モンスターハンター~天の鎖~   作:真将

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9.群の聲

 ベリウスから『死竜』に入る為の条件を付きつけられ若い二人のハンターは、緊急の依頼を受けた所で、彼の言っていた“2匹以上討伐”という言葉の意味を理解していた。

 どうやって、彼が“この事態”を予測したのかは解らない。だが、それだけの事を確定予測できる力が『死竜』にあると言う事を認識し、一層やる気が出た。

 「くそっ……どうなってんだよ! こりぁ!!」

 しかし現在は、その心意気は目の前で攻撃を仕掛けてくるG級レウスと、滞空しつつ前衛を補佐するように攻撃するレウスを前に喪失しかけていた。

 「誰か! 応急薬を持ってる奴はいないか!?」

 「砥石をくれ! 武器が持たない!」

 「援護しろ! 掴まった奴を助けるぞ!!」

 周囲に火の手が上がり、煙によって視界が不確かになりつつ東門で、閉じ込められるような形で戦っている28人のハンター達。絶え間ない空と地からのレウスの連携攻撃により、ダメージを受けた者や、疲労で腕も上がらない者が増えていた。

 ハンターは、本来“攻め”を主軸に置いた戦い方をする。

 モンスターの生息地に独自に足を踏み入れて、後方からの支援や、持てるだけの道具を厳選して特定の固体を狩りに赴くのだ。

 故に、“退却”という選択肢と仲間との狩猟するスタイルも確立されている事で、精神的にも肉体的にも疲弊しにくい様に考慮されているのだ。

 しかし、現状は退却も出来ず、後方支援も望めない。閃光玉などの道具を使ってなんとか耐えているが、動きを止められるのは空か地の片方だけだ。

 通常は1体、多くても2体同時がハンターの狩猟圏内なのだ。それ以上の存在と対峙し、尚且つ、退却も連携も出来ない程に敵が強力であった場合、どうなるか……未来は自ずと決まってくる。

 「くそっ!」

 若いハンターは火球を避けながら、相方と並ぶ。相方の方もだいぶ疲弊しており、肩で息をしていた。

 「こいつら……こちらの武器が殆ど通用しない。今までのレウスならダメージは与えられたハズだというのに……」

 現在、5匹のリオレウスと対峙しているハンター達は中級~上位しか実力を持たない者達である。故に、装備もランクに準じる物だった。

 対する相手はG級のリオレウス達。より、過酷な自然界で成長し、脅かされる天敵(ハンター)も居ない環境で育った彼らは、自ずと硬い鱗と、内に溜める熱は強大なモノとなる。

 生半可な刃では血すらも流れない頑丈な鱗。耐性の無い防具なら容易く吹き飛ばすほどの威力を持つ火球。高い持久力と大きな体躯から生み出される飛行能力は、立ち続ける事が困難な風圧をまき散らす。

 今まで、狩った事のあるレウスだが、今までと同じような戦法はまるで意味を成さない。

 「2匹以上だと……この怪物(リオレウス)を2匹も倒さないといけないのか?」

 それが付きつけられた条件だ。しかし、現在は命を拾う事さえ困難だと言うのに……その中で、この地獄で、倒せるのか……?

 目の前のレウスから、ハンター達へ咆哮が響く。その聲は、精神的にも追いつめられていた彼らに、ある感情を感染させた。

 「あ……ああ。ダメだ!! 殺される!!」

 誰かが、言ってはならない事を口に出してしまった。

 人とは、様々な意志を持った“集団”であると同時に、統一した意志を持ちやすい“個”であるのだ。そのきっかけが何であれ、現在の状況に、大きく絶望した誰かが叫んだのだ。

 「に、逃げるぞ!」

 次の言葉で、集団(ハンターたち)に確定的に感染した。

 『恐怖』という、感情を持った“個”が生まれたのだ。その感情が次に行う行動はただ一つ。目の前の現状からただ逃げる事――

 「う、うあああ!!」

 ハンター達は一人が逃げ出したのを皮切りに次々に、その場から駆け出す。

 「! 待て、お前達!! 今、レウスに背を向けるな!!」

 咄嗟に、唯一『恐怖』に呑まれていなかった、ギルドナイトの隊長が叫ぶ。今、レウスに背を向けると言う事は、蹂躙されるのと同じだ。

 他の面々もこのままで各個撃破され、いずれ全滅する。彼らの心は完璧に『恐怖』に支配されてしまった。もう、他の感情を受け入れる様な空間(スペース)は残っていない。

 「く、来るなぁ!!」

 最も集団から離れている若いハンターをレウスは狙う。その突進は、避けられない死を秒読みしているかのようだった。

 逃げ出した先――煙の向こうから、大剣を担いだ片腕の少女が現れ、無造作に大剣が振り下ろされた。

 轟音が響く。その音に逃げ始めたハンター達は足を止め、レウス達も思わず視線を向ける。

 「アタシが一番乗りかよ。アイツら(たる)んでるな……後で強化メニューBだな」

 ラギアG装備をした、ケイミ・カーストは叩きつけた大剣(エピタフプレート)を持ち上げると、怯みつつ後ろへ仰け反ったレウスを見ながら、未だに到着していない団員たちに施す強化メニューを口にした。

 

 

 

 

 「だ、誰だ? ハンター……?」

 助けられたハンターはケイミの姿を見て驚きの声を上げる。

 彼女がレウスを止めた事実よりも、小柄な少女がその身よりも大きな大剣を軽々と持ち上げている様子は、現実味を帯びていなかったのだ。

 「何言ってんだお前? この場に居る奴がハンター以外でどうすんだよ?」

 腰を抜かして立ち上がれないハンターを見ながらケイミは、アホか、と告げる。

 すると、咆哮がケイミに向けられた。先ほど一撃を加えたレウスが、怒り状態となったのだ。

 「ひ……」

 「ったく。うるせぇな」

 その内に溜めた怒りを吐き出すように、通常以上の劫火を纏った火球が放たれた。それを見て、本能的に腰を抜かしていたハンターは逃げようとするが、ケイミは大剣の側面を向け、正面からまともに受ける。

 爆熱と衝撃が、まるで爆弾でも炸裂したかのような威力を纏っていた。しかし、ケイミは正面から一歩も後ずさる事無く、その場で易々と耐えていた。

 「……言っておくけどな。先に戦争を始めたのは――お前らだからな!」

 ケイミは一歩踏み出す。滞空しているレウスが斜め上から火球を彼女へ。それを、前に転がるように躱す。

 他の飛行レウスが爪による接近攻撃を向けた。それは武器を奪い取る事、又はその場に釘づけにする事を目的としていた。ケイミは大剣でガードする。そこまではレウスの予想通りだったが、そこからは予想外だった。

 一歩も動かないのだ。自身の巨躯に比例する重量を浮上させる程の飛力なら、小柄なケイミの身体ごと武器を浮かび上がられるハズだ。だが、彼女は地面に根が張っているかのように微動だに動かない。

 もう一体の地に居るレウスが、その彼女へ火球を放つ。大剣の向きは変えられない。直撃は確実――――のハズだった。

 ケイミはレウスに捕まれている大剣を強引に、レウスごと向きを変えた。片腕、しかも自分たちの十分の一もない体格の少女がレウス一体を振り回すほどの膂力を発揮したのである。

 火球の射線に、大剣を掴んでいるレウスが入る。爪を放し、レウスは脱した。再びの爆熱がガード越しにケイミを襲う。

 「な……!?」

 その動きに、完全に標的から外れたハンターは驚愕していた。自分よりも小柄な少女が、三体のレウスとまともに張り合っているのだ。助けられた時以上に異常な光景を目の当たりにしていた。

 怒り状態のレウスは、得体の知れないハンターであるケイミに、高速の突進を繰り出した。全体重を乗せた一撃は、容易く彼女の身体を吹き飛ばすと誰もが予想していた。

 無論、ケイミも大剣をガード状態で構える。しかし、

 「あ?」

 怒り状態のレウスは、ガードの前で急停止。身体を半回転させ、尻尾をケイミの側面へ叩きつけた。

 ガードの向きとは別方向からの攻撃に、向き修正が間に合わない――

 刹那の瞬間だった。大剣の刃が、その尻尾に向けられ、一刀のもとに両断されていた。

 「フェイントか。トカゲのくせに考えてるじゃねぇか」

 勢いのついた尻尾の軌道に合わせて、ケイミは大剣の刃を向けてその場で踏ん張ったのだ。結果、威力を乗せる為に勢いの着いた尻尾は自分からギロチンへ突っ込む形となり、切断されたのである。

 身体の一部を切り離された激痛で、レウスは転びながら身を(よじ)った。

 「わりーな。どんなモンスターでも手加減できないのが、アタシの痛いところでね。昔、左側を痛い目に合っただけにな」

 失われた左眼と左腕。自分の罪だとケイミは感じている。

 「よっしゃ! 一番乗り――って団長!? もう来てたんですか!?」

 そこへ、ディクサが現れる。彼は自らの武器――狩猟笛を担ぎながら他の面々と同時に到着していた。

 「ああ。お前ら、後で強化メニューBな。弛み過ぎだ」

 「えー!?」

 「マジですか!?」

 「地獄が……地獄が始まるよぉ……」

 「これは手厳しい」

 と、『灰色の狼』の団員たちはそれぞれの言葉を口にする。

 「ギルドナイトォ!! 呆けてないで、いい加減仕事しろォ!!」

 ケイミの怒声は、向けられたギルドナイトの隊長だけではなく、その場にいた逃げ惑うハンターの面々へ喝を入れる様なモノだった。

 彼女の右眼とギルドナイトは、入り乱れる戦場で目が合う。そして、彼女は指を刺していた。その先は、大剣の一撃を受け、尻尾を切り離されたリオレウスである。

 隊長は、怯んでいるレウスへ踏み込む。今の体力では限界の一撃だったが、ケイミが与えた傷の上に重ねるように大剣を叩きつけて、沈黙させた。

 「ディクサァ!! テメェもだ! さっさと吹け!!」

 「くっそ~!! 景気づけだ! 全員、俺の歌を聴けぇぇ!!」

 背中に持つ巨大な笛。ディクサの持つ狩猟笛――ドヴォンヴァが低い音を立てて辺りに響き渡った。

 音色――緑青紫青『体力回復【中】&解毒』。

 空間に響き渡り続けたレウスの咆哮とは別、身体を癒す音色によって、疲弊したハンター達の傷が瞬く間に回復して行く。

 滞空するレウスは、その音色が自分たちに不利な効果をもたらすと、本能で判断。だが、ディクサの近くにはケイミが居る為、まだ完全に立ち直っていない、疲弊したハンター達へ火球を放つ。

 「させるかよ!!」

 ディクサは次なる音色を奏でる。

 まだ動けないハンター達を庇うように、ギルドナイトの隊長は大剣を盾に構えて前に出た。回復しきっていない身体で、どこまで持つかは解らない。出来る限り力を込めて、訪れる火球の衝撃に目をつぶる。

 大剣で防いだ。爆熱と同時に襲う衝撃は――G級リオレウスの火球は、不思議な事に、それほど衝撃は感じない。そこでようやく別の音色に気が付く。

 音色――紫青青紫『防御力強化【大】』。

 ギルドナイトの隊長はディクサを見る。彼は親指を立てて隊長に意志を返した。

 「全員、テンション上げて行こうぜ!! フィーバータイムだ!!」

 音色――紫緑青緑『スタミナ減少無効【大】』。

 音色――青青緑『風圧無効』。

 その後に奏でられる音色で、全てレウス達に対して大きな優位(アドバンテージ)を取る事が出来る効果が送付された。更に、『体力回復【中】&解毒』を重ねて、動けなかったハンター達も立ち上がる。

 その場に揃った、12人の上位以上ハンター達と、28人の息を吹き返したハンター達。

 満身創痍ながらも、ケイミの恫喝と、ディクサの笛によって戦う意志と肉体を取り戻した。場にいる総勢40人のハンターたちは、絶望(リオレウスたち)を前に再び足踏みを揃える。

 「よう、トカゲ共。まだ、やるか?」

 一団の先頭に立つ、少女――ケイミ・カーストは、大剣を肩に担ぎながら不敵に告げた。

 その時だった。ラインロード全体に轟く、スカーレウスの咆哮が響き渡る。




 ディクサの使う狩猟笛のドヴォンヴァは、レウス戦では良く使ってました。性能はMHP3のモノで考えているので、まだやっている方が居れば、ぜひ作って使ってみてください。

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