”に精通するからこそ、ある程度は理解できたのだ。

 「およ? 終わりかぁ。今回は勝ちね」

 「……終り。これ以上は――」

 ただ二人だけ、ラシーラとフェニキアはだけは、その咆哮の意味を聞き取っていた。そして、彼もまた“悪意”を持ってこのような行動を起こしたのではないと知る。

 彼は、ただ……その翼でどこまで羽ばたけるのか知りたかっただけなのだと――

 「クッカカ。洒落てるな」

 「けっ。痛み分けかよ」

 「どういう事だ?」

 「フェニキアさん……これは一体――」

 ベリウス、ケイミ、カルス、セルは、それぞれ、目の前に降り立ったレウス達が、スカーレウスの最後の咆哮で、戦意を無くし、ただ自然に飛び上がった様子に違和感を感じていた。

 先ほどまで、明らかな敵対心を抱いていたモンスターたちが、たった一回の咆哮で不意に警戒心を無くし、一斉に飛び立ち始めたのである。

 

 

 

 

 「団長。どうします?」

 「アッハッハ。撃ち放題ですよぉ~。ブチ殺――」

 ロイより垂らされたロープを使って、城壁に上がったベリウスは、大きく羽ばたき、高度を稼いでいるレウス達を見上げた。

 「ロイ、やめとけ。雑魚相手にして怖いジィさんに尻尾を踏まれるのは面倒なんでな。ジーン、有意義な時間だったろ? 引き際を見極めねぇとな。下手に手を突っ込んで、ラギアで痛い目を見たばっかじゃねぇか」

 レウスに対する攻撃をベリウスは静止する。

 「ジジィ?」

 「ああ。カルスのジジィが居た。出来るなら会わずに逃げたいところだ」

 カルス。その言葉に、ロイとジーンは押し黙り、ファルは欠伸をした。

 「面倒なら、私が斬りますが?」

 「んー、ま、その内な。まだ、ジジィには働いてもらわないとな」

 悪ふざけでも考えているように、口の端を吊り上げてベリウスを笑う。そして、その位置から遠目で見える一人のハンターを視界に一瞬だけ捉えて、逸らした。

 「セルヴェス。死人か? それともよく似た別人か。まぁ、次に会えば解るか……」

 と、ベリウスは城壁から外側へ飛び降り、その後に三人の団員も続いた。

 

 

 

 

 「なんだ!? レウス達が――」

 確実な“死”を肌で感じて、それでも対抗しようとしていた『灰色の狼』の面々は、肩透かしの様に戦闘意志を消したレウス達を見上げていた。

 「いや、これは――」

 好機。そう思った者達も中には居た。

 ラインロードをこれほどに破壊され、更に先ほどまで命を取り合っていた相手が、目の前で無防備に飛び上がって行くのだ。

 誰でも追撃のチャンスであると考えるのが当然である。ましてや、対峙しているのは皆ハンター。追撃を行うのはもはや、日々の狩猟で刻まれた反射に近い行動だ。

 「全員! 武器を仕舞って待機してろ!!」

 その中で、ケイミの言葉が団員たちの耳に入り込んでくる。そして、

 「団長! チャンスですよ!」

 「そうです! ラインロードをここまでやられて、黙って帰すんですか!?」

 そう、団員たちの意見も最もだ。住む土地を焼かれて、平然としている方がどうかしている。

 「おい、お前ら――」

 ディクサはケイミの判断は間違っていないと感じている。こちらもギリギリなのだ。下手に手を出して、全面戦争になれば今度こそ勝ち目はない。

 「馬鹿言うな。アタシだって、腸煮えくり返ってる」

 「なら!」

 「だからこそ、だ。馬鹿たれ共」

 ケイミは立ち上がると、団員たちに微笑む様に告げる。

 「せっかく、トカゲ共が逃げてくれるんだ。だから、これ以上は勘弁してやろうぜ?」

 その言葉に、団員たちは思わず声を失った。反論できないのではなく、交戦的なケイミが、そんな事を言った事が意外だったのだ。

 「ふっ……確かに、そうですね」

 次に笑ったのは、副団長のギルフォード。彼は武器を仕舞って去っていくレウス達を見上げている。

 「団長の言うとおりです。我々は寛大な心で、レウス達を見逃しましょう」

 と、ケイミとギルフォードの言葉で、戦意が削がれた面々は皆武器を仕舞った。

 

 カルスも、レスウ達の意図を雰囲気で理解しており、ハンター達には手を出さない様に指示をしていた。

 そして、東門へ傷ついたハンター達の元へ合流する。

 張りつめた戦場の雰囲気がようやくラインロードから去った瞬間であり、長い夕刻がようやく終わった。 




次で序章は最後の予定

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