第四話どうぞ。
着いてしまった。もう玄関前である。
俺は恐怖で震えそうになる口を動かして言った。
「ただいま...」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
「おーかーえりー」
オー!ダーリンみたいな感じで返事がかえってきた。八幡様のおなーりー、みたいなのも近いかも知れない。呼び方的に俺マジ大名。
ともかく小町はリビングにいるらしい。家に帰った瞬間直ぐにラスボス戦ということである。そして、俺のゴーストがこう囁いている「男には、負けると分かっていても戦わなければいけない時がある」と。何か色々混じってんな。
リビングのドアを開けると、そこはリビングであった。
...当たり前だろ。雪国だったら怖えよ。多分、野生の雪ノ下とか出る。別名、氷の女王。ライオンとか出てくるんじゃねえの?今度タンスの中入ってみよう。そこで楽しい夢を見てそしてそのまま永遠に眠ってしまいたい。
...いや、それは嫌だな。永遠に眠りそうなところを周りの服をかき分け、俺的ラブリープリンセス小町が俺に愛のキスをしてハッピーエンドである。どっかで聞いたことある?...いや、断じて違う。トレースとか一切してないし、何なら号泣会見まで開いちゃう。「話なんて、みんなおんなじやおんなじやおもって~!!」とか言っちゃうぞ。多分、実際の小町もそこまではしてくれない。せいぜいアンパンチ!までだろう。そんなのいらねえよ。
「...どうしたの」
ドアを開けたままつっ立ってたらけっこう暗い感じで言われてしまった。しかも語尾の音を上げないから通常の三倍暗い。
ごまかす様に冷蔵庫に直行してマッ缶を手にとると小町の隣に最大限チョコンと座る。
「最近音楽は何聞いてるんだ?」
ここはなるべく遠回しに攻める。体育でぼっちがぼっちに話しかける様に「ペア組みますか?」「あ、はい」くらいの感じで。
小町は特に何を見るでもなく、ただ点いていないテレビの下の台の辺りを見ている。
「古くて暗い感じのやつ」
「勉強は?」
「やってはいるけどね...」
駄目だ。会話が続かない。仕方ないが本題に入るか。
「お前、最近、暗くないか?」
「そうだねぇ...」
「何かあったか?」
「なんか、疲れちゃっててね。小町、今まで何してたんだろうなって思って」
「小町は色々してくれてるだろ。俺はすごく助かってる」
「はっきりとは分からないけどね、何か話したいけど、話したくない。みたいな感じ」
どうしよう。なんて言えばいいんだろうか。恐らく俺は今朝の時点で詰んでいる。今朝、小町を否定した瞬間から詰んでいるのだ。自分を否定する様なヤツにその後、いくら誉められたところで、助かったと言われたところで、そんなヤツの言うことを信頼は出来ないだろう。きっと言葉の綾をとらえて自分で自分を否定するのだ。「ほら、嫌われてる」と。
「部屋で音楽聞いてくるね」
そう言うと小町はリビングから逃げる様に部屋に向かった。
現実に居る場所が無いのだとしたら生きていけるのなんて夢の中ぐらいなのかも知れない。そこなら誰にも自分を否定されないし、自分が傷つくことは無いだろう。
人と話すだけでも傷つけられるのなら、話さなければいい。
でも、一人ぼっちは怖いから、みんなと群れて過ごしていく。みんなと合わせて過ごしていく。そして、それも辞めた時にあんな感じになるのだろう。合わせていた人にも傷つけられてしまったのだから。
今回は書いていて自分の気分も少し暗くなりました。評価やコメント、意見等ありましたらお願いします。
次の話は比企谷家の朝と奉仕部での会話になると思います。