立ち上がった小町にそう声をかけると小町は目をそらして俺の足下の横を見ながら反応した。
「え、いや。え?」
こっちが聞きたい。何でそんなに驚くの?
メリーさんでも一緒に入ってきたの?それとも俺がメリーさんなのか。
「え、びっくりしただけ」
「そうか」
「うん」
会話が続かない。
小町と喋っていて初めてもどかしく思った。とりあえずリビングに行って理由を聞こう。
リビング...
小町はまるで何か悪いことをしたかの様に話す。
「お昼頃に出かけようかと思って、着替えたんだけど疲れたからやめて、それからずっとねっころがってた。そんで、今の...六時?くらいまでそうやってて、決心して出かけようとしたら玄関まで走ったとこで立ち眩みがしてああなっちゃった」
ほう。小町はまだ出かける余裕があるのか。そこで俺が粋な提案をする。
「じゃあ、今度の土曜日出かけるか?」
「うん。じゃあそれでいいや...」
病んだ小町と俺との目が腐ったペアである。多分、他人が見たらこいつら心中するんじゃないかってレベル。なにそれマジ名案。そうだ、天国行こう。行かねえよ。
「お兄ちゃん、ちょっと小町一人でここに居させてもらっていいかな?」
「ここ」とはどこだろう。リビング?それともこの家だろうか。もしかして地球のこと?
何それ、いつから雪ノ下みたいなのになっちゃったの?ハチマン、カナシイ。
まあ、リビングだろう。でも俺はどかないぞ。俺を倒してから行け、という感じでジェスチャーで主張すると小町の目の色が変わった。攻撃色の赤である。
...小町ちゃんやめてよ、やだ。そんな目でお兄ちゃんを見ないで。
中学生でもヒステリーになるのかな。若干楽しみだけど少し怖い様な修学旅行の前日の気持ちで小町を見つめていた。
「お兄ちゃん、部屋に行って」
「話、聞くぞ?」
「...出て行ってよ!」
「何でお兄ちゃん部屋に行ってくれないの!?」
「え、ごめんなさい」
「なら部屋に早く行ってよ!」
まだここでは退けない。
「いや、何か話さないか?」
「小町は誰とも話したくないの!」
そう言う小町の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
こういう時は抱きしめたりすると良いと昔、インターネットで見たが、こんな奴にそうやったらそのまま俺の体が吹っ飛びそうなのでできない。とりあえず肩だけでも少し触ってやるか、と手を伸ばした。
「やめてよ!気持ち悪い!」
いつもの俺なら怒らない。
いつもの小町ならこうならない。
俺は小町のために時間をたくさん割いた。
俺は小町のために考えた。
それなのに、これは何だ。
語気を少し荒くするくらいでやめようとしたが、残念ながら止まらなかった。
「お前、ふざけんなよ。お前なんかどうでもいいのに俺が...!」
それ以上は言えなかった。怒鳴ってしまったのに気がついた時は既に遅すぎた。小町は愕然としながら俺を恐怖と涙に満たされた目で見る。
小町は何も言わずにリビングを出て行く。
その後部屋に戻ったのか、外に出たのかは俺には分からなかった。
次回の更新は明日の19:00です。
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まだ話は続いて行きますよ。