とあるハンターの恋路
君に恋をした。
君を思う度に、君に会えると思う度に、この鼓動は早くなる。
幸せな気持ちだ。ボクの取り柄は、ただ“奴ら”を殺す事だけだったから。
3度目に君と再会してから、君に恋をしていると気づいた時から、この気持ちが偽りでないと気づいたんだ。
次に出会うときは、この思いを伝えると決めていた。
世界が澄んで見える。今までは濁った景色と、そこを這い回る“奴ら”しか視界には映らなかったのだ。
君に教えてもらった。君がボクに新しい世界を教えてくれたんだ。
彼女の事を、そう思うようになったのは一体いつの日からだろう?
最初は憎悪だった。父と母を殺され、思考を全て焼き尽くすほどの劫火を纏い、ただ、竜を殺した。
来る日も来る日も、戦う毎日。眠っている時間も惜しいほどに怒りに狂っていた。
一匹でも多く、奴らを殺す。お前達を殺す。お前らが“ボク”を生み出したんだ。
あの日、父と母と共に殺しておけば良かったと……この存在をお前達に見せつけてやる。
殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! 竜は――お前らは全て、視界に映る全ての“お前ら”を殺ス!!
ただ、復讐だけの人生。それで良かった。狂いそうなほどの憎悪は、何年経っても収まる気配はない。
周りから褒め称えられ、ギルドからも表彰されても、心には何も響かなかった。何も変わらなかった。
ハンターになって武器を取ることを許されたのが15の頃。そして、20になる頃には、数えきれないほどの竜を殺し、その凄みから逆に周囲に距離を置かれるようになった。
そして……いつもの様に奴らを殺していた時だった。
彼女と出会ったのは――
彼女は“伝説”だった。世界各地を捜して、見つけた時は、その場で有無を言わさずに殺し合った。
ボクは太刀を振るい、彼女は風を振るう。
勝負はあっさり終わった。負けだった。けれど、彼女はボクを殺すことはせずに、翼と風を巻き起こして再び大空に飛び去って行った。
その時から彼女の舞う空に惹かれた。
彼女を追いかけた。少しでもそんな噂があれば、その地へ情報を求める。そして、一度目の接触から1年が経った頃、また彼女を見つけた。
同じ負け方は二度としない。太刀を抜き、再び対峙する意思を示すと彼女も付き合ってくれた。
本気で打ち込む。本気で殺し合う。本気で、本気で………
そして……彼女との戦いに、どす黒い憎悪が無いと気づいたのは、3度目の勝負が終わってからだった。
3度目の敗北。けれど、憎しみは感じなかった。次こそはと言うなんとも言えない感情が強かったのだ。
飛び去って行く彼女を見ながら、この感情が何なのか解ったのだ。
彼女に恋をしている。
こんな話をしても、信じてもらえると思えないし、信じてもらおうとも思わない。ただ、ソレを知るのはボクだけでいい。
憎悪に魂を焦がした。復讐の人生。一匹でも多く“奴ら”を――竜を殺す生涯。だから、思い出したのだ。本当にボクが居る世界は――
次に、彼女と再会したらこの気持ちを伝えよう。それで、ボクはハンター人生を終わりにするつもりだ。
4度目の邂逅。もはや、憎悪は残っていなかった。心の奥で小さくなっただけだけど、それでも真っ新で彼女と殺し合えるのは、本当に幸福な事だと太刀を抜く。
そして、4度目の戦いでも毎回思っている事を改めて思った。
どうすれば、君に届く?
どうすれば、君に伝わる?
どうすれば、君と対等になれる?
この腕を捧げても、この足を捧げても、この鎧を捧げても、この武器を、眼を、声を――――命を捧げても届かない。
雨と風が、吹き荒れる。濡れた大地。揺れる木々。場所は廃城。人が捨てた――文明の跡。
彼女と眼が合う。今までは、戦えなくなったらすぐに飛び立ったのに、今回は少しでも長く付き合ってくれている。
「――――」
言葉が出る程の命は残っていなかった。身体は指一つ動かない。右腕が遠くに転がっている。左足は、どこにあるのか解らない。呼吸が苦しい。目がかすむ。太刀は折れ、防具は砕けている。
彼女に言いたかった。こんなに近いのに、こんなにすぐ傍にいるのに、残った手で触れる事も、血の逆流する口では声をかけることもできない。
今回も無理だった……伝えたかった。彼女に、目の前の風翔龍に――
「君の事が好きだ」
と――