「結衣さんか.....」
小町は携帯の呼び出し名の表示を見ると、少しだけいぶかしむ様な顔で俺を見たのだろうが、俺はわざと顔を逸らしていたのでよくわからなかった。
「結衣さんですか?はい、小町です!」
「ええ、ええ。そうなんですか!」
由比ヶ浜が何を話しているのかわからないが、小町はいつもの調子で返している様に聞こえる。声だけ聞いている分にはだが。
一方、俺は小町を見ることも出来ずに、ただうつむいていた。
その時間の申し訳の無さったら酷いもんで、もう、よだかが星になろうとした時くらいの申し訳の無さ。
なんか「八幡は、実にみにくい人です」って自分で言いたいぜ。
なので、俺は『よだかの星』のよだかを見習ってここから居なくなることにした。
ほら、小町の好きな曲にも「ここに居ても僕には何にもないから、僕は消えるよ」ってあるしな。
そんな先人達の素晴らしい行いを見習って部屋にひきこもろうと俺は立った。
無事に数歩だけ歩くと、後ろから「ウィ・ウィル・ロック・ユー」ばりにドンッと床を鳴らす音がする。
.....お兄ちゃん怖いよ、小町がそのうち暴力振るってきそうで。
.....逃げちゃダメなんですか、小町さん。
逃げても青鬼の様に追いかけてきそうなので、とりあえず元通りにソファーに座るしかないな。
.....こうなったら、することは言い訳を考えるのみである。
よし、一つ思いついたぞ。「俺は小町のためにやったんだ」はどうだ?
...よし、ダメッぽいが保留。
そう思った時、小町の電話の返事の調子が少し変わった。
「あ、はい。わかりました!いえいえ、こちらこそ。はい、ありがとうございました~!」
やばい、電話が終わってしまう。そう感じた俺は、今後予想される、小町からの質問に備えて顔をうつむけた。
小町のしてくる質問と、対応を考えてる時間がないので、俺は考えることを放棄した。
.....ほら、「考えるな、感じろ」っていうしな?
「.....お兄ちゃん?」
恐らく、その声には感情がほぼなかった。
「.....どうした?」
「別に今じゃなくてもよかったのに」
やっぱりそれなんだろうな。ここは話を逸らそう。小町がここで留めているんだから。
「それで、由比ヶ浜、なんだって?」
「...ドンキで店員さんに間違えられたって言ってたけど」
何それ、超どうでもいい。
ちなみに正しくは「ドン・キホーテ」なので、そこ注意な。
従って呼び方は「ドン」が正しい。
なんか、マフィアみたいだな。
周りの奴が「この前ドン行ったらさ~」みたいな感じで話してたら、どこのゴッドファーザーかと思っちゃうぜ。
俺は何も答えないが、すぐに小町は話を続ける。
「それはどうでもいいから。お兄ちゃんが勝手に結衣さんに頼んだの?」
小町のその口調は、俺を非難するようで、あの朝を思い出させた。
読んで頂きありがとうございます。
出来れば、感想や評価、意見などを頂きたいです。
また、活動報告でのアンケートにも参加して頂けたら嬉しく思います。
ありがとうございました。