すごく暗い話にしてしまいました。
第五話です。
朝である。
結局、小町とは一度もあれから合わなかった。久しぶりの兄妹の対面という感動的な朝だが、外では俺の登校を拒む様に雨が土砂降りだし、何ならいつもよりさらに寒い気がする。気のせいかも知れないが。
俺の這ってでもリビングの炬燵に入るという信念の下、なんとか到着したが、もちろんそこには小町が居る。
小町はいつもだったら俺が来たら「おっはよー」と元気に挨拶しそうなものだが、今はそもそも俺が来たことすら気付いていない。小町はヘッドホンをして、だるそうに文庫本のページをめくりながら自分の世界に入っている。
俺が食卓の椅子を引くと、小町はその音にびくっとしてこっちを見る。ここで話しかけなければもう話さなくなってしまうのではないかという追い詰められる気持ちになりながら俺は挨拶をする。
「お、おはよう」
小町はもう俺以上に腐ってんじゃねえかという目をしながらヘッドホンを外してそれに答える。
「...おはよう」
それだけ言うと小町は食卓について黙々と食べていく。
...が、ふと動きが止まったかと思うと俺の目を見ながら言う。
「今日、学校休みたい」
「え?」
驚くしか無い言葉が小町の口からでた。今まで学校を進んで休むことなんてなかった小町がそう言うのである。
ここで否定したらいよいよ俺はどうしようもなくなってしまうので俺には肯定しか選択肢がない。
「ああ、分かった。後で電話しとく」
小町は食べ終えて食器を水に付けると自分の部屋に戻るのかと思ったが、ドアの前まで行くと少しだけこっちをむいて言った。
「お兄ちゃん、話、聞いてくれない?」
ここも拒否する選択肢はないが、そもそも拒否する理由がない。
「分かった。なら、座れよ」
小町は俺と向きあって面接でもする様に座ると話し始めた。
「最近小町が元気ないのは知ってると思うんだけどさ。小町って居て迷惑?」
「そんなことないぞ。小町は...」
そう言ったところで小町が被せて言う。
「でも、小町が居るとウザいし、しつこくて嫌だって言ったよね。お兄ちゃん」
俺が小町に返す言葉はない。そして、小町の言うことは間違っているが、同時に合っている。
「小町が小さかった時は何も悩んでなかったし、知ってる人は誰も悪いことになってなかった」
「色々見てきて、色々分かってきたはずなのに、お兄ちゃんに合わせて、同級生との空気を読んで、周りと同じ反応して...」
小町はもう泣きそうな様子で話している。多分、昨夜ずっとこれを考えて泣いていたのかもしれない。よく見ると目がすごく赤くなっている。
「もう、言わなくていいぞ」
俺はそう言うと小町の頭をなるべく優しく撫でた。
こいつは確かに結構病んでいる。由比ヶ浜の言っていたことは正しかったらしい。小町がここまで病んだのは多分、俺のせいだろう。俺があまり間を置かずに、少しいらついていたから、ただそれだけで小町に八つ当たりをしてしまったからだ。
そして今、小町が怖がっているのは彼女の底の浅さだろう。底の浅いことは悪いことではない。だが底が浅く、その場所から見ると周辺がとても高く見えて自分が何だか分からなくなるのである。先が無いのなら諦めもつくかもしれないが、小町にはまだ先が長くあるのだ。彼女の前にはまだ長く、とても長く道がある。
いかがでしたでしょうか。
暗い話になりましたが、次回も暗いかもしれません。
なにをすれば小町は救われるのでしょうか。
コメント、意見等お待ちしています。