ご注意下さい。
「……じゃん!」
……ん、なにやら下から小町の激しい声が聞こえる。やだ小町ちゃん、平和にいこうぜ。
「……なのにさぁ!」
……げ、この声は今度はお母さんですね。そんな怒鳴らんといてや、小町ちゃん泣いてしまうで? と、ふざけたツッコミをしたのはいいがどうにも話の内容が気になる。まぁ、大体想像はつくのだが。
何にしても戸塚を投入した方がいい。きっと怒りという感情が消滅する。
俺はほとんど怒鳴ったりしないのでわからないが、二人ともそんなことして何が楽しいんだろうな。ハチマン、平和主義者ダカラ理解デキナイ。
といっても、イラついたり、怒ったりすることはあるわけで、クリスマスの日とか超むかつく。リア充さんたち(笑)お願いだから俺の前でイチャつかないで。うっかり橋から飛び降りたくなっちゃうだろ。でもあいつら、そうなっても微塵も気にしなそうだよな。
リア充(笑)という動物について考えを巡らせていると何者かが階段を上ってくる音がした。ちなみに「リア充(笑)」で一語だからな。
その後に、「リア充さん(笑)をどうやって爆発させようかなデュフフフフそれかっけぇ」とニヤついていたら部屋のドアが開いた。
一瞬、リア充さん(笑)を討伐するためのお供がやって来たのかと思ったが、入って来たのは俺の小町ちゃんだった。
小町は、幸せだよっ! という感じの声で言う。
「お兄ちゃーん、一緒にリビングでゲームでもしない?」
その声のおかげか、小町がとつかわいいレベルに達していたので一発OKした。
「そうだな、そうしよう」
いやぁ、暇をもてあましている兄をゲームに誘うなんて素晴らしい妹である。ハチマン、シアワセ。やはり俺の教育が良かったのだろうか。
短い階段を通り、リビングに着くと修羅場であった。
……あっれー、ゲームはドコカナ? こんなの聞いてない。いや、正確には聞いてたけど忘れてた。
そのピリピリした空気を壊そうとする様に、小町は口を開く。
「お兄ちゃん連れてきたよ」
それは、怒りでも失望でもない声だった。どちらかと言うと、嘲笑うような口調だった。
あれな、参考ボイスとしては某有名人の「見ろ、人がゴミのようだ!」を静かにした感じ。うん、ちょっと違うかも知れないが誤差の範囲内ってことで。
今度は、ソファーに座っているお母様が口を開いた。俺に向かって。
「あんた、こいつと遊びに行くんだって?」
きゃあ、ぶたないで。それにしても今、小町をこいつ呼ばわりしたぞ。言葉使いが悪い奴なんて大っ嫌いダ、ヴァーカ!
心の中ではどっかの総統閣下みたいなことを叫びながらも、実際には無難に答える。
「まぁ……恐らく」
「あんたさぁ、こいつはあと一週間で受験なんだから、遊びに行けた身分だとでも思ってんの?」
「い、いや。そういうんじゃなくってただ……」
かぶせる様に怒れる母がいう。
「ただ!?」
ちなみに「ただ」は英語で「じゃじゃーん」という意味なのできっとここに外国人いたら爆笑。
話が逸れた。しばらく黙っていると、小町が俺を急かす様に軽く足を踏んできた。なんだこいつ……うぜぇ。やられたらやり返す、倍返しだ!
「いや、俺がそう言ったら文句言ってきて面倒だったから適当に返事しただけでこいつが勝手に……」
「……よし」
やった、俺は無罪だ! 今日も俺に平和が訪れたのだった。まぁ、犠牲者も時には必要だよな。
その犠牲者がこっちを見ていた。何も言わず、何も訴えず、何も語らずに。
一方、勝者は敗者にとどめを刺そうと続ける。
「で、そう言ってるけど?」
小町は立ったまま目線を誰に向けるわけでもなく、少し間を置いて答えた。
「……もういいよ、どうでも」
小町はほとんど音をたてずに部屋に戻る。俺がそれに続こうとすると、後ろから声がした。
「あんた、しばらく部屋に戻んない方がいいと思うよ」
事は思った以上に重大だったらしい。後で小町に謝ろう。それにしても、かなりこじれてしまった。
……昔はもっと単純だったはずなのだが。
それを確かめるように、いつか小町と繋いでいた手を見つめた。
お読み頂きありがとうございます。
この話も来年の二月頃には終わるのではないでしょうか。
よろしければ評価や感想お願いします。
ありがとうございました。